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びぶろす-Biblos

平成20年夏号(電子化41号)

  • NATIONAL DIET LIBRARY
  • 発行/国立国会図書館総務部


著作権問題とライブラリアンの著作権認識

山本 順一
(桃山学院大学経営学部教授)

1.はじめに

 20年そこに住み、勤務を続けたつくばを家庭の事情から今春離れ、40年ぶりに関西に戻りました。しかし、親しくしていただいている先生からの依頼で断りきれず、週に1日東京に出て、ロースクールで授業をしています。‘通勤’の途上の新幹線は日ごろの睡眠不足の解消に役立つ一方、不足がちの読書の時間にあてています。最近、エキナカの書店で入手し、新幹線の車内で読了した新書に「著作権という魔物」(岩戸佐智夫著、アスキー新書、2008)というものがあります(その内容については、ここでは云々しません)。センセーショナルなタイトルですが、‘著作権’そのものが魔物なのではなくて、それを‘合理性’を超えた‘魔物’としているものはほかにあるように思えてなりません。ときに‘著作権制度は古くからあって、それは動かせない、守らなければならない制度’であるかのような言い方をする人もいますが、そこまで固定的に見る必要はないでしょう。どの著作権法のテキストにも書かれていることですが、15世紀のグーテンベルクの活版印刷術の創始が導火線となり、近代著作権制度が本格的にはじまるのは18世紀になってからのことです。法の世界で用いられる道具概念の多くがローマ法など古代社会に生まれたことからすればきわめて新しく、技術の発展と経済メカニズムが生み出したものに過ぎず、社会経済的な合理性が著作権制度の改廃と変容を要請するのは当然のことと思われます。

2.ライブラリアンにとっての著作権制度に対する望ましい眼差し

 わたしたち国民の代表が審議し、制定した法律は、形式論理的には‘国民の総意’とせざるを得ず、‘法治主義’の原理は法とその授権のもとにある政令、規則の文理解釈に従うべきことを要請しています。しかし、‘著作権’制度については、それをかたくななまでに絶対視する必要はないでしょう。 大学図書館の実務においてよく参照されるものに「大学図書館における著作権問題Q&A(第6版)」(国公私立大学図書館協力委員会大学図書館著作権検討委員会、2008)があります(http://wwwsoc.nii.ac.jp/janul/j/documents/coop/copyrightQA_v6.pdf)。全体としてはそれなりによくできたものだと思います。このよくできたマニュアルの23ページにQ51として「大きな手術を数時間後に控えている医学部の教員から、どうしても雑誌論文で確認したい事項があるので、文献を至急FAXで病院に送信してほしいとの連絡がありました。送信しても構わないでしょうか」という設問が掲げられています。その解答として、「著作権法では無許諾無報酬で行えない行為です。著作物をFAX 送信することは(著作権)法23条1に規定する公衆送信に該当し、現在、図書館が公衆送信を行うことについては権利制限がなされていません」と述べています。しかし、心優しいライブラリアンの方が執筆されたのだろうと思われます。この答えでは余りにも酷にすぎると感じられたのでしょう。「しかし、事例の緊急性をかんがみれば、著作権法の一方の趣旨である公益性に照らして、事後の許諾申請が認められるものと思われます」との言葉が補足されています。
 この解答について、皆さんは、どのように思われるでしょうか?ここでいう‘大きな手術’を必要とする患者が自分の家族だとすれば、こんなに冷静な判断ができるでしょうか。昔々から使われている法理に‘緊急避難’というものがあります。どうしても救わなければならない法益があるときに、やむを得ず他者の権利利益を侵害せざるを得ない場合には、法的責任は問い得ない、という理論です。人の命という半ば絶対的な価値と本質的には経済的な利益に過ぎない著作権を正面から天秤にかけるとすれば、人命を救うためにあえて著作権の侵害に目をつぶることが‘緊急避難’に当たることは、おのずから明らかであるといえるでしょう。
 これでお分かりになったと思います。著作権制度を中心として世の中が回っているわけではありません。いつも著作権法のテキストを見ていておかしいと思うのは、著作物のかかわるすべての事象を閉じられた、それも見方によっては随所に不十分なところを持つ著作権制度の枠内で議論を完結させようとすることです。著作権の問題は、憲法を頂点とする法体系全体の中で考えなければなりません。そこには条理や自然権なども当然含まれるといえるでしょう。
 著作権のかかわる諸問題について、法解釈をしようとするとき、ライブラリアンである前にまず人間性が問われているということを指摘しました。次は、他の職業に就いている人とライブラリアンとでは著作権に向き合う姿勢が違うはずだということを述べてみたいと思います。皆さんの職業生活のうえでの生き甲斐はどういうところにあるでしょうか?結果的にほかの職業を選ばずライブラリアンになったということは、健気に賢くなろうとしている図書館利用者の‘喜ぶ顔’が見たくて、またサービスを提供された利用者から‘ありがとう’という声に思わずうれしくなる自分がいとおしくて仕事をしているのではないでしょうか。先ほども述べた通り、著作権法とその下位法令の明確な文言には従わなければなりません(不具合のあるところは、‘改正’を目指してアドボカシーを展開する必要があるでしょう)。著作権法に仮に抵触するとしても、現行図書館法制が認めている専門的職務である司書としての‘正当業務行為’を構成するものもあるはずです。
 図書館情報学のテキストには、素晴らしい図書館サービスとしてカレントアウェアネスサービスをあげています。そこではコンテンツシートサービスやSDIサービス2が当然のごとく行いうるとされています。これらは潜在的な情報ニーズを踏まえて、図書館側が‘先回り’をして利用者の需要が見込まれる文献の書誌データを提供し、必要な文献情報を特定させることになります。そこで特定された文献をして、著作権法31条1号3にいう‘図書館等の利用者の求めに応じ’たものとして複写サービスにつなぎます。
 ‘大きな手術を控え図書館に文献複写を求める医師’の話に戻りましょう。Q51の医師の場合には必要とする文献が特定しているようですが、たとえば外科医が仕方なく麻酔を施術しなければならないような場合において関係文献の複写がほしいといったときは、図書館には手のうちようがないのでしょうか?このような場合に著作権法31条1号4の定める‘利用者の求め’に一定程度明確な輪郭を持つ潜在的情報ニーズを読み込むことは無理なのでしょうか。アメリカの図書館情報学の文献では許されているとされるLATCHサービス(Literature Added To the CHart)を日本の著作権法は峻拒していると理解すべきでしょうか。日本の医療法22条8号も一定以上の規模の病院には図書室が置かれることになっています。LATCHサービスというのは、このような病院内の図書室のライブラリアンが提供するサービスです。患者さんを診察したお医者さんはカルテ(chart)に病名や症状を記録します。このカルテが病院内の図書室に回付されるのです。そのカルテを見たライブラリアンは、カルテに記された病気や症状について、最近取り扱った医学文献の中に興味深い記事や論文があったことに想い到ります。心優しいライブラリアンはその記事や論文のコピーを添えて、そのカルテを書いたお医者さんにカルテを戻します。院内でカンファレンスが開かれることもあるでしょう。当のお医者さんは、カルテに添付された記事や論文に触発されて新しい医療サービスの実施に踏み切ります。従前よりも患者さんの身体的負担も緩和され、これまでは治療が困難だった怪我や疾病、症状が治せる可能性が高まるのです。このLATCHサービスについて、サービス対象者であるお医者さんが文献を特定することなく、勝手にライブラリアンがコピーをしたから著作権法31条1号に違反しているとして、このサービスを押しとどめることが‘人の道’にかなうのでしょうか。最近の著作権法改正で42条2項2号が薬事審査等の手続きにおいて著作権制限を認めています。著作権よりも人の生命、健康のほうが大切だということがそこでも確認されたのではないでしょうか。

3.現行著作権法に向かう姿勢

 必ずしも法令上の根拠が十全であるとも言いがたい主務官庁の見解や関係業界の意向に左右されるのは、おかしなことではないでしょうか。幸いにして著作権法の文言の許容する範囲内では、できる限り図書館利用者の利益が実現するように解釈し、行動するべきでしょう。たとえば、過疎や高齢化に悩み相対的に所得も少ない地域の公共図書館では、周辺に映画館もないでしょうし、住民に適切なレクリエーションの機会を与える意味からも、自信をもって著作権法38条1項5が認めている非営利無償のビデオ鑑賞会を定期的に開催してもよいでしょう。業者が本来家庭用に製作したものだとか‘上映権’付きではないなどと言ったとしても、また主務官庁が権利者の利益を尊重するためなどと言ったとしても、それは‘適法’な公共的サービスであり、現行法が認めているときには果断に実施すればよいのではないかと思われます。また、大学図書館では、著作権法31条6 による複写サービス等にとどまらず、現状では活用される余地に乏しい指定図書制度のほかに、講義や演習等を支援するために35条7の法意にしたがうサービスもできるはずです。なぜなら大学図書館は切り離された存在ではなく、大学という教育組織の一部だからです。学校図書館では著作権法31条8が定める‘複写サービス’ができないなどという人たちがいるようですが、著作権法35条9は学校の教育活動の一部を担い、それを支援する学校図書館にも及ぶはずです。また、著作権法30条1項10が定める私的複製の法理は、home copying すなわち家庭内という場所にとどまらずpersonal copyingを意味しており、場所を問わない個人的複製を許容しています。ということは、図書館という場においても著作権法30条1項11は機能しうることとなるでしょう。

4.各種ガイドラインの叢生に関連して

 先に取り上げた大学図書館マニュアルのQ51に戻ることにします。おそらく次にふれるところに言及しておかないと、衆知を集めてこのマニュアルを作成した人たちに失礼にあたるように思います。うえに紹介した文章に続けて、「なお、平成14年の権利者側との協議の中で、図書館間のILLにおけるFAX送信については、権利者側と基本的に合意し、平成16年3月に日本著作出版権管理システム及び学術著作権協会との間で「大学図書館間協力における資料複製に関するガイドライン」を取り交わしました」と記しています。
 このガイドラインにとどまらず、最近では、「図書館間協力で借り受けた図書の複製に関するガイドライン」や「複製物の写り込みに関するガイドライン」などのガイドラインが存在し、今後、この手のガイドラインが増えるように思われます。主務官庁もこのような動きを歓迎しているように思われます。しかし、図書館利用者が著作権法31条12を根拠に複製を求めている著作物のすべてが、これらのガイドラインの一方の当事者がその管理、支配下においている著作物に含まれてはいないでしょう。草の根を分けてでも、遍在する著作物へのアクセスを提供する使命を自覚するライブラリアンにとって、現実に実質的で最終的な解決をもたらさないガイドラインでは満足することができないかもしれません。著作権制度においてガイドライン活用の先進国であるアメリカでも、ガイドラインに規範力はなく、裁判所では法的効力を否認されかねないことが認識されています(近年、アメリカでは著作権ビジネスと図書館界の間で妥協が成立し、ガイドラインが新たにできたという話は聞きません)。困難でも、根本的な解決は、将来の立法措置にまつしかないものと思われます。
 日本ではなぜか引用されることが少ないのですが、ベルヌ条約20条13の規定を根拠につくられた先進諸国の利益確保のためのWIPO著作権条約(‘インターネット条約’とも呼ばれます)の前文は、著作者の諸権利とより大きな公共的利益、とくに教育、研究および情報へのアクセスとの間のバランスを図るべきであると諸国の政府に説いています。

* 上記論文の意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りしておきます。




1  (公衆送信権等) 第23条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
 2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

2  Selective Dissemination of Informationの略。要求に応じて、特定主題に関するカレントな情報を検索して、定期的に提供する情報サービス。選択的情報提供と訳されることが多い。【出典】図書館情報学会用語辞典編集委員会『図書館情報学用語辞典』第3版(平成19年)

3  後出注(6)参照

4  後出注(6)参照

5  (営利を目的としない上演等)
 第38条 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

6  (図書館等における複製)
 第31条 図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
 一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合
 二 図書館資料の保存のため必要がある場合
 三 他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合

7  (学校その他の教育機関における複製等)
 第35条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 2 公表された著作物については、前項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第38条第1項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合には、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

8  前出注(6)参照

9  前出注(7)参照

10  (私的使用のための複製)
 第30条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
 一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
 二 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第120条の2第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合

11  前出注(10)参照

12  前出注(6)参照

13  文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(抄)
 第20条 〔特別な取極〕
同盟国政府は、相互間で特別の取極を行う権利を留保する。ただし、その取極は、この条約が許与する権利よりも広い権利を著作者に与えるもの又はこの条約の規定に抵触する規定を有しないものでなければならない。この条件を満たす現行の取極の規定は、引き続き適用される。
【出典】著作権情報センター『著作権関係法令集』平成19年版

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