史料にみる日本の近代 -開国から戦後政治までの軌跡-

立憲同志会綱領並政策案

立憲同志会綱領並政策案

※ 墨書による史料への書き込みはテキスト化していません。



立憲同志会宣言書
維新中興の初五条の御誓文を宣示せられしより四十有六年。次て憲法を発布せられしより二十有四年。百揆面目を革め国民の智見亦大に進めり。正に是れ世運一転憲政済美の果を収むへき時会に属す。
斯時に際して吾人報効の道唯広く天下同志の士と謀り公党を樹立して帝国の有力なる要素を網羅し、国民の光明なる輿論を代表し、盛に経綸を行ひ、大に皇基を張り、以て帝国憲政の完美を遂くるにあり。是則立憲同志会創設の已む可からさる所以なり。
若夫政策の節目に至りては他日発起者諸氏の審議を待て議定すへしと雖、此に吾人所見の大綱を挙けん。曰く我建国の本源に溯り皇室を中心として忠愛の大義を顕昭するにあり。維新の鴻図を紹述して開国進取の皇謨を翼賛するにあり。憲法の条章を恪守して天皇の大権を尊重し国務大臣の責任を厳明にして臣民の権義を保全するにあり。教育を普及して国民の公徳を進め以て立憲的智能を啓発するにあり。民族同胞の情義を推拡して社会共済の道を尽すにあり。民力を内に充実して国光を外に発揚し威信を中外に貫徹して世界の平和に貢献するにあり。
如上の大綱を実行するに至りては之を中外の形勢に照らし、之を周囲の事態に鑑み、民情を酌み、公論に徴し能く其機宜に適せしめんとす。吾人の本領は経世の実績を挙けて済民の政務を行ふに存せり。是れ当今の急務にして百年の大計たり。惟ふに明識忠讜の志士の一致戮協に因らすんは奚んそ此の目的を達するを得んや。此に立憲の本旨を宣言し以て天下の同志に諗く。
大正二年二月
立憲同志会創立委員長
公爵 桂太郎

立憲同志会綱領並政策案
(大正二年二月二十四日議員総会に於て決定)
綱領
綱領とは吾党の永久に遵守すへき大方針にして既に本会創立宣言書中に之を声明せり。今之を列挙すれは左の如し。
一皇室を中心として忠愛の大義を顕彰すへし。
一維新の鴻図を賛襄し、開国進取の皇謨を扶翼すへし。
一憲法の条章を恪守し天皇の大権を尊重し国務大臣の責任を厳明にし臣民の権義を保全すへし。
一教育を普及して国民の公徳を進め、以て立憲的智能を啓発すへし。
一民族同胞の情義を推拡して社会改良及共済の道を尽すへし。
一農商工業の発達を図り、以て民力を充実すへし。
一殖民地の統理を完ふして国基を鞏固にすへし。
一威信を中外に貫徹して世界の平和に貢献すへし。
一庶政を更張して地方自治の粛清を期すへし。

政策
政策とは当面の急務にして吾党は之を実行するの決心と準備とを有するものなり。其要を挙示すれは左の如し。
一国防計画を確定し、陸海軍備の整理統一を図るへし。
一外交機関を活動せしめ、殊に対支那政策に付ては東洋の平和を保全するの目的を以て速かに解決の途を採るへし。
一庶政を整理し、歳出年額五千万円乃至六千万円を節減すへし。
一前項の節減を利用し、租税納期を繰下け、歳入年度区分を改め、以て国庫収支の出合を改善し、将来大蔵省証券発行の必用を減し、其最高額を五千万円に止むへし。
一国民の負担を軽減するの目的を以て税制を整理すへし。
一国債を整理し、其償還を確実にし、以て国債の信用を鞏くすへし。
一鉄道の建設及改良費は目下の処其純益と預金部の融通し得る範囲に止め、他日更に建設及改良の計画を樹て其速成普及に努むへし。
一政府事業は政府自ら経営するの必要あるものの外、之を民間の経営に移すへし。
一輸出入の調節を図り、以て財政経済の基礎を安固ならしむへし。
一産業の発展に資する為、特殊銀行其他経済機関の機能を発揮せしめ、金融及産業の整頓を図るへし。
一司法制度は実際の必要と世運の進歩とに伴ひ、適当なる革新を施すへし。
一航路@適当に之を調整し世界の進運に伴ひ必要なる航路に付ては更に適当の措置を採るへし。
一行政を刷新し繁文褥礼を去り、適材をして各其処を得さしむるの途を採るへし。
一地方の財政を整理し以て地方自治の基礎を鞏固にすへし。
此他の問題は本会の諸機関に依り討究審議を尽し、時に随ひて決定すへし。
Copyright © 2006-2010 National Diet Library. All Rights Reserved.