びぶろす-Biblos
電子化55号(2012年3月)
3. 【特集 英国の政府機関図書館】
国立国会図書館は、国会や国民だけでなく、行政・司法各部門に対しても、図書館サービスを提供している。このサービスは、国立国会図書館(中央館)と行政府省庁や最高裁判所に置かれる支部図書館とのネットワークを通じて行われる。この仕組みを支部図書館制度という。この程、支部図書館制度の充実とサービス改善の参考とするため、英国の政府機関図書館を調査したので、概要を紹介する。
変わる英国の政府機関図書館(現地調査)
塚田 洋
はじめに
行政、司法各部門等に置かれる政府機関図書館は、所掌の政策分野に強い専門図書館である。しかし、多くは省内職員をサービス対象とする小規模図書館であり、その活動はほとんど知られていない。平成23年9月、英国の政府機関図書館の概況と相互連携の取組を調査する機会を得た。行政(外務連邦省、内務省、歳入関税庁等の5省庁)、立法(下院)、司法(最高裁判所)の各部門の図書館、さらに、国の中央図書館である英国図書館を訪問した。現地では、改革にまい進する省庁図書館に強く印象付けられた。
1. 省庁図書館の改革
―予算削減と専門性の再定義―
英国中央政府の各省庁には、日本の支部図書館に類する省庁図書館が存在する。近年、省庁図書館は、二つの政府方針への対応を迫られている。第一は大幅な予算削減である。2010年からの5年間で最低25%の予算削減を図るため、各省庁は図書館を含め、多くの業務を見直し・廃止の対象としている。第二は、図書館職員の専門性の再定義である。英国政府は2007年設置の「知識評議会(Knowledge Council)」の下、政策立案における知識・情報資源の最大限の利活用を打出している。省庁図書館職員には、伝統的な司書的業務にとどまらず、政策立案ニーズに即応する知識・情報管理(Knowledge and Information Management(KIM))のプロとしての役割が求められている。
こうした政府方針を踏まえ、各省庁図書館とも電子図書館を中心とした最新の資料・情報の提供にサービスを集約しつつある。例えば先駆けである外務連邦省は、法律顧問のための小規模な法律図書室を残し、物理的な図書館を閉館した。2010年に開始した新たな電子図書館サービスによって、職員は、電子ジャーナルをはじめとする各種データベース、執務参考資料(各国および主要外交課題に関する基本情報、地図等)、議会情報、リンク集等を利用できる。これらのサービスが、海外駐在の職員にも、また職員のタブレット型PCを通じても24時間利用できるよう技術的な改良が進められている。他省庁の図書館でも同様に電子図書館サービスへの移行が進められており、内務省や歳入関税庁では所蔵資料の大半を寄贈または廃棄し、紙の資料は書架数台に収まる程度となっている。
また、政策立案支援関連の新規業務として、自省庁関係ニュースの配信(外務連邦省)、翻訳サービス(年金雇用省)、省内人材情報提供サービス(環境・食糧・農村地域省)が実施されている。さらに、新政策の発表に合わせて、ツイッター上の世論動向を調査する試み(歳入関税庁)がなされている。
2. 省庁図書館長委員会を通じた連携
省庁図書館の協議体として「省庁図書館長委員会(Committee of Departmental Librarian(CDL))」が設置され、現在17館が所属している。CDLは、「知識評議会」をはじめ政府の審議会等で省庁図書館を代表するとともに、省庁図書館の運営に関する共通課題(人材育成、著作権等)を検討し、指針等を策定する役割を担っている。
省庁図書館の改革に伴い、省庁図書館職員にはこれまで以上に政策課題に関する知識が求められるだけでなく、データベース契約等の調達実務、ホームページ・デザイン、研修プログラムの策定等に関するノウハウが必要とされている。CDLも新たなニーズに対応するため、「政府図書館情報専門家ネットワーク(Network of Government Library and Information Specialists(NGLIS)」等の専門家団体とも連携し、電子図書館時代に求められる人材の育成、調達の際のコンソーシアム活用等について、成功事例の収集、ガイドラインの策定等を進めている。
3. 議会図書館、最高裁図書館等との関係
議会下院図書館および最高裁図書館では、省庁図書館のような電子図書館サービスへの特化は行われていない。議員閲覧室の維持や、電子化されない古い法律解説書等の利用にも対応するためである。両図書館はCDLに属さず、省庁図書館との公式な連携関係もない。ただし、省庁図書館に残る法律図書室部門とはサービスの共通性が高いため、近年は所蔵情報の共有、データベースの共同契約によるコスト削減等を目的に、協議の場を設ける動きがある。
国の中央図書館である英国図書館は、省庁、議会、裁判所のいずれの図書館に対しても特段の支援を行っていない(総合目録の整備、省庁刊行物交換の仲介、政府図書館職員向け研修等、国立国会図書館が支部図書館制度の下で実施している取組はいずれも行っていない)。英国図書館は、省庁が物理的な図書館を縮小・閉館する際に、主要な資料寄贈先となっている。また、最近では省庁図書館とのデジタル化事業、図書館運営経費の節減に関するCDLへのアドバイス等を行った例もある。
むすび
英国では、省庁図書館を中心に、政府機関図書館の大規模な改革が行われている。電子図書館サービスへの移行と図書館相互の連携が進んでいるとはいえ、他の事務スペースと見分けのつかない省庁図書館に、筆者は衝撃を受けた。しかし、各図書館の職員からは、サービスの優先順位や人材・財源の最適配分等を考えれば、昨今の改革は必要なものであり、これをサービス向上に結び付けるのが、我々の腕であるとの説明を受けた。今回の現地調査は、英国の政府機関図書館の現況を知るとともに、図書館職員のプロ意識の高さに触れる好機となった。
(参考)
海外政府機関図書館についての調査成果を紹介したものとして、次の記事がある。
マリア・ゲッカーリッツ「ドイツ政府機関図書館の連携協力」『国立国会図書館月報』582号(2009年9月)pp.28-29
ローラー・ミカ「米国の連邦政府図書館の現況」『国立国会図書館月報』547号(2006年10月)pp.16-23
(国立国会図書館総務部支部図書館・協力課)

