びぶろす-Biblos
電子化54号(2011年11月)
3.【特集:災害と図書館】厚生労働省図書館の被災状況及び復旧作業
石上 智子
1.震災発生時の状況

平成23年3月11日に発生した東日本大震災は国難とも言うべき未曾有の被害をもたらしたが、厚生労働省図書館(以下「当館」という)でもこれまで経験したことのない甚大な被害が生じた。
当館は中央合同庁舎第5号館の19階にあるため、揺れも大きかった。地震発生時には館内には数名の利用者がいたが、庁舎内の防災センターからの緊急放送により、図書館職員が大声で利用者に避難を呼びかけたので、幸いなことに人的な被害はなかった。
その一方で、物的な被害は想像以上で、奇跡的に被害のなかった執務室を除き、閲覧室と書庫内には大きな被害が出た。被害面積は書庫総面積355平方メートルに対し約90平方メートルに及んだ。
震災から約半年、震災直後から復旧に向けての当館の対応を以下に述べる。
2.復旧に向けて
[震災直後] 図書館の被災状況を発信
被害状況から判断して、即座に「休館」を決定し、その旨をただちに発信した。なお、発信は利用者別に次のように行った。
(1)厚生労働省職員

職員メールで図書館が利用不可能な状態であることを連絡し、次いで、国立国会図書館及び他の支部図書館の利用方法を添付したメールを送付した。国立国会図書館や他の支部図書館もかなりの被害が出ていた。震災直後から国立国会図書館が各館の被災状況に関する情報を集約し、中央館・支部図書館総合システム上に随時掲載していたので、この情報を基に他の支部図書館の復旧状況もあわせて連日発信した。
(2)厚生労働省職員以外
前述の国立国会図書館の情報収集に対しては、当館の被害状況と当分の間は休館する旨を報告した。各支部図書館には貸出依頼のたびに当館の状況を説明し、利用が出来ない旨を連絡した。

一般利用者には、厚生労働省のHP上の図書館案内で休館を掲示した。また電話等で、開館の時期を尋ねる利用者には、当館の現状を丁寧に説明したうえで、開館時期については未定である旨を伝えた。また、直接、調べたい内容を問い合わせてくる利用者に対しては、関係部局の紹介や国立国会図書館をはじめ他の図書館を利用してもらうよう案内をした。
[震災後~1カ月] 散乱した資料の整理と倒壊した書架の撤去作業

散乱した資料が通路にはみ出している
当館の書庫内には固定書架20棚と移動式書架35棚(いずれも複柱式)があるが、そのうちの固定式の11棚が倒壊した。これは固定書架のほぼ半分に相当し、図書資料約23,000冊を収蔵していた。また、倒壊を免れた書架でも天つなぎが大きく歪み、棚板や背面側板が変形したり、外れたりして、8割強の書架で何らかの影響がでていた。
そのため、多数の図書資料が飛び出し、散乱して、あちこちに山積みになって、ほぼすべての通路を塞いでいて、書庫内に入るのは難しい状況となっていた。

損傷した書架の側面
まずは、この通路を塞いでしまっている図書資料を撤去し、さらに、その書籍の被害状態をチェックする必要があった。余震のたびに書架が音を立てて軋む上、書架から本が落下してくる危険もあったため、様子を見ながらの作業となった。図書館の職員だけでは手が足りず、他の係からの応援も頼み、通路をふさいでいた図書資料を回収し、書庫の奥まで入ることが可能になったが、倒壊した書架の下敷きになった図書資料については危険で取りだすことができなかった。
そのため、業者に依頼することにしたが、年度末のこともあり、事務手続きに時間がかかり、最終的に業者を決定し、倒壊した書架の解体と撤去、合わせて下敷きになっていた図書資料を取り出して梱包するという一連の作業が全て完了したのは年度末ギリギリの3月31日であった。

梱包は1000箱を超えた
[1~3カ月] 書架の点検・書籍の整理と書架購入準備

廃棄対象の図書資料の山
最も危険な倒壊した書架の撤去作業が終わったので、改めて書架毎に細かく点検を続けた。その結果、一見しただけでは被害がないと見えた移動式書架でも羽目板がずれる、ブックスットッパーが折れ曲がるなど様々な被害が出ていることが判明した。職員で対応できるものは、ドライバーやガムテープを手にもち、修繕していった。また、図書資料については、損傷の程度に応じて修繕か廃棄かを判断しながら分別し、結果を書誌データ上に反映させていった。
新規書架の購入については出来るだけ早く行ってもらうよう関係部署にお願いをしていたのだが、実際に動き出したのは年度を越えてからで、具体的な話は5月に入ってからになった。そのうえ、最終的な結論は「倒壊した書架のみを購入対象とし、その他の書架については別途修繕して対応する」という内容であり、我々図書館職員の要望とは大きくかけ離れたものになった。倒壊していない多くの書架でもかなり損傷している箇所があるので、修繕するよりも購入の方が遙かに安価に済むのではないかと思われたからである。
この決定にしたがって、書架の購入と図書資料の再配架作業について、ネットや図書館業界関連の資料を参考にしながら資料作成を始めた。当館は、省庁再編時に旧省からそれぞれの書架を持ち寄って設置したため、図書館関連の備品購入についての資料が皆無であり、経理係があちこちから取り寄せた資料も参考にしながら準備をした。
[4カ月~] 図書館の部分的な開館・・ようやく新書架購入へ
震災以降、当館は休館したままの状態であったが、ゴールデンウィーク頃から、図書館の利用を要望する職員が増えてきた。原発事故や食中毒事件も発生したために、放射線、労災、食品安全関係等の資料照会も多くなった。このため、原則は閉館であったが、特に緊急性を要する場合については個別に対応することとし、利用可能な図書の貸出し等を行うなど実質的に開館と変わらない状況となってきていた。
しかし、実際に対応をしてみると、所蔵図書の約4分の1が梱包された状態で利用不可能であることや蔵置場所が不明になってしまった図書資料が多数存在することでレファレンスや所蔵確認に相当な時間がかかるという新たな問題も浮上してきた。
そのため、図書館を開館するかどうかについては賛否が分かれ、結局、当面は受け入れられないと判断し、閉館していたのである。
しかし、一般利用者からの電話による照会や開館時期に関する問い合わせも、震災後3カ月を経過した頃から、激増し始め、なかには「厚生労働省図書館にしか資料が無いのでなんとかならないか」というものが多くなってきた。
これらの要望に対応すべく、開館する方向で何度も検討をおこない、不完全な状態ではあるが、7月20日から暫定的な運用で開館することを決定して、HP上に掲示した。
また、ほぼ同時期に新規書架の購入と梱包した図書資料を再配架する一連の作業について、入札の結果、業者が決まり、9月上旬に作業に入ることが決定した。
3.おわりに
この原稿が出るとき(11月予定)には、厚生労働省図書館は通常通りに開館しているはずである。1000年に一度といわれる大震災の時に、図書館に在籍し、被災で半年ちかく休館するという厚生労働省図書館が設立して以来の非常事態に遭遇してしまうことになった。
最初のうちは書架の倒壊という事態に同情的だった声が、休館が長引くにつれ不満、怒りへと変わっていく様を職員一人一人が味わった。「そちらの図書館にしかない資料なのです。何とかならないのでしょうか。」という悲鳴のような言葉にも、事情を説明し、了解していただくしかなかった切なさ。この間、専門図書館として当館がどれだけ多くの人に利用されているかを強く実感した。本当にいろいろなことを考えさせられた長い時間だったと思う。
その間、国立国会図書館をはじめ、多くの支部図書館の方々にお世話になった。また、多くの方々に温かい励ましのお言葉もいただいた。この場をお借りして深く御礼を申し上げる。

