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びぶろす-Biblos

65号(平成26年7月)

びぶろす

  • 発行:国立国会図書館総務部
    (National Diet Library)
  • ISSN:1344-8412

1. オープンデータと図書館―最新の海外事例と動向

東京大学大学院情報学環 生貝 直人

1. オープンデータ政策

近年世界各国において、公的機関の保有する情報を積極的に公開し利活用の促進を図ろうとする、オープンデータと呼ばれる政策枠組みが高い関心を集めている。オープンデータ政策の意味するところは、2013年に公表された我が国の「電子行政オープンデータ戦略」の冒頭に見える、「公共データは国民共有の財産であるという認識の下、公共データの活用を促進するための取組」という表現で要約することができるだろう。国内外のオープンデータ政策についてはすでに優れた紹介や論考が多いため詳述は避けるが、我が国においても各省庁オープンデータのポータルサイトであるData.go.jp試行版開設をはじめとする政府、そして地方自治体等における取組が急速に進められているところである。

そのような中、本稿で焦点を当てるのは、我が国では未だオープンデータ政策の文脈で議論の対象になることが少ない、図書館、美術館や博物館、そしてアーカイブズといった各種公的文化施設のオープンデータ化に関わる諸外国の動向である。たとえば2013年に出されたEUの「オープンデータ戦略」の中では、オープンデータ政策の対象となるべき公共データ(Public Data)を、「EU内の公的機関によって作成され、収集され、あるいは対価を支払った全ての情報を指し、これには地理データや統計、気象、公的資金提供を受けた研究プロジェクト、そして図書館において電子化された書籍を含む」と定義するなど、オープンデータ政策の基本方針の中にも図書館は明示的に含まれ、さらにその対象範囲は各種の公的文化施設にまで拡大されつつある。文化施設の保有する情報のデジタル化については、従来は文化資源分野のデジタルアーカイブ(あるいはDigital Cultural Heritage)促進政策として論じられてきた側面が大きいが、諸外国の政策枠組みの中では、徐々にオープンデータ政策と文化資源デジタルアーカイブの促進は融合の動きを見せつつある。以下ではEUと米国の近年の動向を題材として、その融合が意味するところを論じていきたい。

2. 図書館・文化施設のオープンデータ

(1)EUの取組

EUでは早くも2003年、加盟各国の公的機関が保有する情報の取り扱いを規定した「公共セクター情報の再利用指令(Directive on re-use of public sector information、PSI指令)」を採択し、EU全域のオープンデータ政策の基盤法制を整備してきた。当初の同指令では、公的な文化施設(図書館・美術館・博物館・アーカイブズ、および教育研究機関・放送局等)以外の政府機関や自治体、独立行政法人等の公共セクターが保有する情報については、第三者が知的財産権を保有しているなどの問題がない限り、一度再利用可能とされた情報については、無償か極めて低廉な料金で、非差別な条件で提供するなどの要件に従って公開される必要があると定められた。

2013年には、情報技術の発展とオープンデータ政策の拡大に対応するため、同指令の大幅な改正が採択された。同改正の内容は、公共データのオープンデータ化の義務付け強化や、提供対価の原則無償化など多岐に渡るが、最も象徴的なのは、従来のオープンデータ政策の枠外とされていた公的な「図書館・博物館・美術館・アーカイブズ」の4つを明確に対象に含めたことである。さらに公開情報については可能な限り電子的に利用しやすい形式で、メタデータを付与して公開することなどが求められることとなった。

同指令は2015年末までの参加各国の国内での立法化(以下「国内法化」という。)が求められており、それに向けEU内の文化施設が保有する各種データのオープンデータ化は急速に進められていくことが予想される。

(2)米国の取組

一方米国においても、当初のオープンデータ政策枠組において公的な文化施設の保有するデータの取り扱いは明確ではなかったが、2014年5月に公表された「オープンデータアクションプラン」の中で、2014年中にスミソニアン機構(Smithsonian Institution)1 の保有する所蔵品データのオープンデータ化を行うことが明記された。米国の文化施設の多くは州政府や私的な財団等によって運営されており、連邦政府のオープンデータ政策の直接の対象となる領域は大きくはないが、従来のオープンデータ政策においても州政府や地方自治体の活動は目覚ましく、今回のアクションプランの影響を受け、今後、州立・私立の文化施設においても同様の措置が進められていくものと考えられる。

法制度面においては、米国ではEUや我が国と異なり連邦政府の著作物は原則としてパブリック・ドメインとされているため提供条件面での制度的対応の必要性は少なかったが、2014年5月には連邦政府の各機関が公開する情報の機械判読性確保やメタデータ付与等を定めた初のオープンデータ法制であるデータ法(Digital Accountability and Transparency Act、DATA Act)が成立し、新たな法的基盤を元に、米国のオープンデータ政策は一層拡大していくことが期待されている。

3. 欧米のデジタル・ライブラリー

このような措置によって促進される文化施設オープンデータの受け皿となるのが、EU・米国がそれぞれ構築を進める大規模な文化資源デジタルアーカイブ・ポータルである。カレントアウェアネスの記事等でも度々取り上げられているように、EU全域の文化資源デジタルアーカイブ・ポータルである電子図書館ヨーロピアナ(Europeana)は、すでに参加文化施設数2,300、登録作品数3,000万件を超えるまでに拡大している(2013年12月時点)。


[ヨーロピアナ]

一方米国においても、ハーバード大学等を中心として準備が進められた米国デジタル公共図書館(Digital Public Library of America、以下「DPLA」という。)は、2013年の開設から1年が経過した段階でスミソニアン機構や各州立文化施設、J・ポール・ゲティ財団(Getty Trust)2 をはじめとする私立文化施設等1,300以上の文化施設が参加し、登録作品数は700万件を超える。さらにヨーロピアナとDPLAの両者は、公式な協定に基づきデータ形式の共通化や相互接続を行う他、Leaving Europe: A new life in Americaをはじめとする両ポータルの登録作品を活用したコンテンツの共同製作なども活発に行っている。DPLAの主要な推進者であるRobert Darnton(ハーバード大学図書館)が端的に表現する通り、デジタル・ライブラリーは、EUと米国を中心として着実に実現に向けた歩みを進めつつある。


[米国デジタル公共図書館]

これらEU・米国のポータルからアクセスできる所蔵作品データは、それがインターネットから閲覧できるのみならず、前述した政策枠組みに基づいてオープンデータ化されたものについては、自由に利活用して新たなコンテンツやアプリケーションを作り出すことができる。実際にヨーロピアナではEuropeana Creative Challengeというアプリ開発コンテストを開催し、教育や観光等に資するアプリケーションの開発を促している他、2014年の活動計画では「ポータルからプラットフォームへの移行」を重点領域に設定し、自由利用可能な所蔵作品データの更なる拡大を目指すなど、EUの膨大な文化資源を新たな創作活動に活かしていくプラットフォームとなるための施策を進めている。ヨーロピアナや米国における文化資源デジタルアーカイブは、オープンデータという用語が一般化するよりも以前から構築が進められていたものだが、所蔵作品データのオープンデータ化は、このように既存の文化資源がデジタル環境の中で新たな価値創出をもたらす契機となる可能性がある。

4. 文化施設オープンデータと法的権利

それでは、文化施設が保有・公開する情報のオープンデータ化とは、具体的にはどのような措置を指すのだろうか。

第一には、その情報に発生する「公的機関側の」著作権の処理という論点が存在する。前述のように著作権法で連邦政府の著作権をパブリック・ドメインと規定する米国を例外として、我が国を含め各国の公的機関が作成した情報には、それが著作物と認められる程度の創作性を有していれば原則として著作権法による保護がなされ、著作権者である公的機関に無断で再利用を行うことはできない。そのためEUをはじめとする諸外国、そして日本では、世界的に標準化された自由利用ライセンスであるクリエイティブ・コモンズや、独自に策定した再利用許諾ライセンスなどを、政府機関や文化施設自らが著作権を有する公開情報に適用するなどして、著作権の制約なく、誰もが自由利用可能なオープンデータであることを明示する取組を進めている。

第二に、文化施設以外の第三者が著作権を保有する情報の取り扱いである。言うまでもなく、図書館をはじめとする文化施設が保有する作品の多くは、書籍であれ美術品であれ、第三者が創作したものである。そのような著作物については、権利者の許諾を得る、あるいは著作権保護期間が満了すればデジタル化や公開を行うことができる。ヨーロピアナやDPLAの取組が示すように、著作権保護期間(EU・米国では原則著作権者の死後70年、日本では死後50年)が満了した著作物をデジタル化し、広く公共のアクセス可能な状態に置くことは、公的な図書館や文化施設におけるオープンデータの重要な一部であると考えるべきだろう。

しかし、特にそのオープンデータ化において困難な課題となるのが、著作権者が不明のいわゆる孤児作品(orphan works)の問題である。発行や製作から長い時間が経過した作品の多くは、著作権者の許諾を得る、あるいは保護期間が満了しているか否かを確認しようとしても、著作権者の氏名や連絡先、あるいは保護期間満了の起算時となる没年自体が不明であることが多い。EUでも孤児作品の問題は、ヨーロピアナの拡大における最大の課題の一つであると認識されており、EU各国で行われた各種調査によれば、英国図書館が所蔵する著作権保護期間内と推定される書籍のうち40%以上が、英国の美術館・博物館が保有する写真のうち90%以上が、EU内の映画作品のうち20%以上が、それぞれ孤児作品であると推計されている。

EUではこのような孤児作品の問題に対処するため、2012年には新たに「孤児著作物指令(Directive on certain permitted uses of orphan works)」を採択している。同指令では、EU加盟国の公的な文化施設(図書館・美術館・博物館・アーカイブズ・研究教育機関・放送局等)が所蔵する作品について、所定の権利者探索調査を行った結果権利者が発見できなかったものについては、事前の供託金等の支払を要さず、非営利目的での複製やインターネット公開を行うことができると定められている。同指令は公的な文化施設以外の第三者による孤児作品の再利用を許すものではないが、過去の膨大な文化資源への公共のアクセスを向上させるという文化施設の使命の特殊性に鑑みた、広義のオープンデータ政策の一環であると見ることができるだろう。

さらに米国でも孤児作品問題の深刻さは同様の状況である。ただ米国では、EUとは異なる動きを見せている。具体的には、利用主体の公私を問わない、フェアユースの活用と賠償責任制限を念頭に置いた立法対応の検討が議会図書館著作権局を中心に進められている。

デジタルアーカイブの構築において、公的文化施設の役割を重視するEUと、民間の多様な取組を重視する米国の姿勢の相違が、象徴的に現れている立法動向であると理解することができる。

第三に、著作権以外の制約への対応がある。現在各種の公的文化施設においては、すでにその著作権保護期間が明確に満了している所蔵品のデジタルデータ、あるいはそもそも著作権の対象とならない事実情報などについても、利用規約や画像提供契約等を通じて再利用を禁止している場合が多い。先述した公的文化施設のオープンデータ義務を定める改正PSI指令が実際の効力を持つようになるにはEU各国の国内法化を待つ必要があるが、2015年の国内法化期限に合わせ、これら文化施設が保有するパブリック・ドメイン作品データの提供条件についても、大幅な緩和が行われるものと予想される。

文化施設が保有するもうひとつの膨大な情報として、書誌情報や作品情報といった、いわゆるメタデータを挙げることができる。これらメタデータが著作権保護の対象となることは稀であるが、利用規約などの他、特にEUにおいてはデータベース保護指令(Directive on the legal protection of databases)により、体系化されたデータベースに対して独立の排他的権利を付与する、いわゆるデータベース権が存在している。そのためヨーロピアナでは、参加する文化施設に対して、CC0という標準化された権利放棄宣言ツールを用いることで、メタデータを誰もが利用可能であることを保証することを求めるなどの取組を行っている。

またパブリック・ドメイン作品の再利用を促進するための施策として、ヨーロピアナではPublic Domain Markという、その作品に著作権などの保護が存在しないことを示すためのマークの採用も促進している。同マークは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスやCC0のように権利者自身が自らの著作物に付与するものではなく、あくまでその作品を公開する文化施設の側が、作品の著作権状態を確認して付与するものである。ヨーロピアナの登録作品約3,000万件のうち、こうした標準化されたマークやライセンスが付与された作品数は2013年12月時点で700万を超える。検索画面からはEU各国の文化施設から「再利用可能な」作品データのみを検索することが可能となっており、作品データの再利用を一層促進する役割を果たしている。

5. おわりに

以上本稿では、EUと米国における図書館をはじめとする文化施設のオープンデータ化の現状について紹介してきた。従来は別個の政策課題と考えられてきた文化資源デジタルアーカイブの整備とオープンデータの推進が急速に融合しつつある諸外国の動向が、我が国の今後の施策に対して示唆することは決して小さくないと考えられる。

[本稿は2013年12月13日に開催された「国立国会図書館長と行政・司法各部門支部図書館長との懇談会」における筆者の報告を元にしているが、その後の各国の政策状況の進展を反映し、大幅に情報を追加している。]

(いけがい なおと)

  1. 英国の科学者ジェームズ・スミスソン(James Smithson)の遺産を基金に、1846 年に連邦議会の立法に基づいて創設された。現在、19 の美術館・博物館・動物園、9つの研究所を有する国立の複合博物館教育研究機関である。自然史博物館、国立動物園、アメリカ歴史博物館、アメリカ美術館などで構成されている。
  2. 石油会社の経営者であったゲティ(J. Paul Getty)が、自身が所有する美術品を一般に公開するために1953年に設立した美術館が元となっている。現在はゲティ保存研究所、ゲティ基金、ゲティ美術館、ゲティ研究所の4つの施設を含む文化慈善団体となっている。

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