2023.11.29障害者サービス担当職員向け講座 研修 八王子市生涯学習スポーツ部図書館課(中央図書館) 小川久美子 聴覚障害者への図書館サービス 自己紹介:平成18 年(2006)年4 月~平成31年(2019年)3月中央図書館勤務のち 本庁勤務を経て令和5年(2023年)4月~より現職 ◆1 聴覚障害者とは  (1)失聴時期  先天的・後天的  (2)聴力       dB(デシベル)で表す  (3)コミュニケーション 手話・読話・口話(補聴器・人工内耳)・筆談等  最近は文字認識も  (4)教育       ろう学校(特別支援学校) ・一般の学校・難聴学級             「9歳の壁」   (5)家族       デフファミリー・家族は聴者  (6)呼称       聴覚障害者・ろう者・難聴者・中途失聴者  ◆2 八王子市中央図書館の聴覚障害者サービス (1)手話しゅわおはなし会 (平成20 年8 月より開催 現在までに36 回実施  手話(音声無し)でよみきかせ(絵本・紙芝居・パネルシアター・エプロンシアターなど)  演者:図書館員および聴覚障害のある市民の方  工夫:めくるときの間(ま)、導入方法(手話の手遊び)、日本語をどのように手話に変換するか (2)手話による八王子市図書館利用案内(平成24年度撮影、平成25年度貸出開始)  目的:聴覚障害者の利用促進および、聴覚障害者以外でも初めて利用する方などに必要な情報を提供する。  貸出:市内全館で貸出(視聴時間35 分)  視聴:市ホームページ・図書館ホームページで視聴可(youtube でも視聴可)     https://www.city.hachioji.tokyo.jp/contents/movie/p007647.html  特徴:台本・脚本等は図書館員による。出演は図書館員と聴覚障害のある市民の方で市民との協働で作成している。手話が分からない方向けに字幕と音声を付与している。 (3)窓口での対応 手話バッジ着用者は簡単な手話で対応、筆談器の設置、FAX番号の表示 ◆3 聴覚障害者向けのサービスで考えられるもの ・聴覚障害者の利用者は全体の3割ほどか(2017年国会図書館調査)※把握している館の数値 (八王子市中央図書館で実施しているものは◎、一部実施しているものは〇) ◎(1)筆談器の設置(「筆談で対応します」表示も、筆談の際は箇条書きなど簡潔に)  →筆談の際は注意・工夫が必要  簡潔にする   窓口で接するときは筆談がいいのか確認する 口の形・顔の表情をみせる ◎(2)案内・ホームページ等にFAX 番号の表示 ◎(3)絵などを用いた掲示・案内 例)耳マーク、絵文字(ピクトグラム)等     色々なマーク(内閣府)http://www8.cao.go.jp/shougai/mark/mark.html ◎(4)手話・字幕付き資料の提供 (所蔵103館)リスト化か検索できるようにする 漫画も 〇(5)手話・字幕付き映画上映会、講演会などの開催 (6)見学会、利用説明会、出前講座 (7)非常時用設備の整備 お知らせランプなど(147館設置) (8)ハード面の整備 電光掲示板、磁気誘導ループ(ループ設置67館)など 〇(9)窓口において手話で対応(手話のできる職員のいる館153館) ◎(10)手話・字幕付き利用案内 〇(11)手話によるおはなし会(実施館38館)・朗読会・ブックトーク ◎(12)字幕・字幕付き資料の制作(自館または委託)(制作4館)  DVD 「八王子のむかしばなし」  ※(7)・(8)の館数は2021年全国公共図書館協議会の調査結果(n(回答館数)=1390)による   (4)・ (9)・(11)・(12)の館数は2017年国会図書館の調査結果(n(回答館数)=1147)による 【手話のおはなし会実施例】 ・インターネットで「手話 図書館 よみきかせ」などのキーワードで検索すると形態の違いはあるが全国のあちこちで相当数実施されている。  《筆者が話を聞いたり、実際に見学した自治体》   枚方市立中央図書館(月1回 「手話でたのしむおはなしかい」 )   鳥取県立図書館(月1回 「手話で楽しむおはなし会」 手話通訳がつく)   せんだいメディアテークと仙台市民図書館(「手ではなすおはなしの会」 ボランティアグループ) 【法律・条例の動き】 平成23年(2011年)8月改正 「障害者基本法」3条3『全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。』 平成25年(2013年)10月   「鳥取県手話言語条例」が全国の自治体で初施行 平成28年(2016年)4月    「障害を理由とする差別の解消に関する法律」施行  →全日本ろうあ連盟 手話言語条例マップ(https://www.jfd.or.jp/sgh/joreimap)       「手話は言語」 という認識や手話の認知度が高まっていることが考えられる。 2022年~2023年にかけて手話が出てくるドラマもいくつか放送されている    ◆手話は言語であり、聴覚障害者の「ことば」でよみきかせすることが重要 ◆4 今後へ向けて ・聴覚障害により日本語の習得が難しく、文章を読むのが苦手な方に手話などを通して本の楽しさを知ってもらえるとよい。 ・図書館の利用方法を聞きづらい、図書館自体を敬遠してしまうことがあるので図書館から出前講座などで飛び込んでいくことも大切。 ・職員に聴覚障害のある者や手話ができる者がいなくても、筆談器を置いたり、FAX番号を掲載したりすることからでも始められる。 ・地元の聴覚障害者関係団体・ろう学校・手話サークルなどとの連携をとることでサービスが可能となる場合もある(手話による読み聞かせ等)。 ・利用者に聴覚障害者がいるかもしれない。非常時に聴覚障害者の利用者が居た場合にどのように対応するかも考えておくとよい。 【参考文献】(順不同) 『聴覚障害者に対する図書館サービスのためのIFLA 指針 第2版』(2003 年,日本図書館協会) 『聴覚障害者も使える図書館に 改訂版』(1998 年,日本図書館協会) 『手話の世界を訪ねよう』(亀井伸孝著,2009 年,岩波書店) 『基礎から学ぶ手話学』(神田和幸編著 ,2009 年,福村出版) 『新手話ハンドブック』(全日本ろうあ連盟著,2007 年,三省堂) 『こどもの図書館2010 年11 月号』(『手話でたのしむおはなし会』山口俊裕)→枚方市立中央図書館の事例 『みんなの図書館 2007 年 6 月号』(『手話でたのしむおはなし会』を見学して」椎原綾子)枚方市立図書館の事例 『みんなの図書館 2010 年11 月号』(『耳の聞こえない子どもにも本の楽しさを-手話によるおはなし会』綾久美子) 『平成23年度第97回全国図書館大会多摩大会記録』(2012年,平成23年度第97回全国図書館大会多摩大会実行委員会事務局)  →八王子市中央図書館の事例 『「9歳の壁」を越えるために―生活言語から学習言語への移行を考える』(脇中起余子著,2013年,北大路書房) 『図書館利用に障害がある人々へのサービス 上・下巻 』 (2018 年,2021年,日本図書館協会) 下巻に八王子市の取り組みのコラム掲載 『公共図書館における障害者サービスに関する調査研究』(2018年,国立国会図書館) 『2022年度(令和4年度) 公立図書館における読書バリアフリーに関する報告書』(2023年,全国公共図書館協議会) 【文中に掲載したもの以外で参考にしたURL】 東京都環境局 生活騒音 https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/noise/noise_vibration/daily_life_noises.html