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びぶろす-Biblos

85・86合併号(令和元年10月)

びぶろす

  • 発行:国立国会図書館総務部
    (National Diet Library)
  • ISSN:1344-8412

8. 【専門情報機関のデジタルアーカイブ】
東京文化財研究所の公開データベースについて

東京文化財研究所研究員 小山田 智寛

1.はじめに

東京文化財研究所は1930(昭和5)年、画家黒田清輝の遺言と遺産により設立されました。設立以来、国の内外を問わず幅広く文化財全般に関する情報を収集し、その保存のための調査と研究を行っています。収集した様々な資料は、資料閲覧室でご利用いただけますが、当研究所のウェブサイトでのデータ公開も積極的に進めています(なお、数値は2019年8月時点のものです)。

2.ウェブ公開データベースについて

所蔵資料の目録や、資料に記載された本文のデジタルデータ、文化財や貴重書のデジタル画像などおよそ30種類のコンテンツをデータベース化し、ウェブ公開しています。本稿ではそれらの中でもアクセスが多く、資料自体をデジタル化して公開している日本美術に関係するデータベースをいくつか紹介します。

特定の美術家を調べる際は、当研究所が1936(昭和11)年よりほぼ毎年刊行している『日本美術年鑑』の記事をデジタル化した「物故者記事データベース」(以下、「物故者記事」という。)を御利用ください。現在、1935(昭和10)年から2015(平成27)年の間に亡くなった美術関係者2,907名の略歴を登録しています。

美術界の動向については、同じく『日本美術年鑑』の記事をデジタル化した「美術界年史(彙報)データベース」(以下、「年史」という。)を御利用ください。創刊以来の日本国内の主要な展覧会のほか、文化財全般に関する出来事が5,294件登録されています。

なお、両データベースには『日本美術年鑑』の刊行に合わせ、年に一度情報を追加します。そのため、例えば美術家岡本太郎(1911-1996)の「物故者記事」は「没後、岡本太郎美術館が開設されることとなった。」で完結しました。しかし、1999年の「年史」には、「川崎市岡本太郎美術館が、同市多摩区に完成し、30日に開館した。」ことが登録され、さらに、2011年の「年史」には、生誕100年の展覧会について掲載されるなど、没後の出来事も追加されていきます。

明治大正期書画家番付データベース」(以下、「番付DB」という。)にも、美術家についての情報が掲載されています。江戸から明治にかけ、様々な対象を格付けする番付が流行しました。「番付DB」にはそれらの中から、書画家についての番付61枚を登録しています。登録枚数こそ控えめですが、「番付DB」は単に番付の画像を表示するだけでなく、掲載されている延べ41,854名の書画家の名前と分類が全てデータ化されています。そのため、全文検索で、誰と誰が同じ分類として評価されていたのかを容易に確認することができます。下図は1908(明治41)年に出版された「日本書画名覧」の上部ですが、紙面を大まかに区切り、右上から次のように人名のデータを作成しました。


日本書画名覧 部分

1-A
 故人南画名家
  渡辺華山(渡辺崋山) 椿椿山 立原杏所 日根野対山(日根対山)
  山本梅逸 彭城百川 高久靄崖 天野方壺 野呂介石 浦上春琴 田能村竹田
  池野大雅(池大雅) 貫名海屋 木下逸雲 鉄翁(日高鉄翁) 帆足杏雨
  小田海僊
2-A
 故人南画名家
  木村巽斎(木村蒹葭堂) 十時梅涯(十時梅厓) 三浦梧門 柳沢淇園
 美術名誉大家
  狩野探幽 巨勢金岡 僧雪舟(略)

掲載箇所の記述例

美術作品や工芸品の画像を確認する際は、1894(明治27)年に創刊された『日本美術画報』(1899(明治32)年『美術画報』へ改称)の写真図版を掲載している「『美術画報』所載図版データベース」(以下、「美術画報DB」という。)を御利用ください。1925(大正14)年までに出版された全560冊に掲載された写真図版を6,202件登録しています。作品ごとにメタデータを作成しましたので、例えば「尾形光琳」や「伊藤若冲」といった人名で検索し、図版を直接参照することができます。なお、一冊ごとに通覧するためのブックビューワも公開しています。

これらのデータベースは内容や形式に違いはありますが、どれも日本の美術に関係するという共通点を持っており、情報同士が互いを補完しあい、情報全体の質を向上させています。例えば、岡本太郎の場合、「年史」は「物故者記事」の注釈として機能しています。また「伊藤若冲」は「美術画報DB」に35枚の図版が登録されており、「番付DB」にも18回登場します。登録情報のこのような性格から、当研究所の検索システムには、複数のデータベースが同時に検索できる機能を必要としました。

3.統合検索システムについて

そこで、メタデータの項目が異なる複数データベースを同時に検索するシステムとして、「東文研 総合検索」を開発しました。現在のところ、横断検索の対象となるのは28データベース、データ数は125万件余りです。検索結果画面では、画面を切替えることなく、対象となる全てのデータベースについてヒットした件数や詳細が確認できます。また、美術に関する語彙は、旧字が使用される場合も多く、メタデータを新字に統一することができません。そのため「竜」と「龍」、「藝」と「芸」などの違いを気にせず検索できるよう、「異体字検索」機能もオプションとして開発しました。


「東文研 総合検索」検索結果

しかし、Googleなどの検索エンジンからアクセスしてきたユーザは、ほとんどの場合、検索エンジンがリンクするページの利用にとどまります。そこで、公開しているデータベースのより一層の利用を促すため、人名をキーとした関連情報の自動表示機能を開発しました。

4.関連情報の自動表示機能について

本稿で紹介したすべてのデータベースに登録されている画家速水御舟(1894-1935)を例に、関連情報の表示機能を説明します。下図は、「物故者記事」の速水御舟の下部です。人名をキーとして、他のデータベースの情報が一覧表示されています。「年史」からは、展覧会が繰り返し開催されている様子が伺えますし、他の人物の「物故者記事」でも言及されています。また、4枚の番付にも掲載されています。さらに、「美術画報DB」の図版も自動表示され、「物故者記事」の画面上で作品が確認できます。


「物故者記事」速水御舟

5.おわりに

本稿では、東京文化財研究所が公開しているウェブデータベースとその機能の一部を御紹介しました。

ところで、当研究所で公開しているメタデータは、作成時期や目的が異なるため、必ずしも統一された語彙が用いられていません。人名についても、本名のほか雅号、ペンネームなど、同一人物に対して異なる表記があることから、関連情報の表示精度に問題が生じる場合があります。「番付DB」の場合は、同一データベース内においてすら人名の表記にゆれが生じていました。そこで、改めて表記を検証し、延べ41,854名の人名を17,822名にまで集約し、データを再構築した「書画家人名データベース(明治大正期書画家番付による)」を開発しました。このデータベースにより、「番付DB」に関しては、関連情報の表示精度が向上しています。

また、データ整備の一環として、本年6月「物故者記事」2,907件中1,790件に、Web NDL Authoritiesを典拠とする人名の読みとローマ字表記を追加しました。一方、当研究所においても多くの人名の表記に関する情報を蓄積しています。ただ、当研究所では基本的にメタデータのすべてを所内で作成してきたこともあり、独自の書式が多く、標準化に配慮したデータ整備に時間を要しています。しかし、近い将来、現在のようなコンテンツだけでなく、典拠情報も提供できるよう試行錯誤を重ねています。

当研究所では、御紹介したデータベースのほかにも、海外の文化財の古写真や、当研究所設立の契機を作った黒田清輝のおよそ40年分の日記など、様々な種類のデータベースを公開しています。ぜひ御利用いただき、御意見、御感想などをお寄せください。

(おやまだ ともひろ)

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