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令和3年度第1回 国立国会図書館活動実績評価に関する有識者会議 議事概要

1.開催日時

令和3年7月1日(木曜)13時28分から15時35分まで

2.開催形式

Web会議システムによるリモート開催

3.構成員

  • (座長)糸賀 雅児(慶應義塾大学名誉教授)
  • 只野 雅人(一橋大学大学院法学研究科教授)
  • 田辺 国昭(国立社会保障・人口問題研究所所長)
  • 山口しのぶ(東京工業大学環境・社会理工学院教授、国連大学サステイナビリティ高等研究所所長)

4. 国立国会図書館出席者

田中副館長、片山総務部長、上保総務部企画課長

5. 主な会議内容

国立国会図書館中期総括評価(案)について国立国会図書館(以下「NDL」という。)から説明を行った後、有識者会議構成員(以下「有識者」という。)による意見交換を行った。意見交換の概要は、以下のとおりである。

活動目標1について

有識者:
指標3「政策セミナーの開催回数」について、令和2年度はオンラインでの開催になったとのことだが、それによる参加者の人数等の変化はあったか。

NDL:
オンラインにより参加しやすくなったことから、議員の参加が増えた。

有識者:
過去4年の中期総括評価である以上、今回は致し方ないが、前回の会議(令和2年度第2回)の際にも指摘があったことを踏まえると、2025年までの新しいビジョンの中では、政策セミナーの参加者数を指標とすることを検討してもよいのではないか。また、政策セミナーは事後に動画をオンラインで配信して自由にアクセスすることもでき、それを視聴する方もいるということだったと思う。そのような参加者を含めたトータルの参加者数が指標となっていた方が、開催回数だけという現状の評価方法よりも評価の幅が広がるのではないか。

NDL:
現状では、業務統計上、参加者数は開催した時に参加した方の数を計上している。トータルの参加者数の把握、またその評価における指標化については、今後の検討課題としたい。

有識者:
活動目標3の指標37「イベント」を見ると、国際子ども図書館が開催する子ども読書活動推進イベントの総参加者数が示されている。政策セミナーについても、回数に加え参加者数を提示するのは、全体を通じての整合性という点でも望ましいだろう。また、セミナーを開催し、その動画をオンラインで配信して事後に視聴してもらうのは今の時代には当然の取組であり、やはりリアルタイムの参加者しか計上しないという従来の考え方は転換していくべきだと考える。大学でも学生に対するセミナーなども全てオンラインで配信していつでもアクセス可能にしているので、そちらの方にシフトしてポジティブな統計を積極的に情報発信していくとよいと思う。新たなビジョンの下での活動実績評価では検討していただきたい。

有識者:
議員との面談もオンラインで行ったとのことだが、そのことの影響はあったか。

NDL:
オンラインを希望する国会議員もおられれば、従来通りリアルがよいという国会議員もおられた。面談の総件数は、オンラインでの実施を開始することによる大きな変化はない。

有識者:
指標3「政策セミナーの開催回数」について、別の観点で伺いたい。この指標は「3か年平均基準型」となっている。令和2年度で見ると、直近の3か年(平成29年度~令和元年度)の平均は15.7回で、令和2年度は14回なので、10%以上の減少となる。これを「達成」としているのはなぜか。「3か年平均基準型」の説明と整合性が取れていないように思う。

NDL:
中期総括評価(案)では、目標値を計算する際の端数処理について、一貫して四捨五入をしているためである。そうすると、指標3についてはかろうじてプラスマイナス10%以内となるため、達成とさせていただいた。四捨五入で計算していることについては冒頭で明確にしておくようにする。

有識者:
次に指標1「依頼調査の処理件数」について伺いたい。10%減となっているのは、令和元年度、平成30年度、平成29年度の数値は見ずに、単純に平成28年度と令和2年度の指標の比較で10%減となっているということか。

NDL:
御理解のとおりである。

有識者:
4年間のビジョンの総括評価であるという点を考慮すると、相対的に件数が多かった平成30年度や令和元年度の指標を見ずに、平成28年度との比較のみで10%減とするのが適切かはやや疑問に思うが、中期総括評価の枠組みは2年前に本会議で決定したものであり、それに従うということで了解した。

NDL:
指標1「依頼調査の処理件数」は参考指標であり、国会の会期日数にかなり左右される。平成30年度は特に選挙がなかったこと等の影響もあって件数が多かったようだ。

有識者:
その点があるとしても、途中の年度でかなりの成果が上がっていたということは外部の評価委員として評価したい。

活動目標2について

有識者:
指標12「東京本館で受け入れた和図書の受入れから書誌データ校了までに要した日数」について、これはコロナの影響ということだが、従来15日程度だったのが、令和2年度は60日となっており、かなり遅滞している状況が見て取れる。この書誌データの作成はテレワークで行うことはできない作業なのか。また、後出の「中期総括評価における新型コロナウイルス感染症の影響に関する補足説明」では、一括代行機関内に滞留していた資料の短期間での大量納入等により、和図書の書誌データ作成作業が遅延したとあるが、滞留しないよう小出しにすることを契約に含めるなど、業務の分散化を図る対応は行っていないのか。

NDL:
書誌データの作成については、テレワークの仕組みが整備された後は、館内システムに接続することで、自宅でも作業自体は環境的には可能となっている。ただし、現物の資料が手元にないと確認できないという制約はあるため、実際には難しい。また、勤務体制の問題も大きい。4月から5月については、まだテレワークの仕組みが整備されていない中で出勤率を下げたため、作業人員がそろわなかった。人員の面では、4月に新たな職員や業者が加わって顔触れが変わり、人材育成が遅れたことも理由の一つである。それに加え、御指摘のように一括代行機関内に滞留していた資料が短期間に大量納入されたことも影響しているが、こちらについては、取次業者でも業務を縮小していた期間があり、分散しての納入が難しかったというのが実情である。

有識者:
一方で、指標14「索引誌当該号の受入れから雑誌記事索引のデータ校了までに要した日数」については、和図書とは異なり、令和2年度はむしろ短縮されている。指標12と指標14でこのように対照的な動きとなっているのはなぜか。

NDL:
指標14については、雑誌自体が刊行中止になっているケースがあり、そもそも母数が減少していた可能性はある。

有識者:
活動目標3とも関わるが、利用者アンケートの件で一点お尋ねしたい。指標10「納本制度の認知度(利用者アンケート)」は満足度がパーセンテージで示されているが、脚注13の説明を見ると、令和2年度は標本数が大きく減少している。平成30年度から来館利用者アンケートと遠隔利用者アンケートを統合したアンケートを実施しているということだが、令和2年度の減少は主に来館利用者の回答減少分によるという理解でよいか。

NDL:
御理解のとおりである。

有識者:
指標11「国内出版物受入資料点数」についてお尋ねしたい。平成29年度が648,282点で、そこから漸減している。これは国内における紙の出版物自体の減少傾向を表しているのか、それともNDLの収集対象が電子に移行していることを示しているのか。

NDL:
出版状況をそのまま反映したものと考えられる。外国の雑誌や新聞については資料収集方針を平成28年度に改定し、紙と同等の内容と利用が可能であれば電子出版物を優先するという方針としたが、国内出版物についてはそのような方針はない。

有識者:
指標11「国内出版物受入資料点数」の脚注14を見ると、納入、購入及び寄贈の合計となっている。このうち例えば寄贈が大きく減ったために全体が減っている、あるいは購入を減らしたためにこうなっているといった要因があるのであればそのことを記載すべきだと思う。また、この指標はNDLの努力と関係なく国内出版物自体が減少すればそれに伴って減少するものであり、指標として適切かやや疑問である。令和2年度の数字を平成28年度の数字と比較するとかろうじてプラスマイナス10%の範囲に入っているため、今回の達成状況は「水準維持」となっているが、仮に90%を下回っても、国内出版物の減少という外的状況があるのであれば致し方ないということになる。そのように外的状況に影響されにくいという点で、指標9「納入率」の方が、指標としては適切なのではないかと思う。

NDL:
寄贈や購入が大きく減少したということはない。購入予算の減少といったことも生じていないため、国内の紙の出版が減ったことの反映、と理解して差し支えないと考える。

有識者:
そうであるとすれば、紙の出版状況を反映してNDLの受入点数も漸減しているといった補足説明があった方が理解しやすいだろう。

活動目標3について

有識者:
二点お尋ねしたい。一点目は、指標24「図書館等への貸出し」についてである。貸出点数の減少は、相手方の各種図書館が閉館していたことの影響とのことだったが、一方で、全ての図書館が休館したわけではないのであれば、地元の図書館での閲覧を希望するという増加要因も生じていたのではないかと思う。そのように、減少・増加要因がいずれも存在したと思われる中で、結果的にこの指標が減少していることについてどのようにお考えか。二点目は、指標36「国立国会図書館ホームページ」についてである。下線が引かれており、つまり新型コロナウイルスの影響ということだが、それだけでここまで大きく増加するものか疑問に思う。この点についても説明していただきたい。

NDL:
指標24「図書館等への貸出し」の「①貸出点数」が減少した理由については、御推測のとおり、各種図書館が休館していたことが大きいと考えている。4月から5月は、公共図書館の90%以上が休館した時期があり、また再開した後も、閲覧ではなくカウンターでの貸出しのみを行う館も多かった。NDLから借り受けた資料は図書館内での閲覧となるため、結果的に図書館からNDLに対する貸出しのリクエストが激減し、それにより仰ったうち減少要因の方が強く出たということかと思う。次に、二点目にお尋ねの指標36「国立国会図書館ホームページ」だが、やはり新型コロナウイルスのために休館していたことの影響であると考えている。休館中は全体としてアクセスが多かったが、特に令和2年6月のアクセス数が最も大きかった。この背景には、おそらく東京本館と国際子ども図書館が6月10日まで休館していたということがある。つまり、いつ来館サービスを再開するのか知りたい、あるいは入館の申込みをしたい、という理由からアクセスした方が多かったのではないかと推測している。また、来館サービス再開以降、継続的に入館制限をしており、トップページからオンラインで利用可能な各種検索サービスへの導線を改善したため、リピーターを増やした可能性もあると考えている。

有識者:
理解した。

有識者:
指標36「国立国会図書館ホームページ」の「①データへのアクセス数」というのは、リサーチ・ナビやNDLサーチ等の検索サービスへのアクセスを意味するのか。NDLの来館サービス提供状況や、入館申込みの情報を見るのはここに含まれているか。

NDL:
こちらのアクセス数は、当館ホームページの各ページ、例えば各種案内ページ等へのアクセスの数を示している。リサーチ・ナビやNDLサーチ等、サブドメインを設定し別サイトとして提供している各種サービスへのアクセスは含んでいない。

有識者:
そのような範囲ということであれば、大きく増加するのは自然である。オンラインでの利用が伸びているという近年のトレンドとは別に一時的に大きく増加したということが理解できたので、下線は引いたままでよいと考える。ただ、いま説明いただいたような影響分析が補足されていた方が理解しやすいと思われる。

有識者:
活動目標3(3)「障害者サービスの向上」については、評価期間中継続的に取り組んでいただき、数字も順調に伸びており、非常に良いことだと思う。これについて、利用者の方からリクエスト、改善要望等がもし寄せられていれば、教えていただきたい。例えば、オンラインでの利用を考えると、テキストデータや音声データを提供するのが効果的と思われるが、そのような点も含めて要望は寄せられているか。

NDL:
障害者の資料に対するニーズは、障害の種類が多様であることを反映し、様々である。録音図書、あるいは点字でないと使えないという方もいるが、近年は、仰るとおりテキストデータへのニーズも高まっている。テキストデータであれば、音声読み上げ等様々な形で利用することが可能であるということが、この背景にあると考えている。NDLでは、従来障害者サービス実施計画を策定しているが、それに基づき、これまで試行という形で実施してきたテキストデータの製作と提供を、今年度より本格サービスとして、リクエストを受け付ける形で開始した。これは一例であるが、今後も、多様なニーズに合わせながら、様々な形でアクセシビリティの高い資料、データなどを提供できればと考えている。

有識者:
引き続き取り組んでいただければと思う。

有識者:
活動目標3(2)「デジタル情報資源の利活用の促進」の指標29「ウェブサイト・アーカイブ(WARP)」について、アクセス数がかなり増えている。研究者にとっても、大変有用なサービスである。これについて、現状のような別ページにフォームを用意して行うアンケートではなく、例えばWARPを実際に利用中の利用者に、いま使っているサービスの満足度を簡便に評価してもらうことが可能な仕組みを導入すると効果的なのではないか。そうすることで、新型コロナウイルス下でより重要性を増したNDLのサービスの強みが可視化できるのではないかと思う。

NDL:
遠隔サービス全般については、利用者アンケートの中で、個別のサービスごとの満足度を調査している。それにより把握したニーズを、今後さらなるサービスの改善に活かしていければと思っている。利用者アンケートの項目について、継続性の観点は必要だが、新しいビジョンの下での適切な項目の見直しなども、適宜行いながら取り組んでいきたい。さらに、アンケートの方式については、ご提案いただいた内容も踏まえ、より効果的な方法を模索していきたいと考えている。

有識者:
活動目標1から3を通して見てきた訳だが、全体としては、中期総括評価(案)の2ページ目の【概要】の最初の全体評価にあるとおり、目標をおおむね達成したということにはなるだろう。ただし各指標を見ると、その内実は多様である。例えば、指標23「館内利用」、指標24「図書館等への貸出し」、指標25「レファレンス」の「④口頭」や「③電話」、指標37「イベント」等は減少している。一方で、指標22「遠隔複写」や指標25「レファレンス」の「①文書」は増加している。新型コロナウイルスの影響がこのように数字に表れている中で、単純に「目標をおおむね達成した」とだけしておくのがよいかは、検討の余地があると思う。もちろんNDLの努力不足ということではなく不可抗力によるものだが、大きく減少した指標もある以上、単におおむね達成したということではなく、何かその点についての注釈が付されるべきではないかと考える。すなわち、本来は、こういったことが達成できた、ただしこのような点は様々な制約等で達成できなかったというように率直に表現することで、次のビジョンの中で挽回・達成していく前向きの姿勢につなげていくべきではないか。

有識者:
コロナの影響を受けた令和2年度の位置づけが明確ではないということもあるのではないか。最終年度のもつ特異性と、その影響を除いて見ていくとどのような評価できるかということについては、注釈があった方が納得できる評価になるのではないかと思う。

NDL:
いまいただいた御意見を踏まえて、評価の概要の部分の書きぶりなどは考えたいと思う。

有識者:
そのようにお願いしたい。新型コロナウイルスでは、NDLも大きな影響を、場合によっては打撃を被っているわけなので、そこが分かるような書きぶりにするべきだと考える。国の機関の評価というのは、未達成であることを忌避する傾向があるが、正直な自己評価をした方が、質の高い評価となると思う。

「「ユニバーサル・アクセス2020」の視点・行動指針「組織力」に関する中期総括評価」及び「中期総括評価における新型コロナウイルス感染症の影響に関する補足説明」について

有識者:
「行動指針「組織力」に関する中期総括評価」のうち、障害者関連については、法定雇用率に係る数字の誤りの反省の下、計画を作成したうえでかなり前進しているということがよく分かった。 テレワークについて二点お尋ねしたい。一点目は、政府からは出勤者の7割減が要請されているが、NDLはそれを達成できたのかということ。具体的にテレワークをしている職員の割合はどの程度なのか。二点目は、ここには令和2年4月以降試行と書いてあるが、これは新型コロナウイルスが終息しても継続する恒久的な規則・制度なのか、つまり今後はテレワークが働き方の多様性の一環として認められるのかということである。

NDL:
まとめてお答えする。まず、昨年の4月から5月については、職員の出勤率を半分にするという目標を立て、それを達成した。その時点ではテレワーク用の端末が不足していたが、その後新たに調達して台数を徐々に増やし、現在はかなりの台数となっている。現在は、テレワーク試行を非常時の業務継続への備えとワーク・ライフ・バランスの両面で捉え、試行している段階である。次の段階としては、本格的な服務制度として位置付けるということになるが、こちらについては政府の動向、またNDLと同じく立法府である衆議院や参議院の動向も見ながら考えていきたい。現在試行している中で、運用面での課題等も見えてきたため、本格実施への移行は円滑に行うことが可能と考えている。

有識者:
NDLに限らず、図書館の業務には、一般的に、利用者に対応するいわゆるパブリックサービスの部分と、事務室で、図書・雑誌等の資料と端末に向かって行うテクニカルな業務がある。パブリックサービスの部分は、図書館自体を休館すれば、業務量は当然大幅に減少するだろう。そして、テレワークをすると言っても、業務の種類によって向き不向きがかなり異なると思うが、NDLでは、具体的にどのような業務がテレワークで行われているのか。

NDL:
仰るとおりで、NDLの中でもテレワークがしやすい業務としにくい業務があり、やはり事務系の業務はテレワークに適している。ただし、例えば、書誌、目録の作成業務は、基本的に資料の現物を見ながら作業を行うため、難しい面がある。そのような事情から、職場全体として、テレワークを経験している職員の比率は、業務によって差がある。そのような点も、本格実施に向けた課題である。

有識者:
理解した。もう一点関連してお尋ねする。カウンター業務、複写業務等のかなりの部分外部委託していることと思う。その委託した業務自体が大幅に減少あるいは無くなったりしたことで、どのようなインパクトが生じたか。これは、NDLだけの問題ではなく、他の図書館でも直面している問題であると思う。受託業者における雇用問題という側面もあるだろう。

NDL:
最初の緊急事態宣言の際には、複写業務の受託業者から申し出があり、遠隔複写サービスを長期間休止した。その影響は甚大で、学生や研究者が論文を執筆するための資料を入手できないという事態となり、今般の著作権法改正の遠因ともなったと考えている。また、複写業務の受託業者は複写収入で事業を運営しているため、来館サービスを縮小した影響を受けて複写料金の値上げを実施した。この点、新型コロナウイルス終息の暁にどうするかは今後の検討課題である。さらに、業務を縮小しているため、社員が退職した際に補充しないという形で人員の削減を進めているとも聞いている。

有識者:
業務を外部委託していると、今回のようにパンデミックになった時の雇用調整、そしてそれが終息した後通常業務に戻す時の調整、いずれもかなり大変な調整であり、今回の評価と直接関係するわけではないが、図書館経営上大きな課題であると思う。そのような点を含めて、この会議では、総合的に評価のあり方を議論していければよいと思う。

有識者:
「中期総括評価における新型コロナウイルス感染症の影響に関する補足説明」の記載について、事実の羅列にとどまっているが、ここはもう少し評価に踏み込むべきではないか。例えば、新型コロナウイルスの影響が「最小限に留まった」というのはポジティブに評価できることであり、一方で「遅延した」というのはネガティブに評価せざるを得ないことである。この文書は評価書なので、この補足説明においては、事実の羅列ではなく、新型コロナウイルスに対して、オンラインの活用等で十分な対応ができ利用が伸びているといったこと、逆に対応しきれず負の影響が生じてしまったこと、いずれの面についても評価に踏み込んで記述した方が、この状況下でのNDLの努力が伝わるものになり、読み手としても受け取りやすいものになると思う。

有識者:
それに関する記述、すなわち、こういったことが達成できた、ただしこのような点は様々な制約等で達成できなかったという記述は、この補足説明の箇所に加え、各活動目標の方、あるいは先ほども触れたように2ページ目の【概要】の全体評価にもあってよいように思う。そして、その箇所からは、詳細については後出の補足説明で説明するというような但し書きがあるとよいように思う。

NDL:
御指摘の点について、先ほどいただいた御指摘と合わせて検討する。

有識者:
今後NDLは、「国立国会図書館ビジョン2021-2025 -国立国会図書館のデジタルシフト-」に基づいて事業を進めていくことになる。その対象期間が始まってすぐのタイミング、5月下旬に、著作権法が改正された。従来NDLが提供してきたデジタル化資料送信サービスは図書館向けだったが、今後は、個人の自宅や職場に対しても同様のサービスを提供できる。また、公共図書館や大学図書館等、従来著作権法第31条に基づいて複写サービスを提供していた施設については、権利者に補償金を支払ったうえで、メールなどで送信することが可能となった。これらの施行は、NDLの個人向けデジタル化資料送信は改正著作権法の公布後1年以内に政令で定める日から、公共図書館や大学図書館等によるメールなどでの送信は公布後2年以内に政令で定める日からとなっている。NDLには、デジタル化資料送信サービスの提供実績があり、経験を蓄積しているので、その知見を公共図書館や大学図書館に活用してもらうべきではないかと思うが、この点についてどのように考えているか。また関連してお尋ねするが、新型コロナウイルスや、いま述べた著作権法の改正等、当初は想定していなかった大きな変動があった際、ビジョンはそれを受けて見直さないのだろうか。

NDL:
新しいビジョンの検討は新型コロナウイルスの影響下で進めてきた。並行して進んでいた著作権法の改正作業についても注視していたため、図書館全体が改正によってどのようなサービスを提供可能となるかという点は踏まえたうえで、「国立国会図書館のデジタルシフト」という形にまとめている。つまり、出版界を意識したうえでの図書館全体でのデジタル資源の共有、またインターネットを通じた提供の拡大は、ビジョンの前提となっている。そのような検討経緯、成立事情であるため、現時点ではビジョンに見直しをかけることは想定していない。なお、各種図書館に対する技術的支援やノウハウの共有ということについては検討したいと考えている。

有識者:
是非検討していただきたい。NDLは、例えばレファレンスの一環として、複写用記事掲載箇所調査というサービスを提供している。これを行えば、必要な箇所を特定できるため、複写サービスで双方にとって無駄が生じないわけだが、この考え方は、今後各種図書館でメール送信サービスを提供する場合にも応用可能だろう。また、利用者によるデータの不正拡散等の防止についても、改正著作権法は厳格な要件を求めているが、このあたりも、NDLのノウハウを共有できるとよいと思う。また、出版者、著作権者との補償金の問題もあり、当事者間で協議を進めることと思うが、補償金をどのような場合にどのような形で支払っていくのかについては、議論に時間がかかると思われる。NDLはすでに、デジタル化資料送信サービスにおいて、送信対象を入手困難な資料に限定するための除外手続を整備し運用してきた。その経験を、メール送信サービスにおける補償金に係る協議にフィードバックしていただくべきではないかと思う。絶版等、入手困難な資料については、ゆくゆくは、メール送信サービスにおいても補償金なしで可能となるように進めていくのが、図書館側が採るべき戦略なのではないかと考えるためである。いま述べたような協議へのNDLの関わり方について、見通しをお持ちであれば、お聞かせいただきたい。

NDL:
絶版等、入手困難な資料と補償金の関係について、図書館界で戦略的に進めるべきというお考えは理解できる。ただし、今回の著作権法の改正では、図書館等による図書館資料のメール送信等は、基本的に補償金の支払いが前提とされている。改正後の著作権法においても、入手困難な資料について、補償金なしでデジタル化資料を送信するサービスは、NDLのみが提供可能である。メール送信サービスにおいて、補償金を受領すべき権利者がいない場合にどのように処理すべきかは、そのような論点が出た際に改めて検討することになるのではないか。

有識者:
本日の主題である中期総括評価と直接関係するわけではないが、改正著作権法の趣旨を踏まえて多くの図書館が始動するために、すでに先導的役割を果たしているNDLはさらに重要な役割を果たし得るのではないかと考え、あえて発言した次第である。最後にもう一点お尋ねする。電子書籍・電子雑誌の有償のもの、特にDRMが付されているものの制度収集について、見通しは立っているのか。

NDL:
今年3月の納本制度審議会で、現行の制度の枠組みを活用しながら、有償またはDRMが付されたオンライン資料の制度収集を行うにあたって補償すべき費用等について答申をいただいた。NDLとしては、最速では、来年の4月以降の通常国会で、国立国会図書館法の改正をしていただけることを目指している。さらに、その後非常に順調に進めば、令和5年1月の施行が目標である。それを進めるうえで大きな論点となるのが、営利企業で構成される組織が運営するリポジトリを収集除外とする件である。無償のオンライン資料の制度収集においては、大学、国立情報学研究所、科学技術振興機構等が構築・運営するリポジトリで公開している資料については収集対象から除外しているが、有償のオンライン資料についてもこの枠組みを踏襲するという考え方が答申で示された。長期に保存され、アクセスが保証されるリポジトリとして認定できるものの条件について、NDLと出版者の間で共通理解を形成することが重要なポイントとなると考えている。

有識者:
今後、それが評価の指標にも反映されていくのではないかと考え、あえてこの場で質問させていただいた。
中期総括評価(案)に色々と意見をいただいた。この意見を反映した資料が、NDLから後日送られてくると思うので、それをもって了承としたい。

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