びぶろす-Biblos
電子化53号(2011年8月)
- 発行:国立国会図書館総務部
(National Diet Library) - ISSN:1344-8412

4. エイメリー文庫の脱酸処理について
加藤 小枝子
平成21年度に農林水産省図書館農林水産政策研究所所蔵のエイメリー文庫について脱酸処理を行いましたので、その経過を簡単に報告させていただきます。
酸性紙は時間の経過とともに茶色に変色し最後はボロボロになってさわると粉々に砕けてしまい酸性紙でできた本の寿命は100年程度ともいわれています。酸性紙の問題は1980年代にクローズアップされ、スローファイアーなどという言葉とともに図書館にとって大きな問題となりました。19世紀に入りヨーロッパでは木材パルプから紙が大量生産されるようになりましたが、この紙にはインクのにじみが発生しこれを抑えるために松やにとともに硫酸アルミニウムが使用されるようになり酸性紙が生まれたといわれています。1850年代から1980年頃までに生産された洋紙はほとんどが酸性紙といわれています。当館所蔵のエイメリー文庫(洋書約2400冊)の多くはこの期間に刊行された図書です。脱酸処理を行うことは以前から計画されていたようですが、平成20年11月に研究所全体の移転があったりして実際に予算を配分してもらえたのは移転終了後の21年度からでした。
1 エイメリー文庫について
エイメリー文庫は、イギリス農務省を経てオックスフォード大学講師を勤めたG.D.エイメリー氏(1890~1955、イギリス人)のコレクションで、氏の没後夫人が売りに出し、当研究所の前身である農業総合研究所が昭和32年に購入したものです。18世紀前期頃のイギリスを中心としたヨーロッパ諸国における農学、社会、経済、歴史等の分野をカバーし、わが国のヨーロッパ農業史研究のための資料的基盤になったとも言われているものです。
はじめてエイメリー文庫を見た時は200年も300年も生きてきた古くてドッシリとした本に感動すると同時に、さわると革の粉が指についたり、背に手をかけるだけでクロスが破れるなど傷んだ本が目につき、どうやって維持していくのかこれから大変だなと実感しました。

(脱酸処理後のエイメリー文庫)
2 脱酸処理の取り組み経過
(1)処理対象本の選択
脱酸処理を行うに当たって約3ヶ月かけて、エイメリー文庫の本を1冊ずつチェックし、自分たちの目で酸性化の状況を調査しました。怪しいものは、紙の酸性・アルカリ性を判定できるPHペンを使って調べました。
本を開いてみると頁の周辺からじんわりと茶色のシミのようなものが広がりつつあるものがほとんどでした。頁全体が真っ茶色でパリパリと破れそうなものもありましたが、全体としては外側の傷みに比べて本体はまだ重症にはなっていないと感じました。酸性化の進行している本は、天の部分がまず茶色や黒褐色になっています。また、持ち上げるとほとんど重さを感じないほど軽い本も酸性化が進行しているものでした。これらの中には1700年代に刊行された図書が約250冊ありましたがすべて酸性化していると判断しました。
チェックの結果、汚損・破損が著しく脱酸処理は困難と思われるもの等を除き1573冊を
選出し、さらに酸性化の進行状況によって1~3の優先順位をつけたリストを作成しました。この時点では費用がいくらかかるのか分からなかったので、この優先順位に従って予算の許す範囲で発注することとしました。(実際には全冊処理することができました。)
(2)業者(処理方法)の選定
現在脱酸の処理方法としてはDAE法とBK法がありますが、費用も100万円を超えることから、脱酸処理の方法については指定せずに入札公告を行い、各業者から特徴等の説明も受けた上で入札することになりました。
仕様書には、対象図書が間違いなく酸性紙であるかどうかを再確認すること(再確認の結果中性紙やコート紙で対象外となったものが数冊ありました。)、納品時には脱酸処理した本であることが分かるような印を本の外側に付ける、また脱酸処理方法と日付けを記入したラベルを本の内側に貼付することも盛り込みました。
業者の方から受けた説明では、まず、DAE法はコンテナに本を詰めてコンテナごと脱酸処理チャンバーへいれてガスによる中和処理を行い、3週間程度おいて臭気を抜く。費用はコンテナの数で決まる、コンテナは封印され搬出されてから納品されるまで開かれることはない。多少紙がうすく黄色になるが問題を生じるほどではない。革装丁本は現在のところ取り扱わない。また、色刷りでグラデーション使いのものについても検討を要するとのことでした。
BK法は1冊ずつ開いて専用の液体に浸して処理するため、本がきちんと開けるよう必要な補修も一緒に行う。革装丁本、色刷りについても問題はなく、費用は大きさと重さによって細かく設定されています。また、事前に細かくチェックし診断書のようなリストを作成してくれます。アンカット本(製本ページの袋とじが切られていないもの)についてはカットを検討してほしい、背を覆っているブックカバーフィルムが浮き上がっているものはフィルムの部分が白っぽくなる可能性があるとのことでした。
どちらの方法も、本に貼付されている分類ラベルやバーコードラベルはそのままで問題なし、本体中の印刷された写真についても問題なし、所蔵印の朱肉や修理のため?に張られたガムテープについてもOKとのことでした。
DAE法は図書本体に接触せずに脱酸処理を行うのでかなり傷んでいる本でも処理してもらえる、BK法は脱酸に絡めて補修も一緒にやってもらえると感じました。
(3)処理の実施・納品
入札の結果、革装丁本230冊についてはBK法、革以外の1323冊についてはDAE法で行うことになりました。DAE法とBK法で処理した本が混配されても問題はないとの見解でした。作業は2~3週間かけて行われ、納品時には開梱、配架もやってもらいました。念のため搬出前の配架状態をデジカメで撮っておきましたが問題は起きませんでした。BK法で処理した本はうっすらと白い粉のようなものが手につきますが、これは頁に付着した酸化マグネシウムで人体に害はなくこれにより長期的に紙をアルカリ性に保つとのことでした。臭いについてはBK法では全く気になりませんでしたが、DAE法では薬剤の臭いが少し残っていました。特に何もしませんでしたが、配架して2~3週間程度で臭いはぬけました。なお、納品時の報告書によればPHは8.9~10と改善されていました。
3 まとめ
脱酸処理を行うと黄ばみがとれて頁が白くよみがえるのかとついつい思ってしまいますが、そのようなことはありません。パリパリだった頁がしなやかになることもありません。ですから、酸性化があまり進行しないうちに処理をした方が賢明で、パリパリや濃茶色になってからでは手遅れのような気がします。
また、DAE法で行う場合には、コンテナ詰めの際にクリーニングを行いきれいにしてから脱酸処理をしてもらった方がよいと思います(今回は納品の配架の際にクリーニングをしてもらいました)。BK法は1冊ずつ薬剤に浸されるのですっきりきれいになって戻ってきます。若干本がふくらむという話もありましたが搬出前と同じ状態で配架できています。

(脱酸処理を実施したことが外から分かるようラベルに小さな白点を付けています。)
現在文庫の書庫は1階で日光の入らない場所にあります。温湿度に注意すれば理想的な環境ですと業者の方に言っていただきました。脱酸処理を行った図書を保管するのはもちろん初めてで、今後、年に1回程度本の状態をチェックしようと思っています。

(脱酸処理の方法、実施年月を記載した紙を裏表紙に貼付、または挟み込んでいます。)
エイメリー文庫には修復を要するものがまだ残されており、この他に1700年代から1980年代までに刊行された本は和洋あわせて約11万点所蔵しています。政策研では現在農業の歴史に関する研究は行われておりません。研究員が利用するのは当然新しい資料やデータベースで、当館で歴史的資料を閲覧されるのは外部の方がほとんどです。限られた図書館予算の中で歴史的図書の脱酸や修復にどれくらい振り向けてよいものか悩ましいところがあります。PDF化についても国内外の他機関ですでに公開されているものもあり、どのように取り組むのかこれまた悩ましい限りです。とはいえ先輩方が苦労して手に入れ大切にしてきた貴重なコレクションです。資料価値を損なうことなく次代へ残すべく努力をしたいと思っています。
参照文献
1)横島文夫「酸性紙図書の脱酸性化処理技術」農学図書館協議会誌 №157、2010
2)ブックキーパー大量脱酸システム (株)プリザベーション・テクノロジーズ・ジャパン作成パンフレット
3)「DAE法による紙資料の大量脱酸処理」 日本ファイリング作成資料
4) 酸性紙資料に対する脱酸処理(国立国会図書館HP資料の収集・保存から)
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data_operat_05acidremove.html
5)中性紙使用のお願い(国立国会図書館HPから)
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data/chuseishi.pdf
(支部農林水産省図書館農林水産政策研究所分館)
