びぶろす-Biblos
電子化53号(2011年8月)
- 発行:国立国会図書館総務部
(National Diet Library) - ISSN:1344-8412

3.米国大使館レファレンス資料室―変化するニーズに応えるためのサービス
マイケル・ハフ
はじめに
米国大使館レファレンス資料室は、蔵書数約2,800冊で、現在6名のスタッフが働いています。私どもの主な業務は米国国務省の文化・広報活動の一環としてアメリカに関する質の高い情報を日本の皆様に提供することです。本日は私どもが提供しているサービス全般についてお話いたします。

(平成22年度国立国会図書館長と行政・司法各部門支部図書館長との懇談会〔平成22年12月7日開催〕において講演するマイケル・ハフ氏〔中央〕)
レファレンス資料室の使命と役割
私共の図書館情報サービスにはインフォメーション・リソースセンター(IRC)という名称を使用しています。IRCプログラムの使命は、米国の外交政策を正確に説明すること、政府機関や報道機関、あるいは市民や学生、研究者に対して、米国の社会や文化を正確に反映した権威ある情報を伝えることです。利用者からのレファレンスを受ける際に大事なことは、米国に関する幅広い信頼できる意見を回答に反映させることです。また、資料の収集にあたっても、多様な意見を尊重しています。ブッシュ前政権時に、政権の意向に沿うような文書だけを収集するということはありませんでしたし、オバマ現政権下においても同様です。多様な意見がある主題については、米国内の幅広い論議を正確に反映した情報を提供することを使命としています。
私は、広報・文化交流担当国務次官の管轄下にある国際情報プログラム局(Bureau of International Information Programs: IIP)の所属ですが、IIPでは、米国外の政府やその国の市民に対する広報文化活動(Public Diplomacy)を行なっています。具体的には、海外のオピニオンリーダー、若者や一般市民に対して、米国の政策、社会、価値観についての情報発信、米国や米国社会をよりよく理解してもらうために電子ジャーナルや冊子、パンフレット、ポスターなどを発行しています。また、IIPでは研究者や民間の専門家等を海外に派遣して、様々なトピックに関する講演活動を行なう「U.S.・スピーカーズ・プログラム」や、一般の人々が大使館の壁を越えて、米国社会や文化にふれることができるよう公共図書館や大学図書館に書籍や資料を寄贈する「アメリカン・コーナー」や「アメリカン・シェルフ」プログラムも行なっています。
私の同僚である国務省情報資料担当官は、現在34名おり、外交専門職員として海外における様々な課題に取り組んでいます。担当官は皆、図書館情報学の修士号を取得しており、他の職場での経験を経て国務省に採用されています。私自身も、着任前はバージニア州の法律専門図書館に勤めていました。同僚の多くも、大学図書館や公共図書館の出身です。私の担当地域は、日本と韓国ですが、最近、フィジー、サモア、トンガ、ニュージーランドが加わり、現在、同僚の中で最も広範囲の地域を担当しているのではないかと思います。
各国におけるIRCプログラム
IRCの様々なプログラムは、その国の人々に対して米国に関する情報を提供しています。名古屋領事館内の資料室はスタッフが1名しかいませんが、そのような小規模な拠点がある一方、ビルマのヤンゴンにあるアジア最大のIRCでは、毎日約500~1000名の利用者があります。また、全てのIRCが「情報資料センター」と呼ばれているわけではありません。例えば東京では、「米国大使館レファレンス資料室」という名称であり、メキシコシティでは、「ベンジャミン・フランクリン図書館」という名称です。我々は世界中の全ての時刻帯、全ての地域に拠点を持っています。利用については、一般公開の場合と予約制の場合があり、東京のレファレンス資料室も予約制となっていますが、電話で予約をして容易に利用することができます。

(各国におけるIRCの拠点について地図を示して説明するハフ氏)
日本におけるIRCプログラムの沿革
日本におけるIRCプログラムの歴史は、日米政府間の多くの協力関係と同様、1945年に連合国軍総司令部(General Headquarters: GHQ)の下で開始されています。GHQの民間情報教育局(Civil Information and Education Section: CIE)は、1946年から1951年まで、国内23都市で図書館を運営しました。東京、大阪、横浜など主要都市に加え、秋田、仙台、岡山、広島、松山、北九州といった地方都市にも図書館を開設しました。
1952年に米国大使館が再開され、日米の正式な外交関係が復活すると、翌53年には、米国広報文化交流庁(United States Information Agency: USIA)が設立され、1953年から1972年にかけて、13都市のアメリカン・センターで米国式の公共図書館サービスが展開されました。これらの資料室では、米国政府の情報だけでなく、米国の文化、文学、芸術、歴史等に関する情報も提供されていました。しかし、1967年から72年にかけて、大幅な予算削減が始まり、いくつもの資料室が閉鎖に追い込まれ、1972年の時点で残ったのは、札幌、東京、名古屋、京都、大阪、福岡の6都市のみでした。さらに、1996年には京都、97年には札幌の資料室も閉鎖になりましたが、USIAが国務省に統合された1999年になると、やや風向きが変わってきました。私はこの年に東京に着任しましたが、フォーリー大使が最初に命じたのは、札幌の資料室の再開でした。
2001年9月11日の同時多発テロ後、東京アメリカン・センターや大使館のセキュリティが大幅に厳しくなり、また予算上の理由もあって、2006年には芝公園のアメリカン・センターにあった資料室を閉鎖し、大使館へ移転することとなりました。
日本におけるIRCプログラムの活動
私共は大使をはじめ大使館内の政治・経済部など内部に対するサービスも行っていますが最も重要なことは、主要なサービス対象は日本の皆さんであるということです。利用者として一番数が多いのは、研究者や学生です。フルブライト奨学金を利用する日本の研究者は、米国に渡航して研究を行いますが、帰国後資料室を利用する事も多々あります。さらに、私共では、テレビ局や新聞社のような報道機関から米国に関する統計、政府、議会資料に関する質問にも対応しています。日本の方は誰でも御利用いただけるのです。
他方、大使館職員向けにも様々なサービス行っています。例えば、広報・文化交流部が日本各地で行なう様々なプログラムやセミナーを行う時は、関連資料の提供などのサポートをしています。また、先ほど報道機関からの質問に答えると述べましたが、これらの質問を受ける当大使館の報道室の職員からの問合せにも対応しています。大使からの質問には、直ちに回答しなければなりませんし、他にも大使館内の他の部局、米国航空宇宙局(NASA)や農務省、商務省、連邦航空局などに対してもサービスを行っています。また、ワシントンの国務省が日米関係に関する調査を行う際に、私共がサポートすることがあります。面白い業務としては、米国大統領が外国を訪問する時に、大統領の随員及び同行のメディアに対して24時間体制のレファレンス・サービスやバックアップを行っています。先日、日本でAPECが開かれましたが、その折には、私も横浜に行き仕事をしました。
その他、電子メールでニューズレター「U.S.インフォメーション・アラート」を発行していますが、このサービスは、政府機関の主要な政策、政府報告書などをEメールで案内するサービスです。これにより英語版のみの資料も日本語要旨を読んで興味を持っていただけます。なお、国務省の国際情報プログラム局が発行する主な出版物に関しては、私共で翻訳・刊行も行っています。
レファレンス資料室には、約2,800冊の蔵書があり、これらの蔵書はウェブページのOPACで検索可能です。オンライン・データベースやマイクロフィッシュも所蔵しています。特に議会情報サービスのマイクロフィッシュについては、関東圏では私共と国立国会図書館が全ての委員会の記録を所蔵しているものと思われます。オンラインの場合と違って、利用者は一つの情報にアクセスすると同時に別の情報にもアクセスできるのです。
過去5年にわたりレファレンス資料室は毎年、図書館情報学教育や米国の情報開示などに関するシンポジウムを開催しています。今年のシンポジウムでは、米国弁護士協会の法律顧問であり、1970年代から情報公開法(Freedom of Information Act)に関する活動を続けているトマス・サスマン氏を招きました。来春には、米国の大統領図書館について専門家に講演していただく予定です。
先進国においては今日、情報はいつでも・どこでも入手できます。しかしながら、正しい情報を的確に入手するためには、訓練が必要です。私共のスタッフは全員日本人ですが、英語を流暢に話し、図書館情報学の教育を受けていますし、日本国内やワシントンD.C.などで継続的なトレーニングを受ける機会があります。米国の統計、政府の予算など、米国に関するあらゆる面について知りたいことがあれば、ぜひ私共のスタッフの専門知識を頼っていただければと思います。
最近の動向
資料室が大使館内へ移転して以降、毎月の利用者数は減少傾向にあります。移転に伴いセキュリティが強化されたことが原因との見方もありますが、インターネットの普及が背景にあるのではないかと考えています。ウェブ上であらゆる情報が入手できると思われているため、資料室を利用したいという人自体が減っているのではないかと思います。また、利用者数には波があり、夏休みが終わる頃に増加し、正月にかけて減少していくという状況です。
蔵書の利用については、統計を見ると来館者よりも資料室職員の利用が多くなっています。政府関連資料を中心とした蔵書には議会図書館の分類法が適しているのですが、私共では資料室を一般公開してきた経緯からデュ-イ十進分類法を採用しています。職員が調査を行う際には、統計に関するレファレンスも多く、特に米国政府や社会に関する統計資料が多く利用されています。また、米国の教育についても多くのレファレンスを受けますが、それらは教育制度に関する一般的な質問であり、米国留学の具体的な方法などに関するものではありません。一般の利用者に最も頻繁に利用されるのは統計資料です。経済や人口統計、留学生の数に関する統計資料は特に利用が多いです。また、政治・法律関連の情報だけでなく、文化に関する情報のニーズも高く、例えば、演劇や音楽など芸術に関するレファレンスなどもありますので、東京にはこれらに関する情報源が少ないのではと推測しています。
最近の傾向としては、専門的な研究関連のレファレンスが一定の件数で推移する一方、回答に要する時間が15分以下のクイック・レファレンスは減少していますが、これもインターネット普及の影響ではないかと思います。今後は、回答が容易でないような研究関連のレファレンスが増えていくのではないかと思います。ウェブサイトに質問用の電子メールフォームを設置してからは、電子メールによる依頼も増加しています。また、将来的には電子書籍を蔵書の一部としていくことになるかと思います。その他、ソーシャル・メディアを活用した利用促進活動も行っています。最近、ルース大使が外交の重要性を訴える一環としてツイッターを始めました。彼は日本各地への視察について発信していますが、私共は、大使のために事前調査を行い、情報を提供しています。わずか140字のつぶやきに対する準備の量にはきっと驚かれることでしょう。
おわりに
先日、ひとりの男性が、大使館を訪ねてこられました。彼は、1950年代にCIEで翻訳者として働いていたとのことですが、所有していた文書を全て持参し、レファレンス資料室に寄贈して下さいました。現在90歳代前半の彼に感謝の意を述べたいと思います。私共は、大使館の歴史や日米関係の歴史の中で活動しています。今後とも、レファレンス資料室が皆様のあらゆる調査をお手伝いできればと思います。
(本稿は、平成22年12月7日におこなわれた平成22年度国立国会図書館長と行政・司法各部門支部図書館長との懇談会における米国大使館情報資料担当官マイケル・ハフ氏による特別講演を要約したものである。)
