海外興業株式会社設立の目的

Os propósitos do estabelecimento da Sociedade de Desenvolvimento Internacional

Purposes of the establishment of the Kaigai Kogyo Kabushiki Gaisha (Overseas Development Company Limited)

勝田主計(しょうだ かずえ)大蔵大臣は、この講演で東洋拓殖株式会社法の改正と海外興業設立の目的を説明している。採録にあたり句点を読点とし、改行を加えた。

海外発展に関する勝田大蔵大臣講演(大正七年八月六日日本植民協会夏季講習会ニ於テ)

 

……海外発展とは抑も何かと云へば申すまでもなく人間が出掛けて行く、或は其の人間が出掛けて行くのが移住となり植民となる是だけを海外発展と云ふことは出来ないのである。海外に対する投資と云ふものが伴はなければならぬ。海外に人間が行つて投資が出来る。茲に初めて基礎の確立した所の海外発展が出来るのである。人間が行くだけで出来ぬのである。此の点に付て先づ考へなければならぬのは帝国として海外発展をするには、然らば何れの方面にするかと云ふことを先決問題として極めなければならぬ。我新附の領土であり或は台湾樺太或は朝鮮、斯くの如き所は勿論である。尚ほ満蒙の方面或は支那、斯様な所は即ち帝国臣民の発展すべき所の自然の運命を持て居るのである。又眼を転じて見れば南洋の如き或は南米の如き場所も帝国の臣民が自然に発展すべき所の運命を持つて居ると申しても宜しいのである。斯様な方面は先づ此帝国臣民が発展を致して行くべき所の方面である。此方面が既に私の申し上た如きものと致しますれば、之に対応する所の施設を致さなければならぬ。「其施設とは何か即ち植民を致すこと此の施設、又は投資を致すこと此の施設、是である」。先づ此の海外に投資を致すに付ては、極めて簡略に政府の施設を申せば此満蒙地方に於ては……(中略)

 翻つて南洋或は南米の方面に於ては何うか。是も機関と致しましては今日稍々整つて居る。是は政府に於ても見る所あつて間接直接民間の事業を援助して相当の施設を致して居るのであるが、然れば南洋の金融機関は何う云ふものであるかと云へば……(中略)

 南米の方面は如何。是は金融機関等に付ては未だ完全ではない。併しながら此方面も正金銀行から或はブラジル或はアルゼンチンと云ふやうな方面に於て支店或は出張所を開始して貿易の便利を図ることが目的であるのみならず移殖民に対しての便宜を図らむとする手段を講じつつあるのである。茲に特に申し上げましたことは間接に殖民との関係を持つて居りますが、直接に殖民との関係を持たぬかの様に諸君は御聞き取りになるだらうと思ふが直接に此移殖民に関係を持つことは政府の施設又民間の仕事としては東洋拓殖株式会社の改善並に茲に御出になる神山君の従事して居られる海外興業株式会社の組織のことである即ち其の途は同じものである。

 昨今東洋拓殖株式会社の法規を改正して議会の協賛を得ましたが、其の趣旨に於ては色々のことがあります中に此会社は広く移民会社の株券を持つ或は債券に応募すること等の権能を与へたのである。是は今日は未だ改正以来浅くして有効には働いて居らぬが、兎に角働き得る基礎は是で出来たのある。

 此点に於ては東洋拓殖株式会社と云ふものは只朝鮮満蒙に於て働くのみではないのである。或は南米に於て或は南洋に於て仕事をして居る移殖民会社或は移住民に対して出来得るだけの便宜を与へる権能を持つて居るやうなことになつて居る。

 そこで是等の権能を活動せしむる手段方法に付て民間の移殖民に関係される方々と御相談を致して将来移殖民会社が諸君の御承知の通りに相互に相対立して居つて是で帝国の利益が図れるかと云ふと全然図れぬでもあるまいが、所期の利益を得ることはなかなか出来ない。又移殖民会社なるものは只移民を積み込んで行つて其の手数料を取ると云ふことで決して満足して居られるものでないのである。其移殖民が移殖民地に行つたならば其の土地に永住し得る所の職業を得る。斯様にならなければならぬ。それには即ち此殖民に対する投資が必要である。此の資金を得ることに付ても小さい会社が沢山分立して居ることは到底不可《いか》ぬのである。矢張り茲に一の大なる会社となつて其の信用に依つて大なる資金を得て此移殖民を活躍させると云ふ寸法にならなければならぬ。是は申すまでもないことである。

 そこで移殖民会社の方々の意見も参酌して、私共も間接に其相談にも与りまして、海外興業株式会社と云ふものが出来たのである。此の海外興業殖民会社と云ふものは出来たが遺憾ながら全部の移民会社は合併致さなかつた只一つ残りました六つばかりの中、五つは合同致して之が即ち海外興業株式会社と云ふものになつたのである。

 さうして海外興業株式会社が移殖民をやるといふことに付ては、其合併しただけで宜しいのであるが、之が資金を得ると云ふことになると海外興業株式会社の現状では不可なかつたのである。それ故に此中に東洋拓殖株式会社と云ふものを株主として加へる、東洋拓殖株式会社なるものは先刻申しました通り法律に於て附与されて居る所の移殖民に対する金融の権能を持つて居る、之が株主に為つて居る、既に東洋拓殖株式会社と云ふものは其の権能を提《ひつさ》げて自から進んで海外興業株式会社の株主となつて居る是は差当り移殖民が出来れば移植民に給する資金も出来ると云ふことになつたならば又多少の海外投資も出来ると云ふことになる。併し是も尚ほ考へて置かなければならぬことで、若し此海外投資と云ふことをする際には兎に角日本では総べて規模が小さい。海外に於て投資をせんとする場合には規模が大きい。規模が大きいからして資金も余計要する。斯う云ふことになる。

 此海外興業株式会社に東洋拓殖株式会社がくつ付いて居るだけでは其働きを充分に為すことは出来ぬ。茲に於て海外興業株式会社は又南米に於ては正金銀行、南洋に於ては台湾銀行或は是等の一般の地方に対して興業銀行とか言ふ矢張有力なる銀行即ち金融機関と相提携して働いて行く。斯う云ふ仕組みなつて居る。それ故に今日海外興業株式会社と云ふものが創立以来日浅く未だ顕著なることはないやうであるが、要するに此の膳立と云ふものはちやんと出来て居る之を理想の如く動かし、有効に働かしむると云ふことは即ち茲に御居でになる神山君の双肩に掛つて居る。同君の将来活動に依つて是等が好く動き終《をは》せば即ち帝国の殖民政策と云ふものは大いに人意を強うすることが出来ることになるのである。斯様な次第になつて居る……