第3章 千里眼ブームを読む
千里眼事件の特徴は、新聞等のメディアがブームに火を付け、科学者たちを巻き込んでいったことでした。社会の関心の強さは、当時出回った雑書からもうかがえます。第3章では、千里眼を取り上げた書物をいくつか紹介し、当時の世相をのぞいてみたいと思います。
千里眼の練習?
当時の新聞は、連日各地に千里眼が現れたことを報じましたが、そうなると自分も千里眼の能力を身につけたいと思うのが人情でしょう。千里眼の練習法を具体的に紹介した資料も残っています。お手軽なハウツー物から本格的な精神修養を説くものまで、内容は様々です。
- 6)神秘術研究会編『実行自在千里眼独習』盛報館,大正2【特102-693】

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巻頭巻末にたくさん掲載された出版広告の内容から判断すると、少年向けの通俗書でしょうか。冒頭の例言に「本書は名の如く何人にも實行し得らるゝやう責任を以て通俗に著述したものであるから一讀千里眼の秘法奥義を覺る事が出来るであらう」とあります。「暁天の時には起床後直に微温湯に浸せる湿布を以て冬期の間は腰以上夏期の間は全身を摩擦して、其の終りたる後ち満身の力を籠めて深呼吸を五回以上適宜に行ふのである」などと、もっともらしい指示があり、「千里眼は小供でも出来る」と述べていますが、「但し精神のにぶい馬鹿者は此の例外である。呵々。失敬、失敬」とのオチが付いています。
千里眼の応用
さて、首尾よく千里眼を身につけたとしたら、あなたは何をしますか。科学への貢献に人助け、うまくすればお金儲けもできるかも知れません。千里眼の応用編です。
千里眼手品
超能力を身につけるのは難しそう。でも、手品ならばマスターできるかも。千里眼に対して奇術であると批判した科学者がいましたが、逆手にとって(?)奇術で千里眼を実現しようという本も書かれました。
パロディ小説
千里眼事件を題材にしたパロディ小説や演劇も書かれています。
- 9)八千代・弦月『我輩ハ千里眼』田中書店,明44.5【特13-204】

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漱石の『吾輩は猫である』のパロディ小説で、「吾輩」の妻(猫)が千里眼であるという設定。「一輪咲いても牡丹は牡丹、四足でも猫でも千里眼は千里眼に違ゐはない 福来博士の有仰る通り國寶です」「吾輩はお馴染の夏目の猫の小指である、妃殿下〔みせす〕である」「近年千里眼が大流行に流行て猫も釋子も千里眼千里眼と名告り出るといふ大景気、吾輩も御多分に洩れず、出しやばることになつた」などと見えます。著者の岡田八千代(1883-1962)は、小説家、劇作家。新劇運動を率いた演出家・小山内薫の妹で、洋画家の藤田嗣治や舞踊評論家の蘆原英了は従兄弟に当たります。洋画家・岡田三郎助と結婚。平塚らいてうの青鞜社に参加。大正12(1923)年に長谷川時雨とともに『女人芸術』を創刊しました。