びぶろす-Biblos
平成21年冬号(電子化43号)
- 発行:国立国会図書館総務部
(National Diet Library) - ISSN:1344-8412

7. 米国大使館レファレンス資料室主催
『講演会:米国の図書館情報学教育の現状と課題』に参加して
大橋 佳奈
インターネットの普及に伴い、図書館や図書館員に対するニーズも大きく変化しています。米国の図書館情報学教育現場でも、情報技術進歩に伴う利用者の質問の多様化、電子情報を含む所蔵コレクションの再定義を受け、カリキュラムの見直しや新たな専門性の追加、他大学との合同学位の開発など様々な取り組みが行われています。
1. バーバラ・M・ジョーンズ ウェズリアン大学 カレブ・T・ウィンチェスター図書館長からの報告
米国の図書館司書は一般的に大学院レベルでの修士号取得が基本となり、専門的な知識が必要であること、それを基盤として仕事をしているとのキャリア重視についての話に始まり、大学院での図書館情報学教育について、下記の6つの傾向があることがカレブ図書館長より説明されました。
- カリキュラムは、図書館だけではなく幅広い情報環境を想定している
- 利用者に主点をおいたカリキュラム(特に図書館情報学とどのような関連性が見られるのか研究している)
- カリキュラムにITを導入
- カリキュラムの専門性
- より柔軟に対応する為、異なった形式での授業
- 関連する学位の範囲を拡大
日本の大学機関図書館も同様ですが、スキルとしても図書館情報学及びシステムIT関連、また著作権についても熟知していなくては利用者の要望に応えることができない部分が出てきていると考えられます。カレブ図書館長ご自身も勉強を続けているように、図書館司書には継続教育が不可欠であること、また新しいことを常に学ぶ姿勢でいなくてはならないこと、どのような問題を解決しなければならないのか、コミュニケーション能力と柔軟性が必要不可欠であることを述べられていました。また、知的自由、プライバシーについて図書館司書が学習し、充分理解することが重要ともお話しなさっていました。
下記は図書館情報学部をもつ大学、大学院の認可などについてまとめられているサイト
http://www.ala.org/ala/educationcareers/education/accreditedprograms/directory/index.cfm
公共、学校図書館の雇用では認定校の卒業が必須となる場合が多いこと、働きながら、大学、大学院の学位を取得するプログラムがあり、アメリカ司書はキャリアも上げやすい環境にあるようです。インフォマティクス(情報科学)やデジタルライブラリーの項目より新しいツールを使いこなすことが出来なければならないとお話しになりました。
2. ニューヨーク市クイーンズ公共図書館スペシャルサービス部門マネージャー ロイダ・ガルシア・フェーボ 女史からの報告
はじめに、ロイダ女史の経歴からご紹介がありました。図書館で働きながら博士号を取得し、さらには現在もご自身の研究を継続しているそうです。
次に、以下のようなブログの紹介がありました。
[図書館が共同で作成した利用者と図書館職員のためのウェブ上のオンラインプログラム]
http://www.opal-online.org/
IRRTフリーリンクプロジェクト
Free Link Wiki
http://irrt.ala.org/wiki/index.php?itle=Main_Page
Free Technology Links
http://irrt.ala.org/wiki/index.php?title=IRRT_Free_Link_Technology#Audio_Software_Donloads
Glossary of Terms
http://irrt.ala.org/wiki/index.php?title=IRRT_Free_Links_Glossary
(全て配布資料より引用)
更に、IFLA(国際図書館連盟)についての説明がありました。IFLAは様々な情報をホームページに掲載しています。たとえば、IFLA/FAIFE(国際図書館連盟・情報への自由なアクセスと表現の自由に関する委員会)にもホームページがあります。IFLAは、柔軟な体制であるとお話になりました。
このことから、もっとニーズに応えられるよう、努力していかなくてはならないと私自身、身の引き締まる思いでした。
新人の司書を対象とした米国内外の協会の活動と職業調査についてのロイダ女史の統計資料はとても興味深いものでしたので、ここに引用させていただきます。5大陸12カ国の新人司書、卒業間近(図書館情報学)の学生対象に調査結果176名が回答し、回答者の内約として64%が勤務5年以内の司書、72%が38歳以下、32%が専門図書館、29%が公共図書館、29%が大学図書館という結果となっていました。さらに、86%152人が、回答者の勤務する図書館には、新人の司書向けリーダーシップ育成プログラムを設けていないと回答しています。
このことから、多くの新人達は図書館変革の手助けをしたい、と感じている現状です。そのため新人司書が図書館や図書館協会で指導者になるための方法・資料開発する、専門的な会議に出席するための予算を増やす、職場内の新人対象キャリア開発・リーダー育成プログラムを作る、新人司書が職場やその専門性において未来を担っている人物として育てる、新人司書に対してはリスクも覚悟する;教育・能力・そしてプロジェクト遂行のために必要な意思を持っていることを信じることを行動しているそうです。
さらに、86%152人が、回答者の勤務する図書館には、新人の司書向けリーダーシップ育成プログラムを設けていないと回答しています。
米国も日本も新人の感じている思いには共通のものがあると思いました。
3. 感想
現在、図書館業界はITの発達や学術リポジトリの普及に伴うオープンアクセスの増加による、変革の真っ只中にあると感じています。ユーザが司書に求めることの多様化に伴い、ハイレベルなIT技術が必要となっている今日では、ユーザの声1つ1つを聞いて受け入れる柔軟な対応が不可欠であると感じました。図書館員がどのようにして館外へアピールしてユーザの理解を得るか、また図書館の必要性を最大限にアピールすることが不可欠な時代であると感じています。
実は、当機構(独立行政法人 物質・材料研究機構:NIMS)では、資料の電子化に伴う空きスペースの活用方法をいかがするべきか?を課題としていました。カレブ図書館長に空きスペースの活用方法をお聞きしましたところ、ご自分の経験では、あらゆる分野の人のための部屋を設けています、とのことでした。スペースが空くことで利用者の意向を把握し出来るだけ多くの情報を提供できる場を設置することを目指しているとのことでした。
当機構(以下NIMS)では、日本で唯一ドイツのマックスプランク研究所とデジタルライブラリー(=学術リポジトリ)共同開発(2008年12月現在)を行っています。2008年11月には、図書館総合展へのブース出展及びフォーラムの開催を致しました。多くの方に、著作者(研究者)に寄り添ったデジタルライブラリーのアプローチが出来たと思います。
中でも、NIMS研究者が直接した話は反響が大変大きかったです。NIMSでは、研究者がその気になるサービスとして,リポジトリを出発点とした研究所らしいライブラリーシステムを実証していくことが,本プロジェクトの真の目的としています。(谷藤幹子 他「材料系研究所におけるリポジトリシステムの実践と将来」『情報管理』Vol.51, No.12, March 1, 2009)
また、NIMSでは、今春、研究居室の増加に伴い、図書室スペースが縮小の対象となります。その際に、カウンターの手配を担当していたのですが、予算という壁・コミュニケーションの壁など・・・とにかく壁が多く感じられました。これは利用者の利便性を図るチャンス、と思っていました。しかし、カウンターについて詳細を打ち合わせするたびに、「何か違う。」と違和感を感じていました。正式見積もり提出を休日明け月曜日に控えた木曜日、室長から「カウンターが利用者との壁になっている」と打ち合わせの際にお話いただきました。
たぶん、その言葉を待っていたのかもしれません。まず、手始めに購入予定していたカウンターを取りやめ、既存の高さ72cm幅180cmカウンターを活用、化粧板を最大限再利用しコストを押さえました。このカウンターは、資料セルフ貸出返却サービスと蔵書検索サービスに利用することになりました。あとは、利用者と対話のしやすいテーブルと椅子を設置し「新生NIMS図書室」の完成となる予定です。カレブ館長のアドバイスの反映ができたと思います。
現段階(1月現在)の課題としては、スペース縮小に伴い、資料を削減していかなくてはならない点です。図書館学的にはあまり推奨できない話ではあると思いますが、NIMSは研究機関です。利用者へ資料の最大活用が出来る状況を整えることを最優先に考えていかなくてはなりません。
今回の講演会は、最先端の図書館の在り方を考える事が出来た講演会でした。
また、NIMSでは、電子体・冊子体問わず研究資料の収集に役立つコーナーを設けるなど空きスペースの有効活用ができると考えられます。有線LANの設置が難しければノートパソコンなど媒体を広げていくことを視野に入れられたらと思います。NIMSリポジトリへ投稿していただいた論文の参考文献を収集したコーナーやNIMSの成果物の中で特にH指数(各研究者について、被引用数以上存在する公刊論文の数をもって、その科学的貢献度を示す指標とするものをいう。)の高い論文をコレクション化する専用スペースがあることで利用者の利便性が高くなると考えました。UDC分類で配架先をバラバラにするのではなく、今をときめく(注目度の高い)論文や図書を収集することは有意義であると考えられます。また、NIMSは外部機関との連携が多々あり、他機関へのアプローチに繋がると考えられます。またセンター長の著作コーナーも世界トップレベルであるNIMSにとっては有意義なものになるのではないかと考えました。
ロイダ女史のお話には同感いたしました。統計に基づいたお話でしたので、大変参考になりました。数値にすることで、外部へのアプローチがしやすく、また、継続して集計することで推移がわかりやすく、変化をとらえる事が出来ると感じました。
その際、やはり重要な点は「利用者の視点」をどう明らかにしていくか、にあると思いました。利用者の要望に応える事が出来なくてはいけません。利用者あっての図書館であり、利用者がいなくては「ただの保管庫」になってしまいます。
私は「米国の図書館情報学教育の現状と課題」を拝聴することができ、とても幸運です。現在の日本の図書館は閉館に追い込まれている図書館も多々あると思います。その苦しい中で「図書館員が出来る事は何か?」をこの講演会で学ぶことが出来たと痛感しております。
(独立行政法人 物質・材料研究機構科学情報室)
