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びぶろす-Biblos

85・86合併号(令和元年10月)

びぶろす

  • 発行:国立国会図書館総務部
    (National Diet Library)
  • ISSN:1344-8412

6. 【専門情報機関のデジタルアーカイブ】
国立歴史民俗博物館が進める事業におけるデジタルアーカイブ

国立歴史民俗博物館准教授 後藤 真

1.はじめに

国立歴史民俗博物館(以下、歴博)は、1983年に開館した、大学共同利用機関の一つである。大学共同利用機関でありながら博物館機能を持っている。この両面性を持つのが歴博の特徴である。所蔵資料は、2019年4月現在で28万点を超え、歴史・考古・民俗に渡る多くの資料を共同利用に供している。

歴博では、比較的古くから歴史研究に関するデータベースを公開してきた。もっとも古くは「インターネット時代」が来る以前の1988年(昭和63年)から、オンラインでの提供を開始している。これはいわゆるデジタルアーカイブではなく、研究成果のデータベースであり、現在も提供されている「旧高旧領取調帳(きゅうだかきゅうりょうとりしらべちょう)データベース」など計3件のデータベース公開であった。

現在でも歴博は研究情報に関わるデータベースや資料のデジタルアーカイブなど、50を超えるデータの提供を行っている。

これに加え、2016年度以降、デジタル化に関して大きく二つの事業が進行している。一つ目が、「総合資料学の創成」事業であり、もう一つが「歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク」である。前者は歴博の事業として位置づけられ、後者は歴博が基盤機関となりつつ、歴博の所属する人間文化研究機構全体及び東北大学・神戸大学を中心拠点として進められている事業である。この両者については事業の性質は異なるが、いずれも大学・博物館・地域の歴史文化資料をデジタル化し、蓄積と公開を行うという点は、類似している。そして、この両者の情報基盤として構築されたものが、”khirin”(knowledgebase of historical resources in institutes)である。本稿では、この”khirin”の特徴と搭載されているデータのうち、特に資料デジタルアーカイブについての紹介を行いたい。


写真1 平成2年に公開されたオンラインデータベース紹介のポスター


写真2 "khirin"トップページ

“khirin”は日本歴史資料を様々な側面から見ていくため、また、日本の歴史資料をゆるく総合的に見るための情報基盤として作られた。歴博や歴博と連携をしている様々な機関の資料データ、歴史研究のデータがあり、現在は、下記のようなデータが搭載されている。

  • 館蔵資料目録データベース
  • 聆涛閣集古帖(れいとうかくしゅうこちょう)の画像※及び仮目録
  • 歴史民俗調査カード(歴史)
  • 歴史民俗調査カード(考古)
  • 千葉大学附属図書館所蔵 町野家文書※
  • 鳴門教育大学附属図書館所蔵 後藤家文書※
  • 館蔵錦絵データベース※

“khirin”は大きくは二つの情報基盤で構成されている。一つは目録データであり、これは別々のデータベースにあるデータとデータをリンクでつなぎ、様々な形式で閲覧することが可能なLinked Dataになっている。もう一つは、画像データであり、こちらはIIIF1によって提供されている。上記のうち、画像は「※」を付したものについて提供を行っている。Linked DataにはREST API2も提供しており、外部からの様々な機械的な検索要求への対応も可能としている。

また、全てのデータについて、可能な限りオープンにすることを目指している。大枠としては「政府標準利用規約2.0(CC BY 4.0 国際と互換性あり)」に準じた考え方を原則とし、下記のような条件にて提供している3

  1. 当館の館蔵資料に関するメタデータについては、その資料の著作権の有無にかかわらず、自由に利用できる。これらのデータを利用する際には、当館のクレジットの付記を依頼する。また、改変等を行った場合には、その旨の明示を依頼する。
  2. 当館の館蔵資料以外のデータについては、それぞれの機関との取り決め等に準じるものとする。

特に、CC BY 4.0準拠以外での公開は下記のとおりである。

  • 歴史民俗調査カード(歴史・考古)目録及び画像データ:CC BY-NC-SA(表示‐非営利‐継承)4.0国際による提供
  • 千葉大学附属図書館所蔵 町野家文書 Rights Statements No Copyright ? Contractual Restrictions(著作権はないが別の制約がある)による提供

これらの提供方法は、著作権法や内閣府知的財産戦略本部のガイドライン4に照らし合わせると、課題があるとは考えるが、まずは暫定的により使いやすくデータを提供することを優先した結果である。なお、ガイドラインの公開より”khirin”の公開の方が先行したことを付記しておく。

以下、”khirin”の中から、特色のある資料デジタルアーカイブについて、簡単に紹介していきたい。

2.聆涛閣集古帖

『聆涛閣集古帖』(以下、『集古帖』という。)とは、旧摂津国菟原郡住吉村呉田(兵庫県神戸市の東部)の江戸時代の豪商・吉田家により編纂された古器物類聚(るいじゅう)の模写図譜である。さまざまな古い器物、総計約2,400件を収録している。物質資料や文献資料の精巧な模写・拓本、古印の模写・模刻、あるいは古い絵画からの抜き描きに、簡単な注記・解説を記す体裁となっている点が特徴である。

現在、歴博では、この『集古帖』を集中して研究する共同研究「『聆涛閣集古帖』の総合資料学的研究」を実施している。この共同研究にあわせ、総合資料学の創成事業の一環として、本画像をIIIFで公開した。検索用目録は、あくまでも画像発見用のものとして作成している暫定版である。内容については、今後変更される余地は十分にあるが、まずは『集古帖』の精細な画像を見るためのツールとしては有益であろうと考えている。今後、より詳細な目録を上記共同研究の成果として公開する予定である。

3.千葉大学附属図書館の町野家文書及び鳴門教育大学附属図書館の後藤家文書

次に大学との連携によるデータ公開の例を紹介したい。千葉大学と鳴門教育大学の附属図書館に所蔵されている近世文書を大学と歴博で連携して公開した。いずれも”khirin”の中で、目録をLinked Dataで公開し、画像をIIIFで閲覧可能としたものである。両大学とは包括連携協定を結んでおり、その協定に基づく事業として行われたものである。

「町野家文書」は、旧下総国千葉郡犢橋村(こてはしむら)(現千葉県千葉市花見川区犢橋町)の名主であった町野家が代々伝えた江戸時代から明治時代にかけての古文書である。内容は年貢納税その他行政記録など諸般にわたり、広く千葉地域の近世を分析するための基礎資料である。1957年に町野家より千葉大学へ寄贈され、マイクロフイルム撮影がされた状態で保管されていたものを、歴博との共同事業によりデジタル化し、IIIFで公開した。

一方、「後藤家文書」は旧阿波国名東郡早渕村(徳島市国府町早渕)、19世紀中に組頭庄屋を務めた旧家である後藤家に伝わった文書群である。

かつて日本近世史研究の先駆者の一人、戸谷敏之氏5によって用いられて以降、これまでにも農業史・村落史研究を中心に活用されてきた。

1987年に鳴門教育大学付属図書館が,後藤家文書の大半を購入しており、現在17,000点余の古文書が同附属図書館に収蔵されている。”khirin”では、これらのうち公開可能なものを搭載した。

後藤家文書には、組頭庄屋関係史料を中心に、後藤家の経営史料をはじめ、村落史・農政史・藩制史・商業史・文化史など多様な分野に関する内容が含まれる。また、四国八十八ヶ所巡礼の道沿いである早渕村周辺の四国遍路に関する文書なども確認できる。


写真3 安政2年の資料比較。左から千葉大学町野家文書・歴博館蔵錦絵・鳴門教育大学後藤家文書。「安政江戸地震」の起こった年で、関東では地震資料が残る一方(左2件は地震資料)、四国のこの文書群には地震の情報は見られない。

この二つのデジタルアーカイブについては、各大学附属図書館サイトで文書リストを公開し、”khirin”では検索による情報発見を行う形式とした。IIIFの相互運用性を活用し、歴博から画像の配信を行い、それぞれの大学のサイトから閲覧可能とした点が特徴である。「町野家文書」については、千葉大学デジタルアーカイブ「c-arc」の中に位置付け、独自にUniversal ViewerとMirador(IIIF対応ビューワ)を設置している。一方、鳴門教育大学では、歴博のViewerへのリンクによるものとした。また、鳴門教育大学附属図書館のサイトには、APIを用いて、独自の「後藤家文書だけを”khirin”で検索できる」検索窓を設置した。システムが持つ相互運用性を活用し、大学のデータを共通の規格で統合的に公開した例の一つと言える。このモデルでは、大学側の負担が比較的軽い点が特徴である。また目録と画像が整備されていれば、当館の運用モデルの中で相互に成果公開が可能となる点も特徴である。

4.歴博の館蔵錦絵

「館蔵錦絵」は歴博が所蔵する錦絵をデジタルアーカイブとして公開したものである。歴博は、主として歴史学、民俗学研究のための画像資料としての観点から、創設以来積極的に錦絵の収集を進めてきた。中核となる約3,400点の「錦絵コレクション」を含め、現在約4,000点を収蔵している。この館蔵錦絵を”khirin”で公開した。画像にカラーチャートをつけるだけではなく、版元や摺師などの情報、主題などの情報を日英両言語で提供しており、より研究的な要素を強めた絵画のデータ公開として位置付けられている。

館蔵錦絵に関しては、ジャパンサーチや他機関のデータベースでも公開されている錦絵との相互運用などを通じ新たな活用方法が期待される。

また、これらのデータについては、人文情報学的な研究も行っている。まずは、地域における歴史資料の適切なメタデータの在り方についてである。ジャパンサーチなどの例を参考にしつつ、情報発見と活用のためのメタデータの在り方はどのようなものなのか、紹介したデジタルアーカイブのデータ構造をもとに検討を進めている6

また、種々の多様なデータの中から、必要な情報をいかに発見できるのかという手法も検討を進めている。”khirin”は、大学共同利用機関のデータである以上、歴史研究を始めとした多くの学術研究に役立つという観点は外せない。それらのデータをどのようにすれば適切に見つけることができるのか、特に国内外の学生や歴史を専門としない研究者などへの発見可能性を高めるというのは重要な課題である。今回紹介したデジタルアーカイブは、いずれも近世後半から末期の資料が多い。例えば、一定の年代ごとの横断検索やさらにそれに地域の情報などを重ね合わせた比較分析なども、本情報基盤によって可能となり、検索キーワードとは異なる情報発見も可能となる。

また、人間文化研究機構本部が構築した「歴史地名辞書データ」との連携によって、古文書の地名の緯度経度を表示するなどの手法も可能になると思われる。これにより、例えば近世末期における文書がどのような空間を対象としていたのかを可視化することなども考えられる。

近世資料であれば、古文書史料の市民参加型翻刻プラットフォームである「みんなで翻刻」は、IIIFに対応しているため、”khirin”が資料を提供することが容易となるであろう。

これらのデジタルアーカイブは、さらに館蔵資料のみならず、広く大学、そして博物館や地域資料も対象として、データの種類・件数ともに増大させる予定である。歴史の研究としても人文情報学の研究としても利用可能である。博物館の役割という点でも、研究以外にも歴史の理解を深めるデジタルアーカイブをさらに展開していきたい。

(ごとう まこと)

  1. IIIF(International Image Interoperability Framework)、国際的な画像の相互運用のための枠組、それぞれの機関等で異なる画像の配信形式をやめ、同じ規格を用いることを目指すもの。これにより、これまで特定のサーバとビューアでしか見られなかったものが、IIIFを採用した機関同士であれば組織を問わず、他機関の画像と自機関の画像を同時に見ることができるなどの運用が可能になる。また、国際標準として位置付けることで、機械的な二次利用のしくみもより容易に作ることができる。詳細はhttps://iiif.io/などを参照のこと。
  2. ウェブのシステムを外部から呼び出すAPI(Application Programming Interface)の種類の一つ。セッションなどの状態管理を行わず、URLによって一意に識別されるように設計されたもの。これにより、決まったURL等でアクセスすることで、どのような外部サービスへも同じ結果を返すことが可能となる。
  3. https://www.metaresource.jp/about-khirin/
  4. 内閣府知的財産戦略本部「デジタルアーカイブにおける望ましい二次利用条件表示の在り方について(2019 年版)」<https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/jitumusya/2018/nijiriyou2019.pdf>
  5. 戸谷敏之『近世農業経営史論』日本評論社, 1949, [国立国会図書館請求記号:A611-258 ]
  6. 後藤真・橋本雄太編『歴史情報学の教科書』,文学通信,2019.3,[国立国会図書館請求記号:G21-M2]

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