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びぶろす-Biblos

85・86合併号(令和元年10月)

びぶろす

  • 発行:国立国会図書館総務部
    (National Diet Library)
  • ISSN:1344-8412

2. 【地域に根ざした音楽資料の保存】
国際日本文化研究センターにおける浪曲SPレコード・デジタルアーカイブの取組

国際日本文化研究センター助教 古川 綾子

1.はじめに

2020年度公開に向けて準備を進めている国際日本文化研究センター(以下、「日文研」という。)の「浪曲SPレコード・デジタルアーカイブ」(以下、「浪曲DA」という。)について概要と進捗状況を報告したい。音源は順次公開予定である。約2万点のSPデジタル化音源のアーカイブが完成すれば、2011年5月に公開された国立国会図書館(以下、「NDL」という。)の歴史的音源(れきおん)の約5万点に次ぐ規模となる。

日文研では1997年以降、「怪異・妖怪画像」や「艶本資料」など52件のデータベース(DB)を公開してきた。このうち「宗田文庫図版資料」や「平安京都名所図会」など6件のDBは、ジャパンサーチ(試験版)とも連携している。「日本関係欧文貴重書」のように一部に音源を含むDBもあるが、これまでは日文研図書館所蔵の紙資料を中心に画像のDB化を積極的に進めてきたため、デジタル音源のDBは日文研において初めての取組である。

2.浪曲SPレコードの寄贈受入と、機関拠点型基幹研究プロジェクト

浪曲DAは、浪曲SP収集家の森川司氏(1923?2014)から生前に寄贈されたコレクション(以下、「森川コレクション」という。)を構成する、SP13,012枚、LP187枚、計13,199枚の浪曲レコードのうち、重複分を除いたSP9,997枚の音源と画像のデジタル化及び公開を目的としている。

森川コレクションは、戦後の浪曲研究の第一人者である芝清之が「まず、彼の所にないものはない」と評したように1、SPコレクターと演芸資料関係者には広く知られた、唯一無二の浪曲SPコレクションである。日文研には2014年3月に寄贈された。それまで日文研には、LP数十枚と数冊の浪曲関係本しか所蔵しておらず、森川コレクションとの接点は、無いに等しいものであった。

2016年度から始まる機関拠点型基幹研究プロジェクト「大衆文化の通時的・国際的研究による新しい日本像の創出」の準備段階において、「大衆文化関連資料の収集・デジタル化による画像・音響図書館の構築」が達成目標の一つに決まると、森川コレクションの活用に向けて2015年度下半期から取組が始まった。

3.他機関の状況

SPのデジタル化音源公開といえば、質量ともにNDLの「れきおん」が大きな役割を果たしていることは周知のとおりである。日文研の聞き取り調査に快く御協力くださったNDLの関係者の方々から、浪曲DA構築を検討する上で多くの情報を頂いた。NDL所蔵のSPではなく各レコード会社に保管されていた原盤を含むSPが使用されたこと、レコード会社の専門スタッフがスタジオで音のクオリティを最重要視してデジタル化したこと、さらに権利処理についても歴史的音源アーカイブ推進協議会の全面協力を得て進められたことが分かり、同じクオリティの音源デジタル化は日文研の場合、予算的に難しいと判断した。一方、森川コレクションと「れきおん」の重複は668枚(7%)にとどまることから、浪曲DA公開の意義を再認識した。

「れきおん」以外にも、SPデジタル音源のウェブ公開を先駆的に実施した京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター「伝音アーカイブズ・SPレコードデジタルアーカイブ」や、音源を展示に活用している昭和館など、SPのデジタルアーカイブに取り組む施設はあるが、レコードの保存を目的とする施設の方が圧倒的に多い。100万枚のレコードを保管する北海道新冠町のレ・コード館、貴重な蓄音器コレクションを誇り、SP3万枚を収蔵する金沢市の金沢蓄音器館、岩手県紫波郡の野村胡堂・あらえびす記念館(SP1万枚収蔵)など、レコードそのものを資料として後世に残すことを目的とする博物館的施設である。また、約4万枚のSPを含む九州大学総合研究博物館「田村悟史コレクション」の今後の展開も注目される2

4.森川コレクションデジタル化の経過報告

2014年度の寄贈受入から2019年度上半期までの経過は以下のとおり。

2014年度

寄贈受入と目録作成。蔵書検索(OPAC)が可能になった。

2015年度

10月、担当者着任。音源デジタル化及びDB構築に向けて動き出す。

11月、所内でレコード盤面の画像デジタル化作業開始。レコードのアーカイブや音源のデジタル化に関わる機関やSPコレクターや浪曲関係者への聞き取り調査開始【継続中】。

3月中旬、一定の音質を保持した音源再生と効率的にデジタル化を実施するため、レーザーターンテーブル(株式会社エルプLT-masterⅢ)の導入を決定した。

2016年度

目録情報の確認とDB用の追加項目の入力作業、レコード出版年調査、著作権及び著作隣接権調査を開始【継続中】。寄贈された状態のまま保管していたレコードのクリーニングを行い、長期保存用スリーブ・保存箱等の備品交換と、図書館視聴覚資料室に収蔵棚を設置した。

6月、レーザーターンテーブル、フォノイコライザー、デジタルアナログコンバーター等の機器が揃い、音源デジタル化作業開始【継続中】。また、共同研究会「浪花節の生成と展開についての学際的研究」を開催、国内外の研究者18名による音源や盤面画像を活用した研究発表が行われた。

 
左:映像音響編集室 右:視聴覚資料室レコード棚

2017年度

2台目のレーザーターンテーブルを購入してさらなる効率化を図る。浪曲師番付や浪曲公演ポスターなどの浪曲関係資料の収集を開始して、画像のデジタル化開始【継続中】。

3月、ウェブ版とローカル版(スタンドアローン)の2種類の試作版データベースが完成。

2018年度

3月、異字体同一視検索機能を追加する等、試作版データベースを改訂。

2019年度上半期

試作版の再改訂の準備。

2019年7月末までのデジタル化の進捗状況をまとめると、下表のとおりである。

画像 終了 両面19,994面
音源 全9,997枚中4,181枚(41.8%)終了

5.画像・音源データ、デジタルアーカイブの仕様

〔データの仕様〕
画像 (解像度: 300dpi/24bit) 保存用TIFF(平均35MB)
公開用JPEG(平均2MB)
音源 (サンプリング周波数/96kHz) 保存用WAV(平均120MB)
公開用MP3(平均5MB)


1:試作版検索画面


2:SP検索結果画面

〔試作版デジタルアーカイブの仕様〕
ドメイン 日文研にて取得、設定、管理
サーバー 日文研使用サーバー
使用システム WordPress
データベース MySQL
スクリプト PHP/CSS/JavaScript
文字コード UTF-8
対応ブラウザ Internet Explorer/ Firefox /Chrome/Microsoft Edge /Safari(Mac版)
SP検索項目 ①演者名(異字体同一視検索) ②曲名(異字体同一視検索) ③レーベル名(日英) ④レコード番号(原盤番号含)
資料検索項目 ①資料名 ②演者名(異字体同一視検索) ③資料番号 ④形態
SP書誌情報項目 ①登録番号 ②請求記号 ③資料形態 ④演目 ⑤演目ヨミ ⑥演目ローマ字 ⑦演者名 ⑧演者名ローマ字 ⑨演者名ヨミ ⑩レーベル名(日英) ⑪レコード番号(原盤番号含) ⑫セット枚数 ⑬発売年月 ⑭音源データ(MP3) ⑮収録時間 ⑯デジタル変換情報 ⑰コレクション情報 ⑱提供制限 ⑲公開範囲 ⑳盤面写真(サムネイル、拡大画像、JPG) ㉑演者肖像写真(JPG) ㉒肖像の出典及び該当資料へのリンク ㉓NCID(日文研ID) ㉔OPACへのリンク ㉕備考
資料書誌情報項目 ①登録番号 ②請求記号 ③形態 ④資料名 ⑤資料名ヨミ ⑥演者名 ⑦演者名ヨミ ⑧出版社 ⑨画像点数 ⑩出版年 ⑪所蔵先 ⑫大きさ ⑬NCID ⑭OPACへのリンク ⑮備考

6.今後の予定

2020年3月までに試作版データベースを改訂し(ローマ字検索機能追加予定)、各種調査を終え、2020年9月、完成版「浪曲SPレコード・デジタルアーカイブ」の公開を目標としている。音源のデジタル化が当初計画より遅れており、現時点での終了予定は2021年12月頃であるが、終了分は順次公開予定である。また、SPレコード以外の浪曲関係資料のデジタルアーカイブについても、個人蔵資料(浪曲関係資料収集家のコレクション)の活用も検討している。

(ふるかわ あやこ)

  1. 芝清之編『東西浪曲大名鑑』東京かわら版, 1982.3, p.228
  2. 大久保真利子「田村悟史作成のSPレコードデータベース-その特徴と公開に向けての課題-」『九州大学総合研究博物館研究報告』, 九州大学総合研究博物館, 第15-16合併号, 2018, p.35-43. [国立国会図書館請求記号:Z71-K20]

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