史料にみる日本の近代 -開国から戦後政治までの軌跡-

[国会解散を要求する演説草稿]

[国会解散を要求する演説草稿]

※テキスト化作業者が施した注記は、〔作業者注: 〕の形で入力しています。



【1コマ~5コマ】
浅沼稲次郎
お互の愛する日本は今重大なる問題ぶつかって居ります。日米安保条約の改定をめぐって戦争か平和かレイ属か独立か重大な岐路にぶつかったのであります。われわれの反対にも拘らず条約の改定交渉調印となり衆議院で審議が行われたのでありますが、審議すればする程、戦争の危険性、国民の生活と人権の蹂リンされる危険性、更には憲法改正、再軍備、徴兵令、兵役の義務、徴兵検査、軍隊生活、在郷軍人会、招集令と云った様に軍国主義日本が再現される危険性が濃厚になって来た。それでわが党は慎重審議を要求して来たのであるが、五月十九日には安保改定特別委員会において委員長の不信任案が提出され、更に何等質問の打切、討論[討論]打切等がなされないに拘らず、自民党が万才を叫んだらそれで委員会通過となり。五月十九日廿日に清セ議長、岸内閣は警官を五〇〇名動員し本会議場には日本社会党、民社党、共産党も一人も入らず自民党有力幹部も退場したにも拘らず会議を開き、自民党だけの単独審議で会期の延長、新条約も裁決されたと称して居るのであります。
更に五月廿五日参議院においては自由民主党と準与党である同志会四名で会議を開き「会期の延長」を議決して居ります。五月廿七日は自由民主党だけで本会議を開き、太平洋沿岸の津波被害問題に関し、政府と自民党の間に質ギ応答を行って居ります。
この姿は反対党の存在を忘れ、自由民主党だけ一党だけで審議をすすめる姿で正に一党独裁の姿であります。
日本の民主主義は正に破局に直面して居ります。否日本の議会政治は死滅し、岸独裁政治が始またと云って過言ではありません。
安保改定阻止運動は議会政治ヨーゴ憲法ヨーゴの運動へと発展しなければならない立場にたち、今やこの運動は全国民の運動となって展開して居るのであります。
およそその国の政治外交はその国の憲法を標準とした基準として展開されなければなりません。日本は敗戦といふ@厳なる現実の前に政治的に一大変革が行れたのであります。即ち、第 主権在民の大原則の樹立 第二、言論集会結社の自由、労働者の団結権、団体交渉権、ストライキ権等基本的人権が憲法に保障され、第三、には憲法第九条により国際紛争を解決する手段としての戦争は永久に放棄する。従って陸海空軍一切の戦力はこれを保有しない。国の交戦権はこれを行使しないと規定して再軍備せず戦争は放棄すると宣言したのであります。
従て日本の外交は再軍備は行わず、この条章を基盤として展開

【6コマ~10コマ】
されなければならなったのである。
昭和二十六年対日平和条約の会議が開かれんとした際、国民輿論として(一)全面講和、(二)軍事基地提供反対、(三)中立堅持(四)再軍備反対が提唱されたが、これは日本国憲法の下当然の要求であります。所謂平和四原則として国民が主張したのであります。然るに此の際国民輿論に反して日米安全保障条約に調印これを多数を以って承認、推進した所に問題があります。
民主政治の下においては外交は国民を背景に展開されなければなりません。日本外交の基本は何れの国とも仲良くする。何れの国とも軍事同盟は結ばない。冷戦不介入。然るに今回の日米安全保障条約の改定は、何等国民輿論を聞かず、交渉の過程に何等国民輿論を聞かなかった所に問題があるのであります。そしてアメリカとの軍事同盟を強化するところに問題があります。政府の有る可き体度は調印前に衆議院を解散し主権者たる国民の意を聞く可きであった。岸総理も多少は調印前に解散を考へたと言って居る。考へたといふなら解散すべきが当然であった。考へてもやらなければ何にもなりません。然しこの道を選ばず交渉調印、国会審議となったのであるが、審議すれば審議する程国民の疑問は増大し、各新聞社の調査によっても改定反対の比率は増大し、衆議院を解散し、主権者たる国民の意志を聞く可き条件は議会政治の立場から整って来たのであります。
即ち、第一には議会政治は院内多数決の原則は尊重されなければなりません。その多数は少数派の意見は尊重されなければなりません。亦その多数は院外多数の輿論と一致したものでなければなりません。若し反対党の意見を尊重せず国民輿論と反する多数決は一種の多数の暴力と思います。
従って院内院外輿論が一致した場合は国会を解解散して主権者国民の意見を聞くのが当然と思います。
第二には安保改定阻止の請願書は署名人一千万を越へ二千万に達せんとして居ります。請願それは国民が自己の意志を国会に反映せんとするもので、これは尊重されなければなりません。請願が増大して来た立場よりも政府は国会を解散し輿論に聞くのが当然であったと思います。
第三には新安保条約はバンデンバーグの決議の採用によって自衛力の拡大、日米相互防衛条約軍事同盟への発展することによって憲法違反の条項を内包する事となり、憲法前文に政府の行為によって二度と再び戦争の起らない様に憲法の大改正を行ふと言って居るが、岸内閣の行為によって戦争の道を歩まんとして居り実に大問題であります。斯る場合は国民投票を通じ国民の意志を聞くのが当然でありますが、現在日本にはこの規定がありません。そこで解散を行って主権者たる国民の意志を聞くのが当然と思います。
解散の条件は整って居りましたのですから衆議院

【11コマ~15コマ】
で質ギをつくし、夫々の立場、見解が明かになった時衆議院を解散するのが当然である。質問が終了後、裁決を待たず衆議院を解散、主権者たる国民の意志を聞くのが政府の取る可き体度であったと思います。
然るにこの道を選ばず五月十九日廿日に警官を導入、一党だけでアメリカ大統領アイゼンハワーの訪日にそなへて安保条約の自然承認を目途として会期を延長と、新条約承認といふ暴挙に出たことに問題があり、清セ議長並びに岸内閣の責任重大なものがあります。

〔作業者注:欄外〕
岸首相並議長は警官の導入は社会党の暴力といふが、それは事実と異るのであって=我社会党は警官導入といふこときいたからこれ阻止しろと抗ギしたのである。行動無抵抗 清セの

立憲政治に取って重大なことは責任制明かにすることにあろうと思います。自己の行動に責任を取ることと思います。
警官を導入して一党独裁の姿をなった岸内閣は総辞職するのが当然であります。その道をたどらなければ衆議院を解散、信を国民に問ふのが当然であります。
日本社会党とは安保改定阻止の建前から、岸内閣の責任を問い衆議院の解散を要求して居ります。然し岸内閣は辞任もせず衆議院も解散せず新聞、ラチオ等は国民輿論を代表せずと何等反省する色がありません。
そして更に単独審議― 一党独裁の姿を強化せんとして居ります。これは立憲政治―議会政治の正しい在り方でなく憲法に違反するものと考へ、あらゆる手段で岸内閣、自由民主党にその非を改めるやう全力をあげたのでありますが、それにも拘らず政府輿党は何等反省の実を示しません。まことに遺憾に堪へません。
社会党代議士としてはこのままの姿で国会に留まることは国民の厳粛な信託をぼうとくするものであることを痛く自省致しますので涙を呑んで一度国政の信託を国民の下に帰へし、事体の収拾の道を国民の皆様に主権者としての賢明なる才断を願いたいと考へて居ります。
政局収容の道は岸内閣退陣、衆議院解散主権者たる国民の意志による可きと思います。
今朝交通労働者を中心に四百万の労働者が起って安保改定阻止、岸内閣退陣、国会解散要求の運動が展開されたが、議会政治ヨーゴのため何等反省せざる政府に対する必然の抗ギ運動であります。政府並びに自民党が反省しなければ更に抗ギ運動は拡大してゆくと思います。
すべての問題解決は衆議院の即時解散、国民の意志を聞くことと思います。

【16コマ~19コマ】
一、現在日本の重大課題
安保―改審議           戦争 人権と生 軍国主義
一、一党独裁
五月十九日廿日 廿六日(参ギ)廿七日参ギ
一、日本の民主義の危機
死滅― 一党独裁
一、その国の外交―憲法
一大変革、三原則
一、廿五年対日平和条約―全面講和 軍事基地供反対 中立堅持 再軍備反対
外交国民を背景  国民輿論

[廿五年] → 吉田総理だけ調印
今回、国民の輿論を聞かないで
岸総理の独断で基盤をきめ
でその上に交渉して、
調印前衆議を解散
岸総理→
改定 調印、衆議院の
解散の条件
[1]議会政治、[2]請願、[3]憲法違反

議会政治と責任、
政治家に為政者は自己の言動
に責任
"安保改定阻止―反対運動高まる
"十九廿日の責任、―――
日本社会党は
安保改定阻止の建前
総辞職解散を要求して来た
これ等国民的輿論となって居り
ます。
新聞ラヂオは国民輿論を代表せず
更に単独審議一党独裁の強化
岸内閣自民党反省しない。
社会党衆議員の地位にこれ以上
@座ること国民の厳粛なる信託を
ぼうとくするものである。
痛く反省、涙を呑んで一度国政の
信託を国民の下に帰へし、
事体収拾の道を国民の皆様に主権者としての賢明な才断を願いたい。
Copyright © 2006-2010 National Diet Library. All Rights Reserved.