びぶろす-Biblos
電子化53号(2011年8月)
- 発行:国立国会図書館総務部
(National Diet Library) - ISSN:1344-8412

1.「第2回アジア専門図書館国際会議」参加報告
澤田 裕子
はじめに
2011年2月10日(木)~12日(土)、「第2回アジア専門図書館国際会議」(The 2nd International Conference of Asian Special Libraries)(http://units.sla.org/chapter/cas/ICoASl-2011.htm)が東京の国連大学で開催され、インド、韓国、中国、香港、インドネシア、フィリピン、シンガポール、タイ、スリランカ、イラン、サウジアラビア、アメリカ、カナダ、ロシア、日本から237名が参加した。日本の参加者は筆者を含め86名だった。1日目には基調講演、招待講演、E-ラーニングセミナー、レセプションが行われ、2日目には応募論文の発表、両日を通して応募論文ポスターの掲示、ベンダー製品のレビューなどが行われた。最終日の図書館見学ツアーには33名が参加し、午前中に日本貿易振興機構アジア経済研究所図書館、午後に江戸東京博物館図書館を訪問した。筆者は1日目から参加し、2日目は応募論文の発表を行い、最終日は所属機関で見学者の対応に当たった。これらの体験をもとに会議の概要を報告したい。
基調講演、招待講演
基調講演では、2010年SLA会長のAnne Caputo氏(ダウ・ジョーンズ)が、情報・知識を蓄積、発信する手段が急速に変化しているとして、GoogleやFacebook、YouTubeがいかに日常生活に浸透しているかをデータで示し、あわせて、情報専門家が理解すべき5つの世界的な動向(グローバル化、市況の低迷、仲介者の省略、破壊的に優れた技術、競争)を紹介した。これらを踏まえ、情報専門家はグローバルな視野から新たな情報手段を学び、高い技術を生かした付加価値サービスを提供し、競争時代を勝ち抜き、組織に利益をもたらすよう戦略的に対応すべきであると述べた。
講演のなかでYouTubeの利用の可能性について言及されていたが、昼食時にダウ・ジョーンズ・ジャパンの方々とお話しした際、世界中に支局を持つ同社では物品の組み立て方法など、実際に映像として見た方が分かりやすい業務情報は、すでにYouTubeで共有されている旨を伺った。さすがにメディア業界はトレンドに敏感で、新たな情報ツールを取り入れるのも早いと感心した。Caputo氏にも紹介していただき、ご挨拶する機会を得た際、氏の親しみやすくオープンな人柄が印象的だった。

Anne Caputo氏
招待講演では、中国、インド、日本、韓国、シンガポールからの5人の講演者が、専門図書館の置かれている現状や自館の取り組み、国の図書館政策について講演した。情報技術の進展により、利用者自身が直接情報にアクセスでき、情報流通における図書館の存在が見えにくくなっているなか、利用者志向の付加価値サービスの提供やコストパフォーマンスの改善の必要性が強調された。
シンガポールからのScott Davidson氏(アブソルート・アジア・アセット・マネジメント)は、国家戦略としての図書館情報政策を中心に同国の図書館システム全体が効果的に機能している理由を明らかにした。講演では、公共図書館をショッピングモール内に設置するなど、図書館側から利用者に近づき、能動的に利用を促すことで重要性を認知されるように仕向けたこと、また、大学図書館も利用者の呼び込みを重視し、資料へのアクセスだけでなく、社会的な交流の場を提供することに価値を置いていることなどが、図書館の活発な利用につながっていると述べた。情報流通がバーチャルに行える今日においても施設を物理的に生かして、存在をアピールすることは重要であると再認識した。また、私事で恐縮だが、Davidson氏は筆者にとって米国の図書館・情報学大学院の先輩である。このような機会でもなければお会いすることはなかったので、ご縁に感謝したい。

Scott Davidson氏
応募論文の発表
2日目は、応募論文をもとに24本のプレゼンテーションが4つのテーマに分けて発表された。テーマは、「専門図書館サービスの新局面」、「親組織の戦略的方向性に沿ったサービス」、「専門図書館サービスのブランドの確立とマーケティング、戦略的方向性、ベストプラクティスと業績評価」、「利用者調査、満足度指標と利用者の信頼構築のための尺度」だった。インド、スリランカ、フィリピン、イラン、シンガポール、アメリカ、中国、インドネシア、日本の発表者が、学術的、実務的な内容の報告を行い、様々な意見交換がなされた。筆者は「専門図書館サービスの新局面」のセッションで、同僚の坂井華奈子氏とともに機関リポジトリによる研究成果の発信について事例報告を行った。
以下、概要を紹介したい。
"Aiming at improving access to research output through the Institutional Repository"(機関リポジトリによる研究成果のアクセス改善を目指して)
<研究所および図書館のミッション>
日本貿易振興機構アジア経済研究所は開発途上国研究の拠点として、アジア、中東、ラテンアメリカ、アフリカ、オセアニアなどの地域に密着した知識を収集・蓄積し、開発途上国の実態と課題を明らかにし、研究成果を国内外に提供することを目的としている。図書館は研究所の研究活動を支援するため、これらの地域に関する学術資料や統計などを収集し、途上国研究の専門図書館としても一般の利用者に公開している。
<研究ニーズの変化とオープンアクセス>
インターネットの普及や情報技術の発達によって情報環境が変化し、学術情報の量や種類も増え、研究者はより迅速でシームレスな学術情報へのアクセスを期待するようになったといえる。また、1980年代後半に学術雑誌の価格が高騰したことを受け、研究成果の発信をはじめ、学術流通全般が商業出版社に独占されていることを懸念し、学術情報への制約のないアクセス(オープンアクセス)を目指して、研究者が自身の研究成果を出版社を通さずに直接公開する動きが出てきた。オープンアクセスを実現する方法として、研究者によるセルフアーカイビングやオープンアクセスジャーナルの創刊が推奨され、セルフアーカイビングを支援する代表的な電子アーカイビングシステムが機関リポジトリである。
<ARRIDE(アライド)の構築と運営>
2006年8月に正式公開した当研究所の機関リポジトリ、アジア経済研究所学術研究リポジトリ(ARRIDE)(https://ir.ide.go.jp/dspace/index.jsp)は、オープンソースソフトウェアであるDSpaceを導入して図書館スタッフが構築した。大学以外の学術機関による機関リポジトリとしては国内初で、研究所の研究成果を国際的に発信するとともに、公的機関としての説明責任を果たすことにも寄与している。導入時には、研究所理事を委員長とした機関リポジトリ委員会を設置し、全所的な方針を策定した。登録コンテンツについては質を重視し、研究所に所属する研究者が執筆した査読論文とディスカッションペーパー、さらに、外部で出版された論文を著作権処理を行って登録することとした。運営においては図書館職員2名が事務局を兼務し、システムメンテナンス、コンテンツ収集・登録、著作権処理などを行っている。

ARRIDEのトップページ
<外部データベースとの連携>
ARRIDEは研究成果を電子的に蓄積し、データプロバイダとしてOAI-PMHに準拠したメタデータをサービスプロバイダに提供している。経済学分野の論文や研究者情報を提供する国際的なデータベース、RePEc(http://repec.org/)との連携を特に重要と見なし、導入当初からRePEcに論文を登録するため、メタデータを変換してテンプレートを作成するプログラムをDSpaceに追加している。RePEcに収録されたコンテンツは、さらにEconLitやEconomists Onlineに自動的にアップロードされ、経済分野の利用者に向けて幅広く提供されている。また、研究者にとってもワーキングペーパーやプレプリントの段階で学術的アイディアや研究結果について意見交換でき、正式な出版以前に国際的な注目を集めることができるという利点がある。さらに、著者に毎月メールで送られる利用統計も研究者が自身の学術的地位を知るための恰好のツールとなっている。

ARRIDEの情報発信の広がり
<専門図書館の機関リポジトリ>
機関リポジトリはこれまで大学が中心となって構築してきたが、専門機関でも有効に活用することができる。専門機関が持つ既存の情報資源のうち、公開できる有益な情報を機関リポジトリで発信することは組織の公的評価の向上にもつながる。また、組織の知的生産物を蓄積、発信し、組織の全体的な活動を示す役割を担うことから、機関リポジトリの運営には全職員が関わり、互いに連携することが求められる。なかでも、研究者と図書館職員は頻繁に情報交換することになり、機関リポジトリを構築し、運営することは、図書館にとって研究プロセスや研究ニーズを知る機会を増やすことにもなり、図書館サービスの向上にもつながるといえる。
優秀論文賞の受賞
応募論文のうち、イランと日本の論文が優秀論文の第1位、2位に選ばれ、1日目に優秀論文賞が授与された。2位を受賞したのは、先に紹介させて頂いた当研究所の事例報告である。過分な評価に戸惑いもあるが、多くの参加者からお祝いの言葉を頂き、開催国の発表者として大変光栄であった。今後も研究所の成果を世界に発信するため、取り組みを続けていきたい。

受賞式(坂井華奈子氏と筆者)
第1位を受賞したのは、イランのマシュハドにあるフェルドゥーシー大学図書館・情報学部の教授と博士課程修了生であるSholeh Arastoopoor氏、Rahmatollah Fattahi氏、Mehri Parir Accepth氏による"Developing user-centered displays for literary works in digital libraries―Integrating bibliographic families, FRBR and users"である。文学作品を収録した電子図書館の検索システムにおいて、FRBRモデルと利用者の視点をもとに検索結果のディスプレイを再構築する方法を考案し、相互に関連する文学作品を論理的に配列して、より利用者の期待に沿った結果を提示する可能性について模索した研究の成果である。FRBRとは、資料媒体が多様化するなか、利用者ニーズの観点から書誌レコードの役割を規定した概念モデルで、1997年にIFLAが公表した。
(http://www.ifla.org/files/cataloguing/frbr/frbr_2008.pdf)

受賞式(Sholeh Arastoopoor氏、Rahmatollah Fattahi氏、Mehri Parir Accepth氏)
図書館見学
最終日の当研究所図書館の見学では、研究所の事業と途上国・地域での研究者の現地調査を説明したビデオの後、図書館の活動を紹介するプレゼンテーションを行った。その後、途上国の希少資料や統計資料など、途上国研究に必要な研究リソースを中心に館内のコレクションを見て頂いた。手前味噌で恐縮だが、当研究所図書館の蔵書が世界的な地域研究に貢献していると認識した出来事としては、シンガポール国立大学図書館のTham Wai Fong氏があらかじめ書誌調査をして来られ、1900年代初めに東南アジアで刊行され、現在は当館しか所蔵していないという日本語新聞の複写を希望されたことだった。この日は午後の見学を控えて時間が十分でなかったため、翌々日に複写のために再度来館して下さった。また、シンガポール国立大学図書館では著作権が切れた新聞をデジタル化してウェブで無料公開しているという、当館のレファレンスサービスにとっても有益な情報を得ることができた。(東南亜華人歴史文献)
(http://libapps2.nus.edu.sg/sea_chinese/sea_chinese_part5.htm)

図書館見学の様子
おわりに
今回の会議においてはインドからの参加者が最も多く、議論に参加する姿勢も常に積極的で同国の経済的、社会的発展の勢いを反映しているように思われた。インドをはじめ、シンガポールやインドネシアなど、各国のライブラリアンたちと情報を交換し、親しい関係を築く機会を与えて頂き、図書館の上司、同僚の皆に大変感謝している。
(日本貿易振興機構アジア経済研究所図書館)
