障害者サービス実施計画2017-2020 著作:平成29年3月 作成:国立国会図書館 1 趣旨及び経緯 国立国会図書館(以下「当館」という。)は、これまで「視覚障害者等サービス実施計画」(平成23年国図企1107141号)及び「視覚障害者等サービス実施計画2014-2016」(平成26年国図関西1402276号)に基づき、視覚障害者等用資料(注1) の利用環境の整備、当館及び他機関が製作する視覚障害者等用データの収集、保存、提供、学術文献録音テープ等の製作、保管、提供等の視覚障害者等に対するサービスに関する諸施策を着実に実施してきたところである。 平成18年12月に国際連合総会本会議で採択され、日本が平成26年に批准した「障害者の権利に関する条約」及びその批准のための法整備の一環として制定され、平成28年4月に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」という。)において社会的障壁(注2) の除去が社会に要請されていることなどを踏まえ、当館は「国立国会図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」(平成28年国図総1603292号。以下「対応要領」という。)を策定し、平成28年4月1日に施行した。また、平成28年12月9日に策定した「国立国会図書館中期ビジョン「ユニバーサル・アクセス2020」」(平成28年国図企1612091号)では利用者の目的にかなった情報資源へのアクセスの保証を掲げた。 本計画は、これらの目標を達成するため、障害者に対する当館のサービスを、公共図書館、大学図書館、点字図書館等、公益社団法人日本図書館協会(以下「日本図書館協会」という。)等の関係機関・団体との連携協力を強化するなど社会的な連携の中で、より充実させるための具体的な方策を示すものである。 注1 視覚障害者等用資料 国立国会図書館視覚障害者等用資料送信及び貸出規則(平成25年国立国会図書館規則第6号)において規定している、当館及び他機関が製作し収集した視覚障害者等用データと当館が製作した学術文献録音テープ等(学術文献録音テープ又は光ディスク媒体の学術文献録音DAISY資料がある。)を指す。 注2 社会的障壁 障害者差別解消法第2条第1号において「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう」と定義されている。 2 計画期間 平成29年度から平成32年度までとする。 3 サービス対象者 本計画記載のサービス対象者(以下「サービス対象者」という。)とは、障害者差別解消法第2条第1号に規定する障害者(注3) (以下「障害者」という。)で、当館の利用に困難がある者とする。サービス対象者には、各図書館団体と権利者との合意により作成された「図書館の障害者サービスにおける著作権法(昭和45年法律第48号)第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)第4項に規定する「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」(注4) (以下「視覚障害者等」という。)を含むものとする。 注3 障害者差別解消法第2条第1号に規定する障害者 障害者差別解消法第2条第1号において「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義されている。 注4 ガイドライン第4項に規定する「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」 ガイドライン第4項において「別表1に例示する状態にあって,視覚著作物をそのままの方式では利用することが困難な者」と定義されている。別表1には、「視覚障害、聴覚障害、肢体障害、精神障害、知的障害、内部障害、発達障害、学習障害、いわゆる「寝たきり」の状態、一過性の障害、入院患者、その他図書館が認めた障害」が列記されている。 4 図書館利用における合理的配慮の提供 対応要領に基づき、サービス対象者に合理的配慮を提供し、その障害の特性に応じた図書館利用に関する支援を行う。 5 実施事項 (1)視覚障害者等向け資料の製作及び収集 @ 学術文献録音DAISY資料の製作 視覚障害者等の利用に供するため、図書館等を通じた利用者からの申込みに応じて、当館が所蔵する専門的な学術文献を学術文献録音DAISY資料として引き続き製作する。 A 学術文献録音テープの媒体変換等 劣化により音声データの消失が懸念される当館製作学術文献録音テープについては、保存及び利活用の機会を保証するため、DAISY規格での録音データ化を平成29年度から順次実施する。 B 所蔵資料のテキストデータ化 ア 学術文献のテキストデータ化 a 学術文献のテキストデータの製作を試行する。 b 試行の結果を踏まえて仕様を策定し、実施体制等を構築する。学術文献の代替資料の迅速な提供を求める要望に応えるため、テキストDAISYとして構造化する前の中間生成物であるプレーンテキストデータを提供するなど、段階的にテキストデータを提供することも検討する。 イ 共同校正システムを用いたテキストデータ化 a 社会福祉法人日本点字図書館(以下「日本点字図書館」という。)等と協力して、テキスト化に取り組む点字図書館等が当館の共同校正システムを用いてテキストデータの作成を行えるようにする。 b 日本点字図書館等と協力して、当館の共同校正システムを用いたテキスト化作業の効率化、精度向上のための実験を継続する。 c この実験の結果を検証した上で、当館事業として試行的に製作を行う。 C 視覚障害者等用データの収集 ア 他機関からの視覚障害者等用データの収集 他機関からの視覚障害者等用データの収集を引き続き行う。特に公共図書館と、平成28年3月から収集を開始した大学等からの収集を重点的に行う。 イ 著者及び出版社のテキストデータの調査 視覚障害者等向けにテキストデータを配布している著者及び出版社の現状について調査を行い、必要な対応を検討する。 (2)利用サービス @ 障害者用資料・データの統合検索 ア 統合検索の提供 「国立国会図書館サーチ」を通じて、「点字図書・録音図書全国総合目録」、デジタルデポジットシステムに搭載した視覚障害者等用データ、納本等により当館が収集した障害者用資料、「サピエ図書館」等の統合検索機能を引き続き提供する。 イ 検索対象の充実 国立国会図書館総合目録ネットワークのシステム連携による検索対象の拡充や、「点字図書・録音図書全国総合目録」の収録対象に点字図書・録音図書以外の布の絵本や拡大写本などの障害者用資料を加えることで検索対象の充実を図る。 ウ 資料及びデータの見つけやすさ並びにユーザインターフェイスの改善 資料及びデータの見つけやすさ並びに読み上げソフト利用者等にも使いやすいユーザインターフェイスの実現に向けて検討を行う。 A 視覚障害者等用データ送信サービス ア 視覚障害者等用データ送信サービスの提供 視覚障害者等用データ送信サービスを引き続き実施する。 イ 視覚障害者等用データ送信サービスの利用者登録手続の改善 平成28年4月から直接当館に来館しなくても郵送等によって、視覚障害者等用データ送信サービスの利用者登録を行うことが可能になったが、引き続き、より多くの視覚障害者等が登録しやすい利用者登録手続について検討する。 B 遠隔利用サービス ア 学術文献録音テープ等の貸出し 当館で製作、所蔵している学術文献録音テープ等の図書館等を通じた視覚障害者等への貸出サービスを引き続き行う。 イ 視覚障害者等の遠隔複写サービス申込方法の改善の検討 国立国会図書館蔵書検索・申込システム(NDL-OPAC)及びその後継システム並びに郵送用資料複写申込書以外による申込みが可能となるよう検討する。 ウ 視覚障害者等用資料の利用者資格の年齢制限の廃止 視覚障害者等用資料の利用者資格について、満18歳以上という年齢制限を廃止する。 エ 学術文献録音テープ等の学校図書館への貸出し 視覚障害者等用資料の利用資格に係る年齢制限が廃止される時期に合わせて、学術文献録音テープ等の貸出対象に学校図書館を加える。  C 館内利用サービス ア 視覚障害者等用資料の提供 a 東京本館及び関西館において、引き続き、点字資料、大活字資料等の館内提供を行うとともに、視覚障害者等に対して国立国会図書館視覚障害者等用資料送信及び貸出規則第2条に規定する視覚障害者等用資料を館内提供する。また、関西館、東京本館及び国際子ども図書館間での学術文献録音テープ等の取寄せサービスを引き続き提供する。 b 点字資料及び大活字資料の児童書に該当する資料については、東京本館から国際子ども図書館に移管して、提供を開始する。 イ 館内利用における支援の充実 各施設において、適切な合理的配慮を提供する。 また、視覚障害者等用端末、拡大読書器、音声読書器等の機器及び代読者、通訳者等を伴い来館し図書館資料を利用する場合の別室を引き続き提供する。 障害の特性に応じて、筆談等によって利用者とのコミュニケーションの取り方に配慮しながら、検索支援や視覚障害者等用端末等の操作支援を行うなど、一層の充実に努める。 (3)サービス提供のための環境整備 @ マニュアルの維持管理及び応対実例の蓄積・共有 「東京本館における障害者応対マニュアル」を基に関西館及び国際子ども図書館でもマニュアルを整備し、各施設で適切な合理的配慮を提供する。応対実例を3施設共同で蓄積・共有し、マニュアルとして維持管理し、サービスの改善を図る。 A 当館職員に対する研修及び啓発 障害者差別解消法及び対応要領に基づき実施するもののほか、利用者サービス部門の当館職員を対象とした障害者サービスに関する研修を実施する。なお、障害の特性に応じたコミュニケーションに関する科目の実施に留意する。 B 利用しやすい施設の整備 バリアフリー(ユニバーサルデザイン)の観点から施設の見直しを適宜実施し、東京本館、関西館及び国際子ども図書館の適切な環境整備に努める。 (4)障害者サービスに携わる図書館員向けのサービス @ 研修 聴覚に障害のある図書館職員が遠隔研修によって研さんできるようにするため、当館作成遠隔研修教材への日本語字幕付与を試行的に実施する。 A 調査研究 平成22年度に図書館及び図書館情報学に関する調査研究事業として、「公共図書館における障害者サービスに関する調査研究」を実施した。この調査から既に6年が経過し、また、平成28年4月に障害者差別解消法が施行されたことから、図書館における障害者サービスの実態を把握するため、公共図書館等を対象として障害者サービスに関する実態調査を実施し、調査結果を公開する。 (5)情報発信 @ 当館ホームページ及びウェブサービスのアクセシビリティ確保 JIS X 8341-3及び総務省の「みんなの公共サイト運用ガイドライン」の改訂を受けて、当館はウェブアクセシビリティ方針を改訂(平成28年国図電1608222号)し、国立国会図書館ホームページ及び国際子ども図書館ホームページを最優先として平成29年度末までにJIS基準適合レベルAAに準拠すること、それ以外のウェブサービスについては、システム改修の時期等を考慮して平成30年度以降に順次取り組むことを中期的な目標として掲げている。 この目標達成に向けて、従来の取組を継続させた上で、さらに年度単位で取組の計画を策定し、ウェブアクセシビリティに関する対応を進める。また、毎年度、ウェブアクセシビリティに関する当館全体の取組内容の確認を行うとともに、その進捗状況を把握するために、JIS X 8341-3に基づく試験を実施する。それぞれの結果は、必要に応じて次年度の計画に反映させるとともに、ホームページ等で公開する。 A 障害者サービスに関する情報の収集及び発信並びに障害者向け情報発信 障害者サービスを担当する図書館職員が最新の情報を入手し、業務にいかすことができるように、障害者サービスに関する情報を収集し、カレントアウェアネス・ポータル等から提供する。 また、当館を利用する際に必要な情報を得やすいように、当館ホームページの「障害者サービス」に障害者向けの利用情報やサービス概要を集約して引き続き提供するとともに、情報の充実を図る。 B各種仕様、マニュアル等の公開 ア 当館製作のテキストデータに係る仕様、マニュアル等の公開 関係機関・団体のテキストデータの製作の参考に資するため、当館の学術文献のテキストデータ、視覚障害者等用データのテキストデータ製作に係る仕様、マニュアル等の公開を検討する。 イ 視覚障害者等用データ送信サービスに関する技術情報等の公開 視覚障害者等用データ送信サービスに対応したサービスやソフトウェアの開発を促進するため、視覚障害者等用データ送信サービスに関する技術情報等の開発者向け情報を当館ホームページで提供する。 (6)連携協力 @ 障害者サービス関係諸機関・団体との連携 サービス等の充実を図るため、日本図書館協会障害者サービス委員会や諸機関・団体と意見聴取などによる連携を行う。 A 「サピエ図書館」との連携 特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会及び「サピエ図書館」のシステム運用管理を行っている日本点字図書館等と連携し、デジタルデポジットシステムに搭載した視覚障害者等用データの「サピエ図書館」を通じての提供を引き続き行う。 (7)当館主催の研修、イベント等における支援 当館主催の講演会、研修、会議等において、障害のある講師や参加者に対し、読み上げソフト等に対応できるよう、資料の電子データ(テキスト形式等)による事前提供に努めるなど、その障害の特性に応じた支援を行う。 6 スケジュール 実施予定スケジュールは次のとおりとする(本計画の記載順)。  以下、 各実施時期ごとに実施事項、本計画項番の順に記載。 実施時期 継続実施 ○ 図書館利用における合理的配慮の提供 <4> ○ 学術文献録音DAISY資料の製作 <5(1)@> ○ 共同校正システムを用いたテキストデータ化(テキスト化作業の効率化、精度向上のための実験) <5(1)Bイb> ○ 他機関からの視覚障害者等用データの収集 <5(1)Cア> ○ 統合検索の提供 <5(2)@ア> ○ 視覚障害者等用データ送信サービスの提供 <5(2)Aア> ○ 学術文献録音テープ等の貸出し <5(2)Bア> ○ 視覚障害者等用資料の提供 <5(2)Cアa> ○ 館内利用における支援の充実 <5(2)Cイ> ○ マニュアルの維持管理及び応対実例の蓄積・共有 <5(3)@> ○ 当館職員に対する研修及び啓発 <5(3)A> ○ 当館ホームページ及びウェブサービスのアクセシビリティ確保 <5(5)@> ○ 障害者サービスに関する情報の収集及び発信並びに障害者向け情報発信<5(5)A> ○ 障害者サービス関係諸機関・団体との連携 <5(6)@> ○ 「サピエ図書館」との連携 <5(6)A> ○ 当館主催の研修、イベント等における支援 <5(7)> 平成29年度 ○ 学術文献録音テープの媒体変換等 <5(1)A> ○ 学術文献のテキストデータ化(製作の試行) <5(1)Bアa> ○ 調査研究 <5(4)A> ○ 視覚障害者等用データ送信サービスに関する技術情報等の公開 <5(5)Bイ> 実施時期 平成30年度〜平成31年度 ○ 視覚障害者等用資料の利用者資格の年齢制限の廃止 <5(2)Bウ> ○ 学術文献録音テープ等の学校図書館への貸出し <5(2)Bエ> 実施時期 平成32年度 ○ 共同校正システムを用いたテキストデータ化(当館事業としての試行)<5(1)Bイc> ○ 研修<5(4)@> 実施時期 実施時期未定 ○ 学術文献のテキストデータ化(仕様の策定、実施体制等の構築、中間段階生成物の提供を含めた提供方式の検討)<5(1)Bアb> ○ 共同校正システムを用いたテキストデータ化(共同校正システムを用いた点字図書館等へのテキストデータの製作への支援) <5(1)Bイa> ○ 著者及び出版社のテキストデータの調査 <5(1)Cイ> ○ 検索対象の充実 <5(2)@イ> ○ 資料及びデータの見つけやすさ並びにユーザインターフェイスの改善 <5(2)@ウ> ○ 視覚障害者等用データ送信サービスの利用者登録手続の改善 <5(2)Aイ> ○ 視覚障害者等の遠隔複写サービス申込方法の改善の検討 <5(2)Bイ> ○ 視覚障害者用資料の提供(東京本館所管の点字資料及び大活字資料の児童書の国際子ども図書館への移管)<5(2)Cアb> ○ 利用しやすい施設の整備 <5(3)B> ○ 当館製作のテキストデータに係る仕様、マニュアル等の公開 <5(5)Bア> 7 その他 (1)法規整備 この計画の実施に当たり必要となる関係法規の整備は、順次実施する。 (2)計画の見直し この計画は、必要に応じ、適宜見直しを行う。