びぶろす-Biblos
平成20年夏号(電子化41号)
- NATIONAL DIET LIBRARY
- 発行/国立国会図書館総務部
- ISSN 1344-8412
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図書館における著作権の現状と動向について
南 亮一
抄録
- 著作権制度についての説明は通常、著作権の保護の観点から説明がなされる場合が多いが、図書館をめぐる著作権の現状の説明のためには、利用する側の観点からの説明の方がわかりやすい。また、この説明方法は、著作物の利用にあたって権利者からの許諾が必要なのかの審査(著作権審査)の過程とも共通する。
- この過程は、<1>使う対象のものが著作物でないか、<2>著作物であったとして、著作権の保護の対象外であるか、<3>著作権の保護期間が満了しているか、<4>著作物の利用行為でないか、<5>権利制限規定が適用できるか、の5つの段階から構成されている。図書館における閲覧、貸出および複写については、<5>が重要となる。適用される権利制限規定には、著作権法第31条(図書館等における複製)、第38条第1項(非営利・無料の上演・演奏、上映、口述)、第38条第4項(非営利・無料の貸与)などがあり、適用されるかどうかで利用環境に大きな差異が生ずる。
- 現在行われている図書館サービスを前提とすれば、図書館業務において著作権者の許諾が必要となる場面はそれほど多くない。しかし、今後の図書館のあり方を考えると、図書館業務と著作権との関係の現状は、まだまだ満足行くものとはいえない。
- このような現状を改善するために、文化審議会著作権分科会における法改正の要望がこれまで数回出されたが、法改正が必要との提言が1回出されたものの、これまで実際に法改正に至ったことはない。ただ、この法改正をめぐる権利者団体との協議が、図書館関係団体と権利者団体との定期的な協議の場の創設につながり、その中からいくつかの成果が上がったことは重要である。
- 法改正の要望が出されたにもかかわらず実現されない原因は、社会一般の図書館に対する見方が旧来型の図書館像を元にしているためであると考えられる。このため、図書館をめぐる著作権制度のあり方の改善のためには、まず図書館が果たす役割の変革について一般に周知する活動を行うことが必要であると考える。
はじめに
図書館の仕事では、小説や論文、絵画、写真、音楽、映画といった「著作物」が載っている資料を扱っている。「著作物」のひとつひとつが「著作権」という権利の及ぶ対象となっており、例外的な場合を除いて、無断で「著作物」を利用してはいけないことになっている。したがって、図書館の仕事は、著作権とは切っても切れない関係にあるといえる。このため、図書館業務を行う場合には、著作権制度との関係を考える必要がある。また、最近では、図書館の方から、著作権法改正に向けていろんな形で働き掛けも行っており、そのような働き掛けを通じて、資料の利用がより円滑化の方向に動いてきている。
本稿では、このような図書館業務と著作権との関係の現状とその動向につき、説明することとする1。なお、本稿に示された事実関係の把握および見解は、すべて私見に基づくものであり、国立国会図書館の見解等を示すものではないことを、あらかじめお断りしておく。
1 著作権の構造
著作権という権利の性質を説明する場合、通常は、どういう場合に著作権が発生し、どういう場合に著作権の保護が及ぶのか、というように、著作権の保護の観点から説明がなされることが多い。しかし、多くの場合、図書館は、著作物を利用する側に立つことから、利用する側の観点から説明を行った方がわかりやすいように思われる。すなわち、どういう場合に著作権の保護が及ばないのか、という観点から説明を行った方が、実務を行う上ではわかりやすいのではないか、ということである。
実際、図書館の仕事において著作権の保護が及ぶ事例は、電子図書館事業や障害者サービスなど、ごく限られた場合に限定される。このため、このような考え方の方が、「思考の節約」につながることになる。
それでは、著作権の保護が及ばないのはどのような場合であろうか。それには、<1>使う対象のものが「著作物」でない(新聞記事の見出しのほとんど2 、ありふれた図表など)場合、<2>使う対象のものが著作権保護の対象とはならない著作物(法令、判決など)である場合、<3>使う対象の著作物の著作権の保護期間が満了している場合、<4>著作権の及ぶ対象ではない行為を行う場合(本の展示など)、<5>表1に列記したような「権利制限規定」3が適用できる場合、の5つの場合がある。
そして、この場合の検討の手順を、そのまま、実際に任意の図書館の業務につき、著作権の保護が及ぶかどうかの判断を行う際に、そのまま適用することができる(図1)。
そこで次に、いくつかの典型的な図書館業務について、この検討の手順を実際に当てはめてみることとする。
2 図書館業務と著作権との具体的な関係
(1) 共通
書籍や雑誌等の図書館資料は、記事、論文、写真、絵画、音楽、映画のような著作物が版面に印刷又は媒体に固定されたものが大半であるため、原則として<1>は「はい」となり、国家行政組織や地方自治体などが編集した法令集などでない限り、原則として<2>も「はい」となる。
この2つの段階で「いいえ」であれば、いかなる形態であろうと著作物の利用を行うことができる。例えば、前述のとおり新聞記事の見出しのほとんどは著作物には該当しないものと考えられるため、各府省の所管分野に関する新聞記事の見出しや裁判の判決をデータベース化し、一般に公開することも自由ということになる。
また、図書館資料の中には保護期間が満了した著作物が含まれることも多い。古文書や錦絵のような近世に刊行されたものだけでなく、占領期までに発行された団体著作物も保護期間が満了している。したがって、占領期までに発行された、政府が作成した統計資料や調査報告書、業界団体や企業が出した資料、署名記事を除く日刊新聞紙掲載記事なども、自由に利用できる。これらの資料をデジタル化してデータベースを作成し、一般に公開することももちろん自由ということになる。
著作権の保護が及ぶかどうかという観点から図書館業務における行為を具体的に評価するのは、次の<4>のステップからである。以下では、閲覧、貸出し、複写につき、説明することとする。
(2) 閲覧
ここでいう「閲覧」とは、図書館資料を利用者に見せ、聞かせ、読ませる行為のことを指す。同じ閲覧であっても、閲覧させる図書館資料の種類により、大きく3つに分かれる。ただ、いずれの場合においても、著作権者の許諾なく行うことができるという結論となる。
- ア 電子資料、マイクロフィルムなどの閲覧
-
電子資料やマイクロフィルムは、資料から直接情報を得るわけではなく、再生装置や読取機のような装置の画面を通して情報を得る形態の資料である。著作権法上、画面を通して情報を提供する(すなわち著作物を「再生」する)行為は「上映」と呼ばれ、不特定の人または特定多数の人を対象として行う場合には、著作権者の上映権(著作権法第22条の2)という権利の対象となる。
ところが、営利を目的とせず、かつ、閲覧者から料金を取らない方法により、「上映」を行う場合には、権利制限規定(著作権法第38条第1項4)を適用することが可能となる。図書館での閲覧サービスは、まさに「営利を目的とせず、かつ、閲覧者から料金を取らないで行う」ものであるから、結局、この上映権の対象から外れることになる。すなわち、図1の<5>のステップにおいて、自由利用ができるという判定となるのである。
- イ 音楽CD、レコードなどの閲覧
- 次に、音楽CDやレコードなど、音楽が固定されている資料を利用者に聴かせるような場合である。著作権法では、録音されたものを再生することも「演奏」の概念に含まれている(第2条第7項)。したがって、この場合には演奏権(著作権法第22条)という権利の及ぶ対象となる。
ただし、この「演奏」の場合にも、アの場合と同様、権利制限規定(著作権法第38条第1項)の適用が可能となり、演奏権の対象から外れることから、結局この場合においても、図1の<5>のステップにおいて、自由利用ができるという判定となる。 - ウ 紙媒体の資料の閲覧
- 最後に、図書や雑誌などの紙媒体に著作物が固定された資料の閲覧であるが、このような形態の行為は、そもそも、著作権の保護が及ぶ対象となる行為ではない。著作権の保護が及ぶ対象となる行為は表2に掲げたものに限定されるが、紙媒体に著作物が固定された資料を一般公衆に見せる行為は、これらのいずれにも該当しない。したがって、この場合には、図1の<4>のステップで「いいえ」となることから、自由利用が可能という判定となる。図1の<1>から<4>までのステップにおいて自由利用が可能と判定されれば、情報提供の対象物の利用について何らの著作権法上の制約も生じないので、その利用を営利で行うことも、閲覧者から料金を徴収して行うことも自由であることになる。例えば、マンガ喫茶では、客から料金を徴収した上で、店内にある様々な図書や雑誌を自由に閲覧させるというサービスを提供しているが、このようなサービスは著作権者に無断で行っても何ら問題とはならない。5
(3) 貸出し
貸出しは、図書館利用者という一般公衆に対して書籍や雑誌、音楽CD、ビデオソフト、電子資料などの「著作物の複製物」を貸与する行為である。これらの行為は著作権法上、「頒布」または「貸与」に該当するため、図1の<4>のステップは「はい」となる。そうすると、次は、適用できる権利制限規定を探すということになるが、貸与の場合には、「非営利・無料の貸与」(著作権法第38条第4項6)の規定の適用を検討することになる7。
この規定では、適用対象から映画の著作物が除かれている。このため、映画の著作物が少しでも資料に含まれていると、資料の貸出につき、この規定が適用できなくなる。具体的には、ビデオソフトや動画が含まれる電子資料(以下「ビデオソフト等」という。)の貸出にはこの規定が適用できない。したがって、貸出対象資料がビデオソフト等であれば図1の<5>が「いいえ」となり、そうでなければ「はい」となる。このため、書籍や雑誌などとは異なり、ビデオソフトやDVDなどについては、図書館における貸出が可能となる「著作権処理済」ビデオが、セルビデオ販売価格の数倍の価格8 で販売されており、公立図書館等ではこのビデオを購入し、貸出に充てているのである。
(4) 複写
複写は、言うまでもなく、著作権法上の「複製」に該当するため、図1の<4>のステップは「はい」となる。複製は、公に頒布する目的でなくても複製権の保護の及ぶ対象となることから、著作権法上の他の権利に比べて数多くの権利制限規定が設けられている。図書館における複写に対して適用することが考えられる権利制限規定には、第31条(図書館等における複製)9 、第35条(学校その他の教育機関における複製等)10および第42条(裁判手続等における複製)がある。これらの規定は複写の主体、複写物の使用目的、複写対象資料、複写可能範囲を異にするため、行う複写の形態により、これらのどの規定が適用可能かを判断することになる。なお、第30条1項(私的使用のための複製)の規定は、通常、図書館内での複写には適用されないと解釈されている11。これらの規定の差異を比較すれば、表3のようになる。
図書館において複写を行う場合、第31条のほか、条文上複写の主体を限定していない42条も適用することが可能である12 。また、第35条についても、例えば、図書館が所属する学校の教員や児童生徒等の指示により、図書館職員がその手足となって複写する場合には、適用することが可能であると考えられる13。
各府省庁や最高裁判所の内部組織として設置された図書館は、同時に国立国会図書館の支部図書館とされているが(国立国会図書館法第3条、第20条)、このような支部図書館における複写サービスの根拠規定には、一般公衆向けの複写の場合には第31条が、内部職員による複写や国立国会図書館や他の支部図書館を経由した他の府省庁、裁判所または国会の職員による複写の場合には第42条がそれぞれ適用可能であると考えられる。ただ、第31条と第42条では、複写物の使用目的と複写可能範囲が異なるため、運用に当たっては注意が必要である。
(5) 現状のまとめ
以上のように、現在行われている図書館サービスを前提とすれば、図書館業務において著作権者の許諾が必要な場面は、前述のとおり、それほど多くはない。ただ、これはあくまで「現在行われている」図書館サービスを前提とした場合であって、情報のデジタル化や情報流通ネットワークの進展に伴って図書館に求められている新たな情報提供サービスについては、所要の手続が整備されていない。例えば、情報流通ネットワークの進展から、図書館資料の複写物をファクシミリや電子メールで送付するサービス14や、館内のインターネット端末をプリントアウトして利用者に提供するサービス、図書館の蔵書を電子化してネットワークを通じて提供するサービスなどを新たに行おうとすれば、対応する権利制限規定が存在しないため、著作権者の許諾を得て行う必要がある。ところが、一部を除いては、これらのサービスに対応した許諾の枠組み(例えば出版物の複写に係る著作権を管理する団体を通した著作権の一括許諾の枠組みなど)が存在しないため、事実上これらのサービスを実施することは極めて困難な状況である。
また、図書館が情報提供施設としての役割をより一層果たすために必要なサービス、例えば、絶版等の理由により入手困難となった雑誌以外の図書館資料に収載された著作物15の全文複写、官公庁の作成した統計資料や調査報告書等の全文複写、再生機器の入手が困難となった図書館資料の媒体変換16についても、同様である。
このように、今後の図書館のあり方を考えると、図書館業務と著作権との関係の現状は、未だ満足の行くものとはいいがたい。そこで図書館界は、このような現状を改善するため、図書館界はこれまで、著作権制度の改善のための活動を行ってきた。次に、その動向について紹介する。
3 図書館等における著作物等の利用に係る最近の動向
(1) 文化審議会著作権分科会における検討
- ア 平成13年から平成15年までにかけての検討
- 著作権制度の改善を検討する組織である文化審議会著作権分科会では、平成13年から図書館における著作物の利用に係る著作権のあり方の検討を行った17。その過程で権利者側委員と図書館側委員から様々な要望が出され18、当事者間での検討を経て、平成15年1月に検討結果19 がまとめられた。その中では、権利制限の拡大要望のひとつであった「『再生手段』の入手が困難である図書館資料を保存のため例外的に許諾を得ずに複製できるようにすること」について、新たに権利制限を設けることが適当との提言がなされ、また、権利制限の縮小要望である「図書館資料の貸出について補償金を課すこと」20と「図書館等においてビデオ等を上映することについて権利制限の対象から除外すること」について、それぞれに対応することが適当との提言がなされた。ただ、これらの提言は、様々な理由から、実際に法改正がなされることはなく、現在に至っている。
- イ 平成16年から平成18年までにかけての検討
- 平成16年8月、文化庁著作権課は、関係団体に対し、著作権法の改正の要望事項を広く募集し、その結果を踏まえ、平成17年1月、「著作権法に関する今後の検討事項」21が取りまとめられた。この中で、「図書館関係、学校教育関係及び福祉関係の権利制限の拡大に関して検討するとともに、これらの権利制限規定により認められる利用の範囲の明確化についても検討する」とされたことから、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会では、権利制限の拡大についての検討を開始した。その第1回の会議が開かれた同年3月、分科会委員である常世田良氏(日本図書館協会理事・事務局次長)が6項目の改正要望事項22を提案23 した。その後この提案も含め、権利制限規定の拡大の要望事項についての検討がなされ、平成18年1月11日、「文化審議会著作権分科会報告書」24が取りまとめられたが、この報告書では、図書館関係の権利制限拡大の要望事項については、法改正の提言はなされなかった25。
- ウ 平成19年以降の検討
- 平成19年以降においても、権利制限拡大の要望事項についての検討が、法制問題小委員会において、引き続き行われており、図書館関係の権利制限拡大の要望事項についても検討事項に加えられていたが、視覚障害者サービス関係の検討を除き、まったく検討されていない。
これと並行して、過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会において、著作権等の保護期間の延長の是非、著作物等の利用の円滑化方策、著作物等のアーカイブ化の方策などが検討されており、同年12月には「アーカイブ・ワーキングチーム」26 が設置され、主に図書館におけるアーカイブ化についての検討が行われた。このチームの検討結果は、平成20年4月28日の同小委員会において「図書館等におけるアーカイブ事業の円滑化方策について」27として報告された。この報告書では、8項目の検討結果が示されており、そのうちの6項目が国立国会図書館のみを対象とするもの、残りの2項目が図書館全般を対象とするものであった。前者は、国立国会図書館において納本された資料を直ちにデジタル化することができることを権利制限として明記することが適当とした上で、その利用方法について言及したものである。後者は、図書館における保存のためのデジタル化がマイクロ化と同様に認められることと、再生機器が入手困難な媒体に固定された著作物の媒体変換が「著作権法第31条第2号の規定の解釈として不可能ではない」こと、元の資料が同時に「図書館利用者の利用に供されることがないのであれば、破棄を必須とする必要はないと考えられる」ことに言及したものである28。
(2) 権利者団体との協議
- ア 図書館等における著作物等の利用に関する当事者協議会における協議
-
図書館関係団体と権利者団体との協議自体は、これまでも個別事項に関して行われてきたが、図書館等における著作物等の利用全体を協議事項とするような協議は以前には行われていなかった。
ところが、(1)で触れた平成13年からの図書館等における著作物等の利用に関する文化審議会著作権分科会における検討の過程において、権利者側委員と図書館側委員との間で非公式に協議が行われるようになった。この協議が文化庁著作権課が設けた検討の場においても行われた後、平成15年1月、権利者側委員と図書館側委員との間で、定期的な協議の場を設けることで合意が成立し、「図書館等における著作物等の利用に関する当事者協議」が開始された。その後、これらの委員の派遣母体を構成員とした形に再構成され、平成16年5月、「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会」が設立された29。
これらの協議は、2、3か月に1回の頻度で開催され、現在までに次のような成果を挙げている。
- 日本図書館協会と日本書籍出版協会が共同で公立図書館におけるベストセラー小説の貸出実態、所蔵複本数の調査を行い、その結果を「公立図書館貸出実態調査2003報告書」30として公表した(平成16年3月)。
- 日本図書館協会と日本文藝家協会との間で「公共図書館等における音訳資料作成の一括許諾に関する協定書」31が締結された(平成16年4月)。
- 国公私立大学図書館協力委員会と日本著作出版権管理システム・学術著作権協会との間で図書館間相互貸借のためのファクシミリ・インターネット送信を無償で行うための契約が締結された(平成16年3月)。
- 日本図書館協会、国公私立大学図書館協力委員会および全国公共図書館協議会が、構成権利者団体の理解を得て、「図書館間協力における現物貸借で借り受けた図書の複製に関するガイドライン」と「複製物の写り込みに関するガイドライン」をまとめた32(平成18年1月)。
- イ 図書館におけるビデオソフトの上映に関するビデオ関係団体との協議
- 図書館におけるビデオソフトの上映については、1980年代から映画興行主や映画会社などが問題視するようになり、映画会社や映画興行主が抗議・自粛要請が図書館に対してなされるようになった。このような動きに対して対応に苦慮する図書館が少なからず出てきたため、日本図書館協会において専門委員会を設置して対応を検討するとともに、昭和61年あたりからビデオソフト業界団体である日本映像ソフト協会(当時は日本ビデオ協会)と話し合いを開始した。この話し合いがようやく結実し、平成13年12月12日、両者の間で「合意事項」がまとめられた。この合意事項の内容の概略をまとめると、図書館における上映会に使用するビデオソフトは、あらかじめ上映会に使用することが権利者によって明示的に承認されているもの(いわゆる「上映権付きビデオ」)とし、近隣の映画館やビデオレンタルショップ、ビデオ販売店の供給タイトルと競合しない場合に限る、といった内容となる。現在のほとんどの公共図書館においては、この合意事項に基づき、いわゆる「上映権付きビデオ」を購入し、このビデオソフトによって上映会を実施しているという状況である。
なお、営利を目的とせず、観衆から料金を受けない場合の映画の上映は、著作権法第38条第1項に基づき、自由に行うことができることとされている。それにもかかわらず、ほとんどの公共図書館がこのような対応を行うのは、あくまで映画会社等とのトラブルを未然に防止するためであると思われる。したがって、この「合意事項」を適用するかどうかを判断するにあたっては、この「合意事項」が著作権者からの許諾文書ではなく、あくまで当事者間のトラブル回避のための方策を記したものであることに留意する必要があるものと考えられる。
(3) 権利者団体によるガイドライン等の作成
以上のような、図書館関係団体によるガイドライン作成の動きのほか、権利者団体においても、ガイドラインや手引書の作成が行われている。このうち図書館業務に大きな影響を与えているものを紹介する。
- ア 著作権法第35条に関するガイドラインの作成
-
3(1)アにおいて説明したように、平成15年1月に文化審議会著作権分科会の検討結果が取りまとめられたが、その中で著作権法第35条の複製主体に授業を受ける者を加えることと、遠隔授業に対応するための措置を講ずることの2つにつき、法改正が適当との提言がなされたことを受け、法改正がなされた。この法改正の動きと並行して権利者側が利用者側の意見等も参考にして平成16年3月に作成したのが、著作権法第35条ガイドライン協議会「学校その他の教育機関における著作物の複製に関する著作権法第35条ガイドライン」33である。
このガイドラインでは、著作権法第35条が適用されるための諸要件についての解釈が明記されており、実務上も大変参考となるものである。ただ、このガイドラインを参照するにあたっては、「権利者・利用者の連名によって公表するには、なお協議を要する箇所もある」とこのガイドラインの冒頭にも記されているように、このガイドラインに示された解釈が利用者側の十分な合意を得たものではなく、権利者側からみた解釈であることに留意する必要があるものと考えられる。 - イ お話会・読み聞かせに関する手引書の作成
- 各地で行われている子どもを対象とするお話会や読み聞かせのイベント等において、主催者側の著作権に対する意識が希薄ではないか、という問題意識から、絵本作家の団体、童話作家の団体と絵本や童話を出版する出版社の団体が、平成18年5月に作成したのが、児童書四者懇談会「読み聞かせ団体等による著作物の利用について」(平成18年5月。平成19年4月2日改訂)34である。
この手引きは、お話会や読み聞かせのイベントにおいて著作物を利用する際に関係する著作権の説明と、許諾が必要な場合における許諾手続について簡潔にわかりやすく説明をしたものである。また、これまでの著作権法の解釈を緩和した箇所もみられる35ことから、権利者側のこれらの行為に対する許容範囲が明確に把握できることもあり、実務を行うにあたって大変参考になるものである。
ただ、この手引きも利用者団体の意見を踏まえて作成されたものではないことから、あくまで権利者側の解釈を示したものであることに留意する必要がある。
4 今後の課題
このように、図書館における著作物等の利用の円滑化を図るため、様々な活動が行われ、一定の成果を得ている。ただ、これまで図書館側によって要望された著作権法の改正事項は一つたりとも法改正につながっていない。例えば、インターネット情報資源を利用者に十全に提供するためには、図書館内でインターネットのホームページをプリントアウトして提供することが必須となるが、そのための法改正は未だ実現していない。また、電子図書館事業を行うための法的基盤はまったく実現していない。このため、著作権者の許諾を得るために莫大な経費を掛けて36著作権者の所在を調べる必要が出てくる。それで著作権者の所在が判明すればよいが、そのほとんどが所在不明という結果である。この作業は文化庁長官の裁定という、著作権者の所在が不明な場合に著作物を利用するための唯一の手段を用いるためには必須となるため、まったく無意味とは言わないが、そこまでして著作権者の所在を調べる必要があるのか、疑問なしとはしない。また、図書館等における官公庁作成広報資料や報告書等の全部分の複写や入手困難な書籍等に掲載された著作物の全部分の複写のように、図書館の有する情報提供機能を十全に果たすための法改正の要望についても、未だ審議の俎上にも載せられていない。
このように、これからの図書館の果たすべき役割を果たすためには、まだ十分な法的基盤が整っているとは言いがたい状況である。
ただ、このような法的基盤が整わないのは、社会一般の図書館に対する見方が、依然として旧来型の、図書館は書籍や雑誌を来館者に対して閲覧や複写、貸出しという形態で提供していればよい、というレベルに留まっていることに原因があるように思えてならない37。
このため、デジタル化やネットワーク化の進展に伴って図書館の果たすべき役割が拡大していることを、社会に対して周知することがなければ、これらの法的基盤の整備も困難ではないかと考えられる38 。このような活動は、著作権制度の改善につながるだけでなく、社会における図書館の地位の向上にもつながるものと思われる。今後のこのような図書館の新たな社会的役割に関する啓発活動の活性化が望まれる。
(国立国会図書館調査及び立法考査局国会レファレンス課)
表1 著作権法上の主な権利制限規定
| 私的使用のための複製 (30条) |
自分自身や家族、親しい友人が使う目的で著作物をコピーしたり録画したりダビングしたりする場合に適用される。コンビニエンスストアのコピー機でのコピーやビデオデッキでの放送番組の録画などが該当する。 DVD録画デッキやMD録音デッキなどで録音録画する場合には、機器や媒体にあらかじめ「私的録音録画補償金」が上乗せされている。 |
| 図書館等における複製 (31条) |
図書館の複写サービスや保存目的の媒体変換、他の図書館の請求に応じて絶版資料を蔵書にするために所蔵館でマイクロ製品を作成する場合などに適用される。コピーサービスの場合には、「著作物の一部分」「一人につき一部」「調査研究目的に限定」など、様々な厳しい条件が付されている。 |
| 引用 (32条1項) |
自分の著作物の中に別の著作物を取り込む場合に適用される。ただし、「主従関係」、「明瞭区分性」、「出所の表示」などの要件をクリアする必要がある。 |
| 教科用図書等への掲載 (33条) |
いわゆる「検定教科書」「教師用指導書」に著作物を掲載する場合に適用される。著作者への通知と文化庁長官が定める補償金の支払いが必要。 ※ 副読本や参考書、教科書準拠問題集へは適用されず。 |
| 授業での使用のための複製 (35条1項) |
教育機関での授業を担任する人や受講する人が授業で使うために必要な範囲内で著作物をコピーする場合に適用される。 |
| 試験問題としての複製等 (36条) |
試験問題に著作物を掲載する場合に適用される。 いわゆる「赤本」や問題集等には適用されない。 |
| 点字による複製・公衆送信 (37条1・2項) |
点字図書の作成、点字データの複製やネットワーク配信に適用される。営利目的でも適用がある。 |
| 録音図書の作成・公衆送信 (37条3項) |
点字図書館等において、視覚障害者への貸与のために公表された著作物を録音する場合と音声データをネットワーク配信する場合に適用される。 |
| 非営利・無料の上演等 (38条1項) |
営利を目的とせず、聴衆や観衆から料金を徴収しない場合には、自由に著作物を上演、演奏、口述、上映することができるという規定。様々な場面で適用されている。 |
| 家庭用受信装置を用いた著作物の伝達 (38条3項後段) |
市販のテレビやラジオを使った場合には、たとえ営利目的であったとしても、テレビ放送やラジオ放送を不特定の人などに視聴させることができるという規定。定食屋さんや理髪店、喫茶店、銭湯などでテレビやラジオが流されている場合などに適用される。 |
| 非営利・無料の貸与 (38条4項) |
営利を目的とせず、貸与を受ける者から料金を徴収しない場合には、自由に図書や雑誌、音楽CD、絵画、写真などを貸与することができるという規定。ビデオやDVDソフトなどの映画ソフトには適用されない。 |
| 政治上の演説の利用(40条1項) | 公開の場で行われる政治上の演説につき、原則として自由利用を認める規定。 |
| 国等における公開の演説・陳述の利用(40条2項) | 国や地方自治体、独立行政法人等で行われた公開の演説・陳述について、報道の目的上正当と認める場合に限り、新聞紙、雑誌等への掲載、放送等を認める規定。 |
| 行政・立法における内部資料として用いる場合の複製(42条1項) | 行政省庁や国会内での内部資料として、必要な範囲内において複製することができるという規定。審議会、部内の意思決定の会合など、複製がこれらの意思決定のために必要不可欠な場合に限り認められ、単なる執務参考資料とするためのコピーは含まれない。 |
| 特許審査手続・薬事行政に係る権利制限(42条2項) | 特許審査や薬事行政の一環として、審査機関等への文献提出義務が法令上設けられている場合などにつき、必要と認められる範囲内でのコピーを認めた規定。 提出したコピーのみ適用され、提出準備の際に集めたが提出しなかったコピーには適用がないこととされている。 |
| 翻訳、翻案等による利用(43条) | 42条までに規定されている権利制限規定の一部につき、翻訳や翻案まで拡大して利用することを許容する規定。 |
| 美術の著作物等の原作品の所有者による展示(45条) | 美術の著作物等の原作品の所有者または所有者の同意を得た者はその原作品を自由に展示することができるという規定。一般公衆の見やすい屋外の場所等に設置する場合には適用されない。 |
| 公開の美術の著作物等の利用 (46条) |
屋外に恒常的に設置された絵画や彫刻、建築物につき、絵はがきとして販売する場合などを除き、自由に利用できるという規定。 |
| 美術の著作物等の展示に伴う複製(47条) | 45条の規定等に基づき展示を行う際、観覧者のためにこれらの著作物を解説・紹介した小冊子に掲載することを認めた規定。 |
| プログラムの使用のために必要となるバックアップ・翻案(47条の2) | 自らが所有するプログラムにつき、その使用のために必要なバックアップコピーの作成とカスタマイズを行う場合に適用される。所有しなくなったらバックアップは消去する必要がある。 |
| 保守、修理等のための一時的複製(47条の3) | 携帯電話などのハードディスク内蔵型の電子機器等につき、<1>その機器の保守・修理のための一時バックアップ、<2>製造上の欠陥または販売までの過程で生じた故障を理由とする機器の交換の場合のデータの移し替えの2つを著作権者の許諾なしに行えることとした規定。 |
表2 著作権の保護が及ぶ対象となる行為
| 未公表の著作物の公表 (18条) |
公表されていない著作物を著作者に無断で公表する行為。日記や手紙、未公開作品の公開などの場合に問題となる。 |
| 著作物の公表時の著作者の氏名の表示 (19条) |
著作物の公表の際に著作者に無断で氏名を表示し、または著作者に確認せずに特定の方法で著作者の名義を表示する行為。既に表示されている場合においてそのままの表示を行うことや、公正な慣行に従って著作者名の表示を省略することは無断で行ってもよい。 |
| 著作物の無断改変等 (20条) |
著作物の題号や内容を著作者に無断で改変したり、タイトルを勝手に付けたりする行為。著作物の利用の性質上やむを得ない場合などの場合には無断で行ってもよい。 |
| 複製 (21条) |
印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製する行為。筆写、プリントアウト、ダウンロード等も含まれる。 |
| 公の上演・演奏 (22条) |
脚本を上演し、楽曲を演奏・歌唱する行為。レコードを再生する行為など、上演・演奏を録音録画したものを再生する行為も含まれる。 |
| 公の上映 (22条の2) |
著作物を映写幕その他の物に映写する行為。静止画の映写や不特定少数への異時映写も含まれる。 |
| 公衆送信 (23条1項) |
公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うこと。アップロード行為(送信可能化)を含む。「同一の構内」での送信(プログラム以外)や特定少数への送信は除かれる。 |
| 公の伝達 (23条2項) |
公衆送信される著作物を受信装置を用いて公に伝達する行為。街頭テレビ、待合室でテレビやラジオなどを流すことなどが含まれる。 |
| 公の口述 (24条) |
言語の著作物を朗読その他の方法により公に口頭で伝達する行為。実演に該当する場合は「上演」になる。 |
| 公の展示 (25条) |
美術の著作物又は未公表の写真の著作物をこれらの原作品により公に展示する権利。 |
| 公の頒布 (26条) |
映画の著作物の複製物を公に貸与し、又は譲渡する行為。ビデオやDVDの新品の販売や貸出しなどが含まれる。 |
| 公の譲渡 (26条の2) |
映画の著作物以外の著作物の複製物を公に譲渡する行為。中古販売は除かれる。 |
| 公の貸与 (26条の3) |
映画の著作物以外の著作物の複製物を貸与する行為。 |
| 翻訳・翻案権 (27条) |
翻訳、翻案、変形などを行う行為。 |
表3 複写関係権利制限規定の比較
| 条文番号 | 複写の主体 | 複写物の使用目的 | 複写対象資料 | 複写可能範囲 |
|---|---|---|---|---|
| 31条1項 | 図書館等 * 国立国会図書館、公共図書館、大学図書館、公立博物館・文書館図書室、公立研究所図書室等の7つの類型に含まれる図書館のみに適用可能 |
調査研究 * 営利目的・非営利目的を問わない。 |
図書館の所蔵資料 * 他の図書館からの借受図書についてはガイドライン(注1)あり |
・ 著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された著作物にあってはその全部) * 事典類、句集・歌集等の場合にはガイドライン(注2)あり ・ 一人につき一部 |
| 35条 | ・ 授業を担任する者 ・ 授業を受ける者 |
授業の過程における使用 | (規定なし) | 必要と認められる限度内 |
| 42条1項 | (規定なし) | 裁判手続、立法・行政の目的(内部資料として必要と認められる場合に限る) | (規定なし) | 必要と認められる限度内 |
| 42条2項 | (規定なし) | 特許審査、薬事関係審査・報告 | (規定なし) | 必要と認められる限度内 |
| (参考) 30条1項 |
複写物を使用する人 | 個人的または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内 | (規定なし) | (規定なし) |
(注1) 日本図書館協会、国公私立大学図書館協力委員会、全国公共図書館協議会「図書館協力における現物貸借で借り受けた図書の複製に関するガイドライン」(2006年1月1日)<http://www.jla.or.jp/fukusya/taisyaku.pdf> [last access:2008.8.20]。主な内容は、<1>図書館間貸出により借り受けた図書(雑誌、新聞等は対象外)の複製を許容すること(第2項)、<2>入手困難な場合または蔵書構築方針から著しく例外的な場合に限定すること(第3項)、<3>貸出館・借受間双方共に著作権法第31条の適用される図書館である必要があること(第5項)、<4>貸出館が複写を明示的に禁止している場合を除外すること(第6項)、<5>借受図書の複写については別個に複写手続を定めて実施しなければならないこと(第7項)、<6>同一の借受図書からの複写依頼が年2回以上あった場合には、借受館に購入努力義務が発生すること(第8項)である。
(注2) 日本図書館協会、国公私立大学図書館協力委員会、全国公共図書館協議会「複写物の写り込みに関するガイドライン」(2006年1月1日)<http://www.jla.or.jp/fukusya/uturikomi.pdf> [last access:2008.8.20]。主な内容は、<1>同一紙面上に複製された複製対象以外の部分(写り込み)については、マスキングを免除すること(第3項)。<2>その場合において出版物の全部または大部分が複製される結果にならないこと(第4項)、<3>i楽譜、ii地図、iii写真集・画集(書を含む)、iv雑誌の最新号をガイドラインの適用対象外とするあること(第5項)である。
著作権者の許諾の必要性を判断するためのチャート(図1)

1 著作権法では、著作権のほかに「著作隣接権」という権利を設けており、実演(演奏、歌唱、演技、演芸、朗読など)、レコード(いわゆる音楽CDのほか、音を物に固定したものすべてを指す)、放送および有線放送の利用には、原則としてこの権利を持つ者(著作隣接権者)の許諾を得なければならないこととされている。したがって、本来であれば、図書館の行う情報提供活動と著作隣接権との関係についての説明も必要となるところではある。ただ、図書館の行う情報提供活動において、実演、レコード、放送および有線放送を利用することはほとんどなく、また、権利制限規定の適用の状態も著作権の場合とほとんど同じなので、本稿では説明を省略する。
2 ヨミウリ・オンライン事件控訴審判決(知財高裁平成17年10月6日判決)では、新聞記事の見出しについて「報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか、使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して、表現の選択の幅は広いとはいい難く、創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり、著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる」と判示した。この事件において読売新聞社が訴訟の対象とした見出し365個がすべて著作物ではないと判断されたことを考え合わせると、新聞記事の見出しのほとんどについては著作物には入らないものと考えることが妥当であると思われる。
3 様々な政策的な理由から、特定の要件を満たす場合において、著作権者の許諾を得なくても著作物を利用することができるように設けられた規定をいう。著作物の利用を制限する規定ではないことに注意。
4 「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない」と定めている。
5 なお、マンガ喫茶では、ビデオソフトやビデオゲームの提供も行われているが、これらの行為は著作権法上「上映」に該当する行為である上、適用できる権利制限規定が存在しないため、著作権者の許諾を得て行われている。
6 「公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる」と定める。
7 貸与については、「映画の著作物の複製物の非営利・無料の貸与」(著作権法第38条第5項)の規定も設けられているが、図書館における貸与については、事実上適用できる状況とはなっていない。このため、ここでの検討対象から除いた。
8 例えば、日本図書館協会映像事業部発行の「AVライブラリーVOL.51」WEB版 <http://www.jlaeizo.jp/>に掲載されている「にんじん」というフランス映画(2003年公開)のDVDは、セルビデオの価格が3,990円(税込)なのに対し、14,700円(税込)という価格が設定されており、セルビデオ販売価格の約3.7倍の価格となっている。
9
以下のような規定となっている。
(図書館等における複製)
第31条 図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合
二 図書館資料の保存のため必要がある場合
三 他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合
10
以下のような規定となっている。
(学校その他の教育機関における複製等)
第35条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 (略)
11 図書館内におけるいわゆる「セルフコピー」サービスに同項の規定が適用できるとして横浜市立図書館では著作権法第31条第1号を適用した場合に課される諸要件から解放されたコピーサービスを行っている。これに対し、日本図書館協会は「当協会では、著作権法31条は図書館のために設けられたものであるため、図書館において、それ以外に根拠を求めて複製を行うことは不適切であるという基本的考え方をしています」としたうえで、著作権法第31条の「遵守」を求める文書を横浜市中央図書館に送付した。「著作権法31条の考え方について」(平成11年5月21日 横浜市中央図書館宛 (社)日本図書館協会)『図書館年鑑2000』日本図書館協会,2000年6月,p.403.を参照のこと。また、出版社の団体である日本雑誌協会と日本書籍出版協会は、平成14年11月28日付け文書で、同図書館に対し、このサービスの中止を求める申し入れをいった。その後両者の間で話し合いが行われ、平成15年5月30日から同図書館が掲示内容の変更等を内容とする取扱いを行うこととなり、いちおうの決着を見た。「複写をめぐる横浜市立図書館問題」『日本雑誌協会 日本書籍出版協会 50年史』日本雑誌協会、日本書籍出版協会,2007.11,pp.228-229.を参照のこと。
12 第42条を適用した複写は、国立国会図書館においても行われている。国立国会図書館資料利用規則(平成16年国立国会図書館規則第5号)第31条第2項第2号および「法規の制定」『国立国会図書館月報』第557号,平成19年8月,p.26-28.を参照のこと。なお、早稲田祐美子「図書館等の複写と42条(他の制限規定)との関係」『コピライト』566号,2008年6月,p.57.は、第42条は「著作物の利用者自らが・・・著作物を複製することができることを規定しているだけであり、・・・これを根拠に、図書館等が図書館資料である著作物全部を複製して図書館等利用者に交付することができると解するのは困難ではないでしょうか」とし、同条の適用に否定的な見解を採っている。この見解については、第42条が複写の主体について明示していないという形式的な理由と、裁判における主張の立証上必要な資料が図書館にしか所蔵されていない場合であって資料劣化等の理由から図書館から借り受けることが困難なときに、当該資料の複写物が入手できなくなり(第31条は調査研究目的の複製にしか適用されないため、裁判所に提出する資料を複写する場合には適用できない)、公正な裁判を保障する本条の趣旨を没却することになるという実質的な理由から、疑いなしとしない。
13 斉藤博『著作権法』(有斐閣,2000年),p.241.でも、複写の主体を現実に授業を行う者としたうえで「その手足として、職員・・・が複製する分には差し支えない」という見解が述べられている。なお、他の学校の教員や学生、児童生徒が複写の主体である場合にまで35条が適用できるとするのは、この手足の範囲を越えるものと思われるため、困難であろう。
14 この現状については批判的な見解も見られる。中山信弘『著作権法』有斐閣,2007.10,p.252.を参照のこと。
15 科研費報告書や論文集などが典型例である。
16 この事項は、3(1)アで述べるとおり、平成15年1月に出された文化審議会著作権分科会の報告書において「法改正が適当」とされたものであるが、諸般の事由から、法改正がなされずにいるものである。このため、機会あるごとに図書館界から法改正の要望として出されている。最近では、3(1)ウで述べるとおり、文化審議会著作権分科会過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会のアーカイブ・ワーキングチームによって作成され、平成20年4月28日の同小委員会で報告した「図書館等におけるアーカイブ事業の円滑化方策について」において、「著作権法第31条第2号の規定の解釈として不可能ではない」という見解が示されたが、この見解は解釈の可能性を示したに過ぎず、積極的にこのような解釈を支持したものと読むことができるかどうかは意見の分かれるところではないかと思われる。
17 このきっかけとなったのは、当時の文部省生涯学習局長の私的諮問機関であった「コンピュータ・インターネット等を活用した著作物等の教育利用に関する調査研究協力者会議」が平成12年9月に出した「コンピュータ・インターネット等を活用した著作物等の教育利用について(報告)」という報告書とみられる。この報告書が提出された翌月、当時の著作権審議会は、マルチメディア小委員会に「図書館等における著作物等の利用に関するワーキング・グループ」を設置し、検討に着手した。
18 権利者側からは、(1)公衆の用に供するコピー機を利用した私的使用のための複製を権利制限の対象から除外すること、(2)営利目的の「調査研究」を目的として利用者が複製を求めた場合について権利制限の対象から除外すること、(3)図書館等が図書館資料を貸し出すときには著作権者に補償金を支払うようにすること、(4)図書館等においてビデオ等を上映することについて権利制限の対象から除外することの4項目の要望が出された。図書館側からは、(1)図書館等がファクシミリ等の公衆送信により複製物を提供できるようにすること、(2)定期刊行物以外の入手困難な図書館資料に所載された著作物の全部を複製できるようにすること、(3)再生手段の入手が困難である図書館資料を保存のために複製できるようにすること、(4)図書館等に設置されたインターネット端末から利用者が著作物をプリントアウトできるようにすること、(5)図書館等においても視覚障害者のために録音図書を作成できるようにすること、(6)図書館のみの送信を目的として図書館資料をデータベース化できるようにすること、の6項目の要望が出された。
19 「文化審議会著作権分科会審議経過報告」(平成15年1月) <http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/toushin/030102.htm> [last access:2008.8.20]
20 いわゆる「公貸権」制度の導入のことで、映画の著作物の複製物の貸与に係る補償金制度(著作権法第38条第5項)「の対象を将来「書籍等」に拡大することによって対応するという方向性そのものに関しては、基本的に反対はなかった」ものの、「権利者側・図書館側双方に、具体的な補償金制度等の在り方について協力して検討したいという意向があることから、当面はその検討を見守ることと」するという結論であった。このため、当時の文化庁著作権課としては、具体的な法改正を行う意向がそもそもなかったのではないかと思われる。なお、公貸権制度の導入をめぐる動向については、南亮一「動向レビュー:公共貸与権をめぐる国際動向」『カレントアウェアネス』No.286,2005.12.20,pp.18-21. <http://current.ndl.go.jp/ca1579> [last access:2008.8.21]を参照のこと。
21 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/toushin/05012501.htm [last access:2008.8.20]
22 「(A)著作権法第31条の「図書館資料」に、他の図書館から借り受けた図書館資料を含めることについて」、「(B)図書館等において、調査研究の目的でインターネット上の情報をプリントアウトすることについて」、「(C)「再生手段」の入手が困難である図書館資料を保存のため例外的に許諾を得ずに複製することについて」、「(D)図書館における、官公庁作成広報資料及び報告書等の全部分の複写による提供について」、「(E)著作権法第37条第3項について、複製の方法を録音に限定しないこと、利用者を視覚障害者に限定しないこと、対象施設を視覚障害者福祉施設に限定しないこと、視覚障害者を含む読書に障害をもつ人の利用に供するため公表された著作物の公衆送信等を認めることについて」および「(F)ファクシミリ、インターネット等を使用して、著作物の複製物を送付することについて」の6項目である。
23 常世田良「図書館関係の権利制限について」(2005年3月30日)<http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/05040401/003.htm> [last access:2008.8.20]
24 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/toushin/06012705.htm [last access:2008.8.21]
25 なお、この報告書において、特許・薬事審査に係る権利制限の拡大について法改正が適当との提言がなされ、その年の年末の臨時国会において、この事項に係る改正を含む著作権法の一部改正法案が可決され、平成19年7月1日から施行された。この事項は、現行の著作権法第42条第2項として盛り込まれている。国立国会図書館では、この改正に対応して国立国会図書館資料利用規則を改正し、同日からこの事項に係る複写サービスの提供を行っている。「法規の制定」『国立国会図書館月報』第557号,平成19年8月,p.26-28.を参照のこと。特許・薬事審査関係に係る権利制限の拡大に係る動向については、南亮一「最近の著作権法の改正の動向について--学術情報を中心として--」『情報管理』50(12), 2008.3, pp.816-824.を参照のこと。
26 渋谷達紀早稲田大学教授を座長とし、権利者団体から3名、図書館関係団体から2名、ネットワーク事業者団体から1名の計7名で構成。図書館関係団体からは、日本図書館協会の小池信彦常務理事と国立国会図書館の田中久徳総務部企画課電子情報企画室長がメンバーとなっている。
27 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/024/08051419/001.htm [last access:2008.8.21]
28 この報告書の内容およびその意義等については、南亮一「教養講座 マイクロフィルム及び電子媒体の著作権問題 第5回 資料や文書のアーカイブに関係する著作権制度の見直しの動向について 文化審議会著作権分科会過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会アーカイブ・ワーキングチームの報告を中心に」『月刊IM』47(7), 2008.7, pp.15-18.を参照のこと。
29 協議会の設立経緯および参加団体については、「(参考資料)「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会」について」(日本図書館協会ウェブサイト)<http://www.jla.or.jp/fukusya/sankou.pdf> [last access:2008.8.21]を参照のこと。なおこの文書は、『図書館雑誌』100(1), 2006.1, pp.50-51.にも掲載されている。
30 http://www.jla.or.jp/kasidasi.pdf [last access:2008.8.21]
31 http://www.jla.or.jp/onyaku/index.html#kyoteisho [last access:2008.8.21]
32 「著作権法第31条の運用に関する2つのガイドライン」(日本図書館協会ウェブサイト)<http://www.jla.or.jp/fukusya/index.html> [last access:2008.8.21]を参照のこと。これらのガイドラインは、JLA著作権委員会「著作権法第31条の運用に関する二つのガイドラインが決まりました」『図書館雑誌』100(1), 2006.1, pp.45-51.にも掲載されている。
33 http://www.jbpa.or.jp/35-guideline.pdf [last access:2008.8.21]
34 http://www.jbpa.or.jp/ohanasikai-tebiki.pdf [last access:2008.8.21]
35 例えば、著作権法第38条第1項の「料金」には、人件費や会場費等の「実費」に充当するための料金も含まれるとの解釈が一般的であるが、この手引きではこの場合であっても無許諾で利用できることとしている。また、絵画や写真が含まれている場合の表紙をブックリストや図書館報等に掲載する場合、著作権者の許諾が必要とする解釈が一般的であるが、この手引きでは「商品を明示しているものとみなされ慣行上無許諾で使用できる」とし、無許諾で利用できることとしている。
36 国立国会図書館の「近代デジタルライブラリー」事業においては、対象冊数106,990タイトルの著作権調査(著作権者の洗い出しと生没年調査)と、対象人数約55,000名の連絡先調査(文献・インターネットによる調査、外部機関・団体への照会、地方自治体への照会)に費やした期間が28か月、費用が約2億6,000万円である。このような大規模な調査を行って、結局連絡先が判明して許諾が得られたのがわずか264名、回答保留・非許諾がわずか33名に過ぎなかった。「(別紙2) 明治期刊行図書の著作権許諾作業」(田中久徳「過去の著作物の保護と利用に関する検討課題について--国立国会図書館のデジタル・アーカイブ事業への取り組みと課題--」(平成19年4月27日)(文化審議会著作権分科会過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第2回)配布資料8の別添資料2)<http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07050102/009/002.pdf> [last access:2008.8.21]を参照のこと。
37 このことは、平成19年6月29日に開催された文化審議会著作権分科会法制小委員会の第5回会議における、茶園茂樹委員(大阪大学大学院教授)の以下の発言に集約されていると言っても過言ではない。「・・・図書館関係なのですが、・・・平成18年度のときもそういう意見がありましたし、先ほどのご説明の中でもあったのですけれども、資料4の2ページの<3>とか<5>〔引用者注:<3>はインターネットのホームページのプリントアウト、<5>は官公庁作成広報資料・報告書等の全部複写を指す〕と関しては、そもそもなぜ図書館なのかという疑問があります。図書館では許されて他の場所では許されないというのは説明がしにくいといいますか、この場合、図書館というところをどのように考えているのかというのは難しいところがあると思います。検討するのであれば、おそらくこの点を考えないといけないのかなと思います。・・・ともかく、おそらく今まで図書館に関しては、図書館が所蔵している本等を起点にして考えていたと思うのですけれども、それ以外のもの、特にインターネットの情報に関しては、図書館というものをそもそもどう考えるのかというところが重要ではないかと思いますので、その点についても検討の対象にしていただきたいと思います」
38 日本図書館協会では、法制問題小委員会の委員への理解を求めるべく、「図書館に関する権利制限の要望の背景となる「図書館像」について」<http://www.jla.or.jp/kenkai/20070802.pdf> [last access:2008.8.21]と題する文書を理事長名義で作成し、平成19年8月2日に各委員に送付した。ただ、単に送付しただけで、その後何のフォローも行わなかったため、小委員会の審議には何の影響も与えることはなかった。
