第2章 関孝和

コラム テーラー展開(難易度1)

多くの関数f(x)は、a+bx+cx2+dx3+ex4+ ... のような級数の形に展開することができます。(この級数が収束する範囲内で) 例えば三角関数 sin x は

sin x=x-x3乗/3!+x5乗/5!-x7乗/7!+ ...

のような無限級数となり、これはsin xのテーラー展開と呼ばれます。関数f(x)は

f(x)=Σf(k)乗(a)(x-a)k乗/k!

の形に展開され、これがx=aでのテーラー展開の公式となります。
多項式のテーラー展開とは、 xkを(x-a)kの形に変えると、同じ次数の多項式の係数がどのように変わるかという問題であり、微分を使わなくても計算できる問題です。ところが多項式の平方根は無限級数となります。和算でも円周率の計算に√(1+x)のテーラー展開が使われていますので、このテーラー展開を計算してみましょう。
上の公式によって微分を続けてゆくやり方もありますが、もうすこし単純に多項式の計算してみます。

√(1+x)=a+bx+cx2+dx3+ex4+ ... と展開されるとしましょう。両辺を2乗して、
1+x= (a+bx+cx2+dx3+ex4+...)2=a2+2abx+(2ac+b2)x2+(2ad+2bc)x3+(2ae+2bd+c2)x4+ ...

各項を比較して

a2=1 より a=1
2ab=1 より b=1/2
2ac+b2=0 より c=-1/8
2ad+2bc=0 より d=1/16
2ae+2bd+c2=0 より e=-5/128
...

従って、

√(1+x)=1+x/2-x2乗/8+x3乗/16-5x4乗/128+ …

となります。同じやり方で

1/√(1+x)

も計算できます。上と同様、1/√(1+x)=a+bx+cx2+dx3+ex4+ ... と展開されるとします。ところで

{1/√(1+x)}2=1/(1+x)=1-x+x2-x3+x4-x5+…

となります(有名な公式

1+r+r2+r3+r4+r5+...=1/(1-r)

を使っています)ので、各項を比較して

a2=1 より a=1
2ab=-1 より b=-1/2
2ac+b2=1 より c=3/8
2ad+2bc=-1 より d=-5/16
2ae+2bd+c2=1 より e=35/128
...

従って、

1/√(1+x)=1-x/2+3x2乗/8-5x3乗/16+35x4乗/128- ...

となります。

三角関数のテーラー展開は、円周率の計算と関係しており、和算家たちも同様の計算をしていました。

sinx=x-x3乗/3!+x5乗/5!-x7乗/7!+ ... cosx=1-x2乗/2!+x4乗/4!-x6乗/6!+ ... tanx=x+x3乗/3+2x5乗/15+17x7乗/315+ ...

のように展開されます。
また三角関数の逆関数(y=sinxの逆関数をx=sin-1y と書きます。sin(sin-1x)=x となります)のテーラー展開は次のようになります。

sin-1乗x=x+x3乗/6+3x5乗/40+15x7乗/112+ ... tan-1乗x=x-x3乗/3+x5乗/5-x7乗/7+ ...

この級数を使いますと、

tan(π/4)=1

の逆関数

tan-1乗(π/4)=1

から

π/4=1-1/3+1/5-1/7+ ...

という級数が得られますし、

sin(π/6)=1/2

の逆関数

sin-1乗(1/2)=π/6

から

π/6=1/2+(1/2)3乗/6+3(1/2)5乗/40+15(1/2)7乗/112+ ... 6

という級数が得られます。

円周率の計算についてはコラム「円周率」もご覧ください。

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