史料にみる日本の近代 -開国から戦後政治までの軌跡-

第五九回議会議場日誌

第五九回議会議場日誌



三月十八日(水)晴
午前十時過登院。
今日は追加予算一本にて日程を組む。依て浜口首相出席の際の質議の点を打合す。政友森幹事長は委員長報告前にやれと云ふ。そんな前例なし。結局、秋田君の斡旋により、報告後、少数意見後、質議をやることになる。
一、定刻の振鈴は首相登院のとき迄待つことにする。二時十分前にもまだ官邸を出ず。
一、午後二時二十分、振鈴此時未だ総理出席せるの報知なきもあまりに永き為、振鈴を遅らすわけにゆかず、議長は一応開会して休憩するつもりにて命令せり。恰も是、首相官邸を出つとの報告をうく。間もなく首相到着。
議長入る。
二時三十五分開会、西尾君一身上弁明。
二時四十七分首相入場。
追加予算委員長報告。武内作平君、二、五七終る。少数意見報告、山崎達之輔君、二、五七―三、四五
質疑、鳩山一郎君 三、四五
(一)憲政運用に関する問題。首相の義務を曠廃すると思ふ。1、議会には一日も首相なかるへからず。憲法上不都合。2、大臣輔弼の責任は議会に対する責任なり、質問権に対し答弁の義務あり如何。3、国務に自ら当ると称し乍ら肉体的に議会を否認すると思ふ其所見如何。
(二)議会中長期に亘り臨時首相を置きたることは憲法の大義を紊るものと思ふ。
1、内閣存立のきそは首相に在ると思ふ。永く自ら政治の衝に当らさる事は不都合。
2、臨時首相代理の根拠は内閣官制八条によると幣原氏答へらる。不都合ではありませんか。憲法五十四条には何時たりとも出席発言の義むあり。首相は更に其義務あり。八条だけでは可なりとすることあまり薄弱にあらずや。
3、幣原首相代理の行為は浜口首相責任を負ふと答へる。法的根拠は同一内閣であると云ふ以外は答弁せす。連帯責任共同責任と事実とは違ふ。
4、幣原氏は臨時代理は永く置ては弊害ありと認むと云ふ。一年もつづく事は不都合と云ふた。会期中休んだこと一年休んだことにならぬか。
浜口首相、四、〇〇―四、〇八
(一)1、私は左様には考へぬ。議会には一日首相なかるへからずは同感。偶々、欠席は已むを得す。
2、声明の文句が議会否認の文句はないと信する。
(二)1、長期に亘る点は本会議に於て委員会に於ても幣原氏より充分に弁明してある
2、それに依て承知を願ひたい。法理上の根拠は第八条がある。政治上の根拠は臨時代理の説明したる通り。内閣は同一性を持つている。
3、浜口氏が責任を負ふ。明瞭に御答へしておく。
4、一年間は言葉のあや。
鳩山一郎君 四、〇八 不登院は不登院。憲法の大義を紊す事は出来ぬ。諸氏は不満足の意を表す。
首相答弁せず。
大口喜六君 四、一五―四、二五
浜口首相、 1、其窮状は之を認む。自ら原因あり。世界的不景気なり。

2、政府の見る所か正しと信する

3、財政概計表は完全とは思はす。明年度は行財政の整理をする。

2 大口君 四、三〇 1 金解禁の点
2 財政才入の見積違ひの点
3 公債政策 非募債主義がやぶられた如何。
4 庶民金融、七千万円内四百万円丈貸付。

浜口首相 四、五七 1、@金が出たら金解禁をするとすれば、見込がつかぬ。
3 大口君 今意見に対しては答弁希望。 首相、答弁 最後のときは顔色悪くなる。
直ちに 午後五時二十二分休憩。首相議長応接室にて休憩。各大臣は六時頃皆大臣室に引上げ
午後六時二十五分 各派交渉会開会(議長召集)
議長 議長席より見ると首相は苦しそうな状態であつた。声もかすれて来た。三回目のときの如きは苦しそう。勤め得るかどうかと思つたので休憩した。更に現実の事情に対して協議してもらひたい。
森君 首相は質問応答に堪えないと云ふ観察からか、休憩して転換策を講ぜねばならぬと思つて休憩したのか。
議長 絶対に堪えぬとは思はす。
森田君 疲労もあらうから声もかれてくる。依て一次休憩を議長に求めた。議長もそう見て宣告した
島田君、野党側から云ふへき筋でないが、開会時間か遅れた。首相出席が遅れた。今日の如き場合は振鈴を遅らすときは交渉会を開いて了解を求めるなり、又は振鈴をして一旦休憩するかの処置をとられたし。注意ありたし。首相は想像より元気である。大体よりみて議長の観察は当然だと思ふが、公私の別がある。私共は開き直て申上ければ、先日挨拶もされた。又、昨日の予算会議でも本会議でやると云はれた。今日は此程度で散会と率直に云ふなる直ちに同意する。然るにこう云ふ状態では…と云ふ話なれば考へ方がある。個人的情誼から云へは、吾々も同感。公から云へは甚た迷惑だ。交渉会の趣旨が分らぬから。首相はどこまても元気であるが今日はこのまにしやうと云ふのであると云ふ事にしやう。疲労の程度をおいて話しをすることになるとむつかしいと思ふ。それみたかと云ひたくなる。休憩したことは議長の職権なりと云ふことで行つた方がどうか。健康問題は出ぬことにして進めたい。
森田君 忌憚なく云へは代理総理のことはしない。今日十一時過迄病床に首相は居られた。風をひいたと云ふ。私の方は二時間の質ぎに堪へないかと云ふ森君の議長に対する質問には答へない。あれで好いぢやないかと云ふことは云へぬ。
島田君、最初予算では八人あつた。それを四人丈にしたわけなり。私の方としては半分すんだわけ。討論の終り迄居れと云ふ希望は代議士会できおく。
七時八分前休憩 此間再三議長室にて政、民内交渉ありたるもまとまらず。森君来りて強し。
浜口首相は体温七度余、脈九十幾つにて遂に八時三分前に遂に帰る。
八時一寸過ぎて
民政代議士会は強行主義にて極力やるとのことにて大分強き気分なり。
一旦交渉会開きかかり政友来りたるも、民政側代議士会終らず。誰も来らさる為、政友会も代議士会を開くとて帰り遂に開かず。
結局交渉決裂のま各派交渉会再会。
午後九時半振鈴、開会直ちに議長質ぎ打切動議採択を為す。速記にとれず。九時五十分休憩。議長室に民、次に政押し寄す。鎖室強行にて入場。
午後十時十五分再会。再び騒擾 議長席速記官を取巻き騒く。
速記課に政友院外団濫入。鈴木庄平氏ら殴打せし由。
午後十時五十五分遂に騒擾裡に散会。
副議長 秋田君を私邸に訪問し、議事の進行に就て協議す。
一時頃帰宅。結局まとまらず。
一方鈴木速記技手の負傷は口のところ少し裂傷を負ひひどけれど其他は大したことなし。
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