タイトル: 韓国国立中央図書館の障害者サービス(国立国会図書館月報2015年1月号特集「国立国会図書館と障害者サービス」記事) 著者: 福山 潤三(よみ ふくやま じゅんぞう) 関西館アジア情報課 「図書館は、すべての国民が身体的、地域的、経済的、社会的条件に関係なく、公平な知識情報サービスの提供を受けるために必要なあらゆる措置を講じなければならない」。2006年に、韓国の図書館法が全面改正された際に新設された規定です。この規定によって、障害者の情報へのアクセスの改善が図書館の責務として法的に明示されることになりました。以降、韓国の国立図書館である国立中央図書館で組織整備が進められ、2012 年には、障害者サービスを主体的に推し進めるための「国立障害者図書館」を、国立中央図書館の組織の一部として設置しています。 国立中央図書館は、来館する障害のある利用者に対するサービスだけではなく、障害者サービスに関する国家施策の策定、各種基準の制定、障害者のための資料の収集・製作・製作支援・提供や、専門職員の教育や関連機関との協力などを行っています。本稿では、その中から、障害者向け資料の製作、来館サービス、国内の図書館に対する支援に分けて、国立中央図書館の近年の取り組みを紹介します。 1 障害者向け資料の製作 国立中央図書館では、障害者向け資料の製作を2003 年から行っています。しかし、2009 年11 月に策定された国家レベルの総合対策「障害者図書館サービス先進化方策」において、対応が不十分であるとの現状認識が示され、特に対策が進められるようになりました。その結果、2010 年から2013 年までの4 年間で、DAISY 資料9,184 点、電子点字楽譜2,040 点、手話映像図書資料941 点など、数多くの障害者向け資料が製作されています。 2009 年3 月の図書館法改正で、障害者のための資料製作に必要な場合、国立中央図書館は、出版者などに対して、txt、doc、hwpなどのデジタルファイル形態での納本を要請できるようになりました。提出されたデジタルファイルを基に、表、写真に対する解説を追加するなどの編集を加えて、点字データや録音図書などが作成されます。2013 年には、44 の出版社から、250 タイトルが納本され、障害者向け資料の製作に利用されています。 2 障害者のための閲覧室「障害者情報ヌリト」 2009 年4 月、国立中央図書館は、障害者のための閲覧室「障害者情報ヌリト」(ヌリトは韓国語で「享受する場」を意味する)を設置しました。 障害者がアクセスしやすいよう、国立中央図書館本館の1 階に設置されたこの閲覧室には、対面朗読室、映像室などの施設や、拡大読書器、点字プリンタといった視覚・肢体・聴覚障害者のための支援機器51 種類が整備されています。 また、代替資料や機器の提供のみでなく、個々の障害の状況に合わせてサービスを受けることができます。その内容は、専門的技術を持ったボランティアスタッフが行う活字資料の対面朗読、映像資料の画面解説、文書作成支援など多岐にわたり、2013 年には、年間1,233 回(3,699 時間)の利用がありました。 3 国内の図書館に対する支援 充実した資料とサービスを提供する国立中央図書館ですが、すべての障害者が来館できるわけではありません。そのため、同館は、国内の図書館に対する支援にも取り組んでいます。 例えば、上述の「ヌリト」をモデルとした閲覧室を全国に普及させることを目的として、公共図書館に対し、障害者のための閲覧環境を整備するための費用の半分を国費で支援する補助事業を実施しています。2009 年から2013 年の5 年間に、72 館に対して、総額6 億3000 万ウォンの補助がなされ、各公共図書館で支援機器の導入や、各種イベントの運営のために用いられました。 また、障害者サービスに関する調査研究を積極的に行っており、その成果を受けて障害者サービスに関する様々なガイドラインを策定し、国内の図書館に提示しています。例えば、2014 年2 月には、「発達障害者が利用しやすい資料開発」に関する調査研究を基に、発達障害者向け資料の製作のガイドラインを策定しています。 その他、同館で試行した手話による聴覚障害者向け読書イベントの全国展開に着手するなど、イベント開発・普及にも力を注いでいます。 4 おわりに 2014 年1 月、国立中央図書館は、中・長期発展計画「国立中央図書館2014-2018」を発表しました。この計画では、全国の図書館が所蔵する障害者のための資料の共有に向けたインフラの構築や、支援機器導入のための補助事業の拡充が掲げられており、急速なテンポで障害者サービスのための全国的な体制を整備しようとしています。今後どのような成果が挙げられ、そのなかで私たちにとって参考になることはないか、引き続き、韓国の障害者サービスの展開から目を離せません。