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インキュナブラ小辞典

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縮約形 (contraction) と略字 (abbreviation)

中世写本では、筆記の節約のためしばしば名詞や動詞の綴りを短くしてしまうことが行われました。混同が起きないよう、「−」や「〜」、「o」などをアルファベットの上部や中に書き加えて識別したりしました。略す方法としては (1) 単語の冒頭を残して後を省略する (truncation) 、 (2) 単語の中間を省略する (contraction) 、 (3) 「−」や「〜」、「o」を加えて省略されている場所と文字を示す、 (4) 単語の末尾に記号を付けて語尾を省略する、 (5) 単語を別の記号で置き換える等が行なわれました。ヴァリエーションが非常に多く、18世紀の古文書学者J. L. Waltherが略字の辞書を作成して以来、A. Chassant、A. Cappelli、A. Pelzerといった人たちが様々な事例を集めて辞書を作成しています。

縮約形と略字

インキュナブラは写本をそのまま印刷しようとしたものですので、これらの略字縮約形もそのままの形で印刷され、そのために、アルファベットに記号の付いた活字やアルファベット以外の活字も作られました。左図はライプツィヒのC.カヘロフェンのTyp. 3と呼ばれる活字のうち縮約形略字のために作られたものの例です。

以下ではこれらの縮約形略字の例を見てみましょう。

  • Quiaの略字はQuiaの略字であり、Quareの略字はQuareの略字です。
  • 母音の上に−の付いたamまたはanの略字emまたはenの略字imまたはinの略字omまたはonの略字umまたはunの略字は普通、それぞれの母音の後にmまたはnが省略されていることを示しています。例えばa、m、amまたはanの略字でamenを、c、umまたはunの略字でcumを表します。
  • 子音の上に−の付いたgの前後に文字が省略されている字mの前後に文字が省略されているm字nの前後に文字が省略されている字pの前後に文字が省略されている字qの前後に文字が省略されている字rの前後に文字が省略されている字はそれぞれの子音の前後に文字が省略されていることを示しています。例えばa、gの前後に文字が省略されている字、iでaugustiを、b、mの前後に文字が省略されている字でbeatumを、d、nの前後に文字が省略されている字、iでdominiを、t、pの前後に文字が省略されている字、sでtempusを表します。特にpの前後に文字が省略されている字はpr (a) eを、qの前後に文字が省略されている字はquaeを、rの前後に文字が省略されている字はreを表していることが多く、例えばpの前後に文字が省略されている字、t、eでpreteを、qの前後に文字が省略されている字、d、amまたはanの略字でquaedamを、rの前後に文字が省略されている字、sでresを表しています。
  • ergoの略字はergoの略字ですが、ergoの略字、s、s、oでgrossosを表すような使い方もあります。
  • quoの略字はquoの略字で、quoの略字、dでquodを表します。
  • dicitの略字はdicitの略字ですが、dicitの略字、i、eでdivinaeを表すような使い方もあります。
  • hicの略字はhicの略字ですが、hicの略字、tでhabetを、p、hicの略字、eでphilosophiaeを表すような使い方もあります。
  • lis等の略字t、a、lis等の略字でtalisを、lis等の略字、rでlegiturを表すような使い方がされます。
  • treの略字はtreの略字で、treの略字、sでtresを表します。また、語尾では-terの略字です。
  • terの略字はterの略字で、terの略字、r、eでterreを表します。
  • utの略字はutの略字です。
  • perまたはparの略字はperまたはparの略字で、perまたはparの略字、eでpareを、perまたはparの略字、m、perまたはparの略字でparumperを表します。
  • proの略字はproの略字で、proの略字、b、a、tでprobatを、proの略字、b、emまたはenの略字でprobemを表します。
  • papaの略字はpapaの略字ですが、papaの略字、lis等の略字、oでpopuloを表すような使い方もあります。
  • propterの略字はpropterの略字ですが、propterの略字、eでpropeを、propterの略字、hicの略字、aでprophetaを表すような使い方もあります。
  • quiまたはquodの略字はquiまたはquodの略字です。例えばquiまたはquodの略字、dicitの略字でquoddamを表します。
  • quamの略字はquamの略字で、quamの略字、v、i、sでquamvisを表します。
  • queの略字はqueの略字で語尾で使われます。例えばquiまたはquodの略字、queの略字でquodcumqueを表します。
  • quoqueの略字はquoqueの略字です。
  • etの略字はetの略字です。
  • rumの略字は語尾に付けてrumが省略されていることを示します。
  • comまたはconの略字、あるいは、usまたはisの略字は冒頭の場合はcom又はconの略字であり、語尾の場合はus又はisの略字です。
  • usまたはumの略字は語尾につけてus又はumが省略されていることを示します。

以上、C.カヘロフェンのTyp.3と呼ばれる活字から縮約形略字の例をみましたが、インキュナブラではこれ以外のものも使われています。それらについては、A. Cappelli: Lexicon abbreviaturarum; dizionario di abbreviature latine ed italiane (1929. 6.ed.1990) をご覧ください。

なお、「インキュナブラ・コレクション」で紹介している「アリストテレス『問題集』」の冒頭部分を略字なしで記述すると、以下のようになります。

Incipiunt Propleumata Arestotelis.
[O]Mnes hominess naturaliter scire desiderant scribit
Arestoteles princes philozophorum primo metha=
phisice cuius causa potestas redidi talis Quia omne ens na
turaliter appetit summa perfectionen et similiter conatur se associare
primo enti diuino et immortali inquantum potest. ut quia scientia
est de perfectione intellectus humani. ergo omnes hominess na=
turaliter scire desiderant. Rursus et alia ratio est. Nostra quodcumque
ens naturaliter appettit bonum vt se conseruare potestas in rerum na=
tura. sed quia omnis noticia scientifica est de numero bonorum ho=
norabilium vt patet primo de anima. ergo naturaliter omnis
homo scire desiderat Et ex consequenti omnis scientia inquantum
intellectui humano est possibilis est adquirenda. Quamuis
igitur quelibet scientia sit perserutanda magis tamen illaque est
nobilior et communior alijs scientijs. sed quia philozophia na=
turalis confert maximas delectations vt patet. quarto Ethi=
corum. ergo preceteris scientia philozophica diligencius est in=
quirenda Etiam propter alias causas Nam presens scientia est
filiaris scientie naturali quir ipsa clarificat animan ipsa facit delec=
tari in hoc seculo. vt dicit Arestoteles in libro de pomo et
morte qui etiam intantum clarificat hominen vt ipsum primo enti
diuino et immortali assimilari laborat. teste seneca in epistola in
talia prorumpens verba Hoc mihi philozophia promittit vt
sumopere me deo parem reddit Libet igitur de animalibus corpora=
libus presertim de corpore humano ex pluribus artificialibus
codicibus propleumata colligere Et est primum tale.
Queritur quare inter omnia animalia homo habet faciem
versus celsum eleuatam Respondetur multipliciter. Primo Quidam
est ex voluntate ipsius creatoris et quamuis illa responsio
sit vera non tamen videtur valida in propositio. quia sic facile
est omnia soluere Secundo respondetur quod omnis artifex opus
suum primum facit deterius. et post hoc opus suum secun=
dum melius et sic deus creauit bruta animalia primo. qui=
bus dedit faciez de pressam ad terram inclinatum. Et secundo
Aij
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