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トップ > 刊行物 > びぶろす > 66号(平成26年10月)

びぶろす-Biblos

66号(平成26年10月)

びぶろす

  • 発行:国立国会図書館総務部
    (National Diet Library)
  • ISSN:1344-8412
1. 【特集:大切な資料を守れ!-資料保存】
図書館でのIPM(総合的有害生物管理)について

公益財団法人 文化財虫菌害研究所 三浦 定俊

1. はじめに

図書資料を傷める原因として、温度、湿度、光など日常的なものから、地震、水害などの自然災害や破壊、切り取りなどの人為的災害まで様々なものをあげることができる。自然災害については、2011(平成23)年3月11日の東日本大震災で地震と津波によって起きた被害が記憶に新しいが、それ以外にも近年の異常気象による水害で資料が傷んだ例は数多い。濡れた資料はカビによる被害を受ける恐れが高く、東日本大震災後には水損した資料をいかにしてカビ被害から守るかが大きな課題となった。日常時でも、雨水の浸入や壁の結露によって書庫内の湿度が上がり、資料にカビが発生することも多く、カビや虫による資料の生物被害は、多くの図書館において保存上の一番の問題点となっている。ここでは図書館でのIPM(Integrated Pest Management:総合的有害生物管理)について述べていきたい。

2. 分野によって違うIPM
(1)農業分野でのIPM

IPMはもともと1960年代に農業分野で、それまでの生物被害対策が農薬による害虫駆除だけに頼っていたことを反省して導入された、農業害虫に対する対策である。IPMは特定の生物被害防除手法を指すのではなく、様々な手法を組み合わせて経済的な許容レベル以下まで農業害虫を少なくし、その状態を維持管理する方法ないしは考え方を指している。国連食糧農業機関(FAO)が1967(昭和42)年に行ったシンポジウムでは、「関連する環境と有害生物種の活動をふまえて、あらゆる適切な技術や手段を相互に矛盾しないかたちで使用し、有害生物の密度を経済的損害を引き起こす以下の水準に維持するための有害生物管理システム」であるとしてとりまとめている 1

(2)建築物衛生分野でのIPM

農業分野から始まったIPMは、わが国では建築物衛生分野にも取り入れられている。もともと建築物の環境は、1970(昭和45)年に制定された法律「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(以下、「建築物衛生法」 2 という。)と関係の法令に従い、衛生上良好な状態を維持するように定められていて、延べ面積が3,000平方メートル以上の建築物は「特定建築物」として、法令に定める管理基準に従って、日常行う清掃の他、大掃除を6ヶ月以内ごとに1回、定期に統一的に行う等、適切な管理がもとめられている。

建築物衛生法では、人に感染症をもたらす恐れのある、ねずみの他、ゴキブリ、ハエ、蚊等の衛生害虫を対象として防除の対象にしているが、殺鼠剤、殺虫剤の乱用や不適切な使用への批判から、様々な手法を組み合わせて許容レベル以下に有害生物を制御するIPMの考え方が注目され、2002(平成14)年の建築物衛生法の政省令改正では、IPMの考え方をふまえた制度改正が行われた。その結果、ねずみ等の防除において6ヶ月以内ごとに1回、生息状況の調査をすることや、殺鼠剤や殺虫剤を用いる場合には人体への安全性を担保するために、薬事法の規定による承認を受けた医薬品または医薬部外品を用いることなどが盛り込まれた。

(3)図書館等文化財施設でのIPM

先に述べたように延べ面積が3,000平方メートル以上の建物は「特定建築物」に該当するので、規模の大きな図書館は、清掃業者に委託して事務室や閲覧室、エントランスや廊下などの共用部分において、衛生害虫を対象としたIPM作業をすでに実施しているはずである。

しかし私たちが対象とするのは、図書や博物館資料などに加害する文化財害虫である。文化財害虫は、建築物衛生法が対象とする衛生害虫と一部重なる種類もあるが、多くの種類は異なっている。それだけでなく文化財IPMは、資料に大きな被害を及ぼすカビも対象にしている点が他の分野のIPMとは違っている。すなわち図書館や文書館・博物館などで行われる文化財IPMとは、生物被害防除のために、図書館等の建物において有効で適切な技術を合理的に組み合わせて使用し、書庫、閲覧室、展示室、収蔵庫など資料のある場所では、資料を傷める害虫がいないことと、カビによる目に見える被害がないことを目指して、建物内の有害生物を制御し、その水準を維持することである 3

3. 日本の文化財の生物被害防除の歴史

日本では収蔵された資料を10月頃の天気の良い日に倉などから出して「目通し・風通し」することが古くから行われてきた。いわゆる虫干しである。この作業は、曝涼・曝書として奈良時代から行われてきたことが正倉院文書に残された記録からわかる。ただ曝涼の時期は現在のように秋ではなく、旧暦7,8月の真夏であったことが平安時代の延喜式に記されている 4 。資料の主要な生物被害対策として、その後、社寺や幕府、宮廷だけでなく民間でも曝涼は長い間行われた。

曝涼では、資料や資料の入った櫃や保存箱にこもった湿気を抜き、目視で点検して埃やカビを払い、虫害のあるものは必要に応じて修理に回し、点検の終わった資料は再び倉に収めるという作業を行う。資料を取り扱い保存する一連の作業の流れで見ると、資料を「扱い」、倉に「収納」し、定期的に「曝涼」して、保存状態に応じて「修理」するという、いわば伝統的保存方法のサイクル 5 の要として曝涼は長い間機能してきた。


図1:伝統的保存方法のサイクル

曝涼では湿気を抜いて資料を乾燥させることが重要に見えるが、伝統的保存方法のサイクルから見ると、資料を毎年一回、定期的に目視で点検してカビや虫による被害の有無を調べ、修理に回すべきか判断していたことが、湿気抜き以上に重要な意味を持っていたといえる。古くから行われてきた曝涼が第二次世界大戦後に臭化メチルなどの化学物質を用いた殺虫・殺菌燻蒸処置へ置き換わった時に、化学薬剤の優れた殺虫・殺菌処置の効果だけに目が向けられて、曝涼が伝統的保存方法のサイクルの中で持っていた役割、定期的な資料点検の重要さが伝わらなかったことは大変残念なことである。生物被害防除対策が、薬剤だけに頼らないIPMに変わりつつある現在、私たちは燻蒸処置をIPMに単純に置き換えるという意識ではなく、伝統的保存方法の中で曝涼・曝書が果たしていた資料点検の役割に改めて注目して、IPMに取りくんでいかなければならない。

4. IPMの進め方

曝涼が資料点検の役割を持って伝統的保存方法のサイクルの中で要となっていたように、IPMでも作業は点検で始まって点検で終わる。

IPMでは最初に資料と施設の現状を調査(モニタリング)し、調査結果を基にして改善のための計画をたて実行する。実行後には再び現状を調査して結果を評価し、次の計画につなげていく。このようにらせんを描くように1周ごとにサイクルを向上させながら、資料を取りまく保存環境を改善していく。

IPMは決して一回だけの処置ではないことに留意しておきたい。

資料や施設の現状を調査してわかる資料保存上の課題は、一つだけでないことがほとんどである。そこで課題を解決するために優先順位を付ける必要が生じる。優先順位の付け方は解決にかかる経費もあるので一概には言えないが、資料に被害が及ぶ危険がどれだけ高いかという緊急性を第一にすべきである。予算がないからといって、緊急性の高い課題に対して何もせずに、予算が付くまでそのまま放置しておくことは最も避けたい。少しでも改善するために何かしら実行可能な方策を考える知恵と努力がIPMには必要とされる。

課題を解決する時に、いったいそこで何が起こっているのか状況を明らかにせず、また何が原因となっているのか理由が不明なままに、当面の結果だけを求めて対処することもしてはならないことである。例えばある書棚にカビが出た時に、殺菌処置だけして済ませることは、必ずカビ被害の再発につながる。被害が起きたということはそれを引き起こした原因、例えば空調の不調や漏水、新収資料に付いていたカビなどがあったからであって、その原因を明らかにして改善していかない限りは本当の解決にはならない。こういうことも、曝涼が殺菌・殺虫燻蒸処置に置き換わった時に、定期点検が抜け落ちてしまったことで起きるようになった問題の一つである。

被害が起きている場合には、資料や施設を現状調査した結果を基に、原因を推定する。原因の推定には経験や知識が必要であるが、文化財害虫などに関する本や事典が出版されているので、それらを参考にしてある程度は自分でも調べることができる。また経費はかかるが文化財虫菌害研究所などのような外部専門家や企業に調査を依頼することも、必要に応じて、是非検討してほしいことである。

以下にIPMの作業内容について、順に解説する。

5. IPMの作業
(1)モニタリング

資料の置かれている状況が現在どのような状態であるか把握するための調査である。調査項目は温湿度、虫・カビの生息状況が主であるが、光を好む虫や嫌う虫もいるし、埃は虫・カビの発生原因になるので、調査する時には光や埃にも注意する。この時、測定器によって得られる測定値だけに頼らず、肉眼による目視観察結果、カビらしい臭い、湿っぽい感じなど人間の感覚によって得られる情報もおろそかにせず記録する。人間の感覚は測定器に比べて不正確であっても、一つの要素しか測れない測定器よりずっと総合的で、全体を判断するためには大いに役立つからである。

目視観察する時は暗くて見えにくい場所ほど注意が必要な部分なので、LEDライトなどを用いると良い。例えばカビが発生しているかどうかは、光を斜めから当てるとわかりやすい(図2参照)。


図2:資料のモニタリング

虫あるいは虫らしきものを発見したら記録して、採集できるものはピンセットを用いてチャック付きのポリエチレン袋などに採集する。ピンセットだと小さくて採取しにくい場合や壊れやすい場合は、筆を使うと採集しやすい。埃のように静電気が起きてポリエチレン袋に付着する時は、薬包紙に包んで採取する。生きた虫の採取には捕虫瓶を用いる。

カビについては、肉眼観察して明らかにカビであることはわかるが、その種類を知りたい場合、カビかどうかわからない場合、生きたカビであるか不明な場合などに、滅菌綿棒などを用いて試料を採取して検査する。採取した綿棒試料は実験室で寒天培地に塗抹し、培養して調べる。培養は専門家に依頼しなければならないが、カビの種類がわかれば、そのカビがどのような環境下で発生したものか推定できて、対策を立てる時の重要な情報となる。

採集物を入れたポリエチレン袋には、発見場所、日時、発見者、採集した内容、発見した時の状況などを直接書いたり、記入した紙を同封したりして、後から調査結果をまとめる時に、採集物がなにであるかわからなくなったりすることがないように記録する。

この他、モニタリングの時は平面図を用意して、測定位置、採集内容、異常を発見した場所やコメントを書き込みながら作業すると、後からデータを整理する時に便利である。また虫やカビ、異常を発見した時は写真を撮って記録する。

日常的なデータとして最低限知っておきたいものは、温湿度、虫の生息状況である。温湿度は小型で長期間記録できるデータロガー 6 が市販されているので、それを書棚に設置して、定期的にデータを回収して温湿度環境を監視することができる。


図3:書棚に置かれた温湿度データロガー

この時、回収するまでの期間を余り長くしすぎると、何か異常があっても気づかないまま過ぎてしまうことになりかねないので、1ヶ月程度ごとに温湿度データは回収して、空調機の停止や空気の流れの変化などの異常が起きていないか、チェックするようにした方が良い。

またデータの異常に気をつけるだけでなく、異常がない時の値や変化幅がどのくらいであるかも調べて、その場所の平常値を把握することが、異常の有無等の判断をするためには大切である。このことは虫の生息状況を調べる時にも同じことがいえる。何か物事が起こってから調査をするのではなく、平時から年間を通して調べて、まず通常の状態を把握することから始めなければならない。


図4:トラップの設置

虫の生息状況調査のために行うのは、トラップを用いた調査である。虫は隅を歩く習性があるので、主に粘着トラップを使って、部屋の四隅や壁沿いに3~10m間隔で配置する。トラップの設置期間は数週間程度で、回収したトラップは部屋や設置場所ごとに捕虫数と種類を調べて整理する。トラップの平面配置図に、それらの結果を表せば、施設内の虫の生息状況を把握することができ、問題点なども明らかになる。

(2)IPMメンテナンス(清掃)

図書館で生物被害が起きる大半の原因は、新収資料からの虫・カビの発生か、漏水・結露や湿気だまり等によるカビの発生である。新収資料については受け入れの際によく点検して、必要に応じて殺虫殺菌処置を行い、漏水・結露については早期に発見して対策を立てるようにしなければならないが、その他のカビの発生は空気を動かし、資料をよく点検して清掃すれば防ぐことができる。これをIPMメンテナンスという。

清掃の基本は資料や棚にたまった埃を刷毛や小型の箒などを用い、上から下へ落として、拭き取ったり、掃除機で吸い取ったりして除去することである。集まったダスト(塵埃)を観察すると、その中に含まれるゴミや虫のかけらから、トラップ調査ではわからなかった問題点が見つかることがある。

清掃にあたっては、舞い上がる埃やカビの胞子から作業者の健康を守るために、頭髪を不織布のキャップで覆い、マスクをするなどして、埃等に曝される部分をできるだけ少なくする。また塵埃をよそに広げないために塵埃が付着しにくい生地の服に着替えるなどの工夫をする(図5参照)。


図5:ULPAフィルター付き掃除機を用いた清掃
(九州国立博物館)

刷毛や箒などの用具は、清掃対象に応じて大きさや柔らかさを選択する。塵埃を拭き取るクロスには繊維くずが出にくいものを選ぶ。棚などの埃の拭き取りにはよく絞った脱水雑巾も効果がある。掃除機は排気によるカビ胞子の拡散を防ぐために、HEPAフィルターまたはもっと目の細かなULPAフィルター付きの掃除機を用いる。床の塵埃を巻き上げないために上向きに排気するタイプの掃除機が最も望ましい。

用いた用具は清掃後そのまま片付けるのではなく、手入れして清潔に保管し、次回のメンテナンスに備える。

(3)対処

カビや虫による被害が見つかった時には、ふだんは余り動かさないものも移動して、被害がどこに生じ、どこまで広がっているか、しっかり確認して発生源を明らかにする。虫の場合はその種類を知ることにより、発生源が書籍なのか棚などの什器なのか推定できる場合がある。

被害状況が明らかになったら、被害を受けた資料を他の場所に隔離したり、ポリエチレンシートなどで覆ったりして、被害が他に広がらないようにする。被害資料を置いた場所の周囲の床には両面テープを貼り、よそへ虫が這い出さないよう注意する。この時、被害資料を白い紙の上に置くと、新たな虫や虫糞などを発見しやすくなる。

被害が起きた時には、先ず以上の対処を行い、次に被害状況に応じて、資料のカビ払い(クリーニング)から殺虫・殺菌までの処理方法のうち、適切な方法を選択して処理を行う。

発生したカビが広範囲で大量でなければ、資料や棚に生じたカビを、刷毛で払い、掃除機で吸引して、その後から消毒用エタノールで殺菌することにより処置できる。この場合には、先に述べたメンテナンス作業の一環として処理を実施することができる。

カビ払いを行う時は、換気が良く他の資料や人に影響が及ぼさない場所に被害資料を移動して行う。もし他に場所がなく書庫の中でカビ払いを行う時は、処理する空間全体をシートで覆ってカビの胞子が他に飛び散らないようにし、作業者のために空気清浄機を用いる。作業者はマスクや手袋、頭部キャップ、埃が付きにくい作業着を身につけて、作業しなければならないことは言うまでもない。

カビの被害が広範囲で重篤な場合は、酸化エチレンや酸化プロピレンによる燻蒸処理を選択する。処理の方法や注意点については、文化財虫菌害研究所の「文化財の殺虫・殺菌処理標準仕様書2012年版」に詳しく書かれているが、燻蒸して殺菌しても死滅したカビやその汚れはそのまま残っていて、それがまた新たなカビ発生の原因となるので、燻蒸処置後のカビ払いの作業は必要である。

虫の被害に対しては、酸化エチレンや酸化プロピレンによる燻蒸処理以外に、フッ化スルフリルを用いた燻蒸処理、二酸化炭素殺虫処理、低酸素濃度殺虫処理、低温処理などの方法があり、処理にさける期間や経費、人や環境に対する安全性などを考慮して選択する。詳しくは上にあげた「文化財の殺虫・殺菌処理標準仕様書2012年版」や、文献 7 に記してあるので参考にしていただきたい。

6. おわりに

本稿では図書館におけるIPMについて述べた。図書館、文書館、博物館、美術館などに於けるIPMは文化財IPMと呼ばれ、館の種別によって本質的な違いがあるわけではないが、施設の構造、資料の種類や材質によって発生しやすい被害があるので、対策における重点の置き方が異なる。特に図書館ではカビによる図書の被害が目立っているので、図書館におけるIPMは虫以上にカビに対する対策が重要となることは注意しておきたい。文化財IPMのさらに詳しい説明については注5にあげた『文化財IPMの手引き』を参照していただければ幸いである。

(みうら さだとし)

  1. 林晃史「施設におけるIPM-総合的有害生物管理」『文化財の虫菌害』文化財虫菌害研究所,58,2009 p.3-10.<国立国会図書館請求記号Z11-1087>(編集注:以下、請求記号は国立国会図書館の請求記号)
  2. 本法は「ビル管理法」とも呼ばれる。
  3. 三浦定俊「文化財保存におけるIPMへの取り組み」『防菌防黴』日本防菌防黴学会,40巻6号,2012,p.343-350.<請求記号Z18-1164>
  4. 本田光子「曝涼・曝書の歴史」『博物館資料保存論』放送大学教育振興会,2012,p.144-156.<請求記号UA31-J192>
  5. 「文化財IPMについて」『文化財IPMの手引き』文化財虫菌害研究所,2014,p5-8.
  6. 温湿度など多数の変量があらかじめ設定した正常値の範囲内にあるかどうかを絶えず監視し,かつそれらのデータを自動的に日報(ログ)に作表する装置。
  7. 東京文化財研究所編『文化財害虫事典』クバプロ,2001,p.208-223.<請求記号K275-G170>

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