びぶろす-Biblos
電子化53号(2011年8月)
- 発行:国立国会図書館総務部
(National Diet Library) - ISSN:1344-8412

2. 第2回アジア専門図書館国際会議(ICoASL 2011)に参加して
齊藤 史
1.はじめに
2011年2月10日(木)~12日(土)、日本において専門図書館協会(Special Libraries Association:SLA=以下SLAと記す)のアジアン・チャプター(Asian Chapter)が主催する第二回アジア専門図書館国際会議(International Conference of Asian Special Libraries: ICoASL 2011)が開催された。筆者はこのうちの1日目に参加したので、以下、その報告と所感を記す。1
2.第二回アジア専門図書館国際会議の概要
SLAは米国に本部を置く専門図書館・インフォプロ(情報専門家)のための非営利団体であり、世界75国の機関が参加している。アジアン・チャプターはその中でおもにアジアの会員が所属している地域別コミュニティである。2 アジア専門図書館国際会議は、「アジアのインフォプロがグローバルな視点から知識共有をし、技術を身につける場を提供する事」を目的としてアジアン・チャプターが主催する会議であり、第2回となる今回は「ユーザーの信頼獲得をめざして:デジタル時代における専門図書館革新の重要性」というテーマのもと、日本の専門図書館協議会(JSLA=以下JSLA)との共催で開催された。プログラムは1日目が基調講演と招待講演、2日目は応募論文の発表、3日目が図書館見学(日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所図書館及び江戸東京博物館図書室)という構成で、アジア諸国を始め世界各国から200名以上の関係者が集まった。

(1日目、2日目の会場となった国連大学(東京都渋谷区))
3.各講演の概要
1日目は基調講演、アジア5カ国のインフォプロによる招待講演、E-ラーニングセミナーというプログラムで進められた。
(1)基調講演
基調講演は、SLA2010プレジデントありダウ・ジョーンズ・アンド・カンパニーの取締役でもあるAnne Caputo氏によって、「新基準と生きる:知識プロフェッショナルが理解すべきグローバルトレンド(Living in the New Normal: Global Trends all Knowledge Professionals Should Understand)」というタイトルのもと行われた。同氏は、Google、Facebook、YouTube、Twitter と言った様々な情報ツールが普及し、誰もが自由に情報を手に入れたり発信したりできるようなった現在において、情報のプロである図書館はどう変わっていかなければいけないのか、という問いを掲げる。その上で、図書館に大きな影響をもたらすグローバルトレンドとして5つの項目を挙げ、図書館がどう対応していくべきかを述べた。以下、5項目を簡単にまとめる。
(1)Globalization(グローバリゼーション)
情報ツールの普及によって、どの国にいても世界の様々な情報をタイムリーに手に入れることができるようになった現況を知るべきである。
(2)Distressed Economies(経済危機・不況)
世界的な不況の影響により専門図書館の上部組織が図書館活動を縮小しかねない状況がある。それに対して図書館は自らの価値をより洗練しアピールする必要がある。
(3)Disintermediation(中抜き)
インターネットツールの普及によって、利用者が特別な仲介者なく情報を手に入れたり書籍を買ったりできる現況ではあるが、図書館はその中でより効果的な検索方法を示すことで専門能力を示すことができる。
(4)Disruptive Technologies(破壊的な力を持つ技術)
広がりつつある優れた情報技術、様々な情報ツールは人々の生活の在り方を変えてしまうような力を持っている。
(5)Competition(競争)
誰もが情報をめぐる競争者となり得る時代において、図書館も情報や知識の専門組織としてスキルを高めなければいけない。
同氏の講演に対して、会場からは「図書館はこれからどうするべきか」、「図書館を使わない若い世代が増える中で図書館はどうあるべきか」などの質問があったが、それに対しての回答も「状況を認識すること、図書館として提供する情報の価値を高めること、分析能力を付けること」、「新しい情報ツールに親和性が高い若い世代は図書館への期待値は低いが、彼らの声に耳を傾け、図書館が自らの期待値を高めなければならない」、「図書館の物理的スペースは小さくなるかもしれないが、それはネガティブなことではなくデジタル・ライブラリーとして情報を提供する方向がある、図書館がなくなるわけではない」といったもので、情報社会の変化を十分に認識しながらそれを図書館が専門組織としてより有益な存在に変わっていく機会と捉えるべきという、前向きな姿勢が一貫してうかがえた。
(2)招待講演
招待講演では、中国、インド、日本、韓国、シンガポールの5ヶ国からのゲストが、各国の図書館政策や専門図書館の活動を紹介した。
まず中国科学院のXiaolin Zhang氏が、図書館とユーザーとの距離が物理的に遠くインターネットを通じたデジタル情報の提供が不可欠になっている中国の現状を説明し、その状況下での取り組みとして、様々な機関に対するサブジェクト・ライブラリアン(主題資料専門家)によるオンライン・サービス、図書館に行かずとも電子ジャーナルを利用できるといったユーザーベースのシステムの開発などを紹介した。また専門図書館として情報を貯蓄するだけではなく分析と付加価値を付けて研究者に提供することの重要性、専門的なサービスを提供するために科学技術の専門家の中から司書を育てていく試みなどにも触れた。
続いてインドのタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)のBP Prakash氏が、様々な情報ツールが普及した現在の状況、ユーザーの89%が検索エンジンを利用している一方で図書館のWebサイトは2%しか利用していないというOCLCの統計を紹介した上で、ユーザーの期待値に沿う正確で適切でタイムリーな情報を提供することの必要性を述べた。そして、そのためにも図書館はユーザーを共同作業者として位置づけ、ユーザーが本当に欲しい情報を提供できているか、という視点でサービス提供していくことが重要と訴えた。
3番目は日本の電通総研電通情報センターの守住信貴氏による講演で、センターが電通の本社とグループ会社に向けて提供するイントラネット上の情報提供サービス(5555net)、有料で行うより高度な情報提供サービス、消費者や市場のトレンド情報を発信するメールサービス等の取り組みを説明した。また、企業の情報センターとして、社内上層部や予算セクションに向けて課題提案を行ったり情報サービスの必要性を訴えたりといった積極的なPRを行っていることも紹介した。
4番目の韓国電子通信研究院のKay Sook Park氏は、今の大変革期を乗り越えて持続可能な図書館に変わることが重要と説き、ブルー・オーシャン戦略3を参考にして行われた同図書館の改革を紹介した。「減らし、無くし、育て、作る」という観点から図書館運営に定量的な評価尺度を取り入れ、冊子体資料の購読打ち切りやカタロギング作業の簡略化などを行い、代わりに有益な資料の購入、ユーザーが求めるカスタマイズされた情報の提供、CEOやProject Managerの満足度を高めるためのサービスに力を注ぐといった取り組みからは、無駄をなくし効果的な図書館運営を進めるあり方が伺えた。
最後に、シンガポールのアブソルート・アジア・アセット・マネージメントのScott Davidson氏が、近年目覚ましい成長を遂げる同国の図書館事情について紹介した。同国では建国以降、知的国家となることを目指して情報政策を重要視してきた背景もあり、「Library 2000」「Library 2010」というプランのもと、国を挙げて世界トップクラスの図書館を目指す取り組みを行っている(現在「Library2020」も策定中)。その政策は功を奏し、シンガポール全土の図書館は生涯学習の拠点として急速にイメージを変え、現在も資料のデジタル化やFacebookを通じたサービス提供など、先進的な取り組みが進められているという。同氏は成功要因として、国が図書館の重要性を理解し政策を進めたこと、優秀な図書館員が多いことなどを挙げた。その勢いのある報告からは、明確な指針を持った国家戦略を後ろ盾にした同国の図書館の強みが強く感じられた。
講演を行った5ヶ国の代表が所属する機関はそれぞれ規模や立場が異なり、その取り組みを一概に比較することは難しいが、情報化社会の中で図書館の価値が問われているという現状認識とそれを乗り越えるために図書館は変わらなければいけないという意識が共通して伺えた。また、変化のキーワードとして繰り返し言及されたのは、「デジタル化された資料の重要性」「新しい情報ツールの積極的な活用」「ユーザーを満足させる専門的知識に裏付けされた付加価値のある情報の提供」「図書館の上部組織へのアピール」であり、これが現在の専門図書館が向き合うべき課題だということが改めて浮き彫りにされたように思う。
(3)E-ラーニングセミナー
初日の最後は、SLAの前プレジデントであるStephen Abram氏が「テクノロジーを戦略的に使う:専門図書館員への手引き(Using Technologies Strategically: A Special Librarian's Guide)」のタイトルのもと講演を行った。同氏は最初に「戦略的思考とは変化に順応していくこと」と述べ、Googleによる本の電子化事業を例にとり、これを図書館にとって脅威と捉えるか、チャンスと捉えるか、という問いを掲げた。そして、Googleの活動によってあらゆる情報がWeb上で手に入れられるようになったら図書館員はいらなくなるという危惧を聞くが、そんなことはないと述べる。その理由を、例えばWeb上にあらゆる医療情報や判例情報が存在しても、医者や弁護士の役割が無くならないのと同様、情報が氾濫すればするほど、そこから必要な情報を見付け、分かりやすい形に変化させて提供できる高い情報リテラシーのスキルを持った専門家の力が必要となるから、と説明し、この状況の変化をチャンスとして図書館員も変わらなければならない、と訴えた。氏は「恐竜は絶滅したが、一部は鳥に進化して生き残った、図書館員も絶滅するか、新しい存在へと進化して生き残るかだ」という例を挙げ、積極的に新しい技術を学び、それをユーザーの希望に合わせて使用し価値のある情報を提供できる存在になることの重要性を説いた。氏の多くの例示を上げながらのポジティブな講演は、参加者に対して図書館の新しい可能性への期待を持たせ、変化する意識を鼓舞するものであったように思う。
4.まとめ
(1日目の夜の交流会の様子)

1日目だけの参加であったが、アジア各国の専門図書館を取り巻く状況を広く知ることができ、大変刺激を受けた。「デジタル時代における専門図書館革新の重要性」がテーマであり、様々な変化の事例が聴けると思ってはいたが、予想していた以上にアジア各国の情報機関は、新しい技術を取り入れ変化していくことに対して積極的であった。専門図書館であるがゆえに、公共図書館等に比べて社会の変化により敏速に対応しなければ生き残れないという状況はあるかもしれないが、その前向きな姿勢には見習うべき部分が多いと感じた。
また自分が属する機関や国籍を超えて多くの人々と交流する機会を持てたことも貴重な経験だった。講演中、また、1日目の夜に行われた交流会の場では、アジア各国からの参加者のインフォプロとしての意識の高さ、コミュニケーション能力の高さに圧倒される場面もあり、それが図書館改革に向けた積極的な姿勢の源になっているのでは、と思う部分もあった。同じ図書館員として、自分も彼らと共通に話ができるだけの意識と能力を持たなければいけない、ということを痛感した1日でもあった。
最後に大会を企画・運営してくださった関係者の方々には改めてお礼を申し上げるとともに、今回の経験をこれからの自身の業務に生かしていければと思う。
1なお、筆者が参加しなかった2日目、3日目の記録、及び筆者以外の参加者による参加報告として以下が参考になる。
池田 貴儀「第2回アジア専門図書館国際会議の概要」『専門図書館』(246) 2010 pp.61~66
中村 紀之「集会報告 第2回アジア専門図書館国際会議(International Conference of
Asian Special Libraries 2011)に参加して」『情報管理』54(3) 2011.6 pp. 158~161
2専門図書館協会についてはhttp://www.sla.org/、アジアン・チャプターについてはhttp://units.sla.org/chapter/cas/を参照のこと。
3ブルー・オーシャン戦略はW・チャン・キムとレネ・モボルニュが提唱する経営戦略論。詳細は以下を参照のこと。http://www.blueoceanstrategy.com/
(国立国会図書館総務部支部図書館・協力課)
