レイス法案(邦字紙記事)

A Lei Fidélis Reis (artigo publicado em jornal de língua japonesa)

The Reis bill

(1)はレイス議員の法案提出時の内容紹介記事。(2)は法案に対するサンパウロ州選出議員の反対演説の内容紹介記事。(3)は同法案が付託された農工委員会委員のジュアン・デ・ファーリア議員の法案に賛同する旨の意見書の内容紹介記事。(4)は、その後農工委員会からは修正された法案を送られた財政委員会のオリベイラ・ボッテリョの日本移民に好意的な報告書の内容紹介記事。ボッテリョが報告者に指名されたのは、田付七太大使による財政委員長アントニオ・カルロスへのロビー活動の成果だという(「移住四十年 邦人社会の生い立ちを語る座談会」『時代』1948.6 p. 69)

黒人の入伯を禁じ
 黄色人種は現在
  在留員数の三歩
  に限らうとの移民法案
 連邦下院へ提出さる

    人種問題


『伯剌西爾時報』大正12年10月26日

 ミナス州の選出代議士フイデリス・レイス氏は連邦下院に

第一条 政府は農夫として伯国内へ移住せんとする欧洲農業者家族の誘入を計り又補助する事を得
  別項 此の為労働通商条約を結び連邦及州により補助を受け或は受けざる移民の出国を許し又容易ならしむる諸国に対し関税上の利得を提供する
第二条 政府は入地した移民の数の割合で移民入国を増長せしむる為の費用の分担について各州政府と協定する
第三条 管掌事務の効果を最大ならしむる為拓殖局官制を改正する
第四条 国民の人種精神及体質形成有害と思考する要素の入国を防ぐ為其出発地の如何に拘らず来伯移民に就き厳重な監督をする
第五条 黒色人種の入伯は禁止され黄色人種は国内に於ける其国人数の三歩に相当する人員の入伯を許す
第六条 政府は本法施行の為必要な経費の支出をなすを得
第七条 本法に抵触する規定は之を無効とする

と云ふ意味の移民法案を提出し去二十二日の本会議で其説明をしたが其に依ると『伯国の国力発展は主として人口の増加に依らねばならないが、連邦としても又ミナス州代議士としても黒人の入国に対しては戦はねばならぬ、移民問題と云ふよりは拓殖問題は精神、人種、政治、社会、経済等種々の方面から考へねばならぬ[、]単に経済上の見地のみから見たのではいけない、黄色人種移民は人種擁護と云ふ点から世界諸国で排斥してゐる通り反対である。』と云ふやうな事から更に人種退化に就てのユウクリデス・ダ・クーニャの言葉を引いて黒人植民の悪結果を論じ、美しい希臘系の後裔を植民せしめる事に依り人種型の改善を期する事が出来ると主張した、

 すると議場の各方面から黒人種や其混血人の特点を挙げ彼等を讃美した半畳を打ち込まれたが猶ほ声を強め黒人の血から出来た人種の大部分は酒や栄養不良や衛生智識のない事やらで瘠せたせいのヒヨロ高い元気のない伯国人の精神体格を表徴してゐる事に屈せなければならない、かうした塲面を前にしてはどうしても優良な種族の移民の流を招致して国体と云ふ最大問題を考慮しなければならないとの意味を論じた


伯国に万里長城は築けぬ
  日本移民制限どころか
    増加さすべきだ
     と聖州上院の
      日本移民擁護獅々吼


『伯剌西爾時報』大正12年11月2日

前号報道の通り十月二十二日の連邦下院にミナス州選出議員が黒人の入伯を禁じ黄色人種の入伯を制限した移民法案を提出した事ははしなくも黄色人種としての四万の同胞を抱擁する聖州の有識正義の士を奮起せしめ二十六日の州議会上院に日本移民擁護の獅子吼としてあらはれ連邦下院に対する抗議請願となつた

 緊急の討議日程もないと云ふので議員バドウア・サアレス氏はヂヨルヂチビリサア議長に発言の許を得、此日初めて登院補欠新選議員カバリヤル氏を迎へて祝福した後、問題の黄色人種入伯制限法案の連邦議員通過せしめざる為の抗議請願をなす為演説をし、遠い国から異国の地へ幸福と成功とを求めて来る者を呼寄せる為、今日迄最も強い引力を有してゐた聖州は此問題を黙視は出来ない、

 当州の農業発展を助けに来る労働者を引続いて受け入れる事の出来なくなるやうな法案が連邦下院を通過するを阻まうとするは当州の分に過ぎた事ではない、若し伯国ブラジルが豊富な労力を有してゐるなら自国民に仕事を与ふる為外来者制限も出来るだらうが、この広漠な伯国土はその人口の不足を感じてゐるではないか、

 新法案中には黒人種の入国を禁じ黄色人種は年々其国内在留人数の五歩に当る数に制限しやうとしてゐる、所で今日迄日本移民を抱擁して来た唯一の州はサンパウロ州で従て本州のみが新法案に抵触する事となるのである、

 さて黒人入国禁止は今日何等急を要すべくも見へない、何故ならどこからも黒人移民が流入すると脅かされてはゐないからである、然し聖州発展の為非常に大なる貢献をして来た黄色人種に対し、欧洲人でない移民を入れないやうにしやうとの政策はその如何を問はず不当至極のものである、欧洲移民がその労作を以て伯国富増進に与つて大なるものと云ふが事実なら其他諸国から渡来した移民亦等しくその労作により、紀律正しい行為に依り聖州の進歩開発の一部に貢献した事も真実である、

 此意味で禁止策を討議するなどと云ふは時機でない[、]どこの国籍の移民でも充分抱擁し得る伯国の広大 殊に伯国は国土の広漠なる為に殆ど無限のそして未知にして開発されない天恵の富源があるのだから、如何なる国籍の移民でも十分に抱擁し得る、だから国運の発達に対する他国民の協力を妨げんとする策に同意してはならない、

 伯国は労力を必要とするのだ遠き距離をも恐れずして此国を慕ひ来て物質上及精神上の進歩に伯国民と協力しつつ自らの運命を開拓しやうと云ふ者を排してはならない、其が欧洲人だらうが、米国人だらうが将又亜細亜人だらうが何でもいい労働者を必要とするのだ、米国は散々黄色人の労力を利用した後に投り出した、日本人や支那人に対して忘恩者である、伯国ぶらじるはそんな事は出来ない、

 現時米国は世界各国から資本家であれ労働者であれ寄りつどうので、人口激増から自国民との競争を避けしむる為外国移民入国を制限するを賢なりとした[。]然し伯国の状態は全くそれと相違してゐる、ブラジルは外国人の労力を必要とする新国家である移民が国運発展の為利用し得べき要素たる以上其を受入れる事をやめる事は出来ない、

 又新法案には通商条約中に移民問題に就て触れやうとしてゐるがそれは駄目で、移民を引き付けるには労働法規を完備して彼等に慰安と懇切と保証とを与へねばならぬ、為替もよくしなければならない、

と云ふ意味を述べ最後に好ましからざるものでない移民の入国制限に反対して連邦議会に抗議されたい、との請願を提出して直ちに可決されたが、此の日同院各議員は皆日本人の為に味方して誠意を示し、サアレス氏の演説は終始喝采を以て迎へられ、或はジヨアン・サンパイオ氏は日本移民は実に賞讃に値すと云ひ、エドアルドカント氏は米国は日支人に大恩ありと叫び、ジヨアン・マルチンス氏は吾人の経済上吾人は却つて日本移民の渡来を増加せしめねばならぬと声援する等其他諸員の発する声援一つとして日本人に不利なものはなかつた、

 請願可決後カルロス・ボテリヨ氏はチビリサ氏が州統領の時農務長官として伊西両国が伯国行移民の門戸を鎖ぢたので初めて日本移民三千人を迎へた事から説き起して、農業移民として日本人の優良なる事を高唱し伯人の賛辞を受くる価値あるを述べ続いてフオンテス・ジユニオル氏熱弁を振つてイグアペのリベイラ沿岸地帯が日本人により見違へる程大発展した事を力説し、日本人が醜いと云ふは下らぬ感情だと説破し、今回の震災義捐団が募集金を聖州品に替へて送つた行為を賞揚し、ジヨアン・マルチンス氏又イグアペに於ける日本移民の功労を賞する等新法案ははからず州上院対日感たいにちかんを知る試金石となつた


正義の声
馬買う金を惜しみ
      徒歩する日本移民
       仕事は立派だが落ち着きがない

    人種問題4


『伯剌西爾時報』大正13年2月15日

 例のフイデリス、レイスの新移民法案が昨年末連邦下院の農務委員会に廻つた時聖州選出議員ジヨアン、デ、フアリア(フランサ郡在住農業家)は同案を賛成した意見書を提出し委員会の協賛を得た。かくて同案は今年の議会に又論議される事だらうがフアリア代議士意見書中日本人に関して本文のやうな一節があつた。

 伊太利移民を賞讃し其増加の為積極的方策を採るを要すると説いてから『最近サンパウロは欧洲農民移民が不足した為耕地の滅亡を恐れて絶望的に日本移民流入を契約し、日本人はその富裕なる州内多数の耕地へ撒布されるに至つた。

 其母国との距離の大なる為に高価な移民たる日本人は、サンパウロ耕主の気に入らなかつた。彼等の言語は吾人には全く不可解であり、風習は吾人の其に対し非常な差異あり、体格容貌はあまり立派でなく、吾人には奇異に思はれる道徳律を有し、そして契約を履行しないと云ふ事が特性である、一般に日本人は支払を受けると夜間一団となつて耕地から逃亡する。彼等は適当に其住宅を整理せず、劣悪な寝具にくるまつて板の間に眠り、鶏や豚を飼養しやうともせず、総ての農民が理想とする乳牛一頭所有せんとも計らず、馬を買う金を惜しんで徒歩し、入浴は又男女入り混つてお互ひに湯をかけ合ふ、と云ふ具合なので家屋は不潔で、全く浅ましき状態にあつたので、耕主はぢきに之等移民に疑ひを懐いた。

 彼等が稼いだ金は皆土地の購求に宛てられ、皆一定の場所へ行つて仕舞つて、特別に部落を作つて生活するのを見た時、何故彼等は家の周囲に草木も植へて其住宅をよく整へる事を欲せず、家畜の飼養をもしなかつたかと云ふ事がよく判つたのだ。今日サンパウロにはイグアペ地方やリオ、フエイエ及ジヤカレーの各所に彼等の大集団がある。

 珈琲耕地に於ける日本人の仕事は、珈琲樹園の掃除でも、其裸粒の採集にでも最も優等なる事を示した。然しその耕地に留まる事の極めて一時的なる事は、政府の活眼を開かしむるに役立ち、かくてサンパウロで必要とするのは珈琲農業上の労力にあるので、土地の開拓植民者ではないと云ふ点から、此の日本移民に対し最早考慮しなくなつてしまつた、何故なら耕地は既に好く植民されてあり、未開拓地は将来の為の保存となつてゐるからである。』

 と述べ聖州上院に於けるバドア、サーレス氏の日本人弁護説は錯誤なりとし、日本の強大なる軍国たる事から畜産界に於て其産物の優良なるものを得る為には種畜の優良なるを択ばなければならぬと同様に、構成せんとしつゝある国人型の為に、伯人と同等又は以上の優良人種を植民者として迎ふべきで、黒人との混血に大なる犠牲となつた吾人は此上劣等要素の血に依り損害を受けたくない、千九百七年のリオ州政府と水野龍氏との間に結ばれた同州海岸地方に日本人米作植民地設立契約の実行されなかつたのも同州政治家等が之等の理由を考慮して其実行を妨げたのかも知れぬと云ひ、聖州三農界の回答決議を外し(既に其当時本紙に報道した)、直に国人型改善上聖州が日本移民を招来した事は最大犯罪だと罵つた医科大学長ミゲル・コウト教授の言を引き、日本人擁護者は其主張を第一、其性質の温良同盟罷業をせず権威者をよく尊敬する、第二日本は人口過剰に苦しんでゐる、その国外に活くる道を求めんとする者に宿を与ふるは人類愛上義務である、第三、連邦憲法は平時内外人の伯国に自由に出入し得るを許してゐる、との三点に置くがと一々之を反駁して極力日本人入国を制限する事の至当なる事を説いた。


連邦議会に於ける排日法案
   「ボ」氏の親日的修正説

                   臨水生

『聖州新報』1925年7月17日

 予て昨年末以降例の排日条項入り移民法案(フヰデリス、レーイス案にして昨年已に連邦下院、農務委員会を通過せるもの)に関する連邦下院財政委員会報告委員の任を負ひ来れる「オリベイラ、ボテッリョ氏は去る七月八日上記委員会(ボテッリョ氏報告聴取のために特別に招集せられたる)席上に於て頗る長文に亘る報告意見を開陳るが今左に取敢へず其極く大要を紹介せば如次

 「ボ」氏はその昨年十二月なせるサンパウロ州及び三角ミナスに於ける日本移民の実状視察旅行に就て聞見及び所感を詳述する処ありたる後一九二三年に於けるサンパウロ州在住日本人六千三百六十八家族の生産額は実に五万九千五百四十七コントスなりと述べ、且これ等の数字は実地視察の現場並に日本領事舘等に於て得たるものなるを以て数字自身已に頗る雄弁に事の実況を語るのみならず、同時に亦異議を挿む余地なからしむるものなりと附言し、

 転じて農務委員会に於て可決せる「ジヨアン、デ、フアリア氏」修正意見中日本人の自由入国反対に関する部分に就て一々詳細に点検バク論以て完膚なからしめ、更に北米及び伯国に於ける人型問題に関し之れ亦委に亘り細を穿ちて論述し、或は又日本人の建設にかかる小学校の統計を示してサンパウロ州に於ける日本移民が子弟教育に如何に熱心に真剣なるを高調する処ありたる後、結論に入りて[曰]く

 「日本人は伯国奥地在住人の一源種族たるを以て如斯有益千万なる分子の来伯は大いに勧奨するの一途あるのみ。

 これ蓋し日本人は農民として優秀な[る]のみならず、伯国現下の致富に貢献し併せて将来に於ける伯国の偉大、隆昌並に令名をヨウ護すべき天晴れなる人種の再現に与つて力あるべきを以てなり。

 即ち予輩は現法案より黄色人に対する第五条の制限を削除し黒色人に対する禁止を存続せしめんと欲するものなり。

 惟ふに黒色人に対しては已に吾人は人道上の義務を果せるなり、伯国内の黒色人及其子孫に対してのみ是等をば伯国市民として享容するの義務を全うするに吝ならず

 然るに他外国より来入するものに対して[は]大に然らず、而して吾人はアフリカより来る無邪気にして単純なる黒人の入国を許す可からざるのみならず、不断の侮蔑に因る憤恨やる瀬なく、報復の念に白熱化し居る黒人をも歓迎することを得ざるべし、世の中は風を起せし者こそ須らく暴風雨に善処すべきなり。

 か[か]るが故に予輩は以下の修正を提議するものなり、即ち第一条、第三条及び第三条第三項並に第六項より「欧州人」なる語を削除し、第五条より「而して黄色人に関して」以降同条末尾に至る語句を削除すべし」。

 由是観之「ボ」氏は日本移民をば欧州移民と全く同等の待遇下に措かむとするものにしてコレゾ正しく人種平等の大哲理に適合せる誠に完美なる修正案なりといふべし同時に伯国中央政界にかかる正義人道に厚く且徹尾的の親日議員の存在を見るは吾人の大いに幸福に感ぜざる可からざる処なり。