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令和2年度書誌調整連絡会議報告

2021年3月3日(水曜日)、「令和2年度書誌調整連絡会議」をオンラインで開催しました。この会議は、国内外の書誌調整に関する最新情報を広く関係者・関係機関などと共有することを目的とし、毎年開催していますが、昨年度の会議は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から中止となり、2年ぶりの開催となりました。

今年度は、「著作の典拠コントロール」をテーマとして開催しました。慶應義塾大学教授の谷口祥一氏から、『日本目録規則2018年版』(以下、NCR2018)(日本図書館協会ホームページへリンク)で規定された著作の典拠コントロールの意義についてご発表いただいた後、国文学研究資料館の増井ゆう子氏から、新日本古典籍総合データベースにおける著作の典拠コントロールについてご発表いただきました。続いて、国立国会図書館から2021年1月に適用を開始した「著作に対する典拠形アクセス・ポイントの選択・形式基準(2021年1月)」(PDF: 494KB)について報告しました。その後、出席者による意見交換が行われ、著作の典拠コントロールの導入と普及における課題などについて意見が交わされました。

以下に、会議の内容をご報告します。当日の配布資料も掲載していますので、あわせてご覧ください。

令和2年度書誌調整連絡会議 出席者

伊藤 美歩
株式会社トーハン図書館事業部データベースグループアシスタントマネジャー
木村麻衣子
日本女子大学文学部准教授
阪下 清香
早稲田大学図書館資料管理課長
酒見 佳世
慶應義塾大学メディアセンター本部リソースマネジメント担当課長
高橋 安澄
株式会社図書館流通センターデータ部長
谷口 祥一
慶應義塾大学文学部教授
増井ゆう子
国文学研究資料館古典籍共同研究事業センター特任専門職員
村上  遥
国立情報学研究所学術基盤推進部学術コンテンツ課学術コンテンツ整備チーム係長
渡邊 隆弘
日本図書館協会目録委員長
帝塚山学院大学人間科学部教授

(以上敬称略、五十音順)

(国立国会図書館)

山地 康志
収集書誌部長
秋山  勉
収集書誌部副部長収集・書誌調整課長事務取扱
諏訪 康子
収集書誌部主任司書
村上 一恵
収集書誌部収集・書誌調整課課長補佐
石澤  文
収集書誌部収集・書誌調整課主査兼書誌調整係長

その他、収集書誌部職員がオブザーバーとして参加しました。
所属および肩書きは、会議開催当時のものです。

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開会挨拶

山地康志(収集書誌部長)

昨年度の会議は、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、開催直前に中止となったことをお詫び申し上げるとともに、厳しい状況の中、令和2年度書誌調整連絡会議の開催にご協力いただき感謝申し上げる。
今回は、昨年度計画していたテーマを引き継ぎ、NCR2018で導入された「著作の典拠コントロール」をテーマとする。
国立国会図書館では、2021年1月から、業務システムの更新と同時にNCR2018の適用を開始し、限定的ではあるが新たな目録規則の概念モデルに基づく「著作の典拠」の作成、運用を開始した。その中で判断が難しい事例も出てきており、本会議の内容を実務の参考としたい。
新しい目録規則による書誌データ作成が定着し、書誌データがより有効に活用されるために、さまざまなご意見を期待したい。

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著作の典拠コントロールを開始するに当たって考えるべきこと

谷口祥一(慶應義塾大学文学部教授)

1. 著作の典拠コントロールの意義と課題

著作の典拠コントロールには、情報資源組織化のレベルを一段階上げること、著作のレベルで他のデータ/メタデータとつながることが可能になるという意義がある。一方で、著作の概念的な曖昧さ、同定識別作業の複雑さなど、著作の典拠コントロールには多くの困難がある。現在の図書館目録は、多様なメタデータ、特に電子リソースの割合の増加によって、典拠コントロールによる構造化が可能な範囲が限定されている。このような状況下であえて著作の典拠コントロールを実施するには、以下の点について検討が必要である。

  • 効率的な適用
  • できるだけ網羅的な適用
  • 適用結果の蓄積と効果的な活用

2. 典拠コントロールにおける調整、連携・共有

以下、典拠コントロールにおける機関間での調整、連携・共有に関して検討すべき事項を述べる。

(1)著作同定基準/ガイドラインの整備

典拠コントロールの調整のために、機関間での著作同定基準の統一が課題となる。調整すべき事項は以下のとおりである。

  • 著作の同定基準(同一著作、異なる著作の区分け)などの作成、調整
  • 古典著作、音楽作品などの著作タイプに応じた基準
  • 全体部分関連、Aggregates(集合体現形)の扱い
  • 表現形の扱い

複雑な構造を持つ著作の典拠コントロールにおいて、利用者の信頼を得るためには、機関間での調整が不可欠である。

(2)典拠形アクセス・ポイントの形の統一化

著作の典拠形アクセス・ポイント(以下、典拠形AP)は、創作者の典拠形AP、著作の優先タイトル、識別要素(形式、日付、場所など)などを組み合わせて構成されるが、識別要素の追加や変更の可能性からも、一意に識別できる形(URI)には適していないため、一意性と典拠形APの形とは切り離して考えるべきである。典拠形APに一意性を持たせるのではなく、識別子としての典拠IDに対するラベルとして位置づけることにより、著作の典拠コントロール作業の負担軽減が見込まれる。著作の同定における典拠形APに対する過度な依拠を見直してはいかがかと考える。

(3)典拠作業結果としての典拠IDと典拠データの共有

著作典拠データの作成および典拠リンクの形成においては、国内では国立国会図書館が中核となることが期待されるが、それだけでは限界があるのも事実である。図書館界全体での連携協力の増強、新たな体制での適用を検討する必要がある。あわせて、著作に対する典拠形APの構成要素である個人、団体などの扱いについても検討されるべきである。また、バーチャル国際典拠ファイル(VIAF)では国際的な著作典拠データの共有が始まっているが、日本の著作についてこれに頼ることは難しい。一方で、国内の図書館界以外のコミュニティとの連携については、各コミュニティで立場や考え方が異なるため、著作の概念の統一や著作の単位、識別子の調整をはかっていくことは困難と考えられる。

(4)書誌-典拠リンクの蓄積と共有

現行方式では、典拠IDを書誌データ(体現形)側に記録するのみであるが、典拠データ(著作)側にも、リンクする書誌データID、全国書誌番号、ISBNなどを記録する、もしくは典拠データの外部提供時にこれらを加えて提供することで、有益な書誌―典拠リンクの共有が可能となる。複数機関の連携協力による書誌―典拠リンクの広範な蓄積と共有の実現が期待される。

(5)典拠作業支援システムの開発・活用、典拠データ活用システムの開発・試行

典拠作業支援システムと典拠データ活用システムの積極的活用を試みていくことが期待される。両者に共通するのは、FRBR化や機械学習などによる、機械的な著作の抽出・照合・同定が一定程度可能という点である。これらを人手により同定された典拠データと組み合わせて活用を図るべきである。複数機関、研究者による実験・開発を期待したい。
FRBR化とは、旧来のデータに対して、著作単位の検索・表示機能を実現したもの(「著作―(表現形)―体現形―個別資料」という「書誌レコードの機能要件」(以下、FRBR)の概念に沿った探索法に合致)であり、機械的なデータ変換・照合により実現するが、その信頼性は既存データの品質に依存する。機械学習においても、最終的には人手による確認が必要であるが、作業支援という意味においては活用が可能になってきている。

3. 典拠データの活用

典拠コントロールがなされた結果の、典拠データ(著者・著作典拠データ)の活用という点で、以下の取組みが考えられる。

  • 典拠データを積極的に活かした検索システムの強化
  • 個別館の書誌データへの典拠コントロールの一括適用
  • 典拠データの外部公開と提供の促進

こうした取組みにより、個別館のOPACの改善や、典拠リンクのないデータの改善を実現させ、典拠データの有用性を広くアピールしていくことが期待される。

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新日本古典籍総合データベースにおける著作の典拠コントロールについて

増井ゆう子(国文学研究資料館古典籍共同研究事業センター特任専門職員)

1. 新日本古典籍総合データベース概要図

国文学研究資料館の所蔵和古書目録と、他機関所蔵の古典籍を対象とする古典籍総合目録、同じく他機関所蔵の古典籍について、調査収集事業および「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(歴史的典籍NW事業)(国文学研究資料館ホームページへリンク)で作成したマイクロ/デジタル目録からなる書誌データに、著作典拠データがリンクしている。著者典拠データは、直接、書誌データにはリンクしておらず、著作典拠データを介して書誌データに結びついている。

2. 著作典拠ファイルの形成

著作典拠ファイルの形成方法と概要は以下のとおりである。

  • 日本の古典籍を対象とした総合所在目録として最も基本的かつ網羅性の高い『国書総目録』のデータを一括して入力
  • 『国書総目録』の項目の単位を尊重し、原則として1項目をそのまま1件の著作とし、『国書総目録』を継承
  • 新規の書誌データ登録の際に、『国書総目録』あるいは既存の著作典拠ファイルに該当する著作が存在しない場合は、新たな著作典拠データを作成
  • データ項目、採録内容などは、『国書総目録』に準じて決定
  • データ項目は、著作ID、統一書名(表記・よみ)、『国書総目録』からの入力か否かの種別、巻冊、別書名(表記・よみ)、分類、著者、成立、著作注記、『国書総目録』所在、旧書名、管理情報
  • データ項目のうち著者は、作品著者名に著者典拠データの統一著者名を付加し、著者名典拠IDとその作品著者名が著者典拠データ上、何番目の別称であるかを記録
  • 2021年2月18日時点で、全ての著作典拠データは約494,600件。『国書総目録』のデータは約393,400件、新規作成のデータは約101,200件

3. 著作典拠コントロール対象書誌の範囲

新日本古典籍総合データベース所収資料の書誌データ全件を対象とする。原則として日本語の歴史的典籍の範囲であり、原則として『国書総目録』の収録条件と合致する。
また、国文学研究資料館のコーニツキー版 欧州所在日本古書総合目録の一部についても著作典拠コントロールを行っている。さらに国文学研究資料館外のシステムとして、NACSIS-CATの和漢古書、国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities)が、国文学研究資料館作成の著作典拠ファイルと連携している。Web NDL Authorities(古典籍そのものではなく古典作品を復刻・翻刻または翻訳した近現代の図書を対象として著作典拠を作成)との連携により、今回初めて近現代資料を対象とした著作と連携することになる。

4. 書誌データ作成の特徴

書誌データは個別資料ごとおよび著作に対応する単位で作成している。新日本古典籍総合データベースは、著作の典拠コントロールにより著作のもとに諸本の書誌データを集める「総合目録型」データベースである。典拠ファイルを共有することで、より大きな日本古典籍総合データベースとして機能し、目的に応じた公開も可能となっている。
また、書誌のデータ構造は、単独、合集(合刻・合写・合綴)、叢書の3パターンがある。合集の場合、合集に含まれる個別資料単位の書誌データに対する著作典拠のみ作成し、合集単位の書誌データに対する著作典拠は作成しないが、叢書の場合、叢書に含まれる個別資料単位の書誌データに対する著作典拠だけではなく、叢書単位の書誌データに対する著作典拠も作成している。

5. 今後の課題

(1)『国書総目録』の継承

  • 著作のレベル:『国書総目録』の項目の単位を尊重し、原則としてそのまま一つの著作として扱っているが、FRBRの著作の概念とは異なっている場合もある。
    FRBRの著作単位ではなく、個別資料・体現形・表現形単位で著作の典拠を作成している例としては以下のものがある。
    • 個別資料:異なる書名をもつが同内容の書写資料
    • 体現形:改題本、江戸版と上方版、異なる文学ジャンル
    • 表現形:漢籍と日本語訳、外国人著作とその日本語訳
  • データの改訂:書誌データのもととなった目録などの誤りが継承されている場合がある。
    『国書総目録』の改訂方針では、著作項目の誤りについてのみ改訂し、著作・表現形・体現形・個別資料のバランスに関わる改訂は予定していない。

(2)国文学研究資料館外の組織との連携および協力後の維持・調整

現在、NACSIS-CATの和漢書、Web NDL Authoritiesと連携を行っており、国立情報学研究所とは、疑義がある場合の調整について手順を決めているが、新日本古典籍総合データベースの内容変更のお知らせ方法など、今後の連携の維持・調整について改めて検討したいと考えている。

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「著作に対する典拠形アクセス・ポイントの選択・形式基準」について

石澤文(収集書誌部収集・書誌調整課主査兼書誌調整係長)

1. 国立国会図書館における著作典拠の導入

2018年3月に策定した「国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2018-2020」(PDF: 386KB)の取組みの一つとして「著作の典拠コントロールの実施」を掲げて準備を進めた。2021年1月、NCR2018適用開始と同時に著作の典拠コントロールを導入し、2020年1月に案を公表していた「著作に対する典拠形アクセス・ポイントの選択・形式基準」の確定版を公開した。2020年度中に、「国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2021-2025」(PDF: 204KB)を策定し、今後も著作の典拠データの拡充に取り組んでいく予定である。
著作典拠はWeb NDL Authoritiesで公開している。また、日本の古典作品については、著作IDを介して国文学研究資料館の日本古典籍総合目録データベースと連携している。

2. 「著作に対する典拠形アクセス・ポイントの選択・形式基準(2021年1月)」の概要

「個人名標目(団体名標目)の選択・形式基準」(2020年12月まで適用)の構成に倣って作成した。
典拠形APの付与対象は、国内刊行図書および外国刊行和図書とする。
典拠形APとする著作は以下のとおりである(ただし、法令等、音楽作品、聖典を除く)。

  • 復刻・翻刻または翻訳(現代語訳・口語訳を含む)された古典作品の原著作
  • 日本語訳のタイトルが複数存在する近現代の作品の原著作

体現形(書誌作成対象資料)に具体化された著作を典拠形APとして記録する。体現形に具体化された著作が著作の部分に該当する場合、近現代の作品は著作の単一の部分を記録する(例:『ライオンと魔女』(部分)のみ記録し、『ナルニア国物語』(全体)は記録しない)が、古典作品は著作の全体(例:『帚木』(部分)であっても『源氏物語』(全体))を記録する。
典拠形APは、次の(1)、(2)を組み合わせた形で構築する。

  • (1)優先タイトル(著作典拠の130タグに記録)
  • (2)創作者に対する典拠形AP(著作典拠の500/510タグに記録し、個人または団体の典拠とリンクする。あわせて$iに「著者」などの関連指示子を記録する。)

優先タイトルには、近現代の作品の場合は原語のタイトル(ただし、文字種によっては日本語タイトルを採用)、古典作品の場合は日本語タイトルを採用する。
関連は、著作間の関連のうち全体・部分の関連と、著作と創作者(個人・団体)との関連を記録する。

3. 運用にあたっての論点:同一の著作の範囲

同一著作の範囲は、元の著作から、当初意図されていた目的や、全体的な意味、形式を変更せずに改変されたと判断できるか否かを基準に判断する。具体的には、改訂、増補や部編の追加などの著作の内容を損なわない変更、翻訳、縮約は同一著作の範囲内とみなす一方、翻案やある文学形式から他の形式への改作、パロディ化、抄録、ダイジェスト、要約、自由訳などは、元の著作から派生した別の著作とみなす。原則として、上述の基準はFRBRに沿ったものであるが、実際の運用にあたっては、事例を蓄積して判断基準を固めていきたいと考えている。

4. 今後の課題

今後の検討課題として以下が挙げられる。

  • 同一著作の判断基準の合理化
  • 既存書誌データとの遡及リンク作業(主に日本の有名古典作品を対象)
  • 対象資料群の拡大(洋図書、電子資料、録音・映像資料、和古書など)
  • 対象範囲の拡大(典拠形APとする著作について古典作品、日本語訳のタイトルが複数存在する近現代の作品以外への対象拡大)
  • 著作間の関連の適用対象の拡大(派生著作のリンク)

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意見交換-おもな意見

1. 各機関における著作の典拠コントロールの運用、検討状況

  • 国立情報学研究所(NII)では、2022年度にNACSIS-CATのシステム更新を計画している。「これからの学術情報システム構築検討委員会」(以下、「これから委員会」)の部会では、NACSIS-CATデータへのNCR2018適用や著作の典拠コントロールの必要性について検討を開始した。国立国会図書館における業務負荷などの問題は、NIIにも直結する問題である。(研究機関)
  • 2019年9月に早稲田大学と慶應義塾大学では図書館システムの共同運用を開始し、Almaを導入した。人名典拠については早慶で独自に作成・維持しているが、著作の典拠の網羅的な作成・維持は考えにくい。利用する外部データに記録されている著作情報の活用が考えられるが、和洋で典拠形APの表記が異なる場合の調整要否などを検討する必要がある。(大学図書館)
  • 著作の典拠目録の構築方法を検討中である。著作の対象範囲、著作の典拠コントロールを限定的に行うことの意義や、社内リソースの確保などを議題としながら、目録規則の範囲内でどこまで対応可能かを検討している。(MARC作成機関)
  • 2022年1月から、MARC書誌データ上に著作に対する典拠形APを付与すると同時に著作の典拠ファイルを提供する想定である。提供範囲は図書のみとし、音楽資料、映像資料は対象外の想定だが、図書は、紙だけでなく自社の電子図書館に搭載する電子資料をも対象と考えている。累積版のMARCについても遡及作業を行っているが、手探りで同一著作とする範囲を決めている。遡及作業では、もともと維持している作品件名典拠ファイルをベースに機械的に書誌データを寄せた後、人手によるチェックを行い、同一著作とするものをまとめている。(MARC作成機関)

2. 国内における著作の典拠コントロールの協調、同定基準などの統一

  • 著作の典拠コントロールについて、国内でできるだけ協調し、同定基準などを統一できないかと考えている。そのために各機関で何がネックになるのかを知りたい。(研究者)
  • 著作の同定基準などを国内で統一するのであれば、目録規則で規定すべきとのご意見もあると思うが、どちらかというと運用ルールの問題であり、各機関の事情を踏まえながら調整すべきものと考える。日本図書館協会目録委員会ではそれをサポートできればと考えている。(研究者)
  • 早稲田大学と慶應義塾大学で図書館システムを共同運用することとなった際にも同様の問題があった。例えば、典拠データについては慶應義塾大学のものを移行したが、慶應義塾大学がイニシアチブをとりつつも早稲田大学の意見を非常によく尊重していただいた。そのような形で調整を進めてきたことが、連携がうまく機能している理由の一つと思われる。(大学図書館)
  • 国立国会図書館の「著作に対する典拠形アクセス・ポイントの選択・形式基準(2021年1月)」を参考に著作の同定基準を検討しており、大きな方針は合わせたほうがよいと考えるが、互いに同時並行的に検討しながら作業を進めている状況であり、共有する仕組みはない。検討中の段階でどこまですり合わせできるかは難しい面もある。(MARC作成機関)
    • 実作業の現場で蓄積している問題となった事例を共有できれば同定基準などの統一に近づくと思うが、日々の業務の中ではなかなか難しいため、情報交換の場を持てるとよい。
      また、各機関の利用者層によって著作の目的や要件は異なるが、まったくばらばらだと利用者にとって有用なものにはならないため、書誌調整連絡会議のような場で、ある程度統一的なルールや大きな合意を形成できるとよい。(国立国会図書館)

3. 著作の同定基準

  • NCR2018策定前のパブリック・コメントにおいては、著作の判断基準に対する意見はほとんどなかった。日本では著者基本記入方式ではない形で目録を作成してきたため、一部機関を除いて著作をあまり意識してこなかったことが理由と考えられるが、実際に著作の適用を開始したら同定が難しいケースが出てくるものと思う。(研究者)
  • 実際に運用を開始してみると、同一著作か派生著作かの判断など悩ましいケースが多々あり、事例を蓄積・検討しながら著作典拠を作成している。(国立国会図書館)
  • 翻訳と自由訳の線引き同様、校注書と評釈書についても、実際には線引きが難しいケースがあるのでは?(研究者)
    • 谷口氏の発表にあった「FRBR研究会による古典著作に関する同定基準(仮)」と同様に、国立国会図書館では校注書は同一著作、評釈書は異なる著作とする想定だが、原テキストを収録している場合はどうなるかなど、実際には線引きに悩むケースがある。(国立国会図書館)

4. システム面の課題

  • 日本において典拠があまり認識されず、典拠コントロールが実現されてこなかった背景として、システム的に典拠の機能が見えにくい、検索システムに典拠の情報が活用されてこなかった、という問題点がある。システムを開発するセクションと書誌作成を担当するセクションが協力してシステムを構築することが重要である。(研究者)
  • 「これから委員会」では、図書と電子の統合的な発見環境の実現を将来的な目標として掲げており、商用の電子ブックや電子ジャーナルを手始めに、将来的には大学図書館界のデジタルアーカイブも統合していく必要があると考えている。国立国会図書館においては、紙などの有体物の書誌データだけでなく、そこに統合される電子資料に対してWeb NDL Authoritiesをどう活用していくのかなど、資料群をまたいだ典拠コントロールについてどのような議論がなされているかを知りたい。(研究機関)
    • 2021年1月からWeb NDL Authoritiesの検索機能の連携先を国立国会図書館検索・申込オンラインサービス(国立国会図書館オンライン)に変更した。国立国会図書館オンラインでは、紙の資料と国立国会図書館デジタルコレクションのデジタルデータを同じように検索できるため、メタデータに典拠IDが記録されているデジタルデータについては、典拠の機能を使ったアクセスを実現している。著作典拠に関しても、典拠リンクの範囲を拡げていき、同様のアクセスを実現できないか検討したい。
      なお、国立国会図書館では、典拠を提供するWeb NDL Authoritiesと資料検索のための国立国会図書館オンラインが別々のシステムとなっているため、国立国会図書館オンラインのユーザーにとっては、Web NDL Authoritiesの検索機能が分かりにくい点がネックである。次年度は、Web NDL Authoritiesの広報強化に努め、利活用を推進したい。システムを統合できれば理想的ではあるが、さまざまな制約があるため、2つのシステムの連携によってよりよいデータ提供を実現していく方針である。(国立国会図書館)
  • コストをかけてデータを整備する場合、それが利用者にとって有用か否かという視点が必要である。著作の典拠を導入する際には、OPACやディスカバリーサービスでの見え方が重要なポイントとなる。また、早慶のディスカバリーサービスには、自館作成データ以外のデータも収録されており、重複の調整やFRBR化の機能がついているが、書誌データに著作の典拠が付与されることによって精度の向上が期待される。(大学図書館)

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閉会挨拶

秋山勉(収集書誌部副部長収集・書誌調整課長事務取扱)

谷口先生、増井様のご発表、ご参加の皆さまの自由討議にて大変貴重なご意見をいただいた。当館の「著作の典拠」は、運用を開始したばかりで適用の実績も限られているが、今後もご指導を賜りながら、より充実した書誌データ作成を目指したい。
オンライン開催となり、運営上でもご不便をおかけしたが、ご協力いただきありがとうございました。

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