びぶろす-Biblos
平成21年夏号(電子化45号)
- 発行:国立国会図書館総務部
(National Diet Library) - ISSN:1344-8412

4. お茶の水図書館 ―未来へつなぐ女性雑誌―
大庭 千代子
女性専用図書館から専門図書館へ
お茶の水図書館の母体である(財)石川文化事業財団は、雑誌『主婦之友』を創刊した石川武美によって、昭和16年に創設された。石川は「女性文化の向上と家庭の幸福」を願い、出版によって得た利益を読者に還元したいという考えから、戦後間もない昭和22年に図書館を開館し、それ以降、女性専用の私立公共図書館として活動を続けてきた。
その後、図書館界でも相次いで公立公共図書館が新設され、女性の学習環境も改善されてきた。こうした社会状況の変化から、開館50周年を機に、当館は「女性のための公共図書館」から、「『女性・生活・実用』をテーマとする専門図書館」へと役割を変えることを選択した。平成15年に再開館を果たしてから、男女の区別なく研究者に資料を提供し、現在に至っている。

(お茶の水図書館エントランス)
女性雑誌を対象とする多種多様な研究テーマと調査手法
専門図書館化を図ったお茶の水図書館が、蔵書の中核に位置づけたのは、近現代の日本の女性雑誌である。女性雑誌には、風俗、ファッション、芸能、恋愛から、衣・食・住、社会情勢、政治・経済、文化まで、あらゆる情報が盛り込まれている。当館を訪れる利用者は、それぞれ独自の研究テーマを設定し、多種多様の調査研究を進めている。女性雑誌は、その要求に応え得る豊かな内容を備えている。
また、調査研究の対象は、女性雑誌の本文記事に限らず、表紙、目次、口絵、広告、さらには、印刷・製本技術や形態そのものにも及んでいる。ここ最近の具体的な例として、「広告における女性像の変化」や、海外研究者による「日本の挿絵画家が韓国の女性雑誌に与えた影響」がある。
当館ではじつは、昭和22年の開館時から女性雑誌の収集・保存、提供に努めてきた。とくに、昭和40年代後半の女性雑誌創刊ブーム以降は、新たに発刊される雑誌を収集・利用提供し、たとえ終刊した場合でも廃棄せずに保存してきた。それぞれの時代に最新情報を提供していた雑誌のバック・ナンバーは、現在では当時を知る上で恰好の資料となっている。
『主婦之友』『婦人倶楽部』『婦人公論』『婦人之友』といった、いわゆる“婦人総合誌”や、創刊から数十年経過した『アンアン』『ノンノ』などは、すでに歴史資料として調査の対象となっている。

(書架に並ぶ現在の女性雑誌)
一方、ここ数年の傾向として、『週刊女性』『女性自身』『女性セブン』などの女性週刊誌が、たとえば「バレンタイン・デイの習慣」をテーマとする論文作成のための研究材料に選ばれたり、刊行からまだ時を経ていない平成以降の雑誌が、「公園デビュー」「カリスマ主婦研究」といった現代の社会現象を扱う調査研究のために、採用されたりしている。
研究者による、時代設定を遡った歴史学的な手法や、現代を扱う社会学的なアプローチに応えるためにも、雑誌バック・ナンバーの収集・保存に努めていきたいと考えている。
近現代の日本の女性雑誌の集中収集
数年前、ある古書店の目録に『女性美』という雑誌名が掲載されたことがあった。女性関連の雑誌であろうと推測して入手することにしたが、「女子体育」をテーマとする雑誌であることがわかったのは、実物を手にした時であった。「百聞は一見に如かず」の言葉どおりで、たとえ初めは1冊であったとしても、この雑誌を所蔵しているか、まったくしていないかでは、大きな違いがある。
当館では平成18年以降、近現代の日本の女性雑誌を集中して収集することを、最重要業務のひとつに定めている。「女性・生活・実用」をテーマとする、明治から昭和30年にかけて刊行された女性雑誌を、網羅的に収集することを決めたのである。この方針に基づいて、大量に発行され、広く流通した雑誌だけでなく、地方で発行された雑誌や、特定読者に向けて発行された雑誌も視野に入れ、当館で所蔵していない新たなタイトルの発掘を精力的に続けている。これは、1誌でも多くの「1冊所蔵あり」を蓄積する作業である。
未所蔵タイトルの発掘と並行して、雑誌バック・ナンバーの欠号を補充することも、当館の大切な仕事である。お茶の水界隈の古書店や、時には関西の古書市に足を運び、インターネット検索も併用して、欠号を埋める作業も積極的に行なっている。
『婦人画報』は、明治38年から刊行の続く、日本の女性雑誌としては最も長命の雑誌である。誌名そのものが時代の影響を受けて、『婦人画報』『東洋婦人画報』『婦人画報』『戦時女性』『婦人画報』と変遷している。創刊者・国木田独歩の編集方針によって、明治期の女性雑誌には珍しく、創刊号から写真を多用している。『主婦之友』と並んで、この『婦人画報』の利用が多いのは、文字情報だけでは得られない、各時代のさまざまな情報を写真が提供しているからであろう。
雑誌の世界には、ライバル誌と称される、対となる雑誌やグループがある。これらは、生活実用誌、ファッション誌、育児誌、ティーン誌などの各々の分野で同時期に創刊される雑誌のことで、このライバル誌が同時に調査されることも多い。たとえば、「『ベビーエイジ』『わたしの赤ちゃん』の比較分析」「1970年代の『アンアン』『ノンノ』における京都旅行記事の内容変化」「『女性自身』『女性セブン』におけるメディア・スター“ハンカチ王子”の作られ方」といったテーマが選ばれている。当館で複数のライバル誌を所蔵し、提供することで、研究者は、雑誌同士の比較研究をすることが可能になる。
以上、具体例を挙げながら、当館が所蔵する女性雑誌群を対象に、さまざまな調査研究のテーマが設定され、さまざまなアプローチがなされていることを紹介した。
当館では所蔵雑誌リストをインターネットのホームページ上で公開しており、近年では、所蔵状況を前もって調べた上で、閲覧の目的と資料を特定して来館する利用者が増えている。こうした利用者へ対応するだけでなく、利用者とのコミュニケーションをとおして、彼らの潜在的なニーズを引き出すことも大きな役目であると考えている。いずれの場合でも、職員が女性雑誌の内容を熟知しておくことが大切である。
当館では現在、これまでの収集の実績をもとに調査研究を進め、「近現代日本女性雑誌出版年表」(仮称)をまとめる準備を進めている。今後は、資料収集のみならず、収集した情報を当館自身で加工し、付加価値を付けて提供していきたい。
現在と未来の利用を保証する―原資料の資料保存
近年、女性雑誌の復刻版が相次いで刊行されているが、お茶の水図書館では、こうした復刻版ではなく、原資料を収集することを原則としている。明治期、大正期の原資料は、時間の経過とともに、今後ますます入手が困難になることが予想され、また、前述したように、雑誌の製本方法や印刷技術、形態そのものが、書誌学的な調査の対象となる事例があるためである。

(昭和初期の実用書)
このことに関連して、収集した雑誌は合冊製本せず、1冊ごとに保存管理している。さらに、さまざまな形状・素材を持つ付録も、各時代の流行や読者の嗜好を知る上で、貴重な情報源となる場合があり、これらも本誌同様に保存し、利用に供している。
原資料を対象とする資料保存対策も、当館の大きな役目である。本文用紙の酸性紙の劣化や、製本用の針金の錆び、利用による物理的な破損があるため、雑誌を刊行当時の状態のままで保存することは不可能である。そのため、中性紙製保存箱へ収納したり、劣化した針金を除去して綴じ直したりするなど、少しでも劣化・破損を遅らせる措置を講じている。こうした資料保存対策は、基本的には日常業務の一環として館内で実践しているが、大量の資料を一括して処置する場合には、外部の専門家の協力を得て行なっている。
積極的に女性雑誌を収集し、より良い状態で保存することこそが「現在と未来の利用を保証する」ことになる。今後も研鑽を積み、女性雑誌と資料保存に関する知識を深め、それらに関する情報を発信していくことで、図書館としての使命を果たしていきたい。
*(財)石川文化事業財団お茶の水図書館は、現在、専門図書館部門と古典籍・古文書部門の2部門で構成されている。古典籍・古文書の閲覧を含め、当館全般の利用方法については、下記ホームページのほか、当財団発行「お茶の水図書館の60年」(平成19年)をご覧いただきたい。
☆お茶の水図書館のホームページ http://www.ochato.or.jp/
(財団法人石川文化事業財団 お茶の水図書館専門図書館部門逐次刊行物担当)
