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びぶろす-Biblos

83・84合併号(平成31年4月)

びぶろす

  • 発行:国立国会図書館総務部
    (National Diet Library)
  • ISSN:1344-8412

5. 【特集:世界図書館情報会議(国際図書館連盟(IFLA)第84回年次大会)大会】
印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会、レファレンス情報サービス分科会に参加して

国立国会図書館利用者サービス部人文課 青山 真紀

1.はじめに

筆者は、世界図書館情報会議(国際図書館連盟(IFLA)第84回年次大会)大会にポスターセッションの発表担当として参加したほか、利用サービス関連を中心にいくつかの分科会にも参加する機会を得た。本稿では、印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会とレファレンス情報サービス分科会の二つのオープンセッションについて報告する。なお、各セッションの予稿の一部はIFLA Libraryで公開されている。

大会開会式の様子

2.マラケシュ条約と図書館の役割

印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会(Libraries Serving Persons with Print Disabilities Section:LPD)は、視覚障害者等の読書が困難な人々にも公平で利用しやすい図書館サービスを提唱し、グローバルにアクセス可能な図書館の整備等を目標に活動している。セッションは「マラケシュ条約1の発効-図書館の役割(Marrakesh Treaty in force - the role of libraries)」をテーマとし、(1)トロント大学スカーボロ図書館、(2)支援技術開発機構、(3)世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization:WIPO)、(4)DAISYコンソーシアム、(5) Conector FoundationRed CDPDが報告し2、マラケシュ条約の運用面で重要な役割を担う図書館にとって、実践的で示唆に富む内容であった。

(1)では、IFLAが図書館員向けの実務指針として作成したマラケシュ条約実践ガイドについて、執筆、編集に携わったVictoria Owen氏から紹介があった。ガイドはFAQ形式で書かれており、「マラケシュ条約とは何か」等の基本的な事項から、「アクセシブルフォーマットとは何か」「対象となる著作物は何か」「アクセシブルな資料を所蔵する図書館について調べるにはどうすればよいか」等、具体的な内容も含まれている。また、実務に直結する情報として、現在利用可能な検索、国際交換のサービス(Accessible Books Consortium(以下、「ABC」という) Global Book Service(後述(3)参照)のほか、BookshareHathi TrustInternet Archive等)や、アクセシブルフォーマット資料の制作ガイドへのリンクも紹介された。

当日、IFLAのウェブサイトでもガイドの公開が告知され、現在、著作権及び法的諸問題(Copyright and other Legal Matters:CLM)諮問委員会の刊行物のページに、英、仏、スペイン、ロシア、スウェーデン語版のガイド本文3が掲載されている。

マラケシュ条約実践ガイド紹介の様子


(2)では、支援技術開発機構副理事長の河村宏氏から、アクセシブルな電子書籍の国際標準規格であるDAISY/EPUBや、アクセシビリティ機能を持つウェブサイト4、テレビ放送で字幕や手話を表示することができるIPTV5等の技術について、実演を交えて説明があった。また、図書館間の国際協力によって、意識の向上、各国におけるマラケシュ条約の批准と著作権法改正への支援、必要な技術の伝達、能力開発、持続可能なビジネスモデルの開発が可能になると期待されることが述べられた。

(3)は、WIPO等が運営するABCによる、アクセシブルな資料のオンライン目録であり、国際交換のプラットフォームであるThe ABC Global Book Serviceについての発表で、加盟機関数やタイトル数6、最近加盟した図書館、利用が多いユーザー7や言語8等の報告、サービスの利点9、検索からダウンロードまでの手順の説明、デモ等があった。

(4)では、インドにおけるマラケシュ条約に関する展望について報告があった。著名な作家を招いてのパネルディスカッションの開催(世界盲人連合(World Blind Union:WBU)との共催)、知的財産権専門の弁護士との協力関係の構築など、著作権法の権利制限を実現するために様々な取組を行ったとのことであった。また、アクセシブルな資料の全国的な標準規格がないことが高いハードルとなっていること、資金提供機関から著作権侵害の懸念が示されたこと、多言語国家であるインドの言語に対応する技術を開発する難しさ等、課題についても言及があった。

(5)では、ラテンアメリカでマラケシュ条約に調印したのは16か国、批准は13か国だが、実施しているのはウルグアイのみという現状が報告された。情報アクセスの重要性への理解や条約についての知識の普及を図ることで状況を打開しようと、図書館員が国を越えてインターネット上で協力し、活発なコミュニティを形成している事例が紹介された。

3.レファレンス情報サービスの「ギアシフト」

図書館サービス部会に属するレファレンス情報サービス分科会(Reference and Information Services Section )では、「ギアシフトするレファレンス情報サービス(Reference and information services shifting gears - Reference and Information Services)」10と題して、(1) 国境なき図書館(Libraries Without Borders(以下、「LWB」という))、(2)ケント州立大学図書館の発表とワークショップが行われ、筆者も一部聴講した。

(1)は国際NGOのLWBによる発表で、今日の社会では、溢れる情報から真実を判別することが課題であり、利用者を適切に案内するために求められる能力について論ずるものであった。情報量は増えているが、アクセシビリティは低下しているのが実態であり、図書館員は社会的弱者と公共サービスの橋渡しをするファシリテーターとなるべきであると述べられた。そのために必要なスキルとして、需要を的確に把握するためのコミュニケーション能力、アウトリーチ活動、サービスのプロトタイピング等を挙げている。LWBのアウトリーチ活動の例として、“Wash and Learn”プログラム11が紹介されていた。

(2)では、まず、大学の学位プログラムは物理的な空間から仮想空間に移行してきているが、遠隔では図書館サービスを十分に活用できないという状況が報告された。時間や場所の制約で来館できない学生の需要も満たせるよう、伝統的な図書館サービスに潜在する問題を調査して新しい方法へ変更することが必要であると論じた。そのためには、従来のレファレンスライブラリアンのみでなく、ソフトウェアやロボット工学分野の出身者など、情報リテラシーの指導能力と知識を持つ図書館員を、大学と連携して育てていく体制が必要であるとも述べられた。

図書館が開催したハッカソン12が、STEM(科学・技術・工学・数学)分野の学生にとって図書館サービスに興味を持つきっかけとなったという事例報告もあった。また、ワークショップ等をオンラインで実施した経験では、ブラウザ上で使える共同作業環境とウェブ上のテレビ会議を併せて使う方法が有効であったなど、具体的なツール13の例示もあった。

4.おわりに

全体を通して感じたのは、どの分野においても、情報技術を理解し活用することで、図書館サービスは大きな改善を図ることができるということであった。一方、ポスターセッションの場で、ある国の図書館員から聞いた話も印象に残った。その国ではIT環境が整っていないため、紙での調べ物が主流であり、地域の図書館と学校が協力して、子供向けにインターネットやデータベースでの調査方法を教えているということであった。

図書館を利用できない理由は様々で、日々の業務の中で、サービスが行き届いていないと感じることもある。利用者のニーズ、置かれた状況や抱えている困難を知ることができるよう常に意識し、全ての人が必要とする情報に適切にたどり着けるような仕組みを実現したいと改めて認識する機会となった。

(あおやま まき)

  1. Marrakesh Treaty to Facilitate Access to Published Works for Persons who are Blind, Visually Impaired, or otherwise Print Disabled(盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約)
  2. それぞれの報告者、タイトルは以下のとおり。
    (1)Victoria Owen “The Right Guide: Making Marrakesh Come to Life”
    (2)Hiroshi Kawamura “Impact of the WIPO Marrakesh Treaty on International Cooperation for Library Services to Persons with Print Disabilities”
    (3)Michele Woods “Accessible Book Consortium and implementing the Marrakesh Treaty”
    (4)Dipendra Manocha “Building Capacity for Marrakesh Treaty Readiness”
    (5)David Ramírez-Ordóñez, Virginia Inés Simón and Leonardo Ramírez-Ordóñez “The Marrakesh Treaty and stories of librarians in Latin America”
  3. Getting Started: Implementing the Marrakesh Treaty for persons with print disabilities: A practical guide for librarians
  4. 例として挙げられたのが、HLMDD Outcome Document(国連「障害と開発に関するハイレベル会合」の成果文書)。手話ビデオとテキストの強調表示が連動していて、目次やテキストの段落をクリックしてビデオを操作することができる。
  5. Internet protocol televisionの略称。インターネットのIP技術を利用してテレビ映像を配信するサービス。
  6. 報告時点で、41の「権限を与えられた機関(Authorized Entity)」が加盟、361,000以上のタイトルがオンライン目録で検索できる。
  7. Association Valentin Haüy (フランス)が最多の2,900ダウンロード、次いでBlind Foundation(ニュージーランド)が2,500、Canadian National Institute for the Blind(カナダ)が1,700。
  8. 英語が最も多く約12万タイトル、スウェーデン語が8万5千、オランダ語が4万9千。
  9. 無料であること、電子ファイルの交換が安全にできること、この目録一つで様々な言語や形式の資料を探せること等。
  10. それぞれの発表者、タイトルは以下のとおり。
    (1) Jérémy Lachal, Muy-Cheng Peich, Adam Echelman and Allister Chang “Librarians as information champions in a world of infobesity and fake news”
    (2) Trevor Watkins “Librarians Beyond the Brick and Mortar: A Framework for Embedding STEM Library Services in Virtual Spaces”
  11. コインランドリーに本や電子図書館端末を設置し、司書が利用ガイダンスを行う学習プログラム。
  12. 複数のIT技術者やシステム開発者などが会場に集合してプログラムを書き続け、プログラム開発のアイデアや力量を競うイベント。
  13. 例として挙げられたのはAWS Cloud9、Googleドキュメント、Zoom、Tywi等。

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