びぶろす-Biblos
59号(平成25年2月)
7. 平成24年著作権法改正と図書館業務
尚美学園大学
今西 頼太
1. はじめに
第180回通常国会で可決成立した著作権法の一部を改正する法律(平成24年法律43号。以下、「平成24年改正」という。)が、本年平成25年1月1日から施行された1。本稿では、この平成24年改正が、今後の図書館業務にどのような影響を与えうるのか、本媒体の読者層を鑑み、解説を試みる。なお、本稿では、著作権法の条文を示す場合には、例えば“第30条の2”を“30条の2”のように表す。
2. 改正の内容
2.1 序
平成24年改正の内容は以下の通りである。すなわち、(1)著作者・著作権者2の承諾を得ずに著作物利用できる行為類型の拡大、(2)暗号型技術回避への規制、(3)いわゆる違法ダウンロードの刑事罰化、である。
以下では、先述のとおり、本媒体の読者層を鑑み、図書館業務との関連性を念頭に(1)著作者・著作権者の承諾を得ずに著作物利用できる行為類型の拡大に焦点を絞り解説する。
2.2 付随対象物の利用(30条の2)
いわゆる「写り込みOK」と称される規定である。写真撮影・録画・録音(以下、「撮影等」という。)の際、第三者の著作物が、それら撮影等の対象物から「分離困難」であり、かつ「軽微な構成部分」として写り込んだとしても、その第三者著作物の著作権侵害としないと規定された。
例えば、図書館広報活動の一環として撮影等を行った場合に、第三者の著作物が写り込んだとしても、その第三者著作物の著作権侵害とはならない(30条の2・1項)。そして、第三者著作物が写り込んだそれら写真や動画3を図書館内で上映・インターネット上に配信しても、その第三者著作物にかかる著作権侵害とならない(30条の2・2項)。さらにその写真を用いて広報パンフレットを作成し、それらを公衆に頒布してもその第三者著作物にかかる著作権侵害とならない(同上)。
但し、この30条の2・1項にある「(撮影等の)対象物から分離困難」及び「軽微な構成部分」とは具体的に何を意味するのかは不明確であり4、結局は裁判所による解釈を待つしかない。今後の裁判例の蓄積が待たれる。
2.3 検討の過程における利用(30条の3)
著作権者から承諾を得て、又は文化庁長官からの裁定を得て、著作物を利用しようとする者は、これら利用について検討する過程において、その必要限度において著作物を利用することができることになった。
30条の3が規定する主体は、著作権者からの承諾又は文化庁長官からの裁定を得て「著作物を(現実に)利用する者」でなく、「著作物を利用しようとする者」である。従って、結果として、著作権者との著作物利用交渉を行わなかった場合・著作権者との著作物利用交渉の対象から外れた著作物を利用した場合・著作権者から利用承諾を得られなかった場合・文化庁長官から著作物利用の裁定を受けられなかった場合においても、これらの著作物利用は著作権侵害とはならない。
30条の3は、あくまでも「利用」行為を著作権侵害としないと規定するのであるから、著作権者の承諾なしに行える行為は、複製(21条)に限定されない。例えば、図書館で開催される資料の展示会や絵本読み聞かせ会・人形劇開催のため、その準備会議で供される資料や絵本を複製する行為・外国語資料を翻訳した上で複製する行為は著作権侵害とならない(30条の3)。また、私見では、準備会議出席者に限定して参考に供するため、絵本から人形劇を制作するなどの利用は著作権侵害(27条及び28条)にならないと考える。
また、この様な会議の欠席者のために、これら資料や絵本などを会議に必要な分量のみをデジタル化(=複製)し、電子メールに添付ファイルとしてその欠席者に送信すること(=この送信行為は、そもそも公衆送信(23条)には該当しない)も著作権侵害にならない。さらに、著作権者に著作物利用の承諾を求めるために、説明用資料作成する前提としての著作物複製も著作権侵害にならない。
しかしながら、例えば、参考と称して準備会議用に制作された人形劇を劇担当者以外の公衆5を対象に上演することは、やはり人形劇原作著作物の著作権侵害行為(22条、27条及び28条)に該当しよう(30条の3)。
2.4 国立国会図書館が所蔵する絶版等資料の公共図書館等への自動公衆送信(31条)
この平成24年改正により、国立国会図書館が所蔵6する図書館資料の内、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な資料(31条1項3号)(以下、「絶版等資料」という。)のデジタル化資料を公共図書館・大学図書館など著作権法施行令1条の3で定められた図書館等(以下、単に「図書館」という。)に自動公衆送信できることになった(31条3項)7。
図書館利用者(以下、「利用者」という。)は図書館設置の端末で国立国会図書館から自動公衆送信された絶版等資料を閲覧することができるようになった。
この閲覧に加え、利用者の求めに応じて、その調査研究の用に供するため、図書館は国立国会図書館から自動公衆送信された絶版等資料における著作物8の一部分9を複製し、その複製物を1人に1部提供できるようになった(31条3項)。なお、この絶版等資料が定期刊行物の場合、この定期刊行物に掲載された著作物につき、図書館は、利用者の請求に応じて、その全部、複製物を作成し(31条1項1号括弧書き)、利用者1人につき1部提供することができる(47条の10)。
この絶版等資料とは、あくまでも「絶版その他これに準ずる理由により一般に入手するのが困難な」資料であるので、復刻版・オンデマンド版や電子書籍版の出版が予定されているもの10・バックナンバーが市場にあるもの11は、この絶版等資料から除外されることになる。
また、国立国会図書館から自動公衆送信された著作物については、翻訳して利用することもできるようになった(43条2号)。この規定により、図書館職員が、複製した外国語資料を翻訳した上でその翻訳物を利用者に譲渡しても、その著作権者の翻案・翻訳権(27条)及び譲渡権(26条の2)を侵害しない(47条の10)。
2.5 国立公文書館での資料利用(18条3項・同4項、19条4項3号、90条の2・4項3号)
2.51 国立公文書館等に移管された未公表著作物の公表権について
未公表の著作物を公表するか否かは、原則、著作者の判断に基づく(18条1項。なお、「公表」の定義については、4条。)。ところが、著作権法は、一定の場合、著作者が著作物の公表に同意したとみなす12又は推定する13規定を設けている(18条3項)。
これら著作物公表への同意に関するみなし・推定規定に関し、この平成24年改正では、平成21年成立の公文書管理法14との調和が図られた。すなわち、著作者が行政機関・独立行政法人・地方公共団体・地方独立行政法人に未公表著作物を提供15し、公文書管理法又は公文書管理条例の規定に従い、国立公文書館・政令で定める行政機関又は独立行政法人施設・地方公文書館(以下、「国立公文書館等」という。)にその後移管されたその未公表著作物である歴史公文書等が、国立公文書館等によって公衆に提供され又は提示される場合にも、著作者は、原則16、その歴史公文書等の公表に同意したとみなすとの規定が盛り込まれた(18条3項1号・同2号・同3号)。また、著作者が未公表著作物を国立公文書館等に提供した場合も、同様に、国立公文書館等によるその未公表著作物の公表に、原則17、同意したとみなすとの規定も盛り込まれた(18条3項4号・同5号)。さらに、国立公文書館等が情報公開法に基づいて未公表著作物を公衆に提供又は提示する場合、その著作者の公表権侵害とはならないとされた(18条4項6号・同7号・同8号)。
2.52 国立公文書館等に移管された著作物及び実演の氏名表示権について
著作者は、その著作物の原作品にその実名又は変名を著作者名として表示するか否かの権利を有している(19条1項)。
しかし、この平成24年改正により、公文書管理法の規定に従い、国立公文書館等の長が、提供された著作物を公衆に提供・提示する場合において、当該著作物につき既にその著作者が表示しているところに従って表示するときは、著作者の氏名表示権を侵害しないとされた(19条4項)。
また、国立公文書館等に提供された実演の場合も、19条4項と同様の改正が為されている(90条の2・4項3号)。
2.53 国立公文書館等が行う、保存を目的とした歴史公文書等の複製等について
公文書管理法15条1項は、特定歴史公文書等の永久保存義務を規定する。そこで、この規定と調和させることを目的に42条の3を新設し、国立公文書館等の長が特定歴史公文書等を永久保存する場合、必要と認められる限度で、著作物を複製してもその著作権を侵害しないとした(42条の3・1項)。
また、公文書管理法16条1項は特定歴史公文書等の利用請求があった場合には、原則、写し等の交付等によって利用させる旨を規定している。この規定と調和させるため、42条の3・2項を新設し、このような利用行為を著作権侵害とはしないとされた。なお、42条の3・2項は「必要限度の利用行為」と規定している。この「利用行為」とは、国立公文書館等の長による複製及び利用者への複製物譲渡が主に想定されるが、これら複製譲渡には限定されない。
3. おわりに
従来からの著作権法尊守意識の高まりから、著作物利用に萎縮意識が高まっていたが、この平成24年改正は、そのような萎縮意識を取り除き、著作物の円滑な利用を促す改正であるといえよう。しかしながら、その条文のあり方からは、その解釈に関し、裁判所による解釈提示又は権利関係団体との新たなガイドライン作成までは、図書館業務において混乱が生じうる点も否定できない。
また、この改正においても、例えば、利用者は、図書全体の複製物を入手できるわけでもなく、一方、著作権者は図書館において自らの著作物を複製されようとも、著作物利用料を入手できず、31条が従来から抱える課題を解決できるわけでもない。
依然として、著作権法改正の動きには注目されよう18。
- 但し、公文書関連の改正、暗号型技術回避に対する改正、いわゆる違法ダウンロード刑事罰化については平成24年10月1日から施行されている。
- 著作者が持つ権利の内、著作権法21条~同28条に関する権利(複製権などいわゆる著作財産権)は相続可能・第三者に譲渡可能であるので、必ずしも著作者と著作権者とが一致しない場合がある。
- 第三者著作物が写り込んだとしても、画像・動画編集ソフトを用いることにより、この第三者著作物を写真や動画から削除することも可能であるが、この平成24年改正ではこれら第三者著作物を削除しなくても写真や動画の上映等を行っても著作権侵害としないとされた(文化庁長官官房著作権課「著作権法の一部を改正する法律(平成24年改正)について」『コピライト』618号(2012年10月)22頁参照)。
- 「(撮影等の)対象物から分離困難」に該当する例として、この平成24年改正に関わられた池村聡弁護士(前・文化庁長官官房著作権課著作権調査官)は、「被写体の背後に絵画が掛かっている」場合を挙げられている(同「著作権法の一部を改正する法律の概要」『NBL』983号(2012年8月15日)21頁)。他にもこの例としては、被写体背後に写り込んだビルの屋外看板に描かれた漫画等の著作物や動画撮影の際のBGMが考えられるところである。
- 公衆とは、「特定少数者以外すべて」と理解される(2条5項。また島並良=上野達弘=横山久芳『著作権法入門』(2009年、有斐閣)130頁(島並執筆)も参照。)。
- 31条は、「図書館等の図書、記録その他の資料」、と規定しているので、同31条における図書館資料とは、あくまでも、図書館を設置している国、地方公共団体、法人が所有権を有し、かつ、自らが管理している資料に限定されることになる。従って、寄託資料は複製対象外となる。 但し、この平成24年改正そのものからは外れるが、権利者団体の理解の下、平成18年1月1日策定の「図書館協力における現物貸借で借り受けた図書の複製に関するガイドライン」があり、一定条件の下で、自館が所蔵していない図書の複製行為も行われているのは周知のところではある。
- 但し、国立国会図書館の自動公衆送信開始は、平成26年1月を予定しているという(国立国会図書館・平成24年12月17日付報道発表資料「デジタル化資料の図書館送信に関する改正著作権法の施行について」)。
- 資料は、複数の著作物から成立していることが通常であるから、「1資料=1著作物」とは限らない。
- この「一部分」の解釈について、とりわけ、その分量につき、本稿執筆時(平成24年12月)まで、裁判所による解釈が示されておらず、現行著作権法起草者である加戸守行氏及び文化庁見解である「著作物の半分まで」をはじめ、この解釈を巡る見解が錯綜しているのは周知の通りである。結局のところ、現時点では図書館各館が運用しているガイドライン(例えば、国立国会図書館「著作権にかかる注意事項 2.著作物の「一部分について」)によるさしあたりの解決によるしかないのであろう。
- 国立国会図書館に対し、出版社等が、復刻版等の出版を申し出る手続きが整備されるという(「国立国会図書館のデジタル化資料の図書館等への限定送信に関する合意事項」(平成24年国図電1212041 号))。
- 国立国会図書館は、自動公衆送信対象リストと日本出版協会目録等との突合による入手可能性調査を行うという(前掲・国立国会図書館のデジタル化資料の図書館等への限定送信に関する合意事項)。しかし、バックナンバー(そもそも資料一般にも妥当すると思われるが)の入手可能性は、首都圏・地方大都市・それ以外の地域とでは大いにその状況が異なることは否定できないであろう。31条1項3号のいう「絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難」の解釈について、さらに整理されることが望まれる。
- みなすとは、いかなる立証を行っても、ある規定の法律効果を覆すことができないことをいう。例えば、民法753条は「未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす」とある。この規定により、婚姻済み未成年者は、戸籍謄抄本・運転免許証などで、満20歳未満であることを立証しても、私法上、契約などの法律行為を単独で行える地位(民法5条も参照)は覆らない。
- 推定するとは、ある事項について、当事者間の意思・事実存在等が不明確の場合に、これら意思等を、さしあたり、明確なものとして、その法律効果を生じさせることをいう。しかし、当事者間の別段の定め・事実の不存在の立証(=反証)に成功できれば、その法律効果は否定される。例えば、民法772条1項「婚姻している妻が懐胎した子は夫の子と推定する」は推定規定の代表例である。
- 「公文書等の管理に関する法律」(平成21年法律66号)
- 当該著作物を収録した媒体の譲渡のみならず、その寄託も含まれることになる。また当該媒体の譲渡は、当該著作物の著作権譲渡を意味しない(最高裁昭和59年1月20日判決(顔真卿自書建中告身帖事件)参照)
- 公文書管理法第16条1項による利用決定時までに著作者が利用に反対した場合を除く。
- 公文書管理法第16条1項又は公文書管理条例による利用決定時までに著作者が利用に反対した場合を除く。
- 31条に特化した議論ではあるが、文化審議会著作権分科会委員である上野達弘教授による「ドイツのように権利を制限する代わりに報酬請求権を付与する仕組みを拡大すれば、新たな技術が発展した図書館サービスが実現されやすいのではと思います」との発言(同「立法過程の見直しも大きな課題」『Business Law Journal 』51号(2012年6月)31頁)にも注目される。

