史料にみる日本の近代 -開国から戦後政治までの軌跡-

なぜ首切に反対するのか

なぜ首切に反対するのか



なぜ首切に反対するのか
国鉄労働組合

天引十二万首切りは、直ちに列車を止める
民自党内閣は、行政整理の名のもとにここ両日中にクビ切りの合法性獲得のため、定員法を成立させようとして居ります。特に国鉄に対してはその二割の十二万人を天引にクビ切ろうとして居りますが、これは大変な事ですと同時にこれは全く現場の実情を知らない国鉄をハカイするやり方です。一昨日私達が各政党代表者と会見したとき、民自党政調会長の佐藤栄作氏は国鉄の二割天引クビ切りの理由として、
イ 国鉄が他産業に比していちぢるしく復興していると考えられること
ロ これだけ切つてもさして混乱は起きないと思う
と云はれて居りましたがこれ又とんでもないことです。ここに現実、現場では一体この首切予定の影響はどんなものであるかを御知せし、国民の選良たる議員のみな様方が真に国鉄を復興し日本を再建することに御あやまりなきよう御願ひする次第であります

一 運輸省要求人員は六九万人

一億四千万トン輸送について

私達は非常な悪条件にもかかわらず歯をくいしばつて昨年の一億三千万トン輸送は突破してまいりました。そこで運輸省は今年度はこれを更に一億四千万トンに増加しました。
しかし昨年の一億三千万トンは言語に絶する苦しい労働過重の量でありましたが、この時の人員は御承知の六二万七千人でありました。もしここで十二万人の首切がされ更には一億四千万トンに目標が増加されたなら、一体ここに何が起きるかは極めて明らかなところであります。そこで左の事を一番よく知つている運輸当局は現在員六二万名に対し更に六万二千名の増員を大蔵省に要求したことが伝えられております正しくも廿四年度の必要人員は合計六九万人になるわけです

二 戦後新たに必要になつた人員

十八万人 いる

一般には国鉄は戦前にくらべて人員が倍近くいるのだから戦前は三十万だから今は三十万程多い。これから十二万位クビ切るのは仕方がないではないとかと考へられているようですが とんでもないことです
戦後どうても増員しなければならない業務の増大は渉外関係、交通保安、保守復元、車両強化、鉄道公安官、炭鉱経営(志免鉱業)、道路運送監理事務所、労仂基準法実施等々でありこの人員は約十八万人に達して居ります。現在の六二万からこの十八万を差引いた四四万人から更に十二万人のクビ切りをしようとするのですから御話しにならないものであることが容易にさつせられることと思います

三 現在でも八万人分を超過勤務している
一億三千万トン運輸にともなつて現実現場ではクビ切るどころか、かへつて人員不足をさけんで居ります。そのシヨウコには二十三年度の予算のうち約七億円が超過勤務手当でありましてこの金額は八万人分の人件費に相当して居ります。ですから廿三年度の一億三千万トン輸送は六十二万とこの八万人分の超過勤務に依つて突破してきたことになり、さきの運輸省が大蔵省に二十四年度は六九万人を要求したこともこれを合致するわけです

四 クビを切られた臨時人夫が
 今でもそのまま勤務している状況
先に運輸省では臨時人夫のクビ切りをしましたが、この実情がどうでしよう。事実首を切ると列車がすぐ止まる状態にあることをよく知つているのは現場の従業員です。だから山形をはじめ各地に於てはクビ切りを云いわたされている臨時人夫が毎日出勤して仕事をして居ります。それはもしこの人達が出勤しなければ仕事がやつて行けないので現場長をはじめみんなでこの人達の出勤を御願いしているからです。しかもこの人達の給料は組合員が一人一三〇円づつ毎月出し合つてまかなつていこうとしているのです
これは現実国鉄で行われているのです。議員のみなさん、この事をよく御考え下さい。この事は運輸省ではよく知つております。先に新潟鉄道局長がクビ切りをすることと仕事に支障することの対策は別だと云つたのですがその対策は従業員が安い賃金から出し合つて国鉄を守つて行こうとしているのです

五 超過勤務をしても手当が出て居りません
国鉄の施設のコウハイ状況はお話しにならない状態ですがこのためどうしても人員でこれを補うためと低賃金を補うため超過勤務がなされているのですが、ところが現在いくらこの超過勤務をしても一銭も出ないしくみになつておりそのためこのガタガタになつた施設の保安は明日をも知れない状態になつて居ります。従来は例えば省電の保守は夜間になされていたのですが今度はこの夜間作業には一銭も出ませんし又実働八時間を超えた如何なるものにも手当は出て居ります。ですから東鉄の省電の或る所では現場の技術者達が明日をも知れないと云つて恐しがつて居ります。又議員のみなさん、有楽町のガードを御覧下さい、大きな穴があつて久しくなりましたがそれが今でもこのままの状況です

六 運転事故は五倍以上に
 増加しつつある
このやうな状態ですから国鉄でもつともいむべき運転事故が一路増加をたどつて居ります。 昭和十三年に比しまして現在は約その五倍に件数がふへて居りこれは今后ますますふへてゆくスウセイにあります
施設のコウハイを人員で補つて来た今迄ですが次の人員も今度は十二万名 減らそうとするのですからその結果は言わずともお察しが出来ると思ひます

七 休暇は半分しかとつていない
人員が多いからクビを切ると云つておりますが右の様な状態から私達が当然中の当然である週休並びに有給休暇の権利もこれがもらへない状態にあるのです。現在迄週休は全体として二○%がもらえないで居り又有給休暇は昨年度分が五○%一昨年度分が二○%も残つている状態です。この事はクビ切の理由を全然なくしてしまう現実の証左であると同時に私達の当然の権利が行使出来ないとゆう大きな問題であります。

八 過重労働の為 病人が二倍も
 増えつつある
首切りは私達には過重労働を強いるものであることは云ふ迄もありません しかも現在四十八時間制を強いた結果だけでもその実施前と実施後では約二倍の病人が増加しておりこれはますます増加しつつあります 四十八時間制実施は私達に年五六一時間、二十四日の労働を強化しているのですが、この%は三三%であります。これが更に二割のクビ切りが強化されると実に六○%を超える過重労働となり一方低賃金の為家にかへつて復職をもたなければならず、このために病人がどんどんふえて行つているのです。この事は実に由々しきことであると考へて居ります

九 首切れない状態の運輸省当局の
 官僚は殆んど反対
さてこの様な状態を一番よく知つて居るのは何と云つても私達と運輸省です。運輸省ではもしこれを強行することになれば直ちに列車がとまざるを得ないこともよく知つて居ります。ですからこの首切りには四苦八苦の状態で現場長や管理部の課長係長等はこれをもし強行するならば職を投げうつても反対しなければならないと覚悟をし働いている人が減増して来ております これは局長もそうでありまして少くとも局長以下の官僚は殆んどが反対して居ります

十 仕方なくこんな切り方を
 しようとしている
現場のどこへ行つても一人として首を切る理由を見る事は出来ません、ですから首切りの理由はどこにもないのです。そこで困つている運輸省は次の様なやり方で切ろうと考へて居りこれは去る日東京鉄道局に組合員がハリ出した時当局がやめてくれと云つたものです。
(イ)三ヶ月以上の長期欠勤者 (ロ)性病患者 (ハ)遠距離通勤者(二時間以上) (ニ)五反以上の農家から出身している。 (ホ)老レイ者 ヘ女子 (ト)勤務不良の者。 (チ)強制配置転換に応じないもの。 (リ)臨時人夫 (ヌ)宿舎寮の職員 (ル)五年未満勤続者。 (ヲ)組合専従者
右のうち性病患者が最近著しく減少した現象を呈して居ります。これを調べて見たところ性病者が切られるとゆう情報によつて治つていない者或はかかつた者が治つたと云ひ又病院にかからないからでありまして、この事は鉄道診療所で調べたものですが大きな問題です

十一 現場の状況を御らん下さい
 天引でやるといやでも列車がとまります
この様な国鉄の状態です。現場のどこに行つても首切りの出来るところはありません
首を切らなければならないとゆう所から出発して首切をせずに、どうか切れる状態かどうかを検討してやつて頂きたいのです。もしこの現場の実情を無視してあく迄天下的に天引などとゆうやり方を強行すれば実に残念な事ですが列車は必ずとまります。止まらざるを得ないのです。この事は運輸省がよく知つているはずです。日本復興は単なる机上プランや理論ではできないことは言をまちません
どうか賢明な祖国復興を念頭としている議員の皆さん日本の動脈たる国鉄の実際の状態御らん下さいましてこの天下的天引き十二万クビ切りの祖国をハカイに導く暴挙を阻止して下さい
この為に来る定員法には民族をあげて党派をすててこれに反対し下さらん事を切に御願ひ致しますと同時に特に民自党の方にはこの事を地元の労働者は勿論のことあらゆる勤労者はこれを重視して居ります事を考へ、日本再建のため定員法に反対下さい
昭和廿四年五月十二日

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