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びぶろす-Biblos

85・86合併号(令和元年10月)

びぶろす

  • 発行:国立国会図書館総務部
    (National Diet Library)
  • ISSN:1344-8412

11. 巨大地震に備える:国立国会図書館における減災対策

国立国会図書館収集書誌部司書監 佐藤 従子

1.はじめに

日本の防災対策は、地震による被災の歴史とともに発展してきたと言える。1923年の関東大震災、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災など、甚大な被害が出た地震を大きな教訓として、次の地震に備えるため法律が整備され、対策が強化され、国民の防災意識が向上してきた。また、被災地は、「仙台防災枠組2015-20301」やそれに先立つ「兵庫行動枠組2005-20152」を生み出した国際会議の舞台となり、防災に関する国際的な協議と意思決定をリードしてきた。

そして、文部科学省地震調査研究推進本部のレポートによると、首都圏で今後30年以内にマグニチュード7程度の直下地震が70%の確率で発生、東海から四国の南に伸びる南海トラフでは30年以内にマグニチュード8~9程度の地震が70~80%の確率で起きると予測されている3

大規模地震は起きるものと想定して、発生した場合の被害を可能な限り抑える「減災」への取組が、ますます重要視されている。

本稿では、地震に関する国レベルのリスク・ガバナンスの強化、すなわち法律・基準の整備とそれらの実施を促進する施策について簡単に紹介した後、災害リスク削減への投資の例として、国立国会図書館が建物の減災対策をどのように行っているかについて報告する。

2.日本における耐震対策

(1)地震対策の基本:建物の耐震強化

強い地震は、しばしば津波や火事、地盤の液状化など複合的な災害を引き起こすため、取るべき対策も単純ではないが、最も直接的かつ有効な対策は建物の構造体の耐震を強化することだということは過去の経験から明らかとなっている。

一例を挙げれば、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災(マグニチュード7.3)では、死者6,434人という甚大な被害が出たが、地震による直接死約5,500人のほとんどが建物や家具の下敷きになって圧迫されたことによる即死であった4。日本では1981年に建築基準法が改正されて、建物の耐震基準が大幅に強化されていた。具体的には、新しく建てる全ての建築物について、中規模地震(震度5強5)で損傷しないこと、大規模地震(震度6強~7)で倒壊・崩壊しないことの検証が義務化されていたのだが、阪神・淡路大震災の死者の多くが古い耐震基準で建てられた木造住宅に住んでいた人たちで、1981年の基準で建てられた建物での死者は大幅に少なかった。

この大災害により、1981年の耐震基準が有効であることが証明され、その後耐震化を促進する取組が強化されていった。

(2)耐震化を促進する取組

阪神・淡路大震災の教訓を受けて、同じ1995年に「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が施行された。現在、政府は、住宅の耐震化率6及び学校・病院など多数の者が利用する建築物の耐震化率について2020年までにそれぞれ95%以上にすることを目標とし、国や地方公共団体による耐震診断や耐震改修にかかる費用の支援制度を設けている(2013年時点で耐震化率は、住宅が約82%、多数の者が利用する建築物が約85%7。)。

さらに、国の施設については、「官庁施設の総合耐震・対津波計画基準(平成25年版)」(2013年3月)や「官庁施設の総合耐震診断・改修基準(平成8年版)」(1996年10月)により、より安全性の高い建物を整備することが求められている。この基準により、国立国会図書館は「多数の者が利用する官庁施設」として、建築基準法を満たすレベルの建物の1.25倍の耐震安全性を確保することを目標としている。

3.国立国会図書館の各施設の概要と地震対策

国立国会図書館は、日本の唯一の納本図書館として、日本の出版物を保存し後世に残す使命がある。またその蔵書を活用して国会の活動をサポートする役割も担っている。現在3か所の敷地に5つの建物が建っているが、建設時期や建物の特徴等により、異なる地震対策を取っている。表1は、それぞれの建物でどのような地震対策を取っているかをまとめたものである。

(表1)国立国会図書館の建物と地震対策
建物 完成年 書庫収蔵能力 建物の地震対策 主なメリット・デメリット
東京本館・本館 1968年 450万冊 既存施設への耐震補強工事
  • 最もコストがかからない。
  • 揺れは軽減されないので、大規模地震では蔵書に大きな被害が出る可能性がある。
東京本館・新館 1986年 750万冊 地下書庫(建物全体は耐震建築)
  • 地上階に比べると揺れは軽減され、減災効果が高い。
  • 地上階に比べて温湿度が保ちやすい等、他のメリットもある。
  • 地上書庫に比べて建設コストは大きい。
関西館 2002年 600万冊
国際子ども図書館・アーチ棟 2015年 65万冊
国際子ども図書館・レンガ棟 1906年建設、1929年増築、2002年大規模改修 40万冊 免震レトロフィット
  • 揺れは大幅に軽減され減災効果が高い。
  • 建物の内外装を変えずに耐震化できる。
  • 工事コストが大きい

4.国際子ども図書館レンガ棟の保存改修と免震レトロフィット工法

国際子ども図書館のレンガ棟の建物は、免震レトロフィットによる大規模改修を行った。現代の技術で地震による建物の揺れを抑える効果が最も高いのが、免震という方法であり、さらに免震レトロフィットを図書館で採用している例は少ないので、特に詳しく紹介する。

レンガ棟は帝国図書館として1906年に創建され、1929年に増築された建物で、戦後は長く国立国会図書館支部上野図書館として使われてきた。ルネサンス様式の代表的な明治期洋風建築として、東京都選定歴史的建造物に指定されている。2000年に国際子ども図書館としてリニューアル開館するに当たり、貴重な建築遺産の内外装の意匠・構造を最大限に保存しつつ防災・消防上の安全を確保するため、大規模な改修工事を行った。工事は1998年から4年余りかけて行われた。


(図1)国際子ども図書館レンガ棟外観

(1)免震レトロフィット工法

改修工事での最大の課題が、建物の耐震化であった。改修前に行われた耐震性の調査の結果、1981年の耐震基準及び当時の官庁施設の総合耐震化計画基準を満たしていなかったため、設計・建築を担当した国土交通省及び設計会社と方法を検討し、最終的に「免震レトロフィット工法」の採用が決まった。なお、日本では、官庁の施設建設の場合、予算の要求は各省庁・機関が行って予算が割り当てられるが、それが国土交通省に支出委任され、国土交通省が主体となって建設することが原則となっている8

免震とは、建物と土台との接合部分にゴムなどの免震装置を設置することにより、地震エネルギーによる地面の揺れをこの接合部分に集中・吸収させるもので、既存の建物にこの装置を組み込む工法を「免震レトロフィット工法」という。免震化により、上部の建物の振動を1/3から1/5に軽減させることができる。国際子ども図書館では、建物の重さを支え、地盤と絶縁するための69台の積層ゴムアイソレーターと、震動エネルギーを吸収する52台の鉛ダンパー(図2、3)を地下1階部分に設置して、既存の地上部分を免震化した(図4、5)。

(2)免震構造の利点と採用された要因

免震レトロフィット工事は、鉄骨等で壁や柱を補強する通常の耐震改修工事よりコストがかかり、当時はまだ導入例が少ない工法であったが、採用できたのはなぜか。いくつかの要因が重なって実現に至ったと言える。


(図2)積層ゴムアイソレータ―


(図3)鉛ダンパー


(図4)免震部分平面図:アイソレータ―ダンパー


(図5)国際子ども図書館断面図。黄色が免震装置設置部分

第一に、この建物は、前述したとおり、現存する数少ない明治期洋風建築の一つとして1990年に東京都の歴史的建造物に選定されており、さらに、他にも歴史的な建物を擁する文化施設が立ち並ぶ上野公園地区にあるため、可能な限り外観や意匠を保存しつつ改修することが前提であった。一方で、当時、国立の児童書専門図書館の設立について、政界や出版業界の期待とサポートがあった。歴史あるこの建物を、国際子ども図書館にしてほしいという外部からの要望が、施設整備のための予算措置の大きな後押しとなった。

その上で、次に挙げるような免震レトロフィット工法の持つ利点により、この方法が採用されることになった。

  • 地上の建物の構造を特に強化する必要がないので、従来の外観を維持できる。
  • 耐震壁などを設置する必要がないので、建物内部の意匠もそのまま保存・活用できる。
  • 建物の揺れが大幅に軽減されるので、大規模地震においても子どもたちを含む利用者の安全を確保でき、所蔵する納本資料や電子機器等も守ることができる。
  • 古い建物の外観を損なわないようにしつつ、現代的なデザインと機能を持たせるため、ガラスを多用したエントランスやカフェ等が増設されたが、この設計も免震構造の上に増設されたため可能となった。

1995年の阪神・淡路大震災で既に免震構造物の免震性能が実証されていたこと、日本の図書館で免震レトロフィット工法を採用した例はなかったが、同じ地区の国立西洋美術館の改修で採用された実績があったこともプラス要因となった。国立西洋美術館はル・コルビュジェの建築作品の一つとして2016年に世界遺産に登録されている。

2011年3月11日の東日本大震災で、東京にある国際子ども図書館では震度5強を観測した。免震構造特有の水平方向へのゆっくりとした揺れは感じたが、身の危険を感じるレベルではなく、本が数冊落下した程度であった。国際子ども図書館は地震の翌日以降も通常どおり開館し、閲覧サービスを行った(なおアーチ棟は、2011年当時はまだ建設されていなかった。)。

5.東京本館の耐震補強

東京の国会議事堂の隣に位置する東京本館は、本館と新館の二つの建物からなっている(図6)。本館は中央書庫式の建物で、書庫棟は1辺45mの正方形で17層に分かれている。その書庫棟を閲覧室・事務室のある事務棟が取り囲んでいる。こちらも正方形で、一辺90mの6階建てである。


(図6)東京本館断面図

1981年の耐震基準適用前の1968年に完成した建物のため、これまでに2度耐震補強工事を行っている。1986年~1990年に耐震壁の設置工事、1996年に官庁施設の耐震安全性の目標が定められた後、2010年~2013年に耐震壁の増設と事務棟と書庫棟をつなぐ鉄骨ブレース設置等の耐震改修を行った。

2011年3月11日の東日本大震災で、東京本館でも震度5強を観測した。本館では2010年から始まった耐震改修工事が、まだ完成する前の被災であった。人や施設への影響はほとんどなかったが、揺れにより書庫棟の高層階の書架から約180万冊が落下、そのうち約500冊が破損し、資料保存課で補修を行った。破損しなかった資料を書架に戻す作業が職員によって行われたが、復旧には多大な労力を要し、全ての層の資料が利用可能になるまでに6週間かかった(図7、8)。しかし、建物が損傷しなかったからこそ、地震発生の数日後から復旧作業を始めることができ、6週間で完了できたとも言える。その後、改修工事は2013年に完成し、書庫棟の4辺に図9のようなブレースが設置された。


(図7)東日本大震災直後の本館書庫


(図8)職員による復旧作業


(図9)書庫棟と事務棟をつなぐ鉄骨ブレース

6.地下書庫

東京本館新館は地上4階、地下8階建てで、地下1階から地下8階の地下部分が全て書庫となっている(図6、10)。また、東京から500km離れた京都府にある関西館、2015年に完成した国際子ども図書館アーチ棟も、地下に書庫を設けている。


(図10)新館地下書庫
この光庭によって外光が最下層まで届く

国立国会図書館が地下に書庫を建設した理由はいくつかある。

  • 地上階に比べて外気の影響を受けにくいため、1年を通して温湿度が保ちやすいこと
  • 敷地が限られ、建物の高さを抑制する必要がある中で大規模な書庫が建設可能なこと
  • 地下は地上階に比べて地震による建物の揺れが小さく減災効果があること

特に、重い資料が大量に収蔵されている図書館の場合、建物は損傷しなくても、書架の転倒や本の落下が、他の設備を壊したり、避難経路をふさいで人への被害を大きくしたりする可能性が高いため、揺れが小さいことによる減災効果はより大きい。これは、免震構造で効果をより発揮するが、地下書庫にも当てはまる。

実際に東日本大震災の際も、本館書庫とは対照的に、新館の地下書庫では揺れは小さく、落下した資料は20冊ほどであった。

7.まとめ

日本では過去の被災経験を教訓として、第一に人命を守るため建物の耐震基準が定められている。その基準を満たした上で、どのような対策を選ぶかは、立地条件、施設の機能・役割、建物の特徴、費用など様々な要因を考慮して個別に判断することになる。

現在、当館では関西館に地下1階、地上7階の耐震建築の新しい書庫棟を建設中である。厳しい財政状況の中、地下書庫の建設は認められなかった。しかし、新築の耐震構造で、書庫の大部分を集密書架とし、一部の固定書架には揺れを感知するとバーが上がって本の落下を防止する設備を導入することで、大規模地震が来ても建物や資料の被害を抑える設計にしている。

失われた人命は永遠に取り戻せないし、建物や資料の損傷は程度によって長期の業務・サービス停止につながり、多大な復旧コストがかかる。私たちは地震の発生を防ぐことはできないが、貴重な文化遺産を所蔵する機関として、リスクと制約条件を的確にとらえて対策を講じることにより、被害をできる限り減らし、早期の復旧を可能にする努力を続けていかなければならない。

(さとう よりこ)

<参考文献>

  • 『国際子ども図書館事業記録集 : 明治の煉瓦建築「旧帝国図書館」の保存と再生』国土交通省関東地方整備局営繕部, 2002.3. [国立国会図書館請求記号:UL521-H5]
  • 「国際子ども図書館建物の免震構造について」『国立国会図書館月報』国立国会図書館, (486), 2001.9, pp.10-14. [国立国会図書館請求記号:Z21-146]
  • 小澤恵美子「国立国会図書館の3施設の概要―資料保存の観点から」国立国会図書館第29回保存フォーラム事例報告, 2018.12.
    <https://www.ndl.go.jp/jp/event/events/forum29_text4.pdf>

(付記)本稿は、2019年8月にギリシャのアテネで開催された世界図書館情報会議(国際図書館連盟(IFLA)第85回年次大会)において、英語で発表した内容をもとにしたものです。外国の聴衆に向けた内容となっていることに御留意ください。

  1. UNDRR Sendai Framework for Disaster Risk Reduction 2015-2030.
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000081166.pdf(文部科学省仮訳)
  2. UNDRR Hyogo Framework for Action 2005-2015: Building the resilience of nations and communities to disasters
    http://www.bousai.go.jp/kokusai/wcdr/pdf/wakugumi.pdf(内閣府仮訳)
  3. 文部科学省地震調査研究推進本部
    「主な海溝型地震の評価結果(地震発生確率)」(2019年2月公表)
    https://www.jishin.go.jp/evaluation/evaluation_summary/#kaiko_prob
  4. 内閣府「阪神・淡路大震災教訓情報資料集【02】人的被害」
    http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/hanshin_awaji/data/detail/1-1-2.html
  5. 気象庁「その震度どんなゆれ?」
    https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/kaikyuhyo/kaikyuhyo.pdf
  6. 耐震化率とは、総戸数に占める、1981年耐震基準後に建設された戸数+1981年以前建築で補強工事等により耐震基準を満たしている戸数の割合。
  7. 国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」
    http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000043.html
  8. 「官公庁施設の建設等に関する法律」第10条。http://www.mlit.go.jp/common/001057107.pdf

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