びぶろす-Biblos
電子化54号(2011年11月)
5.平成23年度専門図書館協議会全国研究集会からの報告
野沢 義隆
1.はじめに
平成23年6月30日、7月1日の2日間、東京都千代田区の東京商工会議所において平成23年度専門図書館協議会総会および全国研究集会が開催され、全国から176名が参加しました。今年度の総合テーマは「変わる図書館/変わらない図書館~変化の時代の専門図書館を問う」です。
まず、開会式に引き続き東京大学大学院経済学研究科教授、東京大学経済学図書館長・経済学部資料室長である伊藤正直氏より「東京大学経済学部資料室の軌跡と山一證券資料の受入・整理」と題して基調講演が行われました。概要について以下のとおり紹介いたします。

伊藤教授が山一證券より委嘱されていた「山一證券百年史」の編纂が完成間近の頃、山一證券が破綻・廃業しました。教授は、その膨大かつ貴重な資料の廃棄を回避するため直ちに関係先に交渉し、資料を資産として保全し、次いで、東京大学において資金・倉庫・人材の各問題の解決に奔走し、寄贈を受け入れることが可能となりました。
百年史関係の資料270箱以外に、約5000箱もの本社資料がありましたが、その中から証券取引等の個人情報を含む資料が除外された457箱分の資料の寄贈を受けました。また、寄贈された資料について一から目録作成作業に執りかかり、約6年掛かりでマイクロフィルム・DVD化まで漕ぎ着け、刊行が始まっているところとのことです。資料の中には、大蔵省による検査の実態や、破綻3日前の取締役会議では破綻問題が議題にさえ上っていなかったことなど、一般に知られていない貴重な資料を確認することができたとのことでした。
この山一證券資料は当時の証券界の内幕を知りえる非常に画期的な一次資料として世界中の研究者から注目を集めており、今後、多くの研究者に活用されていくものと思われると結ばれました。
2日目は6つの分科会が企画され、私は、第1分科会「企業図書館のファシリティーと利用者サービス」と第5分科会「専門図書館経営の新機軸」に参加しました。
2.第1分科会「企業図書館のファシリティーと利用者サービス」報告
第1分科会では「企業図書館のファシリティーと利用者サービス」のテーマで、IT技術の進歩や電子化の進展、多様化など図書館を取り巻く状況が大きく変化する中、企業内の図書館では利用者にどのような機能やサービスを提供していくか「リニューアル」をキーワードに行われました。
最初に、富士通(株)知的財産本部の大森圭子氏より「図書館システムのリニューアルと利用拡大活動」と題し以下の旨の講演がありました。
富士通の社内図書館の一つである川崎技術情報センターが図書館のシステムのリニューアルを機に同じ社内図書館である富士通研究所厚木図書館とのシステム統合を行い、検索時の効率アップと利便性を強化しました。また、社内アンケートを実施し「図書館を利用したことがない」、「HPを知らない」が共に約6割との結果であったため、環境改善及びメールを使用した社員へのピンポイント案内などを実施し、利用率の向上を実現したと結ばれました。
講演を聴き、財務省図書館における前年度の職員アンケート調査で同様の結果に対する対応策として平成22年2月より開始した職員向け案内メールによる認知度向上に思いを馳せ、大いに共感するところがありました。
次に、NTT横須賀研究開発センタ図書館の小沢香穂里氏より「図書館リニューアル・人が集まる空間づくり」と題し以下の旨の講演がありました。
横須賀研究開発センタにおいては、利用者の大半は若い研究者であることに焦点を当て、僅かな予算の範囲内で明るい空間やお洒落な雰囲気に変えるなど、人が集まりやすいスペース作り等を行いました。その結果、館内へ職員が自然と集まるようになり、利用者数が30%アップしたと結ばれました。この講演では参加者から大きな関心が集まり、予定時間を越えて多くの質疑応答が交わされました。
財務省図書館においてもこの講演を参考に、まだ僅かではありますが、館内案内版にかわいいキャラクターを用いた雰囲気作りなどリニューアルを早速実践しているところです。
3.第5分科会「専門図書館経営の新機軸」報告
第5分科会では「専門図書館経営の新機軸」のテーマで、近年、図書館運営の効率化や経費節減の達成と同時にサービスの維持向上を図ることが求められ、また、インターネット上からの情報入手の増加傾向により来館者の減少が進んでおり、このような状況下において、新しい発想で図書館経営と利用者サービスの新機軸を切り開いている3つの専門図書館より先駆的事例の報告がありました。

最初に、(独)物質・材料研究機構科学情報室の高久雅生氏より「ウェブと情報技術をつかって資料と読者・著者を結びつける」と題し、以下の旨の講演がありました。
科学情報室は物質・材料研究機構における専門図書館として、オンラインジャーナル等のサービスに注力するとともに、ウェブ、ポータルサイト運営による情報提供、発信の傍ら、近年、研究論文の情報発信、研究者総覧サービスの開発、改造可能なオープンソースソフトウェア図書館システムの導入を行ってきました。なお、図書担当者は僅か2人ですが、貸出返却等は利用者によるセルフで運営されていますと結ばれました。
次に、千代田区立千代田図書館の新谷迪子館長より「ヒト・モノ・カネの不足を補う逆転の発想」と題し、千代田図書館の新しい取組みについて講演がありました。
図書館案内のほか、千代田区の昼間人口85万人という特性を生かし、ビジネス客も対象としたサービスとして、神田の出版社、古書店街、新刊書店の案内や、区内施設・飲食店の案内も行っている等の紹介がありました。図書館界では大変有名な千代田図書館ならではの発想の多様性には大いに学ぶべきものがありました。
最後に、BACH社の幅允孝氏およびスルガ銀行の山本貴啓氏より、「あらゆる場所に本棚を」と題し、以下の旨の講演がありました。
ある病院から脳卒中患者のリハビリのための1500冊の図書を揃えて欲しい旨の発注を受けました。病院管理者、看護師等からのヒアリング、また、脳卒中リハビリ患者とコミュニケーションをとっていく中で、患者にとって好奇心と言うのは閉塞した既視感を突破する唯一の方法と思われ、発注を受けた1500冊の選定・納品にあたって細部の積み重ねが重要であったと改めて認識しましたと結ばれました。
4.おわりに
財務省図書館は財政、経済、金融等の分野の蔵書の充実に重点を置き、主に財務省職員の執務に寄与することを目的とした専門図書館であり、担当となって間もない僅かな職員が限られた予算の中で運営しています。今回の講演で紹介された厳しい条件下における事例や得られた数々のアイデアを参考に、また、この機会に出会うことの出来た多くの参加者の方々からのご助言等に感謝しつつ、更なる改善を行ってまいりたいと思います。
(支部財務省図書館)

