視覚障害者等サービス実施計画 著作:平成23年7月 作成:国立国会図書館 1 趣旨・経緯  障害者の権利及び尊厳を保護し促進するための「障害者の権利に関する条約」が第61回国際連合総会本会議(平成18年12月)において採択された。我が国は平成19年9月に署名し、批准に向け関係法令等の整備を進めている。このうち障害者の情報利用の機会の確保のための措置としては、平成21年に障害者のために権利者の許諾を得ずに著作物等を利用できる範囲を拡大する改正著作権法が成立し、平成22年1月に施行された。なお、同改正著作権法の衆参両議院の委員会審議では、読書に困難のある視覚障害者等への情報提供を含め、当館において電子化した資料の有効な活用を図ることについての附帯決議がなされている。  平成22年2月には、改正著作権法により可能となった視覚障害者等に対する図書館サービスの実施に関する、具体的な取扱いの指針として、日本図書館協会等により「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)が権利者団体の理解の下に策定された。  当館では、平成22年7月に「視覚障害者等へのサービスに関する基本的考え方について」を取りまとめ、関係機関・団体に提示し協議を重ねてきた。これは、ガイドラインに準拠してサービス対象者並びに提供する情報の種類及び方法を拡大することを目指すものである。  この「視覚障害者等サービス実施計画」(以下「実施計画」という。)は、これらの経緯を踏まえ策定するものであり、平成23年度以降の当館における視覚障害者等へのサービスの実施に関する具体的な方策を示すものである。 2 計画の適用年次  平成23年度から平成25年度までとする。 3 サービス対象者  当館が行う視覚障害者等サービスの対象者(以下「サービス対象者」という。)は、ガイドライン第4項に規定する「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」(ガイドライン別表1に例示する状態にあって、視覚著作物(著作権法第37条第3項にいう「視覚著作物」をいう。)をそのままの方式では利用することが困難な者)であって、当館及び他の図書館等がガイドライン第5項に基づき登録を行った者とする。 4 提供するサービス等の概要 (1)当館ウェブサイト及びウェブ上で提供するサービスのアクセシビリティ確保  当館では、平成22年8月に、「高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス−第3部:ウェブコンテンツ」(JISX8341-3)が改定されたことを受け、平成22年11月に「国立国会図書館のウェブサービスに関するユーザビリティガイドライン」を改訂した。当館が行うウェブサービスのユーザインターフェイス及びコンテンツは、この「国立国会図書館のウェブサービスに関するユーザビリティガイドライン」に基づき、視覚障害者等のアクセシビリティに配慮したものとする。 (2)図書館等経由のサービス @ 視覚障害者等用資料の製作  視覚障害者等の利用に供するため、図書館等を通じた利用者からの申込みに応じて、次の資料の製作を行う。  (ア)学術文献録音DAISY資料  当館の所蔵する専門的な学術文献を、DAISY仕様の録音図書として製作するサービスを継続する。ただし、当館でデジタル化した資料については原則として対象外とする。  (イ)テキスト資料  当館は、平成22年10月から平成23年3月まで、デジタル化資料の校正・構造化を含むテキスト化並びにデジタル化資料及び電子書籍等のテキストデータを用 いた視覚障害者等への読み上げサービスに係る実証実験を大規模デジタル化事業の枠組みの中で実施した。  視覚障害者へのサービスにおいてテキストデータは利便性が高いが、実証実験の結果からも、画像データからのOCRを用いたテキストデータの作成においては、コスト、効率性、構造化等の課題が多いことが判明している。そのため、OCR処理を含むテキスト資料の作成、申込図書館等の協力によるテキストの共同校正・構造化の在り方等について、平成24年度に調査・研究を継続実施し、テキスト資料提供の方針及びシステム化要件を決定する。  なお、テキスト化に係る権利上の問題、テキスト化対象資料の範囲及びテキスト化の精度については、関係機関・団体等と引き続き協議する。 A 学術文献録音テープ及び学術文献録音DAISY資料の貸出し  当館で製作、所蔵している学術文献録音テープ及び学術文献録音DAISY資料を図書館等を通じて視覚障害者等に貸し出すサービスを継続する。 (3)インターネットによるサービス  インターネットを通じて、次のサービスを提供する。 @ 障害者向けポータルサイトの新設  障害のある人が当館を利用する際に必要な情報を得やすいように、平成23年10月に当館ホームページに「障害者サービスのページ」(仮称)を設け、障害者向けの利用情報やサービス概要を集約し提供する。 A 視覚障害者等用資料の統合検索  平成24年1月に本格稼働予定の情報探索サービス「国立国会図書館サーチ(注1:当館、公共図書館等の蔵書及びその他のデジタル情報を統合的に検索するシステム)」で、「NDL−OPAC」、「点字図書・録音図書全国総合目録(注2:当館が製作した学術文献録音図書及び全国の公共図書館並びに情報提供施設等で製作した点字図書・録音図書の書誌情報・所蔵情報を収録)」及び「サピエ図書館(注3:視覚障害者等に対して、様々な情報を点字、音声データで提供するネットワークシステム「サピエ」の1メニュー。視覚障害者等向け資料の書誌データベースであり、点字データ及びDAISYコンテンツの配信サービスを提供。厚生労働省補助事業で、日本点字図書館が事業を受託し、全国視覚障害者情報提供施設協会が運営を行っている。) 」の同時検索を実現する。これにより、納本等により収集した当館所蔵の視覚障害者等用資料、当館が製作した学術文献録音資料(録音テープ及びDAISY資料)、全国の公共図書館及び情報提供施設等で製作した点字図書・録音図書及び「サピエ図書館」収載の視覚障害者等用資料の統合検索を可能とする。 B 視覚障害者等用資料の配信  (ア)当館製作学術文献録音DAISY資料の配信  当館製作学術文献録音DAISY資料のデータを平成25年度からデジタルデポジットシステム(注4:NDLデジタルアーカイブシステムの個別機能システムの一つであり、デジタル形式の著作物を収集・蓄積・提供するシステム)により配信する。同システムからの配信が実現するまでの間(平成23年10月から平成25年度まで)は、当該資料のデータを「サピエ図書館」のシステムに搭載し、「サピエ図書館」から配信する。  (イ)テキスト資料の配信  当館所蔵資料のデジタル化資料からテキスト化した資料についてデジタルデポジットシステムから配信する。配信は、平成25年度から試行的に実施する。 (4)館内サービス @ 提供対象資料及び情報  サービス対象者に対して、点字資料、大活字資料等の資料に加え、視覚障害者用録音資料・電子資料、当館製作学術文献録音資料(録音テープ及びDAISY資料)、「サピエ図書館」収載の点字データ、録音データ等の資料及び情報の館内利用を可能とする。  また、東京本館、関西館及び国際子ども図書館の間で視覚障害者等用資料の取寄せを行う。 A サービス提供場所  東京本館及び関西館において、館内サービスを提供するために必要な障害者用端末、音声・拡大読書機等の機器を設置した場所を用意する。国際子ども図書館については、新装開館時(平成27年度予定)に用意する。同伴者による対面朗読のための措置(場所の貸与)については、従来どおり実施する。 B 障害者用端末等  サービスを提供する障害者用端末等利用環境を整備する。備えるべき機器、ソフトウェア等については、利用ニーズを把握した上で別途定める。 5 他の図書館等が作成する録音図書・点字図書デジタルデータの収集、保存及び提供  平成25年度にデジタルデポジットシステムによる学術文献録音DAISY資料の配信が可能となった時点で、選択的に他の図書館等が作成する録音図書・点字図書デジタルデータの収集、保存及びデジタルデポジットシステムによる配信を開始する。     これに先立ち、平成23年度及び平成24年度に収集・提供に関する検討(作成状況、保存状況等の調査を含む。)を行い、平成24年度中に収集の試行を実施する。  収集に当たっては、関係機関・団体等と個別に協議を行い、合意を得た範囲で契約等に基づき実施する。収集及び提供に当たっての基準(又は収集の優先順位)は、関係機関等と協議の上、平成24年度中に定めることとする。 6 スケジュール  実施予定スケジュールは次のとおりとする。 平成23年10月:「サピエ図書館」でのDAISYデータの配信開始、ポータルサイト設置 平成24年1月:「国立国会図書館サーチ」による統合検索の開始、館内サービスの開始 平成24年度:デジタルデポジットシステム追加開発、テキスト資料提供の方針及びシステム化要件の決定 平成25年度:デジタルデポジットシステムでのDAISYデータの配信開始、テキスト資料配信の試行、他の図書館等が作成する録音図書・点字図書デジタルデータの選択的収集、配信開始 7 その他 (1)他の機関等との協議等  この計画の実施に当たっては、テキストの共同校正・構造化の在り方、利用に供するテキスト化の精度、他の図書館等が作成する録音図書等のデジタルデータの収集、保存、提供、当館で画像データ化を行っていない資料のデジタル化等について、関係機関・団体等との協議を要する。 (2)計画の見直し  この計画は、計画期間中であっても必要に応じて適宜見直しを行う。 以上で、視覚障害者等サービス実施計画 終わり