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第49回科学技術関係資料整備審議会議事録

日時:
平成20年3月5日(水)午後2時00分から午後4時00分まで
場所:
国立国会図書館 東京本館総務課第一会議室
出席者:
科学技術関係資料整備審議会委員 9名
有川節夫委員長、朝倉均委員、倉田敬子委員、坂内正夫委員、塚原修一委員、土屋俊委員、時実象一委員、名和小太郎委員、藤木完治委員
岡﨑俊雄委員、北澤宏一委員は欠席。
館側出席者 14名
館長、副館長、総務部長、調査及び立法考査局長、収集部長、書誌部長、資料提供部長、主題情報部長、関西館長、総務部企画課長、同部企画課電子情報企画室長、同部会計課長、主題情報部副部長、同部科学技術・経済課長
会議次第:
1. 開会
2. 国立国会図書館長挨拶
3. 新委員紹介
4. 報告及び懇談
 (1)平成19年度における科学技術情報整備に係る現況及び関連事業の進捗状況について
 (2)ウェブアーカイブ制度化検討の方向性について
5. 閉会
配布資料:
科学技術関係資料整備審議会 会議次第
科学技術関係資料整備審議会委員および幹事名簿
科学技術関係資料整備審議会 座席表
科学技術関係資料整備審議会規則
科学技術関係資料整備審議会議事規則

資料1 平成19年度における科学技術情報整備に係る現況及び関連事業の進捗状況について(PDF: 154KB)
資料2 ウェブアーカイブ制度化検討の方向性について ―機能分担と連携・協力の観点を中心に(PDF: 208KB)

議事録:
1 開会
有川委員長
(以下、委員長)
ただいまから、第49回科学技術関係資料整備審議会を開催いたします。
 開会に当たりまして、長尾国立国会図書館長よりご挨拶がございます。
 
2 館長挨拶
長尾館長: 国立国会図書館長の長尾でございます。日頃私どもの活動につきましてご理解、ご支援いただきましてまことにありがとうございます。今回から、お二人の委員に新しく着任いただいております。このお二方につきましては後程ご紹介をさせていただきたいと思います。
本日は「第二期科学技術情報整備基本計画」に沿って、私どもの科学技術情報整備とその関連施策の現状についてご報告いたします。またそれに加えて、ウェブアーカイブの制度化に、当館が現在どのように取り組みつつあるかについてご報告いたしまして、皆様方のご意見を是非お聞きしたいと考えております。
前回の科学技術関係資料整備審議会におきましては、「デジタルアーカイブ事業の現状と課題」ということでフリーディスカッションいただきました。その結果、他機関の活動に配慮した協調型の制度設計、国全体のデジタル情報保存の戦略の必要性と役割分担、ということについてよく考えるように、というご意見をいただきました。爾後当館では、そのような論点を念頭に置いて今日まで検討を進めてきましたので、その検討の今日の状況について、ご意見をいただければ大変ありがたいと思うわけでございます。
ウェブ情報というのは、多様なものが次々と発生し、次々と消えていく、という特徴を有しております。その中には学術的にも、また国の情報としても大切なものが含まれております。当館には、そのような情報をできるだけ早く、きちんとした形で収集し保存して、将来に対して提供する、という責務があるのではないかと思っております。当館としては、それを保障する制度を策定して、その枠組みの中で役割を果たしていきたいと考えております。諸外国でも、デジタルアーカイブの問題には国として非常に熱心に取り組んでおりますので、私どももそういう潮流の中で制度化を実現したいと努力しているところです。このあたりのことについて、後ほど2点目の「ウェブアーカイブ制度化検討の方向性について」でご報告しますので、是非ご意見をいただければと思います。簡単ですけれども、こういうことですのでどうぞよろしくお願いいたします。
 
3 新委員紹介
委員長: 今回から、科学技術振興機構の北澤宏一理事長と愛知大学文学部の時実象一教授に新しく委員に就任していただいています。残念ながら、北澤先生は本日ご欠席ですが、時実先生から一言ご挨拶いただければと思います。
時実委員: ご紹介いただいた、愛知大学の時実でございます。お役に立てるか分かりませんが、できる限りがんばりたいと思います。私は、現在は文学部に所属しておりますが、元々は化学を専攻しておりました。現在は図書館情報学を専門としておりまして、電子ジャーナル、データベースを研究領域としております。どうぞよろしくお願いいたします。
 
4 報告及び懇談
<報告>
委員長: それでは、報告と懇談に移らせていただきます。国立国会図書館から、「平成19年度における科学技術情報整備に係る現況及び関連事業の進捗状況について」、続けて「ウェブアーカイブ検討の方向性について」の報告をお願いいたします。
岡田主題
情報部長:
それでは、「平成19年度における科学技術情報整備に係る現況及び関連事業の進捗状況について」についてご報告いたします。
(報告略。資料「平成19年度における科学技術情報整備に係る現況及び関連事業の進捗状況について」参照)
田中
電子情報
企画室長:
引き続き、「ウェブアーカイブ検討の方向性について」の報告をさせていただきます。
(報告略。資料「ウェブアーカイブ検討の方向性について」参照)
<質疑及び懇談>
委員長: ただいまの2件の報告のうち、最初の方の「科学技術情報整備に係る現状及び関連事業の進捗状況について」に関して何かご質問等ございましたらまず伺いまして、残った時間を二つ目の「ウェブアーカイブ制度化の検討について」に使いたいと思います。最初の報告について何かございますか。
土屋委員: 細かいことで申し訳ないのですが、よろしいでしょうか。国立国会図書館というのは、外国雑誌の単価が増加すると、予算を自動的に増やしてもらえるものなのですか。2ページ目の表を拝見すると、そのようになっているのですが。
田屋収集部長: 必ずしもそう簡単なものではございません。私どもも努力をいたしまして、予算の獲得に当たっております。毎年大体8%程度の価格上昇が見込まれている中で、何とか従前のタイトル数を保ちたいと思っているわけですが、なかなか財務省も厳しいところがありますので、要求をしないと予算が付いていかないということが当然あります。今年度、まだ政府原案という段階ですが、単価の価格上昇部分については認められました。次年度以降、これを守っていくためには相当厳しい交渉が必要だろうと予想されます。
土屋委員: 外国逐次刊行物について、購入している冊子体資料と、5ページ目にあるような、利用契約により導入している全文ジャーナルデータベースというのは、どのような関係になっているのでしょうか。タイトル上の重複があるのでしょうか。4ページ目の上から4行目の「外国逐次刊行物のうち現在受入継続」にある「約5,600種」のうち、約3,400種が購入しているものだという説明でしたが、それと、例えばScience Directの「約1,770種」というのはどのような関係にあるのでしょうか。
田屋収集部長: 4ページ目の表における所蔵数は、冊子体資料に関するものです。そのうち、購入が3,400種ということです。その他に、国際交換等で収集している外国逐次刊行物がありますが、こちらが約2,200種です。それらを合わせて「5,600」というタイトル数になります。一方で、利用契約を行って導入している全文ジャーナルデータベースに含まれるタイトル数は、5ページ目にあるような数字となります。
土屋委員: さらに細かくなって申し訳ないのですが、例えばScience Directに収録されている論文に対して、遠隔複写依頼があった場合は、制度上、複写物を提供するようになっているのですか。
田屋収集部長: 現状では、遠隔複写については、そのようなことは行っておりません。個々のタイトルの遠隔複写を認める、認めないということが契約によって異なってくるわけですが、当館の場合、エンドユーザーが全国に広がっているという理由で契約の金額がかなり高く設定されてしまいます。そのため現時点では、契約の金額等に関して適切な説明を財務省に対して行うということが難しい、また出版社あるいはアグリゲーターとの交渉が難しい、という事情があり、遠隔複写にはまだ利用しておりません。
土屋委員: つまり、遠隔複写の複写資源として用いているのは冊子体資料のみ、ということでしょうか。
田屋収集部長: そのとおりです。
委員長: それが何タイトルくらいあるのでしょうか。
田屋収集部: 外国逐次刊行物について申しますと、現在受け入れ中のもので5,600タイトル、すでに受け入れを中止したものを含めますと25,700タイトルです。
土屋委員: 6ページ目の「インターネット経由による資料複写申込サービス」の約30万件の中の、どの程度が、科学技術系の外国逐次刊行物なのでしょうか。さきほどの報告では、科学技術系に係る申込の件数は、この中に含まれているけれども区別していない、とおっしゃっていたと思うのですが。
岡田主題
情報部長:
少し古い数字ですが、平成16年度にサンプル調査を行った際には、科学技術関係資料に係る複写申込の割合が全体の約46%でした。また、さらに時代を遡りますが、平成15年度には悉皆調査をしておりまして、この際には、科学技術系関係資料に係る複写申込の中の比率は、国内逐次刊行物が53%、外国逐次刊行物が43.6%、テクニカルレポート等が3.3%でした。ただ、少し古い数字ですので、現在の状況は多少異なるかもしれません。
土屋委員: つまり、遠隔複写申込の全体で、外国逐次刊行物の比率が半分近くを占めるということですね。
岡田主題
情報部長:
まず、科学技術関係資料に係る複写申込の割合は、平成16年度のサンプル調査の結果から、全体の約半分と言えると思います。次に、平成15年度の悉皆調査の結果を見ると、科学技術関係資料の中での国内、外国の逐次刊行物の比率が、ほぼ半々となっています。従って25%前後ではないかと思われます。
土屋委員: そして、その数値が、平成14年度から18年度にかけて3倍以上も伸びた後、現在までどのように推移しているかは分からないということですね。
岡田主題
情報部長:
把握できておりません。
土屋委員: そして、例えばScience Directに収録された論文について依頼が為されても、謝絶するしかないということですね。
岡田主題
情報部長:
先ほど田屋収集部長から申し上げたとおり、複写については、来館していただければ別ですが、遠隔の場合は、冊子体資料のみを複写資源にしています。唯一「中国学術雑誌全文データベース」だけは、遠隔複写を可としています。
土屋委員: Elsevier社発行のタイトルは、現在、冊子体資料は購入しているのでしょうか。
田屋収集部長: Science Directと冊子体資料が重複しているタイトルもございます。
土屋委員: そのようなタイトルに関しては、遠隔複写には冊子体資料で対応しています、という説明になるのですか。
田屋収集部長: そのとおりです。
坂内委員: よろしいでしょうか。4ページ目の、科学技術関係資料の所蔵数については、世の中に量的にどれくらい存在していて、それに対してどの程度所蔵できているか、という数字を把握しないことには、今後の戦略が立てられないのではないかと思うのですが。例えば、国内の博士論文についても納本義務が課せられているわけですが、これが現在年間にどれくらい作成されていて、結果累計としてどの程度存在しているのかを、統計的に把握・推定するのは非常に重要なことで、これは諸機関が協力しなければ為し得ないことだと思います。また、博士論文もそうですが、文部科学省科学研究費補助金研究成果報告書についても、この表にあるよりも出されていると思います。おそらく、国内のどこかの機関には所蔵されているのだと思うのですが、ではどの機関に何タイトルあるのか、ということはなかなか把握できないのが現状です。
田屋収集部長: 貴重なご意見をいただき、ありがとうございます。当館では、国内の出版物については網羅的な収集を行わなければならない、とされていますので、それを達成するために各種の努力を続けているところです。これに関連して申し上げますが、当館では昨年度に、どのような資料が国内で刊行されていて、どの程度当館に納本されているのかについて、かなり綿密な調査を行いました。ただいまおっしゃった博士論文については、そもそも出版物であるかどうかというところで、議論が分かれるところであろうと思いますが、納本によるかどうかは別にして、非常に重要な文献であることは間違いありませんので、当館が収集し保存すべき資料であると理解しております。
当館は様々な資料を収集しております。まず、国政審議に欠かすことができない、政府の刊行物につきましては、主要なものについては90%程度の収集を達成しておりますが、内部部局が作成したもの等で、出版の事実が把握できないものについては、収集できていないものもございます。
一方で民間の出版物につきましても、同様の事情がございます。通常の流通ルートに乗っているものについては、90%以上、ほぼ100%に近いものを収集できていると思います。ただし、自費出版等、通常の流通ルートに乗らない出版物については、努力はしているのですが、収集できていないものがかなりございます。
また、リサーチ系の出版物、これは大抵高額で販売されているものですが、これは役所の委託・助成による非公開の刊行物を含むもので、そもそも部数が少ないということ、また出版社が、当館に納本することによって売上げの低減を招くことを危惧していることもあって、十分に収集できていないという事実がございます。
以上のように、資料種ごとに様々な事情がありますので、どの資料種の収集にどの程度注力すべきなのか、ということを統計的に分析しながら、平成20年度以降取り組んでいきたいというふうに考えているところでございます。
坂内委員: 博士論文は、我が国の知が結集している非常に重要なものです。修士論文についても、同様のことが言えます。これらについて、活用面を考えた時に今後重要なのは、電子化をしたうえで、どれだけの量どこに蓄積していくか、ということになろうかと思います。現在大学は博士論文を、機関リポジトリの主たる蓄積対象と見なして、随分努力をされているわけです。そのような状況を考えると、必ずしも国立国会図書館で所蔵されていなくても、博士論文は、作成された機関にある、という状態があればいいとも考えられます。後にウェブアーカイブの話で、関係機関との連携・協力という考え方が出てくると思うのですが、このような、科学技術関係資料の収集の話でも、国全体でどのように取り組むか、ということを、考えていただいた方がいいのではないかと思います。
委員長: コレクションの定義をしっかりしておく必要がある、ということだと思います。
時実委員: 外国逐次刊行物の現在受入継続のものが5,600種、またそれとは別に、各種電子ジャーナルを導入しているとご報告がありました。冊子体資料は、現在のところ、以前予想されていたよりは健在ですが、しかし長い目で見れば減少する方向にあることは間違いないと思います。そのような潮流がある中で、国立国会図書館が果たすべき役割の一つとして、電子ジャーナルのアーカイブということがあるのではないかと思うのですが、これについて、現在のお考えはどのようになっているのでしょうか。もちろんこれは、国立国会図書館単館ではなく、他機関と連携・協力のうえ行うことだろうと思いますが。
委員長: これは、二つ目の報告、「ウェブアーカイブ制度化検討の方向性について」の6ページ目の、「対象範囲」の部分に関連する話だろうと思います。現在の構想では、学術情報に関しては、「無償で提供されているもの」ということになっているわけですが。
時実委員: こちらの記述は国内に限定したものではないでしょうか。
田屋収集部長: 収集部からお答えさせていただきます。外国電子ジャーナルの保存については、国内外におけるアーカイブの動向と経験を踏まえて考えていかなければいけない、というふうに考えております。国立国会図書館が単館で行える話ではありませんので。元々、冊子体の世界で考えても、国内の逐次刊行物については、国立国会図書館が収集し保存する、ということになりますが、外国の逐次刊行物については、関係諸機関との連携を視野に入れて収集・保存を行っていくべき資料群ということになろうかと思います。
外国電子ジャーナルの保存については、国立国会図書館が個別出版社の出版物のアーカイブの役割を担う、ということに、まず疑義が生じ得ます。ある意味では、出版活動による利益追求を行う出版社の、便宜を図るということになるわけですから。また、国立国会図書館としては、アーカイブした情報について適切な利用と提供を考えていかなければならないわけですが、利用提供を行うことによって、出版社が利益を損なう可能性もあります。このあたり、出版社側と国立国会図書館側の折り合いをつけることが難しい、ということがございます。
一方で、電子ジャーナルについて、契約を打ち切った段階で古い巻号にアクセスができなくなる、ということは問題だと考えています。冊子体であれば、契約を打ち切っても、古い巻号については利用提供を行えますが、電子ジャーナルについても、契約を打ち切ったあとも古い巻号へのアクセスを確保する、というようにしていかなければならない、と考えております。具体的には、各国の事例等、国内の関係機関等の連携なども考えながら、今後どのようにしたら適切にアーカイブできるのかということについて検討していく、という形になろうかと思います。
時実委員: ただいまのご説明は大変よく分かりました。ただ、電子ジャーナルのアーカイブ、長期保存ということにつきましては、欧米ではダークアーカイブという、利用提供は行わないという形でのアーカイブがかなり進んできています。例えば、オランダの国立図書館などの取り組みがそうです。そのような方法も考慮に入れていただけるといいのではないかと思いました。これはあくまで一つの意見ですが。
委員長: 非常に大事なご指摘であろうと思います。これはおそらく、国立国会図書館だからこそ担える、ということになるではないかと思います。どこかで話題になったかと思いますが、各学術出版社は出版物の電子ファイルを、国立国会図書館に、冊子体資料で言うところの納本のような形で送信するべきである、これはその情報の消滅を防ぐために出版社が果たすべき、社会的最小限度の義務である、という話があります。今後、科学技術情報整備について考える時には、このような観点から取り組むことが大事ではないかと思います。
それからいま時実先生がおっしゃいましたダークアーカイブ、これは、とにかくきちんと保存はしておくが、利用提供を、少なくとも近い将来に行うことを想定しない、という方式のアーカイブですが、これについては、冊子体資料であれば容易には生じ得ない、情報の消滅という事態に対して、出版社が最低限度の道義的責任を感じてくれるのであれば実現するであろうことだと思います。ダークアーカイブについては、すぐにではないにしても、いつかこの審議会で検討させていただければと思います。
朝倉委員: 前々回の審議会でも申し上げたのですが、「科学技術情報整備に係る現状及び関連事業の進捗状況について」中の表「当館所蔵の科学技術関係資料」に厚生科学研究費補助金成果報告書が項目として出されていないのはいかがなものでしょうか。というのは、医学関係については、重要な論文は博士論文も文部科学省の研究によるものも、ほとんど全て外国の査読誌に掲載されるのですが、論文以外の重要な情報、例えば実際の医療における疫学的な統計データ、診療ガイドライン、治療指針などは、厚生科学研究費補助金成果報告書の形で毎年出版されているわけです。つまり、もし同報告書の国立国会図書館における所蔵が完全でないとすれば、国として、大事な医療情報の保全が十全には為されていない、ということになってしまいます。同報告書は、医学部を擁する大学の附属図書館くらいでしか所蔵されていませんので。
同報告書は、毎年かなりの数発行されているのではないかと思います。特定疾患対策懇談会の委員を務めている関係上、私のところにも送付されてくるのですが、それだけでも年間100冊ほどになりますので。
委員長: つまり、「科学技術情報整備に係る現状及び関連事業の進捗状況について」中の表「当館所蔵の科学技術関係資料」に、「文部科学省科学研究費補助金研究成果報告書」がありますが、これと同様に、厚生科学研究費補助金成果報告書も項目として出してはどうかというご提案ですね。
朝倉委員: そのとおりです。一般の方々にとっても重要な情報が含まれている資料群ですので。
田屋収集部長: お手許にお配りしている表「当館所蔵の科学技術関係資料」は、国立国会図書館で所蔵する科学技術関係資料の全てを項目として出しているわけではありません。これ以外にも所蔵する科学技術関係資料は多数あり、厚生科学研究費補助金成果報告書もかなり所蔵しております。ただ、資料群として網羅的に所蔵できているかということについては、改めて調査してみなければならないと考えております。朝倉先生がおっしゃったように、政府関係の補助金により実施された調査に係る報告書には非常に重要なものが数多くあるわけですが、刊行状況を適切に見ておかなければ、未収集ということになってしまうケースもあると思われますので、状況につき改めて確認させていただければと思っております。
朝倉委員: 成果報告書の配布リストの中に、「国立国会図書館」という送付先を追加することを厚生労働省に依頼すれば、各研究の班長が送付してくれると思います。
土屋委員: いまの話題については、少しコメントさせていただければと思います。国立国会図書館が所蔵するということは、長期的保存という観点からは意義があると思うのですが、利用の便宜を図るという点から見るといかがでしょうか。納本された成果報告書は、図書館資料になるわけですから、複写の依頼が来たとしても、全文複写はできないのだと思います。このようなものを、例えば「半分まで」と言われてしまうと、あまり意味がありません。いまの時代であれば、電子情報をその研究が行われた機関の機関リポジトリに蓄積しておく、という形の方がよほど社会的意義がありますので、国立国会図書館で永久保存している、という状態は、一種の記念として、という程度の認識でいいのではないかと思います。
委員長: 国立国会図書館に行けば必ずある、という状況があればいいのでしょうか。
さて、まだ最初の報告についてもお話があるかもしれませんが、そろそろ二番目の報告、「ウェブアーカイブ検討の方向性について」に移らせていただこうかと思います。自由な、活発な討議をいただければというふうに思っております。
名和委員: 「ウェブアーカイブ検討の方向性について」の2ページ目に、「根幹原理が異なるため別の制度とすべき」とあります。では別の制度とは何が考えられるか、ということに関連して、デジタルライブラリーについて、図書館界以外の方々がどのような議論をしているのかというのを調べてみました。調査の対象にしたのは、アメリカのLaw Journalです。
Law Journalを過去のものから見てきますと、2006、2007年のあたりで急に、デジタルライブラリーに関する議論が増えているのです。といってもまだ、現在までに20~30編といったところですが。その論文全てを読んだわけではないのですが、眺めていると、そこで議論されていることのキーワードは、どうも「オプトアウト」であるようなのです。つまり、まず利用者は、原則的に自由にアクセスできて、権利者が拒絶したい場合にはそれを選択すればいい、という方式です。これが現在の、オプトイン方式、つまり利用者は原則的にアクセス禁止で依頼により著作権を権利者に放棄してもらわなければならない、とする著作権法と真正面から対立する。このような状況下で、デジタルライブラリーにおけるオプトアウト方式をどのように実現するか、という議論があるわけです。もし現行の著作権法の中での実現を考えるのであれば、公正使用という著作権法上の概念に当たるという解釈で実現を目指すしかないのではないか、というのが通説です。もう一つの考え方として、現行の著作権制度下ではオプトアウトは到底実現できないので、全く別の制度を考案しなければならない、という意見があります。
まず後者から申しますと、それを正当化するための説得力のある議論として紹介できるものが二つあります。一つは経済効率という点に着目したものです。例えば、ある情報の一群について、オプトイン方式である場合の探索コストを算出して、次にオプトアウト方式である場合の監視コストを算出し、両者の比較を行ったという、エコノミストによる研究があります。結果、オプトアウトの方が経済的なので、社会としてそちらを選択したらどうか、という議論です。もう一つは、文化的なデモクラシーという考え方に基づくものです。著作物というものはいつか孤児の著作物(orphan’s work)になってしまう、つまり著作者不在という状態になってしまう、現行の著作権制度のままでいくと、社会がそのような著作物だらけになってしまってよろしくないのではないか、という議論です。以上、ご参考までに紹介しておきたいと思います。
次に、公正使用という法的概念ですが、これについても、これまでの判例に基づいて様々な議論が為されてきました。アメリカにおけるそれは、日本においてよりもはるかに柔軟であるわけです。しかしそのような状況の中でも、現行の著作権法の中で、オプトアウト方式によるデジタルライブラリーを実現することは難しい、というのがほとんどの論者の結論です。
ただ、アメリカには、デジタルミレニアム著作権法という法律がありますが、この中に、著作物の流通についての特別な条項があります。これによると、プロバイダーが、著作物を送信あるいは転送するために一時的に蓄積する分には、公正使用に当てはまるということになります。ですから、先ほど、蓄積はとにかく行う、利用提供は出版社に任せる、という話がありましたが、そのような方式を実現するために、いま申し上げたデジタルミレニアム著作権法の考え方を用いる、という可能性もありうるのではないかと思うわけです。
内海総務部長: ただいま名和先生にご紹介いただきました考え方等につきましては、私どもの方で研究させていただいて、新しい制度策定の中で取り入れるべきものがあれば取り入れさせていただければ、と考えております。特に最後におっしゃった、デジタルミレニアム著作権法の考え方については、十分に研究させていただきたいと思います。
時実委員: 「ウェブアーカイブ制度化検討の方向性について」の6ページ目から7ページ目に、「制度案の方向性」というのがありますが、ここで対象範囲を、政府情報、学術情報に限定してしまっていますが、この点はこのままでよろしいのでしょうか。仮にある程度この構想で進んでしまったら、次の段階に進むのにそこからさらに10年かかってしまうということになるのでは、と危惧してしまいます。
皆さんご存知のことと思いますが、アメリカにはインターネットアーカイブという機関がありまして、これは政府機関ではありませんが、ものすごい勢いでウェブ情報を収集・蓄積しています。これはアメリカの著作権法に照らしてもグレーゾーンであり、完全に公正使用と言えるのか微妙なところではあるのですが。現在までに蓄積したウェブ情報の量は、800億サイト分にもなるそうです。これは、サイトが800億あるのではなくて、サイトの数自体はもっと少ないのですが、高い頻度で収集しているので、異時点情報でそういう数になるわけです。例えば、国立国会図書館のサイトの収集・蓄積状況を見てみると、昨年はそれほどの頻度ではなかったのですが、2005年くらいだと毎日行っているのです。2004年だと、年間200回ほどでした。つまり、国立国会図書館のサイトの情報だけで、2004年で200サイト、2005年で300サイト分に及ぶ情報が蓄積されているわけです。これは非常に役立つものです。国立国会図書館のような政府機関だけでなく、大学、企業など、様々な機関のサイトを収集・蓄積の対象にしています。サイトの収集・蓄積は、基本的に、ロボットにより自動的に行われていますが、先ほどの話で言いますと、ロボット排除指定が為されているサイトは当然収集・蓄積されないのですから、一種のオプトアウト方式になっていると言えると思います。
インターネットアーカイブの、そういう壮大な事業と比較すると、国立国会図書館でされようとしているウェブアーカイブは、政府情報と学術情報に限定してしまっていて、非常に規模が小さい。現在のWARPの数倍くらいにはなるのでしょうが、質的な転換を図るというところまではいけないのではないかと危惧してしまうわけです。
内海総務部長: 今回の制度案は、時実先生のおっしゃるとおり、非常に限定された形で、方向性を決めたものとなります。確かに、世の中に存在する数多くのウェブ情報の全てを捉えるような制度であるべきなのではないかというご意見もあろうかと思います。しかし、我が国の各界において、ウェブアーカイブという事業に対する認識は、現状ではかなり厳しい、ということが現実としてあります。権利者団体、国会議員もそうです。そして、前回、平成17年から18年にかけて、我々が、衆議院法制局等に相談しながら法律案を作成しようとした際には、やはり全てのサイトではなく限定して収集・蓄積を行うという形だったのですが、それでもなかなかご理解をいただけませんでした。そこで今回は、もう少し対象範囲を絞って、政府情報と学術情報のみとし、まず法整備を図ろうとしているわけです。学術情報をどのように定義するかということ自体、非常に難しい問題ではありますが。
次に、一旦ここで示された形で法制化が進んでしまったら、次の段階に進むのに相当の年月を要するのではないかという危惧についてですが、実は我々は次のように考えております。まず、ここにお示しした制度案については、平成21年度中に法制化の形を作り、その後、とりあえずその下で収集をするということを現実の形として、社会に提示していきたいと思います。それによって、ウェブ情報についても冊子体資料と同様、国として収集・保存をしていくことが非常に重要なのだという認識を、国民各層の中に根付かせるわけです。そしてそのうえで、著作者を始めとする関係者の利害等を調整しつつ、対象範囲を広げていくという流れになります。現状の厳しさを考え、そのような段階論を採っていきたいということです。
藤木委員: 私も、いま時実先生が提示されたのと類似の視点から少しよろしいでしょうか。
対象範囲は政府情報と学術情報となっていますが、このような情報の中には、政府資金が投入されて出された成果物がすでにアーカイブされているもの、あるいは電子ジャーナル等の場合には、購入した機関ですでにアーカイブされているもの、が当然含まれることになるはずであり、そのような、国内のどこかの機関ですでにアーカイブされているものがかなりの部分を占めるという状況になるのではないか、という印象を持ちました。特に学術情報については、先ほど坂内先生からお話があったように大学では機関リポジトリに様々なものをアーカイブしていますし、国立情報学研究所、科学技術振興機構のような機関もアーカイブを行っていますので。
ウェブ上の情報で、「学術情報(無償で提供されているもの)」というのが世の中にどれくらい存在しているのか、私には分からないのですが、これに関連して、「学術情報(無償で提供されているもの)」がどの程度存在しているのかについて、国立国会図書館で、相当ある、あるいはそうではないというところを感覚として捉えているのであれば、教えていただければと思います。仮にそれがさほど多くないとすれば、これは前回の審議会でも申し上げたことですが、ここに示された対象範囲については、国立国会図書館が自らロボットを用いて現物を収集するようなことを行わなくても、関係機関のアーカイブ・サイトとウェブ上で連絡できるようにしておけばいい、ということも考えられるのではないでしょうか。そのあたりについて、この「制度案の方向性」だけでは、どのようにお考えなのか分かりにくいので、教えていただければと思います。
それから収集方法については、「収集ロボット及び発信者の送信を併用」とされています。発信者の送信も視野に入っているということは、現在冊子体資料について存在する納本制度と同様に、能動的な送信を義務付けるような法制度も考えられるわけですが、そのようなことはすでに検討されているのでしょうか。もしそうなれば、著作権等に関する問題について考えるうえでも、また別の視点が必要となってくるのではないかと思いますが。
先ほど時実先生がおっしゃっていましたが、収集の頻度というのも重要だと思います。東京大学に、Googleが一度蓄積しながら、一定期間を経過したため捨てた情報を、全て収集してアーカイブしている、という研究者がおられるのですが、その情報の量は大変膨大なのです。例えば、日次の情報を継続的に収集・蓄積していくということになると、大変なコストがかかることになると思います。本質的に可変的であるウェブ情報を、どれくらいの頻度で収集するかというのは、ウェブアーカイブ制度構築の実行可能性にも関係してくる話かと思いますが、国立国会図書館の方では、何かご検討をされたのでしょうか。
あともう一点だけよろしいでしょうか。利用のところなのですが、ここでは、料金あるいは課金ポリシーということについては全く述べられていません。例えば図書館で冊子体資料を複写すると、おそらく料金を何十円か支払うのだと思うのですが、このウェブアーカイブ制度では、インターネットによる提供は、無償での提供が前提となっているのでしょうか、あるいは一定の、実費程度の額を課金することになるのでしょうか。そのあたりも、制度の実現を考えると検討しておいた方がいいだろうと思います。
委員長: 藤木先生がいまおっしゃったように、今後具体的なことを考える段階になると、様々な問題が出てくることになるだろうと思います。
対象範囲に関して申しますと、確かに政府情報、学術情報については、自治体等、あるいは大学等で、かなりの機関でアーカイブを行っていると思います。ただ、例えば自治体について、最近の市町村合併で組織自体が消滅するという事態が生じています。大学でも、今後消滅するところはいくつも出てくるだろうと思われるわけです。そのような場合のためにも、国立国会図書館でアーカイブをしておかなければならない、という判断があったのではないか、と私自身は感じておりました。
内海総務部長: いま委員長がおっしゃったことと重複しますが、国立国会図書館の考え方を述べさせていただきます。例えば、前回の審議会で、土屋先生が当館に対しておっしゃったことの中に、各機関で不要になった情報を国立国会図書館がアーカイブしてくれれば、というご意見がありました。かように、各機関でひとまずある程度の期間は情報を保存していけるとして、果たしてそれを恒久的に続けられるのか、という問題があります。それに対して我々は、情報を恒久的に保存していくことを使命であると考えています。
ウェブアーカイブを制度化した時に、例えば機関リポジトリから強制的に情報を収集する、などということは、現時点で考えておりません。連携・協力して、つまり各機関でアーカイブをできるということであれば、その期間はお任せし、そうでない期間を当館が担当し、というようにしたいと思っております。長期的な保存のために最適な方法を、協議によって決める、ということです。
それから、藤木先生から、制度運用上の細部についてご質問がありましたので、こちらについても答えさせていただきます。ただ実際には、細部の検討は今後進めることになりますので、その点予めご了承いただければと思います。
まず、収集方法について、能動的な送信義務を課すことも検討しているのかと、というご質問ですが、現在の納本制度のように、送信しない発信者に関する罰則規定を設け、強制的に送信させる、という形にはならないと思います。
次に収集の頻度については、結局のところ予算がどの程度獲得できるかに規定されるのではないか、と考えております。
最後に利用提供についてですが、当館は基本的に料金を徴収して資料を提供するということは、現在までのところ行っておりません。その類推から申し上げれば、プリントアウトについては、現在の冊子体資料の複写と同様に、紙代・印刷代程度をいただくことになるのではないかと思います。インターネットの資料を提供したから、その分、実費に上乗せして課金をするということは、現在の状況では考えられないのではないかと考えております。
時実委員: 政府情報について、一点分からないことがあるのですが。最近、公文書について、保管を含めた管理を強化する、という動きが話題になっています。有識者の会議が設置され、法律の制定も行われる見通しであるようです。この議論の中で、紙の文書だけでなく、ウェブ情報も管理つまり保管強化の対象になってくると思いますので、そちらとの調整が必要になるのではないでしょうか。
それから、現在経済産業省で、検索エンジンを始めとする情報検索・解析技術、それを用いた事業の振興、ということを目的としたプロジェクトを進めています。これに関連して、政府は、著作権法を改正し、検索エンジンの検索サーバを国内に設置することを可能にしようとしているようです。このような、ウェブ上での様々な活動を振興しようとする動きの中に、国立国会図書館で進めておられるウェブアーカイブ制度化などの話を、うまく関連付けることはできないのでしょうか。
委員長: 政府情報であれば、指示・依頼があれば、きちんと送信していただけると思うのですが、学術情報に関しては、発信者によってはなかなか送信していただけない、ということもあろうかと思います。そして、そのような送信していただけない中に重要な情報が存在するということもあろうかと思います。
また、ただいまご指摘のありました、公文書管理強化の動きにつきましては、福田総理大臣が内閣官房長官の頃から非常に見識を示しておられますので、そのあたりとの関係も出てくるのだろうと思います。アーカイブの対象範囲に政府情報が入っていますから。
倉田委員: 国立国会図書館の立場として、ウェブアーカイブ法制度化の第一歩としてこのような制度案になるということは、大変よく理解できます。先ほどもご説明があったように、確実なところから、ということであろうと思います。ただ一方で、では本当の意味でのウェブアーカイブ、政府情報、学術情報に止まらないものを収集対象とするアーカイブは断念するのか、と言えば、お話を聞いていると、そうではないということのようです。最初から、何種類もの情報を扱うのは難しい、ということもあるのだろうと思います。
いわゆる広い意味でのウェブアーカイブ、主にロボット収集によるもの、これは現時点では、収集に止めるしかないのではないかと思います。先ほど名和先生がおっしゃったように、収集・蓄積はとにかく行う、利用提供は出版社に任せる、というように何とか切り分けた形で、実験ということで構いませんので、一つ新たにプロジェクトを考えていただければ、というのが今回報告をお聞きしていて抱いた感想です。
委員長: 先ほどから議論されているように、今回の報告で出されている制度案では、対象範囲を非常に限定してあります。これはおそらく、開始時点で予算のこと等を考慮すると、これくらいに限定しておくと最も説明がしやすい、という事情があるのだと思います。今後収集対象を広げていくということについて、国立国会図書館の方から、もう一度ご説明いただいてよろしいですか。
内海総務部長: 倉田先生がおっしゃったとおりですが、政府情報、学術情報を収集する制度を策定して終わり、ということではございません。ウェブ情報全般については、現在例えばフランスとかドイツを始めとする主要国で、全て収集はして、利用提供は館内に限定する、という制度が策定されていますので、日本だけがその潮流と無関係に、収集対象を政府情報等に限定し続ける、ということはありえないと考えています。方向としては、今回お示しした制度で第一歩を踏み出して、段階的に広げていき、最終的にはウェブ情報全般までカバーしていく、という考えでおります。
坂内委員: 二点よろしいでしょうか。
一点目は、前回の審議会でも申し上げたことです。法制度を策定し、それに基づき収集する、という方向性は、情報の収集・蓄積を使命とする国立国会図書館としては自然なことなのだろうと思うのですが、インターネットの世界にはむしろ、参加者の自発的な意思に基づき自由な空間を発展させてきた、という文化があります。先ほどご紹介があったインターネットアーカイブなども、政府が法律を作って、というのではない形で発展した事業の代表例だと思います。そういう文化と、法律で上から与えられる制度の間には、かなりギャップがありますから、制度を完全に固めてしまう前に、インターネットコミュニティーの意見を、パブリックコメントなどの方法で聴取しておいた方がいいのではないかと思います。
二点目は、先ほど藤木先生が婉曲におっしゃったことではあるのですが、無償の学術情報というのはきわめて限定的だと思います。国立情報学研究所では、NII-ELSという電子図書館を運営していて、学協会が発行する学術雑誌に掲載された論文を320万件くらい公開しているのですが、その中でも純粋オープンアクセスという学協会は3割くらいしかないのです。各学協会は、会員なのか非会員なのか、機関であれば大学なのか企業なのか、というふうに、認証を非常にきめ細かく行っているのです。データベースというのは、ジャーナルの発行者、利用者、データベースの管理者、という利害関係者がいて、そのうちの誰がコストを負担するのかという点で、非常に微妙なバランスで成り立っています。そういうバランスのものと、国立国会図書館の、法制度を整備して政策的に収集する、という考え方が、果たしてうまく整合するのか、やや疑問に感じます。ですから、法律で学術情報を原則的には収集するのだ、というところを、あまり最初から前面に打ち出さない方がいいのではないかと思うのですが。
それと、国立国会図書館がウェブアーカイブを行うことの意義について。確かに現状でも、各機関でアーカイブを行っていて、利用者からの情報需要に応えてはいます。ただ国立国会図書館には、恒久的に情報を保存していく、という使命があるということですので、その点が各機関とは異なるのではないかと思います。
委員長: やはり、国立国会図書館が構想されているウェブアーカイブと、他機関が現在運用しているものとは少し考え方が異なるのではないか、と思われます。国立国会図書館の事業は、とにかくウェブ情報が将来にわたって消滅しないように保存し続ける、というところに重点があるのではないか、それに重点を置くべきなのではないかと思います。各機関の側から見ると、消滅すると大変だから、最後は国立国会図書館で面倒を見てもらう、ということでもいいのではないかと思います。利用提供の話になりますと、有償、無償という問題もありますし、また様々な要検討点が出てくるのだろうと思いますが。
坂内委員: エンバーゴを設定して、数年後には利用提供に供する、という枠組みではどうでしょうか。アーカイブしておくだけでは、国立国会図書館としてもインセンティブが働かないのではないですか。
委員長: 国立国会図書館に行けば閲覧できる、という段階からスタートするというのがいいのではないかとも思います。
塚原委員: 国立国会図書館としては持続しなければならない、途中で事業を中止するわけにはいかない、ということがおそらくあると思います。事業の持続性という点でも、やはり国立国会図書館でアーカイブするべきなのではないかと思います。
対象範囲については、広げることは非常に重要だと思うのですが、一方で、国立国会図書館なりの使命というものもおありでしょうから、それとの関係で、自ずと決まってくるのではないかと思います。
土屋委員: 私は、収集範囲については、限定してしまってもいいのではないかと思います。保存する価値があるのは、究極的には学術情報のみではないでしょうか。
一つ気になっているのは、最初に名和先生がご指摘された点です。どうも今回示された制度案の方向性というものは、現在までの経緯を踏まえ過ぎているためか、位相の異なる二種類のものが無理矢理合わせられてる、つまり先ほどの名和先生の言葉を使うと、オプトインとオプトアウトの論理が混在しているような感じがするのです。これは果たして整合的なのか、よく分からないのです。「収集の拒否・消去の申し出」のところは、オプトアウト方式、つまり法律でともかく全ての情報に網をかけたうえで、何か理由のある拒絶であれば了とするという方式ということで、これは例えば、著作権法で定められた、著作権の制限からの類推で理解しやすいと思います。そのような規定を想定している一方で、政府情報、学術情報を収集対象としているわけですが、これらはどちらかと言えば、事前に発信者からの承諾を得て収集していこうという、オプトインの仕組みになっているわけです。かように、二種類の異なる論理が混在しているので、現在の著作権法のように、全体として強制をかけ、しかし制限規定によって例外を認める、というような一貫した仕組みになるのか、疑問に感じます。著作権の制限規定というのは、本来、その強制力が非常に強いので、曖昧さを排する必要がある、ということで設けるものだと思います。元々無償で提供されている情報を収集する時に、なぜわざわざ新たな規定を設ける必要があるのか、やや理解し難い感じがいたします。
あと、細かい質問なのですが、いわゆる二次利用ということは行いやすくなるだろうと思うのですが、この点について、何か展望はございますか。例えば、編集著作物を作成するということであっても、インターネット提供であればいいのでしょうが、来館して利用したものを持ち帰って行うということもできそうな気がするので、そのあたりどうされるおつもりなのかということです。
それから、8ページ目に、「識別子の付与」という話が出ていますが、恒久的保存をしていくということであれば、それを入力すれば必ず当該情報に到達できる、という保障をしていくということは、やはり非常に重要な点だと思います。これについて、具体的にはどのような方法をお考えなのでしょうか。現在ウェブの世界では、例えばDOI、デジタルオブジェクト識別子というのがありますが、例えばそのようなものを国立国会図書館がISSNのように付与するつもりがあるとか、そういう具体的なレベルまで考えておられるのか、伺っておきたいと思います。
委員長: それでは、識別子の付与の件から、国立国会図書館の方から答えていただきましょう。
田中
電子情報
企画室長:
識別子につきましては、制度全体の設計とも関連してくることですが、デジタルオブジェクト識別子等、既存のものを利用することを含めて検討していく必要があると考えております。ただ、長期保存という責任を果たしていくためには、当面国立国会図書館ではアーカイブしなくてもよい、という部分も含めて考える必要があります。ですから、やはり各機関において、最終的な長期保存の局面で識別されるような形を維持していただくことが前提になろうかと思います。当館が果たす役割は、各機関に分散してアーカイブされている情報について、どこに何があるかを把握し保障していく体制を整備する調整機能ということになります。
土屋委員: 例えばある機関リポジトリに蓄積されているファイルを、国立国会図書館でも収集して保存していたとします。その機関リポジトリを運営する大学が、吸収合併の結果他の大学の一部になってしまって、リポジトリは閉鎖してしまったとします。そのような事態に至ると、当該ファイルは、国立国会図書館のみが保存している、ということになるわけです。ですから、分散してアーカイブしている、というだけではなく、国立国会図書館にはバックアップしたファイルが保存されている、という状態も想定せざるを得ないのではないと思うのです。そのような機能を果たしていただけると、各機関としては、安心して様々な事業を展開できるのではないか、と思うわけです。そういうことまで考えると、識別子をどの機関が管理するのか、という情報を管理する必要があるのではないでしょうか。
田中
電子情報
企画室長:
ただいま土屋先生ご指摘の点は、重要な点なので、今後視野に入れて検討していきたいと考えております。
名和委員: 先ほど私がオプトイン、オプトアウト、という考え方について申し上げ、続いて土屋先生がそれと今回示された制度案の方向性との関連を展開してくださいましたが、考えてみますと、学術情報というのは比較的所在がはっきりしているわけです。大学、研究所、あるいは学会が保管しているということになろうかと思います。先ほど時実先生が、収集対象を学術情報等に限定してしまっていいのか、とおっしゃいましたが、その後の国立国会図書館側の応答を聞いていると、このウェブアーカイブ制度は、今後もっと収集対象を広げていくことになるということです。それはつまり、学術情報等と異なり、権利者がはっきり見えない情報をも対象としていくということだと思います。今回、比較的権利者がはっきりしている学術情報等を収集対象とした場合にはこの方式で制度が機能したとして、将来的に対象を広げて、もっと大きいウェブアーカイブを構築しようとする時に、最初にこの方式を選択したことが実現への障壁になってしまう可能性はあるのではないかと思いました。
この審議会は学術情報について議論するべき場であるのでしょうから、今回示された制度案の方向性でひとまずいいのかもしれません。しかし国立国会図書館は、ウェブ上に存在する、あらゆるデジタル情報をアーカイブしようということを視野に入れておられるということです。そうであれば、学術情報等だけを収集対象として先に進めるのはそれでいいとして、その後事業をどのように進めていくかを示す、ロードマップ、あるいはグランドデザインというものを、予め策定しておく必要があるのではないか、という気が少しいたしました。
土屋委員: ただ、歴史的に考えれば、国内で作成された情報の全てをアーカイブしようなどという発想は、近代国家成立以降のごく短期間のことです。過去のことを考えれば、例えば写本などは、もはやほとんど残されていないわけですが、そのような状況の中で我々は、過去の知識を再構成して何とか知的営為を続けているわけです。ですから、全て収集・保存しなければ、などと無理なことは考えない方がよろしいのではないだろうかと思うのです。せめて、学術情報だけでもきちんと残していただければ、というのが私の希望です。
坂内委員: あと、学術情報の定義の話が先ほど出ていましたが、新聞情報というのは、学術的にも重要であるようです。これも見方によっては学術情報とも言えると思うのですが、新聞社はもちろんそうではないつもりで提供しているわけです。新聞情報は、アーカイブを自分たちで行うというモデルが確立されているので、これを国立国会図書館が蓄積対象とするとなると、業界として抵抗を感じるかもしれません。
委員長: ここで示された対象範囲については、皆さま様々なご意見があろうかと思います。ただいま坂内先生からもあったように、学者はあらゆる情報を対象にしますので、「学術情報」に多様なものが含まれてしまうかもしれません。
今後、実際に予算要求をされる時等にも、今回の審議会で出されたような意見が当然出てくるだろうと思いますので、なぜ政府情報と学術情報という限定されたものを収集対象として事業を開始するのか、そして最終的にどのような姿を目指すのか、という将来像についての議論は続けていかなければならないと思います。
名和委員: いま坂内先生がおっしゃった新聞、あるいは雑誌等の出版物と、学術情報とは、著作権の世界では同じ著作物ですが、現実には利用のモードが互いにかなり異質なものになっています。
時実委員: ウェブアーカイブについて、国立国会図書館では、様々な形で取り組んでおられると思うのですが、これについては、国際的なコンソーシアムとして、International Internet Preservation Consortiumというものがあって、これには、世界のほとんどの国立図書館が加盟しているようです。国立国会図書館にもこのコンソーシアムに加盟していただいて、国際的な潮流について情報収集していただき、それを踏まえてまた議論をしていただくのがいいのではないかと思います。
田中
電子情報
企画室長:
ただいま時実先生のお話にありました、IIPCにつきましては、本年4月から国立国会図書館も加盟するということで進んでおります。
委員長: 懇談の方はこれで終わりたいと思います。非常に活発な議論をいただきまして、ありがとうございました。非常に大きな問題もご指摘いただきましたが、そういった議論などを受けて、国立国会図書館の方では、ウェブアーカイブを始めとするデジタルアーカイブ事業の推進、それから第二期科学技術情報整備基本計画の進捗など、科学技術情報整備に関する施策に取り組んでいただけるのではないかというふうに思っております。
 
5 閉会
委員長: 本日はありがとうございました。最後に、国立国会図書館の方から何かあるでしょうか。
長尾館長: 大変有益なご議論をいただきまして、ありがとうございました。厳しいご意見もありましたが、もっと野心的なことをやれというご意見もいただき、勇気づけられた思いがいたします。先ほど当館の内海総務部長からも申し上げたように、この制度案を具体的な形にするためには、様々な障壁を乗り越えなければなりません。そのような状況の中で、実現できるところから進めていくほかないのではないかという、ある種の妥協を孕んだ形で進んでおります。これはいわば苦肉の策でして、正面突破は難しい、という状況判断によるものでございます。本日委員の方々からいただきましたご意見をよく検討いたしまして、なるべくうまく実現していけるように努力していきたいと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。

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