IFLA/PACアジア地域センター:国際協力活動における主な歩み(1989~2025年)

国立国会図書館は、1989年からIFLA/PACアジア地域センターとして活動しています。アジア地域を重点地域として、関係者のご協力を頂きながら、イベントや研修の開催、様々な情報提供などを通じて、資料保存活動の普及・推進に取り組んでいます。
ここでは、活動開始からこれまでの約35年間における主な国際協力活動をご紹介します。
国立国会図書館はIFLA/PACアジア地域センターとして、PACネットワークにおける様々な活動に参画してきました。日常的な情報交換や共有のほか、IFLA年次大会に合わせて開催されるPACセンター長会議等に出席して報告や意見交換を行ってきました(1991年~)。詳細はIFLAを通じた国際協力のページをご覧ください。
PACネットワークとしての情報発信・普及活動において、PACの機関誌であったInternational Preservation News(IPN;1987年から2013年まで発行)の果たした役割にはとても大きなものがありました。世界のカレントな動きを伝えるとともに、その経験や参考事例を共有することができる貴重な情報誌でした。IFLA/PACアジア地域センターは、このIPNの記事の寄稿や編集協力、国内外への配付を行いました。
・International Preservation News (1987-1995)
・International Preservation News (1996-2004)
・International Preservation News (2005-2013)
(参考)International Preservation News 目次 日本語訳(WARP)
活動開始から最初の10年間である1990年代は、今日に続く資料保存分野の様々なテーマや課題が国際的に認識されていた時期でした。既に警鐘が鳴らされていた蔵書の劣化・酸性紙問題を始め、災害への備えと対策、地球温暖化による気候変動の影響への対応、予防的保存対策やIPM(総合的有害生物管理)、文化遺産の継承、資料保存のためのメディア変換、インターネットの普及やデジタル化の進展といったその後の情報環境の大きな変化への対応などです。
IFLA/PACアジア地域センターではこの時期に「資料保存シンポジウム」を開催しました(1990~1999年)。関心の高いテーマを取り上げ、海外からの有識者を招いて知見を得る機会とするとともに、国際的な保存協力の重要性を認識する機会としていました。また、各回の講演集を作成し、普及啓発に努めました。ご参考までに各回のイベントタイトルを挙げます。
- 第1回(1989年):蔵書の危機とその対応
- 第2回(1990年):新聞の保存と利用
- 第3回(1992年):保存のための協力―日本で、世界で
- 第4回(1993年):資料保存とメディアの変換―マイクロフォーム化を中心に
- 第5回(1994年):図書館資料の共同保存をめぐって―現状と展望
- 第6回(1995年):コンサベーションの現在―資料保存修復技術をいかに活用するか
- 第7回(1996年):保存環境を整える―厳しい気候・各種災害から資料をいかに守るか ※ワークショップ「アジア地域における資料保存ネットワークの構築を考える」も開催。
- 第8回(1997年):紙!未来に遺す
- 第9回(1998年):電子情報の保存―今われわれが考えるべきこと―
- 第10回(1999年):アジアをつなぐネットワーク―保存協力のこれから―
(参考)資料保存シンポジウム(WARP)
その他の情報発信の面では、当館ホームページにIFLA/PACアジア地域センターの英語版ページを開設して情報発信を開始したのが1999年でした。
以上の活動のほか、特徴のある取組として国際研修(海外からの研修生受入れ・海外への講師派遣)が挙げられます。依頼に応じて、アジアの国々を中心に国際研修を実施してきました。主な研修内容は、紙の資料の取扱いや修復、資料防災などです。詳細は、研修など(国際協力)のページをご覧ください。
2000年からの10年間には、2004年にインドネシア・スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波が発生し、多くの被害が出ました。このため、今後の災害予防の大切さと災害に対する復興支援のあり方について考える契機となるよう、そしてアジア地域における保存協力・復興支援活動のネットワーク作りが更に前進するよう、2005年に公開セミナー「スマトラ沖地震・津波による文書遺産の被災と復興支援」を開催しました。また、この記録集を『図書館研究シリーズ』No.39(2006年9月)として刊行しました。
このほか、当館、中国国家図書館及び韓国国立中央図書館の東アジア3か国の国立図書館による資料保存会議の開催(2004年度から隔年で2010年度まで)や、2006年には韓国・ソウルで開催されたIFLA年次大会のプレコンファレンスとして、「アジアにおける資料保存」を当館で開催しました。
(参考)
「IFLAソウル大会プレコンファレンス アジアにおける資料保存」
国立国会図書館月報 2006年 (11月) (548)
「資料保存分科会関係会議、IFLA/PACセンター長会議 資料保存の現状を知り、対策を選択する」
国立国会図書館月報 2006年 (12月) (549)
さらに、この時期には、IFLA PACなどが策定し、International Preservation Issuesというシリーズ名で公表してきた資料保存分野のガイドラインやマニュアル類を翻訳し、公表してきました。
2010年以降これまでの間については、まず、2011年3月に東日本大震災が発生し、甚大な被害を及ぼしました。当館ではPACネットワークを生かし、PACセンターとして活動する中国、韓国、オーストラリアの各国立図書館から講師を招き、同年12月に資料防災をテーマとするイベント(第22回保存フォーラム)を開催しました。当館を含む各PACセンターから、資料防災計画の策定や国内外の協力ネットワークの重要性などについて報告しました。
2013年には、東南アジアで保存協力活動を行っている、東南アジア教育大臣機構考古学・芸術地域センター(SEAMEO SPAFA、バンコク(タイ))主催の「文化財と災害リスク削減のための国際会議」に出席し、東日本大震災で被災した文化財等に対する支援活動について報告しました。
また、2015年4月に発生したネパール地震による被災からの復興に資するため、2016年2月にネパール国立図書館長及びネパール教育省職員を招へいし、防災を中心とした資料保存に関する研修や報告会を実施しました。
情報発信の活動に関して、2016年度には、インターネットを通じて受講可能な当館作成の遠隔研修教材である「動画で見る資料保存:簡易補修」の英訳版を公表しました。その後も、特にアジア地域からの研修要望や照会が比較的多く寄せられている、資料保存技術に関するマニュアルや研修テキストなどの英訳版を公表しています。
(参考)Manuals | National Diet Library
2020年からの新型コロナウイルス感染症の影響によって国際協力活動の縮小を余儀なくされましたが、2021年11月には、当館、中国国家図書館及び韓国国立中央図書館の各PACセンター長によるオンライン会議を開催し、近年の活動内容の報告や意見交換を行いました。
最後に、これまでの間のPACネットワークとしての大きな動きについて、簡潔に振り返っておきます。
まず、アジア・オセアニア地域に置かれるPACセンターの数が増加してきていることが挙げられます。1989年にオーストラリア国立図書館と当館がPACセンターになりましたが、その後、2004年に中国国家図書館、2008年に韓国国立中央図書館とカザフスタン国立図書館、2015年にスリランカ国立図書館文献サービスがPACセンターとなりました。この増加の背景には、この間のアジア・オセアニア地域の発展や、広大な地域における資料保存上の多様な課題の存在があるものと思われます。
もう一つは、PACネットワークのハブ(Hub)を担当するホスト機関の変更です。1986年のPAC発足からしばらく、アメリカ議会図書館がハブである国際センターを担当した後、1992年から2013年まで20年以上にわたってフランス国立図書館が国際センターを担当しました。2013年は、PACの機関誌であったInternational Preservation News の終刊時期と重なります。
その後はIFLA本部がハブを担当しながらPAC活動が続けられてきましたが、2024年6月にIFLA本部が、ハブとなるホスト機関の公募を開始しました。そして2025年12月、ケープタウン大学図書館(南アフリカ)に決定しました。
これから、新しい運営体制の下でのPAC活動がスタートします。