びぶろす-Biblos
57号(2012年8月)
1. 【特集 法律と図書館】
法律文献と図書館
北星学園大学
齊藤 正彰
1 法律文献の存在形態
「法律文献を図書館で探す」という状況が生じる文脈は、さまざまなものがありえます1。たとえば、他の文献・資料において引用・紹介されていた法律文献(ここでは、法令・判例そのもの=1次資料ではなく、学術文献などの2次資料をいいます)を図書館で探すこともあるでしょう。
ところで、高等学校までの学校図書館においても近隣の公共図書館においても、生徒や市民が探しているのは、〈本〉であるはずです。書店で探しているのも〈本〉でしょう。
しかし、法律文献は常に〈本〉という形で存在するわけではありません。「法律文献を探す」ということは「法律書を探す」ことと同義ではないのです。法律文献には、特定の著者の書いたものが1冊に綴じ合わされた形で存在する〈本〉(「図書」「著書」「書籍」「単行書」などとも呼ばれる)の他に、1つの完結した内容を有し、固有の題名を付されて識別される〈論文〉があるのです(もちろん、他の学問分野でも同様でしょう)。
〈論文〉としては、法律雑誌や、学会誌、官公庁発行誌、大学紀要など、逐次刊行物と呼ばれるものに掲載されている「雑誌論文」の他に、記念論文集などに寄稿された〈論文〉も重要です。ある研究者の〈論文〉が集められて論文集が編まれる(つまり〈本〉になる)ことも、しばしばあります。
「法律文献を図書館で探す」ことを考えるときにも、〈本〉と〈論文〉の区別を念頭に置く必要があります(それぞれ、どのように検索するか、どこに配架されているか、など)。
図書館での配架については、〈本〉がNDC番号(日本十進分類法)によって分類され配架されている場合でも、「法律書」が必ずしも320番台の棚に並ぶとは限りません。「議会」や「人権」、「社会保障法」に関する〈本〉が314や316、360番台後半の棚に配架されているのはよくあることで、「医事法」は498、「環境法」は519の棚に置かれていたりしますので、書架を眺めて〈本〉を探す場合には注意が必要です。
雑誌の配架場所にも注意を要します。最新号、新着分(最近1年分くらい)、それ以前のバックナンバーが、どこに・どのように配架されているかは、図書館によって異なります(1か所にまとまっているとは限りません)。バックナンバーは、数冊まとめてハードカバーを付けた形で製本され所蔵されている場合もあります。
1)「百選」、2)「重判」、3)「争点」、4)「基本コン」などと略記される定番の法律文献には、雑誌の「別冊」や「増刊」という形式のものが少なくありません。1)『憲法判例百選』などの「判例百選」シリーズや、2)年度ごとの『重要判例解説』、3)『行政法の争点』などの「法律学の争点」シリーズは、法律雑誌である『ジュリスト』誌の増刊や別冊という名称になっています。4)「基本法コンメンタール」シリーズは、『法学セミナー』誌の別冊とされています。これらは、〈本〉として書架にあることも、本体の雑誌とともに並んでいることもあります。
2 法律文献の出典表示の解読
文献の書誌情報は、一定の様式に沿って表示されています。他の文献・資料において引用・紹介されていた法律文献を探す場合に、文献の出典表示を正確に読みとることができないと、図書館での文献調査も覚束ないことになります。
文献の出典表示方法は学問分野によって流儀が違い、法律文献についても、多くの場合、特有の表示方法が用いられています。邦語の法律文献の出典表示について、単一の確立された表示方法が存在するわけではありませんが、標準化を目指したものとして、法律編集者懇話会編「法律文献等の出典の表示方法」があります。Web上では、法教育支援センターの「活動内容」のページに掲載されています。ただ、実際には、必ずしもこの基準通りに表記されるわけではありません。
法律文献には〈本〉と〈論文〉がありますから、今そこに表示されている文献がどちらなのか、さらに、〈論文〉であればどこに掲載されているのか、についての情報を読みとる必要があります。多くの場合、〈論文〉の題名は一重のカギ括弧で括られ、〈本〉の書名には二重のカギ括弧を用いて区別するか、カギ括弧を使わずに著者名と書名をナカテン(・)でつないで示します。ただし、雑誌論文や後述の判例評釈においては、参考文献の著者名と掲載誌名・巻号頁のみを記載して、題名は省略されることがあります。
雑誌論文の掲載誌名の表示については、略称を用いるのが一般的です。主要な雑誌の略称については、法律雑誌である『法律時報』誌の毎年1月号に掲載される「文献略語表」のものがよく使われます。Web上では、福島大学附属図書館による「日本の判例集・法律文献略語一覧」が便利です。
3 〈本〉の検索と〈論文〉の検索
〈本〉と〈論文〉の区別は、検索のためにデータベース(DB)を用いる際にも重要です。図書館の蔵書検索DB(いわゆるOPAC)は、〈本〉と雑誌の所蔵を調べるものです。国立情報学研究所(NII)が提供する「CiNii Books」や「Webcat Plus」といった DBは、全国の図書館の蔵書を横断的に検索できる(探している〈本〉がどこの図書館に所蔵されているかが分かる)というDBです。
これに対して、国立国会図書館が提供している「雑誌記事索引(雑索)」は、雑誌論文のDBです。一般に、〈本〉よりも短期間で刊行することができる学術雑誌は、新しい法令・判例の情報やその解説、いま問題となっている論点についての議論など、比較的新しい情報を伝達することに適した媒体です。したがって、雑誌論文を検索するツールとして、毎日更新の「雑索」は重要です。
問題は、「〈本〉に収められた〈論文〉」の検索です。著名な研究者の退職や還暦・古稀などの祝賀論文集、大学や学部などの記念論文集、講座や全書などの企画ものの〈本〉には、質の高い重要な〈論文〉が掲載されるといわれます2。しかし、これらの論文集自体は〈本〉ですので、そこに収録されている〈論文〉は、雑誌論文のDBである「雑索」や「CiNii Articles」では検索できないことになります。商用の文献DBの中には、雑誌論文と「〈本〉に収められた〈論文〉」の双方を検索できるものがあり、法律文献についての商用DBにも、〈本〉と〈論文〉を包括的に検索できるものがあります。ただし、それらの情報の収録範囲と更新頻度に注意する必要があります。
現在、国立国会図書館のNDL-OPACでは、蔵書検索と雑誌記事の検索とが合わせて一気に行えるようになっています。しかも、平成16年度以降は〈本〉の目次情報(すなわち「〈本〉に収められた〈論文〉」の著者名と題名)も収録されています。つまり、近年の文献については、NDL-OPACで〈本〉と〈論文〉を包括的に検索できるのです。
4 判例評釈を探す裏ワザ
たとえば、ある判例について解説した文献を図書館で探すこともあるでしょう。重要な判例・注目される判例については、判例評釈(判例批評、判例研究、判例解説など、呼び方はさまざまです)が書かれます(もちろん、すべての判決について評釈が書かれるわけではありません)。こうした判例評釈は、関連法令や関連判例、参考文献などの情報を含んでおり、法律文献を芋づる式に入手する情報源としても有用です。問題となっている判例そのものに関心があるわけでなくても、「このような場合にはどうなるのか?」という疑問を解決するために、類似の事案についての判例を探し、その判例評釈を読んでみるというのは、1つの方法かもしれません。判例評釈を調べるには、主要な判例評釈掲載誌を見たり、商用の判例DBで検索するのが一般的でしょう3。
しかし、商用の判例DBが利用できる環境にない場合でも、「国立国会図書館サーチ」を使って、簡単に判例評釈を検索することができます(詳しくは、齊藤正彰@北星学園大学「判例評釈サーチ」)。この「裏ワザ」の利点は、誰でも無料で検索できるというだけではありません。検索対象に含まれる「雑索」の情報更新頻度が高いために、最新の判例評釈を発見できるのです(商用の判例DBにはまだ載録されていない判例評釈情報を入手できることもあります)。さらに、執筆者の所属機関や寄稿などの関係により、自然科学系の紀要や雑誌に掲載されているものであっても、この方法なら発見できます。
5 新法解説の便利な検索
国立国会図書館の提供する「日本法令索引」は、法令情報への直接の深層リンクが充実しています。たとえば、「制定法令」で「道路交通法」を検索し、同法の「法令沿革」を表示して、そこに示された改正履歴の中から、改正内容を調べたいところの「被改正法令」をクリックし、表示された画面の右側にある「衆議院 制定法律」へのリンクをクリックすれば、一部改正法律の「改め文」4が表示され、改正部分を確認することができます。
たとえば、新法あるいは改正法について解説した文献を図書館で探すこともあるでしょう5。もちろん、こうした新法解説がよく掲載される専門誌は知られており、それらのどこかに解説が載っているのでしょうが、どの雑誌の何巻何号に載っているかを書架で探すのは骨が折れます。一般の文献DBで検索しようにも、解説の題名に法令名が入っているか、入っているとしても正式名称か通称・略称かは分かりませんから、検索漏れが生じるおそれがあります。
そこで便利なのが、龍谷大学図書館による「新法・改正法解説記事書誌情報検索R-LINE」です。これは、法律雑誌19誌(載録対象誌一覧)に掲載された「立法担当者や関連審議会・研究会等の委員が執筆した、新法・改正法の解説記事に関する書誌データ」を集めたDBです。法律の題名などのキーワードでも法律番号でも検索できます。
論文の題名などの書誌情報を検索対象とする「雑索」や「CiNii Articles」とは異なり、「R-LINE」は新法・改正法の解説に着目して収集していますので、「第177回国会主要成立法律」、「第177回国会の概観」といった題名の記事でも、その中で解説されている法律の題名で検索することができます。
6 法律文献と公共図書館・専門図書館
たとえば、休日に自宅近くの公共図書館で調べものをしようとしても、選書の方針が異なりますので、基本的な法律文献であっても所蔵を期待できないこともあるでしょう。
他方、(a)東京都立中央図書館や(b)大阪府立中之島図書館、(c)鳥取県立図書館などをはじめとして、法律文献やビジネス情報の提供に力を入れる公共図書館も増えてきました。こうした図書館は、Web上での情報提供にも積極的に取り組んでいます。(a)では、「法律情報サービス」の中に、「法令の調べ方」や「判例の調べ方」といった解説が整備されており、(b)では、「ビジネス支援サービス」の中に、「法令のしらべかた」や「判例を調べる」といったページが用意されています。(c)でも、「法情報の調べ方」を整理して紹介しています。
特定の主題について専門的に文献・資料を収集・所蔵する専門図書館には、さまざまなものがあります。ただし、「法律の専門図書館」と銘打つものは多くはありません。専門図書館は、法令一般というよりも、調べようとする法令が対象とする事項そのものについての資料を調査する場合などに役立ちそうです。また、調べようとする法令が対象とする事項を主題として扱う図書館に、当該分野の法令に関する資料が所蔵されている場合もあるでしょう。なお、東京都内・近県の専門図書館を検索するDBを東京都立図書館が提供しています(「専門図書館ガイド」)。
7 図書館ならではの情報発信
種々の出版物の中には、図書館でなければ見られないような専門的な文献・資料もあります。そうした文献・資料の紹介や、それらを用いた情報の調べ方の解説をWeb上で展開することは、有益でしょう。前掲の公共図書館によるWeb上での情報発信のあり方は、専門性を有する他の図書館においても応用可能ではないでしょうか。
さらに、図書館でなければ見られないような専門性の高い逐次刊行物を受け入れる都度、一般利用者よりも先にそれらに触れることになるのも図書館員です。各図書館が、自館の資料の中で、過大な努力を必要とせずに継続できる項目を見つけて、特定の担当者の知識や意欲に依存しないかたちで、情報をWeb上で蓄積・公開するならば、かなり有用な情報発信となるでしょう。その際、網羅性を誇るよりも守備範囲を狭め、内容について実質判断をしなくても形式条件で情報を収集・管理できるようにして、情報の蓄積を継続することがポイントかもしれません(上述の「R-LINE」はそうした方針で構築されており、法学部出身でもなく法律系の図書館勤務は初めてという図書館員が、情報の収集・入力を担当しています。そして、それが図書館員のレファレンス能力の向上にも結びついているといわれています)6。
図書館でなければ分からない文献・資料に接している図書館員には、来館者へのサービスだけではなく、Webを通じて全国の研究者・実務家さらには市民に向けた情報発信が期待されるのです。
- さまざまな場合に対処する方法について、指宿信ほか監修/いしかわまりこほか『リーガル・リサーチ』〔第4版〕(日本評論社、2012年)、小林成光ほか『やさしい法律情報の調べ方・引用の仕方』(文眞堂、2010年)、弥永真生『法律学習マニュアル』〔第3版〕(有斐閣、2009年)など参照。
- 大村敦志ほか『民法研究ハンドブック』(有斐閣、2000年)218-219頁。
- 判例・判例評釈の調査一般について、池田真朗編著『判例学習のAtoZ』(有斐閣、2010年)、井口茂/吉田利宏補訂『判例を学ぶ-判例学習入門-』〔新版〕(法学書院、2010年)、リーガル・リサーチ研究会編『実践 判例検索-体系志向のリーガル・リサーチ』(第一法規、2007年)など参照。
- 参議院法制局「法制執務コラム集:「改め文」―法令の一部改正方式―」。
- 法制執務についての解説書は汗牛充棟の感がありますが、法令の読み方・調べ方について、吉田利宏=いしかわまりこ『法令読解心得帖-法律・政省令の基礎知識とあるき方・しらべ方』(日本評論社、2009年)、吉田利宏『ビジネスマンのための法令体質改善ブック』(第一法規、2008年)など。
- シンポジウム パネルディスカッション「ライブラリアン、発信!」情報ネットワーク・ローレビュー10巻(2011年)325-357頁。

