びぶろす-Biblos
平成21年夏号(電子化45号)
- 発行:国立国会図書館総務部
(National Diet Library) - ISSN:1344-8412

2. 「2009 SLA Annual Conference」に参加して:ネットワーキングの視点から
我孫子 真由美
はじめに
米国大使館レファレンス資料室は2009年4月13日、東京アメリカンセンターでシンポジウムを開催した。今回で4年目となるこのシンポジウムは、「インフォ・プロの存在感を高める、デジタル時代のインフォ・プロ:課題と展望」と題し、米国専門図書館協会代表(CEO, Special Libraries Association)のJanice R. Lachance氏を講師としてお招きした。世界各国に波及する経済不況の中、各種図書館、企業の情報資料室の多くが予算の見直しや人員削減を余儀なくされている状況下で、インフォ・プロに求められる資質と能力についてお話していただいた。ラチャンス氏は、これからのインフォ・プロに求められる資質として、情報提供のための確実な専門知識、情報部門の管理能力はもちろんのこと、グローバル経済の時代に特に必要不可欠なのがネットワーキングであると強調していた。ネットワークを積極的に広げることが、新しい知識、新しい技術を取り入れることにつながり、ひいてはそれがインフォ・プロの成功へと繋がることになるのである。1
今回、筆者はこのシンポジウムの企画をきっかけに「2009 SLA Annual Conference」に出席することになった。筆者にとって初参加となるが、ラチャンス氏が重要性を強調するネットワーキングを、コンフェレンスでは、どのように効果的に行っているのかという視点からこの大会をふり返ってみたい。
2009 SLA Annual Conference
SLA創立百周年となる「2009 SLA Annual Conference」は、6月14日から6月17日までワシントンDCで開催された。初日はパウエル元国務長官の基調講演を含む開会式が開催され約3500人が参加した。セッションは4日間で400ほどで、同時間帯におよそ20から25セッションが開かれており、参加者が30名程度のものから、100人以上のものまで規模は様々である。一般のセッションは誰でも参加することができるが、一部有料のものもある。参加者は事前にウェブに掲載された担当講師やセッションのタイトルを見て、自分のスケジュールを作成することができる。
また、セッションの最後には質疑応答があり、個人的に質問がある場合は、講師に直接質問することができるようEメールなどのコンタクト先が紹介される。筆者は主に連邦政府の情報、調査に関連するものを中心に出席した。出席した主なセッションを簡単に紹介する。
Think Tanks' Contribution to Government Information:
米国国立科学財団やInstitute for Defense Analysisの研究員が講師となり、それぞれの機関がどのように連邦政府の調査研究に関わり、政府の政策にインパクトを与えているかを説明した。
Census 2010: Not Your Grandmother's Census:
講師は米国商務省国勢調査局の職員。従来行われてきた10年毎の国勢調査とAmerican Community Survey (ACS) の調査方法の違い、ACSの調査方法の問題点などを指摘。

(Census セッション)
Competitive Intelligence and the Government Librarian:
コンペティティブ・インテリジェンスの分析方法とそれを組織内でどのように利用しているかの事例報告。
これらの会議終了後に、セッションの講演内容の一部は、ポッドキャストで配信される。また、パワーポイントなどのプレゼン資料もSLAのウェブサイトに掲載されるので、会員は自由にダウンロードすることができる。
ネットワーキング
さて、ここから本題のネットワーキングについて触れたいと思う。コンフェレンスでは、セッションの他にも情報交換や交流を目的としたネットワーキングランチやレセプションが毎日必ず開催され、軽食や飲み物を片手に各国の参加者たちと交流を深めることができる。
First Timers Session:
コンフェレンスの初日は、初参加者が集まり交流を深めるためのFirst Timers Sessionに出席した。初参加者はそれぞれのネームタグにFirst Timerのリボンをつけてもらい、自分が、初参加者だということが分かるようにする。

(First Timer用のリボン)
立食式のレセプションでは、参加者それぞれが自己紹介をし名刺を交換する。ここでは、SLAの各チャプター(アジア、ヨーロッパなど地域ごとのグループ)のリーダーやSLAの委員会役員が触媒役となり、話題を深める役割を果たしていた。例えば筆者は、情報、図書館関連のセミナー企画を担当しているので、講師になりえる人や政府関連のレファレンス業務担当の方を紹介されるなど、初参加で誰が誰であるかわからない状態でも、効率的に人に会えるように配慮されていた。特にそういった役割分担があったのかどうかは定かではないが、このような触媒役の人がいるためにコミュニケーションがスムーズだったと思う。また、1人1枚チケットが配布され、チケットにこのセッション中に知り合った人3名の名前、所属、連絡先などを記入して抽選箱に入れると、後に景品が当たるというイベントがあった。これらは、初参加者がネットワーキングを積極的に行いやすいようにとの一案であるのだろう。レセプションは1時間半程度であったが、初参加者にとってはとても良いスタートであったと思う。
SLA Breakfast Session of the International Information Caucus:
国際情報委員会の朝食会(SLA Breakfast Session of the International Information Caucus)では、米国国務省国際情報プログラム局情報資料部長や英国のコンサルタント会社社長がプレゼンテーションをした後、出席者との交流会があった。この時にお会いした、米国国立環境健康科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences)の図書館長であり、SLA100周年記念委員長を務めるデーヴ・ロバートソン氏から、後日フォローアップのメールを頂いた。筆者がSLA初参加だということをリストで知り、SLAが今年100周年記念として予定している活動内容などの案内を送付して下さったのである。SLAの活動に関して、また氏が所属する研究所について質問があれば、いつでも対応するとのことであった。彼は図書館長であり、当然のことであるが多忙の身である。それにもかかわらず、このようなきめ細やかなフォローアップを行っている。このような役員を含めたSLA会員の意識の高さがSLAを支え、また有効なネットワーキングを可能にしているのだと思った。

(ブレックファストセッション)
International Reception & SLA Salutes ! Awards and Leadership Reception:
ザンビア大使館で開催されたInternational Receptionはヨーロッパ、南アメリカ、アフリカ、アジアなど世界各国からの参加者が集まった。冒頭でも触れたように筆者がセミナー企画を担当していることを知ると、早速来日予定の情報リテラシー専門のコンサルタントを紹介してくれるなど、非常に協力的であった。個々の参加者が日常的に、かつ有効にネットワーキングを行っていると改めて感じた。
SLA Salutes! Awards and Leadership Receptionは、閉館後の米国議会図書館を貸し切って行われた。内部は幻想的にライトアップされ100名ほどの参加者は、立食形式の食事を楽しみながら特別展示室などを自由に観覧できた。このレセプションで知り合った参加者は、大学の生物学の教授やNGOの代表者などで、SLAの会員の層の厚さを感じた。また、インフォ・プロとは異なる視点からの情報資料室や図書館のあり方やとらえ方を聞くのはとても有意義なものであった。

(米国議会図書館レセプション)
筆者が出席したこれらのレセプションの他にも、ビジネスミーティング、昼食会、ラウンドテーブルディスカッションなどが数多くあった。これらのセッションはチャプターや、職種別(大学図書館、政府関連機関、製薬関係などに勤務する者)などに分かれているものもある。参加者にとっては大きなレセプションではなく自分の興味のある分野、業種に特化したものに出席でき、興味の対象が同じ会員同士が集まるのことで、ネットワーキングもしやすいのではないかとの印象をうけた。
SLAへのEメール インタビュー
初参加であり、SLA会員となって間もない筆者が体験できることは限られている。上記に述べた以外にもネットワーキングのために、SLAが留意している点があるのではないかとの思いから、SLAにいくつかの質問を送った。SLA Strategic Communications DirectorのMaura Kennedy氏より以下のような返答を頂いたのでここに紹介したい。
Q1. 「2009 SLA Annual Conference」での、ネットワーキングを目的としたセッション、レセプション、ミーティングの数はどのくらいですか?
A. 400あまりのセッションのうち約半数が、ネットワーキングを目的としたものでした。
Q2. First Timers Sessionに参加した際、触媒役の人を設けたり、First Timer用のリボンを用意したりといろいろな工夫が見られましたが、その他のセッションでも参加者間のコミュニケーションを円滑にするための努力、工夫をしていましたか。
A. First Timerをはじめ、セッションの講師、各チャプターなどの役員、アワードの受賞者などはそれぞれのネームタグにリボンをつけてもらい、ひとめで参加者がそれと認識できるようにしました。これらをつける事により、初めて会った人同士が会話を始めやすく、共通の話題を見つけやすくなったと思います。
また、SLAのFacebookやTwitterなどのサイトにより、コンフェレンス参加者が会期中だけでなく会議の前後にコミュニケーションを取ることが可能になりました。これらのサイトはコンフェレンスに参加できなかった会員でも自由に参加し、情報を共有できるようにしています。
その他特筆すべきことは、Unconference Sessionです。2 トピックを事前に定めず、参加者が興味のある話題について自由に議論できる機会を設けています。
Q3. “ネットワークの構築”について、「2009 SLA Annual Conference」参加者からフィードバックはありましたか。
A. コンフェレンスの参加理由として一番多かったのは、「ネットワーキングの機会が多くあるから。」というものでした。5800人あまりのインフォ・プロや多くの展示会出展者が参加するこのコンフェレンスは、ネットワークを築く貴重な機会となっています。
Q4. 「2009 SLA Annual Conference」の閉会式の際にLachance氏から今回のコンフェレンスは30ヵ国から5856人の参加者があったとの報告がありました。この不況下で参加者を集めるために特別な活動、努力をしましたか。
A. もちろん、大変な努力をしました。特に今年は世界的に波及する経済不況の影響により、参加者が激減するのではないかとの懸念からSLA会員にEメールを送付する、会員が所属する会社、団体にメッセージを送るなど大規模な宣伝をしました。またワシントンDCから比較的近距離で参加しやすい地域に重点的に宣伝をしたこともあります。これ以外ではコンフェレンスの潜在的な参加者が、彼らの所属する組織の上層部から許可を得やすいように、会議出席によって得られる効果や価値を示すような情報を流しました。
Q5. インフォ・プロが有益なネットワークを築くために最も重要な点は何だと思いますか。
A. 「ネットワークは、会議や集まりなどだけで構築するものではない。」ということを頭に入れておかなくてはいけません。ネットワーキングは積極的に取り組まなくてはいけないものであり、恒常的で終わりのないものです。優れたネットワーカーは専門的なネットワークを広げることに長け、彼らの経験や専門性を他者と共有し、同時に他者から新たな知識を吸収することに常にオープンです。
SLAでは、会議で会員同士が直接話をする以外にも多くのツールを使用し、様々なネットワーキングの機会を提供しています。情報や知識共有のためのEメールのディスカッションリストは、会員間で自由に質問を投げかけ、意見を交換し、成功事例を共有できるようにデザインされています。多くのSLA会員はWeb 2.0やソーシャルネットワーキングサイトを利用し、グローバルなネットワークを積極的に広げています。Facebook、LinkedIn、Second LifeやTwitterなどのソーシャルネットワーキングでは、SLA会員が時間帯、場所、住んでいる地域に関係なくコミュニケーションを取り、誰でも意見交換することができます。SLAでもブログやWikiを作成しており、会員はこれらのサイトで、グループやディスカッション・フォーラムを作り様々な問題やトピックについて意見を交換しています。
おわりに
世界的な経済の停滞という厳しい環境にもかかわらず、「2009 SLA Annual Conference」の参加者数は昨年に比べて16%も増え30ヵ国から5856人の参加があった。これは過去6年間のコンフェレンスで最高の参加者数だそうである。昨年開催された多くの他機関主催の会議で、参加者数が30%あまり減少している事実を考えると驚異的な数である。インフォ・プロたちの必要とする情報、知識をできるだけ提供しようとする多くのセッション、著名な講師陣、数々のネットワーキングの機会の提供、など対価を支払う価値のあるコンフェレンスだからこそであろう。これらを可能にしているのが、上記にあげたSLAの努力はもちろんのこと、会員個人のインフォ・プロとしての意識の高さであると思う。
最後に上記のMaura Kennedy氏のコメントをご紹介したい。
「インフォ・プロにとって、ネットワーキングと学習は車の両輪です。どちらも積極的に行えば行うほど得るものは大きく、どちらも必要不可欠なものなのです。全てのインフォ・プロはキャリアデベロプメントの中で両方に焦点を当てて欲しいと思います。これらの努力することで彼らが後悔するということは絶対にないと自信を持って言えます。」
Kennedy氏の言葉を体現するかのような多くのネットワークセッション、参加者たちの意気込みや、学習意欲を肌で感じ、情報共有のノウハウをコンフェレンスで体験できたことは、筆者にとっても、非常に有意義なものであった。
最後に、CEOのJanice Lachance氏をはじめ、Strategic Communications DirectorのMaura Kennedy氏など本稿の執筆にあたり協力してくださったSLAの方々に心から感謝の気持ちを述べ終わりとしたい。
参考資料
SLAホームページ
http://www.sla.org/index.cfm
1 吉崎 保 「『インフォ・プロの存在感を高める、デジタル時代のインフォ・プロ:課題と展望』に参加して」
専門図書館236号
2 Unconferenceとはあらかじめ決められた主題やアジェンダがないオープンなセッション。ディスカッションをスムーズにするため司会者はいるが、あくまでも参加者が自主的に主題を決め議論を進める。
SLA 2009のUnconference Sessionリスト
http://wiki.sla.org/display/unconf/2009+SLA+Annual+Conference+~+List+of+Unconference+Sessions
(米国大使館レファレンス資料室)

