コラム:書誌データ探検 憲政資料編

NDL書誌情報ニュースレター2013年2号(通号25号)
前号および今号では、国立国会図書館憲政資料室で利用者に提供している資料をとりあげています。前号では、おもに第2次世界大戦終了後の連合国による日本占領統治に関する日本占領関係資料をご紹介しました。今号では、憲政資料についてご紹介いたします。
【憲政資料とは】
幕末以降の政治家、官僚、軍人などの手元に残されていた手紙、日記、執務資料、書類、メモ、新聞や雑誌の切抜などの資料です。旧蔵者ごとのまとまり(文書群)で「○○関係文書」と称しています。旧蔵者の御遺族から寄贈していただいたり、古書店から購入したりして、整理、提供しています。一点一点の資料も重要なものですが、それらの資料の来歴や関係する資料と一緒に旧蔵者のまとまりで残されているところに意味があります。公文書や当時の新聞・雑誌と組み合わせることで、歴史などの研究の基礎になります。
【憲政資料の検索】
憲政資料は、憲政資料室備え付けの目録を利用して検索することができます。そのような目録のうち一部は『三島通庸関係文書目録』、『伊東巳代治関係文書目録』など当館が刊行したものや、PDF化して国立国会図書館のウェブサイトにあるリサーチ・ナビの憲政資料室のページに掲載したものがあり、それらを利用できます[1]。
【書誌データの特徴:文書群全体の記述と資料個々の記述】
通常、図書などの書誌データは、個々の資料について別々に整理し、どこから、どんな順序で受け入れたかは基本的に問われません。一方、憲政資料は、アーカイブズ学の「出所原則」と「原秩序尊重の原則」にもとづいて整理を行っています。
前者は「出所が同一の記録・史料を他の出所のそれらと混在させてはならない、という基本原則」(全国歴史資料保存利用機関連絡協議会 監修 ; 文書館用語集研究会 編『文書館用語集』大阪大学出版会 1997 p.58)です。たとえば伊藤博文の手紙が、陸奥宗光や桂太郎の手元に残されていた場合に、それらの手紙を伊藤博文関係文書とはせずに、それぞれ陸奥宗光関係文書、桂太郎関係文書とします。
後者の「原秩序尊重の原則」は、「史料相互の関連性や意味あるいは出所においてつくられた検索手段の有効性などを保つために、単一の出所を持つ記録史料の、出所によってつくられた秩序は、保存しなければならないという原則」(前掲書、p.35)です。この原則は資料を整理し、目録を編成する際に重要なよりどころとして活用しています。ただし、書類が封筒やファイルに整理されて残っていた場合、そのようにしたのが本人なのか子孫か、はたまた第三者なのかが、すでにわからなくなっている場合もあり、受け取った時の状況に左右されがちなこともあります。役所や会社といった組織の書類であれば、書類作成の秩序を把握しやすいと考えられますが、憲政資料のように個人が持っていた資料の場合、「出所によってつくられた秩序」が何をさしているかを考えだすときりがありません。
これらの原則にもとづいて、旧蔵者の履歴や活動を参考に資料の配列、目録の編成を考えて作業をすすめます。
文書群全体の記述
資料のかたまりとしての「文書の名称」を決定します。大抵の場合、出所である旧蔵者名+「関係文書」としています。たとえば、幕末維新期から明治大正時代に活躍した政治家の井上馨が持っていた資料の場合、「井上馨関係文書」としています。一つ一つの文書群ごとに、国立国会図書館のウェブサイト内の「憲政資料室の所蔵資料」で、その文書を持っていた人物の履歴、数量、文書のおもな内容、関連資料の所在などを記しています。
資料の記述
個々の資料を整理する場合に、記述の単位をどうするかといった問題が出てきます。手紙であれば、その1通が1点になります。しかし、書類の場合には、フォルダーに入っている場合それで一つとすることもあれば、その中の1枚か数枚のペーパーを1点とすることもあります。手紙の場合には差出人と受取人がいるので、タイトルはつけやすいと言えますが、書類の場合にはそもそも、タイトルが存在しないこともあり、内容などから推定して仮に決めることもあります。
記述の項目としては、タイトル、作成者、宛先、年月日、内容、記述法、用紙、備考、数量、付属資料などをとっています。図書の整理に比べますと、かなり簡略なものです。かつては、もっと簡略な目録もありました。
請求記号の構成は、文書名+数字(たとえば、井上馨関係文書45)になっています。
個々の資料の記録をとった後、手紙の場合には、差出人ごとの名前の五十音順(かつては訓令式ローマ字のアルファベット順のこともありました)に並べて、目録を作成することが多く、書類や日記などは、資料の残り方や旧蔵者の履歴・活動を参考にして目録を編成しています。
手紙の整理
手紙を整理する場合、誰がいつ誰宛に書いたのかが重要になります。具体的に井上馨関係文書にある手紙を2通示してみます。
![]() 図2 手紙例(井上馨関係文書294-3) |
![]() 図3 手紙例(井上馨関係文書579-5) |
それぞれの手紙の末をみますと、日付(点線で囲んだ部分)、差出人(二重線で囲んだ部分)、宛先(単線で囲んだ部分)が書かれています。くずし字は書き手によって癖があります。これらの文字を読むときには、『くずし字用例辞典』(東京堂書店、1993)などのツールを活用しています。それぞれ、「七月三十一日 博文/世外大伯閣下」、「八月一日 芽城山人朋/世外老臺(台)」と書かれています。宛先に共通してあらわれる「世外」は井上馨の号で、閣下や老台は尊称です。差出人の「博文」は伊藤博文の名前、「芽城山人朋」は山県有朋の号です。このように差出人や宛先の表記は本名以外に号を記している場合もあります。
井上馨関係文書中の手紙は当館が入手したときにはすでに巻物に仕立てられており、それぞれその冒頭に「伊藤公書翰 巻十七」「山県公書翰 巻七」と書いてありますので、発信者はそこからも確認できます。これらの巻物には、複数の手紙が貼りこまれていて、それらを切り離すようなことは行っていません。

図4 井上馨関係文書の巻物の状態
次に、いつ書かれたものかを考察します。多くの場合日付のみであるため、年がわからないこともままあります。今回例に取り上げた手紙は、本文中の記載から、明治25年7月から8月にかけての第一次松方内閣退陣と第二次伊藤内閣成立前後のものと推定されます。目録作業者による推定の場合は、かっこ(〔 〕)を付けます。
ごくごく簡単にデータを記述する場合、次のようになります。手紙を通例、書簡と表記しています。
手紙例1:伊藤博文書簡 井上馨宛 明治〔25〕年7月31日 墨書 1通
手紙例2:山県有朋書簡 井上馨宛 明治〔25〕年8月1日 墨書 1通
書類の整理
書類の表紙に、「○○一件」や「□□記録」といったタイトルに相当する記載があれば、それをタイトルに用いています。しかし、そのような記載が無い場合には、資料の記述の一部や内容からタイトルをつけることもあります。その一例として次のようなものがあります。

図5 (野村吉三郎関係文書765)
昭和期に活躍した海軍軍人、外交官、政治家の野村吉三郎が所蔵していた書類の中の一つです。全部で5枚のペンで書かれたメモで、その冒頭の1枚です。欄外の「近衛公」、「覚書」、一つ目の項目に記述されている「三国同盟」や「支那事変」(それぞれ赤線を引いた個所)を参考にしてタイトルをとりました。「近衛公」は昭和15年の近衛公爵を指し、近衛文麿にあたり、次のように記述しています。
書類例:〔三国同盟・支那事変他近衛文麿会談覚書〕 野村吉三郎 1940年11月7日 ペン 5枚
この資料にはさいわい年月も記入されていました。ただ、本文のみではなんとも推測できない場合には〔メモ〕とだけとることもあります。
【おわりに】
憲政資料室に収集された資料は、手書きの手紙や日記、書類が中心で、一点しか存在しないものが多く、それらを利用するのに有効な手段であるデジタル化も進めていきたいと考えています。
図書の資料組織法にくらべると頼りなくみえますが、アーカイブズ学の成果をとり入れながら、手紙などをはじめとする、いわゆる図書資料以外のものを集め、その目録を作成することが、それぞれの図書館等にとって蔵書(コレクション)および蔵書目録を豊かにしていくのではないかと思います。
(利用者サービス部 政治史料課 憲政資料係)
[1]「「憲政資料」の検索ガイド(国立国会図書館憲政資料室)」のページから、「旧蔵者50音順索引」でご覧いただけます。
http://rnavi.ndl.go.jp/kensei/entry/kensei-kyuzosha.php, (参照2013-5-23)
NDL書誌情報ニュースレター(年4回刊)
ISSN 1882-0468/ISSN-L 1882-0468
2013年2号(通号25号) 2013年6月26日発行
編集・発行 国立国会図書館収集書誌部
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