史料にみる日本の近代 -開国から戦後政治までの軌跡-

[Douglas MacArthur's Letter to Prime Minister]

<参考> [Douglas MacArthur's Letter to Prime Minister]

※ この翻訳テキストは、吉田茂,マッカーサー〔著〕、袖井林次郎編訳『吉田茂=マッカーサー往復書翰集:1945-1941』(法政大学出版局,2000)<当館請求記号A99-ZU-G70>pp.325~326からの転載であり、書式等の点で展示史料と一致しない部分があります。



一九五〇年六月六日
日本国総理大臣吉田茂殿
親愛なる総理
日本国民がポツダム宣言に基づいて負っている義務を果たすよう日本国民を援助するのは占領軍の根本目的である。その日本国民の義務のうち最も重大なものは日本に平和と安全保障と正義の新しい秩序を建設することであって、右の基礎の上にはじめて平和を愛好する責任ある政府が確立されるのである。この目的のために日本政府はポツダム宣言中で特に『日本国民中の民主主義的傾向の強化をはばむすべての障害を除去すること』を要求されている。
この条件は極東委員会によって確定され指令された連合政策の基本的目的として推進されて来たものであって、この必要条件を充たすために日本政府の構造が改められ、民主的でない法律や諸制度が改変され、過去の関係からみて引続き影響力をもっていることは民主主義発展に有害だと考えられる人々はみな日本の公職から追放された。
いままで占領軍の指導原理は「処罰」ではなくして「保護」であった。その目的として来ったもの、また実際に効果を挙げてきたところは日本を民主化せんとする連合国の政策の目的が反民主主義的分子の影響と圧力によって阻害されるようなことがあってはならないとの保障を提供するためのものであった。この措置が適用される範囲は主としてその地位と影響力とから見て、他民族の征服と搾取に日本を導いた全体主義的政策に対して責任を負うべき地位にある人々に限られてきた。
ところが最近にいたり日本の政治には新しく右に劣らず不吉な勢力が生まれた。この勢力は代議政治による民主主義の線に沿って日本が著しい進歩を遂げているのを阻止し、日本国民の間に急速に成長しつつある民主主義的傾向を破壊するための手段として真理をゆがめることと大衆の暴力行為をたきつけることとによって、この平和で静穏な国土を無秩序と闘争の場に転化しようとしている。
彼らは一致して憲法にもとづく権威を無視し、法と秩序による行動を軽視し、虚偽や扇動その他の手段によって社会混乱を引起し、ついには日本の立憲政治を力によって転覆する段階をもち来らすような社会不安を生ぜしめようとしている。彼らの強制的な手段は過去の日本の軍国主義指導者が、日本人民をだまし、その将来を誤らしめた方法と驚くほどよく似ている。そして彼らの目的がもしも達成されたならば日本を今度の戦争よりももっと悪い災害に陥れることは間違いない。彼らの法律を無視する扇動をこのまま放置するということはいかに初期の段階にあるとはいえ、連合国の政策目的と意図を直接否定し、これによって遂には日本の民主的諸制度を抑圧する危険があり、日本の政治的独立に対する好機を失わしめ、日本民族の破滅を招く危険があるのである。従って私は日本政府が次にのべる日本共産党中央委員全員を公職から追放し、私が一九四六年一月四日付で公布した禁止、制限、責任に関する指令(スキャップ指令五四八号ならびに五五〇号)とその付帯条項を彼らに適用するために必要な行政措置をとることを指令す。
袴田里見、長谷川浩、伊藤憲一、伊藤津、亀山幸三、神山茂夫、春日正一、春日庄次郎、紺野与次郎、岸本茂雄、蔵原惟人、松本一三、松本三益、宮本顕治、野坂龍、野坂参三、佐藤佐藤治、志田重男、志賀義雄、白川晴一、高倉輝、竹中恒三郎、徳田球一、遠坂寛

敬具
ダグラス・マッカーサー
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