びぶろす-Biblos
電子化51号(2011年2月)
- 発行:国立国会図書館総務部
(National Diet Library) - ISSN:1344-8412

1.世界図書館情報会議(WLIC):第76回IFLA 資料保存関係会議参加報告
中村規子
世界図書館情報会議(WLIC)第76回国際図書館連盟(IFLA注1)年次大会に参加し、主に資料保存関係会議に出席した。また、ウプサラで開催されたサテライトミーティングに参加した。これについて、以下のとおり報告する。
第76回 IFLA年次大会
第76回IFLA年次大会は2010年8月10日から15日までの間、スウェーデンのヨーテボリで開催された。121カ国から3,300名以上の参加者があり、日本からは国立国会図書館代表団7名を含む25名以上が参加した。今回のテーマは「知識へのオープンアクセス−持続的な発展の促進に向けて」であり、このテーマのもとに約160のオープンセッション、約80機関が出展した展示会、200点を展示したポスターセッション等が行われた。また、IFLAの理事会、総会、各分科会の常任委員会などの会議が開かれた。大会の前後には、スウェーデンの各地や近隣の国で各分科会のサテライトミーティングが開かれた。

(会議場であるスウェーデン・エキシビション&コングレスセンター)
ヨーテボリ
ヨーテボリはスウェーデン第二の都市であるが、高層建築はIFLA年次大会の会議場となったスウェーデン・エキシビション&コングレスセンターだけで、レンガ色を基調とした建物が並ぶ落ちついた街であった。ボルボの本社があることでも知られるが、道路の中央にはトラムが走り、専用レーンで自転車をこぐ人たちも見かけた。人々の対応は親切で真面目であり、また、子ども連れの人たち、それも3人の子ども連れをよく見かけた。夕方になると、オープンエアなどのお洒落なカフェに人が集まり、明るい夜をいつまでも楽しんでいた。サマーバケーションの時期だったので、博物館の前で毎晩、ライブ演奏が行われていた。

ヨーテボリの街
開会式 (8月11日)
開会式はギターの演奏で始まった。最初にWLIC2010組織委員長のアグネッタ・オルソン(Agneta Olsson)氏の挨拶があり、安全で、フレンドリーで、緑の多いヨーテボリでの大会参加に歓迎の意を表した。IFLA会長のエレン・タイス(Ellen Tise)氏は、まずスウェーデンでの開催について謝意を述べた。これはスウェーデンのIFLA年次大会開催が4回目という最多開催国であること、また、今回は当初オーストラリアのブリスベンで開催予定だったところ経済危機による理由から1年前に開催地をヨーテボリに変更することが決定され、開催に至ったことによる。
「知識へのオープンアクセス」というテーマについて、タイス氏は、知識は使っても減らない素晴らしいものであると述べた。また、ヨーテボリ出身の第60回国連総会議長のヤン・エリアソン(Jan Eliasson)氏は、知識は発展のための最も強力なエンジンであり、発展により平和や人権尊重をもたらすものである、だが、近年、地球上にあるコンピュータの数について考えると格差が拡大している側面もあることを指摘し、図書館員に対する敬意を表してスピーチを結んだ。
開会挨拶が終わると、男性2人女性2人のグループにより、ABBA(1970年代のスウェーデンのポップ・ミュージック・グループ)の「ダンシング・クイーン」などのライブ演奏が始まった。参加者は立ちあがって、歌い、踊り、興奮さめやらぬうちに開会式は終了した。
開会式に先立って、10日にIFLA戦略計画が公表され、IFLA/PACビジネスミーティングや第1回目の資料保存分科会常任委員会が開かれた。
IFLA戦略計画
今回、2010年から2015年における戦略計画が公表された。これは、IFLAの全組織において、(1)情報への平等なアクセス、(2)IFLAの機能向上、(3)専門職制の変革と地位の向上、(4)IFLAメンバーである図書館及び類縁機関、さらに、その利益者の利益代表者となる、という4点を目標とし、それに基づいて実施すべき行動計画を策定したものである。
IFLA/PAC ビジネスミーティング (8月10日)
IFLA/PAC注2ビジネスミーティングとは、IFLA/PACの地域センター長と諮問委員会との合同会議である。今後の活動について、「IFLA戦略計画 2010−2015」に基づいて進めていく方向で議論がなされた。PAC国際センター長のクリスチーアネ・バリラ(Christiane Baryla)氏からは、資料保存に関する意識喚起や情報共有を一層推進するために、PACの機関紙である"International Preservation News"の目次を各地域の言語に翻訳注3するなど、各地域センターではホームページを作成し充実させるよう指示があった。また、米国では5月に全国的な保存週間を設け、コミュニティや家族の写真等を保存するなど記録の保存をアピールする活動を行っていることが紹介され、各国での実施について提案があった。
また、PACの重要課題のひとつであり、近年、災害が増えつつあることから、災害がとりあげられた。2010年1月に起きたハイチ大地震注4については、ブルーシールド国際委員会注5がハイチの状況を把握するために4月に2名を派遣し、6月にハイチ政府、ブルーシールド国際委員会、同国内委員会の間でハイチの資料救済とアーカイブの設立に関する協定が結ばれたことが報告された。また、2010年4月に発生した中国青海省大震災注6については被災状況の映像が示され、170余の公的文化機関が被災したこと、図書館の被害の救済には北京大学図書館の司書などのボランティアが集まったことなどが報告された。
資料保存分科会常任委員会 (8月10日、14日)
資料保存分科会注7の常任委員会は例年同様、IFLA年次大会の期間中、2回、開催された。2011年に開催するIFLA年次大会のオープンセッションのテーマについて議論し、音楽映像及びマルチメディア分科会との共催で音楽映像資料の保存をテーマとするなどの提案があった。また、資料保存分科会について広く周知するために各国の言語でパンフレットを作成し、ホームページにも掲載することを決め、早速、各国の常任委員が作業を始めることとした。
資料保存分科会、PAC、環境の持続可能性と図書館SIGの合同オープンセッション (8月12日)
「資料保存と持続可能性」をテーマとする6件の報告があった。報告テーマは、石油燃料の枯渇と図書館経済、英国図書館の新書庫、図書館のエネルギー効率と環境への影響の減少との関係、ポーランド国立図書館における図書館資料のマイクロバイオロジーによる管理、クロアチアの図書館の内戦経験により資料保存・防災について何を学んだかという調査報告、ミラノ市立公文書館とロンバルディア州立図書館の資料防災経験を基にした資料防災計画策定に関する提言などで、いずれも興味深いものであった。
とくに興味深かった英国図書館からの報告について紹介する。英国図書館の資料保存部門長であるデボラ・ノボトニー(Deborah Novotny)氏は「英国図書館の新書庫」と題し以下の報告を行った。英国図書館には蔵書数の増大、保管環境の整備、防災などのへの対応といった課題があり、一方で、公的機関として国の政策に従って省エネルギーを進めなければならない。こうした相矛盾する課題に対応するために、ボストン・スパの新書庫については集密・自動書庫、低酸素環境(酸素15%)、照明は非常灯のみとした。低酸素書庫であっても、自動書庫なので人間が書庫内で出納作業をするわけではないなど、人間にとっての環境も考慮した。さらに、利用頻度の低い資料を配置するという方針についても報告された。
ハイチに関するアップデート・セッション (8月14日)
ハイチ国立図書館長フランソワーズ・ボーリュ-シィブル(Francoise Beaulieu-Thybull)氏が壇上に上がると盛大な拍手があった。最初に、ハイチ国立図書館の数箇所に設置された防犯カメラが捉えた、ハイチ地震発生時に書架が倒れ、塀が倒壊する映像が映し出された注8。そして、ブルーシールド国際委員会のダニエル・ミンショー氏(Danielle Mincio FLA常任理事会理事)からハイチ政府とブルーシールド国際委員会及び同国内委員会との間で交わした支援協定により、ハイチの文書遺産を救済し手当を行う臨時センターを設置するため、修復作業を行うボランティアの募集を行うことが報告された。また、可能な方法での支援が呼びかけられ、会場からは多数の参加者から支援の意思表明があった。

(ハイチに関するアップデート・セッション)
筆者は上記のIFLA年次大会の資料保存関係会議その他の会議に出席し、16日から資料保存分科会と貴重書及び写本分科会共催のサテライトミーティングに参加するため、15日の閉会式には出席せずに、ヨーテボリからウプサラに向かった。
サテライトミーティング (8月16日〜18日)
サテライトミ−ティングは資料保存分科会と貴重書及び写本分科会の共催により、「古い資料のための新しい技術−保存と本の歴史のための科学的検証−」をテーマとし、ウプサラ大学注9で開催された。参加者は60名余であり、その大半はスウェーデンからの参加者であった。

(ウプサラ大学メインホール)
16日はこの大学内のカロリナ・レディヴィヴァ(Carelina Rediviva)という名の図書館注10(展示室も含む)と修復部署を見学した。カロリナ・レディヴィヴァは、17世紀末に制定された納本制度によって収集された資料のほか、国王などからの寄贈や、戦争の際に奪ってきた資料で構成され、手稿本については書架にして3500メートル分を所蔵する。戦争の際、スウェーデン軍隊は、特に高価な貴重書を所蔵するイエズス会の教会を狙ったそうである。古い資料は大変良い状態で保存されていたので、保管環境の管理方法を聞いたところ、古い建物であるので空調設備などは無い、窓の開け閉めだけだということであった。そして、膨大な数の古い資料の検索ツールは多数の冊子体の目録であり、書誌情報のデジタル化やオンラインでの提供は今後の課題であるという。そういう状況なので、貴重な資料が盗まれなくてよい、というジョークまじりの説明があった。
この図書館には展示室があり、その特別室には『シルバー・バイブル』と称する6世紀の、銀製の表紙の聖書 "Codex Argenteus"が展示されていた。保存のために展示室を真っ暗にしてあったため、あまりよく見えなかった。
修復部署も見学した。スタッフは3名で、ウプサラ大学の図書館全体の破損・劣化資料のなかから、極めて選択的に修復を行っている。わずかな破損の補修作業は資料の出納担当の職員が行うそうである。チーフ・コンサバターによれば、「本当はあと3名ほしい。」ということであった。筆者が日本人であるため、和紙や日本の製本道具を使っていることを示してくださった。
ワークショップでは、「古い資料のための新しい技術−保存と本の歴史のための科学的検証−」に関する9件の報告があった。とくに興味深かった報告を紹介する。
(1) DNA分析に関する報告
近年、犯罪捜査にDNA鑑定が行われるが、古い資料の刊行年やその歴史についての調査にDNA分析を活用するという事例報告があった。ウプサラ大学ではコペルニクスの蔵書を所蔵するが、その中に毛髪が挟まっていたことから、こうした調査が始まった。同大学のマリー・アレン(Marie Allen)氏から、古い資料の中には奪ってきた資料もあるので、毛髪のDNA分析を基に、書誌情報等と合わせて、元の所蔵者・所蔵機関を推定する調査を行っているという報告があった。
また、同大学のアンデルス・ゲテルストレーム(Anders Gotherstrom)氏からは、手稿本の羊皮紙についてDNA分析を行い、何の動物の皮かを調査し、動物の進化の歴史や生息場所を確認の上、書かれた時期や場所等を判断する、という方法について報告があった。
(2) 保存及び保存科学に用いられる最新機器に関する報告
スウェーデン国立公文書館のヨナス・パルム(Jonas Palm)氏から、「SurveNIR」という、保存科学に必要な基材の物理的性質やpHなどの化学的状態に関するデータを非破壊的に瞬時に得られる光学検査機器についての紹介があった。これは欧州委員会の支援プロジェクトとしてヨーロッパの主要図書館や文書館と保存科学研究機関が協力して開発したものである。また、オランダ王立図書館のクレメンス・ノイデッカー(Clemens Neudeccker)氏からは、ヨーロッパの文書遺産へのアクセスを向上させるためにデジタル化を行う、IMPACT(Improving Access to Text)という、欧州委員会によるプロジェクトにおいて、古い資料をデジタル化する際に昔の字体を認識することが困難であるため、OCRの改良により解決しようとしていることなどが報告された。
サテライトミーティングで報告された、古い資料を保存するための最新技術については、大半の参加者にとっては全く聞いたことがない話だったようである。「絶えず、新しい技術に追いついていかなければならないのは大変だ。」と話す研究者もいた。だが、保存の領域において、こうした最新技術が用いられているという情報を世界の図書館・文書館の保存関係者が共有したことは大変有意義であった。
以上のように、ヨーテボリでのIFLA年次大会に参加し、最初に、開会式がとてもシンプルで効果的であったという印象を得た。次に、PACビジネスミーティングにおいて、IFLA全体が「IFLA戦略計画2010-2015」に基づき、より明確な目標をもって組織的に活動を進めていこうとしていることが認識された。資料保存関係会議においては想像以上に災害が大きな関心事となっているのを実感した。サテライトミーティングでは、古い資料の保存に最新技術が活用されていることについて若干の驚きもあり、よい勉強になった。
また、資料保存関係会議のほか、アジア・オセアニア分科会のオープンセッション等にも参加したが、アジア諸国の活動の進展が著しいことには驚嘆した。
今回のIFLA年次大会への参加によって得た知識や人とのつながりは、今後の業務に生かすとともに共有していきたい。
注1 IFLAは、International Federation of Library Associations and Institutionsの略。1927年に創設された図書館及び情報サービスに関する世界的な非政府組織。特に重要とする6つのコア活動や40以上のテーマ別の分科会等のグループにより、世界の図書館界の様々な課題に取り組んでいる。
注2 IFLA/PACは、IFLA Core Activity on Preservation and Conservationの略。IFLAが世界の図書館に関わる重要な課題として取り組んでいる6つのコア活動のひとつである。1986年、ウィーンにおいて国立図書館長会議が、IFLAとユネスコの協力を得て開催した「図書館資料の保存に関する会議」の際に正式に発足した。現在、国際センター(フランス国立図書館)を中心に、世界各地の国立図書館等に置かれた14の地域センターが地域性や得意分野を生かして資料保存の世界的な協力に取り組んでいる。
注3 PACの機関紙である"International Preservation News"の目次の日本語訳は既に、IFLA/PACアジア地域センターのホームページに掲載している。
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/iflapac/ipnindex.html
注4 ハイチ大地震は、2010年1月12日、ハイチ共和国で発生したマグニチュード7.0の地震。
注5 ブルーシールド国際委員会(International Committee of the Blue Shield)は、武力紛争や自然災害などの災害から文化遺産を保護することを目的とした団体で、IFLAなどの文化財保護に関する5つの非政府機関により構成される。
注6 中国青海省大地震は、2010年4月14日、中国青海省に玉樹チベット族自治州玉樹県で発生したマグニチュード7.1の地震。
注7 IFLAの資料保存関係組織には、IFLA/PACのほかに資料保存分科会がある。IFLA/PACのメンバーが国際センター長と14の地域の国立図書館等に置かれた地域センター長で構成されるのに対し、資料保存分科会は個人参加に基づき、常任委員は選挙によって選ばれる。IFLA/PACと資料保存分科会とは協力関係にあり、昨年からは「環境の持続可能性と図書館SIG」(Special Interest Group)と
注8この映像は、 IFLAのウェブサイトで見ることができる。
http://www.ifla.org/en/haiti-earthquake-2010#security-camera-footage
注9 ウプサラ大学は、1477年に創立された、スカンジナヴィア最古の大学。出身者には博物学者、生物学者、植物学者のカール・フォン・リンネや第二代国連事務総長のダグ・ハマーショルドがいる。
注10 ウプサラ大学の図書館は、スウェーデン王グスタフ・アドルフ2世が1620年に設立し、設立時に多数の資料を寄贈した。
(収集書誌部司書監)
