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びぶろす-Biblos

87号(令和2年4月)

びぶろす

  • 発行:国立国会図書館総務部
    (National Diet Library)
  • ISSN:1344-8412

8. 日本の学術情報における灰色文献―国立国会図書館による学協会誌、会議録の収集・提供強化への取組

国立国会図書館電子情報部電子情報流通課 相原 雅樹

概要

灰色文献とは、「電子フォーマットや紙で、政府、大学、ビジネス、産業のあらゆるレベルにおいて生み出される情報で、商業出版社によってコントロールされない。すなわち、主たる活動が出版を本業としない組織によってコントロールされている1。」ものをいう(ニューヨーク・ルクセンブルク定義)。近年、電子化の進展や情報流通の変化により、かつて灰色文献とされたものの発見やアクセスは容易になりつつある。しかし、依然として把捉が困難なものもあり、電子化によりかえって図書館による収集や提供が困難になる事態も生じてきた。その例として、本稿では、学術団体(以下「学協会」)の発行する灰色文献を取り上げ、国立国会図書館が学術情報に関して実施してきたアンケート調査の分析を基に、灰色文献の収集・保存・利用提供の取組について論じる。

I 学協会アンケート等による刊行・納本状況等の把握
1. 2012年から2018年までの調査の概要
(1) 背景

国立国会図書館は、日本で刊行された出版物(図書、パンフレット、逐次刊行物、CD、DVD等を含む。)を主として納本制度に基づき収集してきた。インターネット等で公開される電子情報については、公的機関のウェブサイトを制度により収集するほか、私人が出版した電子書籍、電子雑誌についても、2013年7月1日から国立国会図書館法に基づき、収集・保存している(当面、無償かつDRM(技術的制限手段)のないものに限られる。)。この中には学協会の刊行する電子雑誌が含まれる。

しかし、商業出版物と異なり、学協会の出版物は冊子体のものでさえ納本されにくく、とりわけ会議録は出版を把握しにくいため、収集に向けた積極的な取組が求められている。

(2) 調査対象・内容

国立国会図書館は、学協会出版物の刊行・納本状況等を把握するため、2012年から2018年までの期間に計5回、日本の学協会を対象とし、出版物の発行及び納本の状況、デジタル化の状況、ウェブサイトでの公開状況などについてアンケート調査を行った2。調査対象の選択に当たっては日本の主要な学協会をほぼ網羅している『学会名鑑』を用いた3。対象は学協会の刊行する学協会誌・論文誌、会議録(講演要旨や配布資料も含む)等、学術誌全般とした。年ごとの対象機関数と回答率は表1のとおりである。2013年度から郵送も用いることにしたのは回答率を高めるためである。2016年度から送付先が増えているのは人文・社会科学系学協会を送付先に加えたためである。2015年度及び2017年度は調査を行っていない。


表1 学協会アンケート概要
実施年度 送付先学協会数 回答数 回答率 アンケート方法
2012年度 1,017 330 32.4% ウェブアンケート
2013年度 1.095 673 61.5% ウェブアンケート及び郵送
2014年度 1,096 665 60.7% ウェブアンケート及び郵送
2016年度 1,913 1,128 59.0% ウェブアンケート及び郵送
2018年度 2,007 1,207 60.1% ウェブアンケート及び郵送


2. 2018年度学協会アンケートの集計結果の概要

2018年の11月から12月まで、日本の自然・人文・社会科学分野の学協会を対象として行った最新のアンケート調査結果の概要を述べる。

(1) 刊行形態・公開方法・デジタル化の状況

学協会誌・論文誌、会報・通信、会議録等の81.3%は依然として冊子体により刊行されている(表2)。ウェブサイトへの掲載やメールでの配信などオンライン資料で刊行されるものは38.5%を占める。自然科学分野に比べ人文・社会科学分野の方がオンライン化は遅れているが、2016年度のアンケート結果と比較すると、両分野ともオンライン化が進んでいる(自然科学34.8%→45.9%、人文・社会科学17.2%→25.5%)。「その他」には、パンフレット形式やステープラーで綴じた簡単なものであるとの回答や、年度によって形態が違う、また学術集会ごとに刊行を決める、などといった回答も含まれており、学協会の出版物の多様性がうかがわれる。


表2 定期刊行物の刊行形態:複数選択可(2,364タイトル)
刊行形態 自然科学(1505) 人文・社会科学(859) 全体(2364)
冊子体(小冊子含む) 1,180(78.4%) 742(86.4%) 1,922(81.3%)
オンライン資料
(ウェブサイト掲載やメール配信等)
691(45.9%) 219(25.5%) 910(38.5%)
CD/DVD-ROM、USB等
有形の電子出版物
89(5.9%) 19(2.2%) 108(4.6%)
その他 27(1.8%) 18(2.1%) 45(1.9%)
無回答 72(4.8%) 53(6.2%) 125(5.3%)


出版物をウェブサイトに掲載している場合、その一部又は全てを無条件で公開しているのは70.9%であり、オープン化が進んでいることがうかがえる。一方、有償での公開(有償の会員限定も含む。)も19.1%あり、アクセスが限定されるケースが少なくない(表3)。なお、有償での公開の比率は、人文・社会科学の5.5%に比べ、自然科学の方が23.4%と高い。


表3 ウェブサイトに掲載している定期刊行物の公開範囲と公開条件:複数選択可(910タイトル)
公開範囲と公開条件 自然科学(691) 人文・社会科学(219) 全体(910)
全てを無条件でインターネット公開 302(43.7%) 111(50.7%) 413(45.4%)
一部を無条件でインターネット公開 171(24.7%) 61(27.9%) 232(25.5%)
無償の会員登録を条件に公開 14(2.0%) 4(1.8%) 18(2.0%)
有償での公開
(有償の会員登録での限定公開を含む)
162(23.4%) 12(5.5%) 174(19.1%)
その他 79(11.4%) 20(9.1%) 99(10.9%)
無回答 37(5.4%) 20(9.1%) 57(6.3%)


公開方法については、日本の代表的な学術情報プラットフォームであるJ-STAGE又はCiNiiを通じて公開しているとの回答が最も多く、J-STAGEやCiNiiが学協会誌のプラットフォームとして確立していることがうかがわれた(表4)。一方で、学協会ウェブサイトからDRMなしで提供されているものも37.5%あり、特に人文・社会科学分野では多い。海外出版社のウェブサイトに掲載される事例は多くない。


表4 ウェブサイトに掲載されている定期刊行物の公開方法:複数選択可(910タイトル)
公開方法 自然科学(691) 人文・社会科学(219) 全体(910)
学協会ウェブサイト(DRMなし) 235(34.0%) 106(48.4%) 341(37.5%)
学協会ウェブサイト(DRMあり) 77(11.1%) 18(8.2%) 95(10.4%)
国立国会図書館デジタルコレクション 24(3.5%) 15(6.8%) 39(4.3%)
J-STAGE又はCiNii 370(53.5%) 100(45.7%) 470(51.6%)
機関リポジトリ4 24(3.5%) 6(2.7%) 30(3.3%)
有償データベース
(メディカルオンライン等)
40(5.8%) 1(0.5%) 41(4.5%)
Springer、Wiley等の
海外出版社のウェブサイト
79(11.4%) 3(1.4%) 82(9.0%)
その他 26(3.8%) 4(1.8%) 30(3.3%)
無回答 14(2.0%) 6(2.7%) 20(2.2%)


冊子体の定期刊行物のデジタル化状況については、全て又は一部をデジタル化したものは63.3%で、前回(2016年度は57.8%)に比較すると僅かにデジタル化が進んだことがうかがえた(表5)。


表5 冊子体の定期刊行物のデジタル化状況(1,922タイトル)
デジタル化状況 自然科学(1,180) 人文・社会科学(742) 全体(1,922)
全部をデジタル化した 462(39.1%) 159(21.4%) 621(32.3%)
一部をデジタル化した 357(30.3%) 238(32.1%) 595(31.0%)
デジタル化していない 310(26.3%) 332(44.7%) 642(33.4%)
無回答 51(4.3%) 13(1.8%) 64(3.3%)


ただし、デジタル化していない冊子の今後のデジタル化の予定については、「デジタル化の予定はない」という回答が自然科学57.6%、人文・社会科学52.6%と多かった(表6)。


表6 冊子体の定期刊行物でデジタル化していないものの今後の予定(1,237タイトル)
デジタル化予定 自然科学(667) 人文・社会科学(570) 全体(1,237)
過去分も含めデジタル化を継続する、
又は新規に行う予定がある
219(32.8%) 230(40.4%) 449(36.3%)
デジタル化の予定はない 384(57.6%) 300(52.6%) 684(55.3%)
無回答 64(9.6%) 40(7.0%) 104(8.4%)


(2) 国立国会図書館への納本状況

国立国会図書館への納本状況について、「冊子体、CD/DVD-ROM」では「全て納本している」の割合が最も高く76.0%に及ぶのに対し、「オンライン資料」では「全て納本していない」の割合が最も高く、過半数である(表7)。


表7 納本状況(1,207機関)
納本状況 冊子体、CD/DVD-ROM オンライン資料
全て納本している 917(76.0%) 166(13.8%)
納本していないものがある 149(12.3%) 86(7.1%)
全て納本していない 67(5.6%) 678(56.2%)
無回答 74(6.1%) 277(22.9%)


ただし、「オンライン資料」の「納本していない理由」では、「J-STAGE、CiNii、機関リポジトリ等で公開しており収集対象ではない」、「オンライン資料収集制度の対象となるものを発行していない」との回答が多く見られた。これは、制度に基づくオンライン資料の収集では、機関リポジトリや、J-STAGEやCiNiiに収録されたオンライン資料は、収集対象から除外しているためである(後述)。

「納本していない理由」の「その他」には、「冊子体、CD/DVD-ROM」・「オンライン資料」とも、「事務局の変更に伴い、納本について引き継がれていなかった」「納本の方法が分からない」等の回答が合わせて20件程度あった。これは、日本の学協会では、事務局が会員の持ち回りや学協会事務の委託企業の変更等により交替することが多いためと思われる。

Ⅱ 灰色文献収集、利用提供、保存に係る取組

アンケート調査結果から、学協会誌や会議録は、冊子体で刊行されていても未納本の資料が一定数あり、電子化されてもアクセスが会員のみに限定されるケースが少なくないなど、依然として「灰色」な状況であることが分かる。国立国会図書館では、これら学術情報の灰色文献の収集、利用提供、保存を確実にするため、関係機関と協力しながら、次のような取組を進めている。

1. 学会開催状況の事前把握による収集強化

会議録には最新の研究状況が反映されているため、適時に収集することが重要である。国立国会図書館は納本制度の周知に努めており、未納本資料については発行者に納本するよう督促している。しかし、会議録は出版を把握すること自体が難しく、また会議の運営事務局が頻繁に交替するため、会議開催から時間が経過すると、入手は一層困難になる。このため、会議開催後ではなく、事前に会議の開催情報を把握し、納本の案内を行うアプローチが有効と考えている。2018年度から、医学分野の学会開催情報を、学協会のダイレクトリーを用いて事前に把握し、納本を案内することを試行的に開始した。

2. オンライン資料の収集強化

国立国会図書館では、インターネット上のオンライン資料の収集・保存にも注力している。前述のとおり、私人が発行する図書又は逐次刊行物に相当するオンライン資料のうち無償かつDRMのないものは国立国会図書館への納入を法律により義務付けた。現在の制度的収集の対象外となっている有償又はDRM付与のオンライン資料については、学協会に対して任意での提供を個別に依頼し、2018年度には14タイトルを受け入れた。

また、国立国会図書館では、2002年からウェブサイトをロボット収集により定期的に収集している(インターネット資料収集保存事業(WARP))5。国公立の大学や研究機関を含む公的機関のウェブサイトを2010年度から法律に基づき定期的に収集しているほか、私立大学や学協会を含む民間のウェブサイトは許諾に基づき収集している。このため、学協会のウェブサイトに掲載された学協会のポスターやチラシ等のなかには、WARPにより保存され、アクセスが可能となったものもある。これらのオンライン資料やウェブサイトは国立国会図書館内で利用可能であり、許諾が得られたものはインターネットで公開している。

3. 関係機関との連携に基づく収集・保存

アンケート結果のとおり、オープンサイエンス・オープンアクセスの流れの下に、学協会誌や会議録は、機関リポジトリ、CiNiiやJ-STAGE等の公的な学術情報プラットフォームにおいて公開されるようになってきた。これらのオンライン資料は、長期間にわたり継続して公衆に利用可能とすることを目的とし、かつ、特段の事情なく消去されないと認められるので、現在の納入義務の対象外とした。

しかし、こうした情報であっても必ずしも永続的に保存・提供されるとは限らない。このため、国立国会図書館は機関リポジトリや学術論文を掲載するプラットフォームの終了時にはデータを引き受け、保存することを想定している。2017年3月末には国立情報学研究所(NII)による電子図書館事業NII-ELSが終了し、公開されていた論文は、CiNii Articlesからアクセスできなくなった。そこでこれらの論文を、科学技術振興機構(JST)のJ-STAGEと国立国会図書館の国立国会図書館デジタルコレクションに移行することになった。国立国会図書館デジタルコレクションには、2018年度末までに約60万件が移行され、その大部分はインターネット上で公開されている6。また、NIIは、これらの論文について、CiNii Articlesの検索結果から国立国会図書館デジタルコレクションの当該論文にリンクして閲覧できるようにした。

4. メタデータや標準化への取組と発見可能性の向上

国立国会図書館は、かつては「灰色」であった文献の発見可能性を高めるため、NII、JST等関係機関との連携の下で、メタデータの標準化や相互運用性の向上、識別子の付与や統合的な検索システムの構築に取り組んでいる。

まず、国立国会図書館は、インターネット上に存在する情報資源等の組織化・利用提供のため、メタデータ記述要素及び記述規則を定め(DC-NDL)、国立国会図書館デジタルコレクション、国立国会図書館サーチなどで用いている7。国立国会図書館サーチは、国立国会図書館のほか、公共図書館、文化機関等他機関の蔵書やデジタルコンテンツを統合的に検索できるシステムで、検索対象には学協会出版物が多く収載されている。前述のJ-STAGEやCiNii、機関リポジトリのデータベースIRDB8も検索対象に含まれる。国立国会図書館サーチを媒介としてこれらのシステムとメタデータ交換を行い、統合検索を可能とすることにより、国全体として学術情報の発見可能性を高めた。

また、国立国会図書館は、オブジェクトの永続的で一意な識別のための基盤を提供するデジタルオブジェクト識別子(DOI)の普及9にも努めている。例えばJSTやNII等と協力し、DOIの登録機関であるジャパンリンクセンター(JaLC)10の運営に携わっている。デジタル化した博士論文、図書、雑誌等へのDOI付与にも積極的に取り組んでおり、2018年までには、所蔵資料を基に作成したデジタル化資料のほぼ全てに当たる254万件が、DOIを通じて永続的にアクセスできるようになった。なお、JaLCでのDOIの付与対象には、雑誌論文、紀要、予稿集等のほか、研究データも含まれている。

このほか、国立国会図書館は1976年から国際標準逐次刊行物番号(ISSN)の日本のナショナルセンターとして活動しており、冊子体等有形の逐次刊行物に加えて、1998年からはオンライン資料の逐次刊行物に対してISSNを付与してきた。

Ⅲ 灰色文献の収集・提供の今後に向けて

学術情報の流通の在り方はかつてない形態へと変貌しつつある。出版社のプラットフォームで高額な電子ジャーナルが提供される一方、オープンサイエンス・オープンアクセスの流れの下、インターネット上の学協会ウェブサイトや機関リポジトリ、オープンアクセスジャーナルで論文が公開されることも増えてきた。また、莫大な研究データのオープン化も進みつつある。しかし、それらを長期にわたって保存し、利用者に提供することにはこれまで以上に大きな課題が存在する。日本では、冊子体の雑誌と異なり、有償で頒布される電子雑誌は現在の納本制度の対象外であるため、いまだに十分に収集が行えておらず、全国書誌コントロールや永続的保存の対象となっていない。研究データはその大きさだけでなく、性質が極めて多様であり、扱いが困難である点でもこれまで図書館が扱ってきた資料とは性格が大きく異なる。

日本国内の出版物の収集・保存・提供を使命とする国立国会図書館は、国際的な動向を踏まえた上で、学協会をはじめ、他機関や出版社と協力するなど新たな方法を試みつつ、これら新しい資料の保存と利用者への提供を確実にするため引き続き取り組んでいく。


(あいはら まさき)


(付記)本稿は、2019年8月にギリシャのアテネで開催された世界図書館情報会議(国際図書館連盟(IFLA)第85回年次大会)サテライトミーティングにおいて、英語で発表した内容をもとにしたものです。外国の聴衆に向けた内容となっていることに御留意ください。


(本稿は、筆者が利用者サービス部科学技術・経済課在籍中に執筆したものである。)



  1. Schöpfel, J. and Farace, D.J., “Grey literature”, in Bates, M.J. and Maack, M.N. (Eds), Encyclopedia of Library and Information Sciences, 3rd ed., CRC Press, London, 2010. pp. 2029-2039.[国立国会図書館請求記号:UL2-B13]
  2. 学協会アンケート結果の詳細は次のページを参照 https://rnavi.ndl.go.jp/kaigi/questionnaire.php
  3. https://gakkai.jst.go.jp/gakkai/ 日本における主要学術団体の各種データを収録・公開している。掲載団体は、日本学術会議の活動に協力する「協力学術研究団体」(全2,033学会、2019年3月4日現在)。http://www.scj.go.jp/ja/group/dantai/index.html
  4. 大学及び研究機関等において生産された電子的な知的生産物を保存し、原則的に無料で発信するためのインターネット上のサイト。ないし、大学とその構成員が創造したデジタル資料の管理や発信を行うために、大学がそのコミュニティの構成員に提供する一連のサービス。(https://www.ndl.go.jp/jp/publication/biblos/2018/4/02.html
  5. http://warp.ndl.go.jp/
  6. https://dl.ndl.go.jp/
  7. https://www.ndl.go.jp/jp/dlib/standards/meta/index.html
  8. https://irdb.nii.ac.jp/
  9. https://www.ndl.go.jp/jp/dlib/cooperation/doi.html
  10. https://japanlinkcenter.org/

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