デジタル時代の日本全国書誌

NDL書誌情報ニュースレター2012年2号(通号21号)
1. はじめに
2009年8月、IFLA書誌分科会の作業グループによる”National Bibliographies in the Digital Age: Guidance and New Directions”(NBDA)が刊行されました。[1]
NBDAは、デジタル時代の全国書誌のためのガイドライン策定を目的として2002年に設置された作業グループによる調査・分析の成果物です。2008年6月には草案がウェブ公開され、同9月まで世界的レビューが行われましたが、NBDAにはそのレビュー結果も反映されています。
国立国会図書館では、NBDAの草案公開の段階でその概要を紹介し当館の全国書誌サービスとの関係にも言及していますが[2]、今後の書誌サービスを検討する上での参考資料となるべき内容が多々あることから、改めて全文を日本語訳し2012年4月にウェブ公開いたしました。
本稿では、NBDAの日本語訳『デジタル時代の全国書誌:指針および新しい方向性』[3]について解説するとともに、当館の新しい「全国書誌」の現状および今後の方向性を紹介いたします。
2. 『デジタル時代の全国書誌』解説
概要については草案の段階で紹介済であるため[2]、ここでは重複を避け、書誌サービスの観点で重要と思われる事項を幾つか、章横断的に取り上げることとします。なお、( )内の数字は、NBDAの該当する章・節・項の番号です。各章等の内容についてはNBDAの目次をご参照ください。
<利用者重視>
『国際目録原則覚書』(ICP)[4]の第2章「一般原則」で規定されているとおり、目録規則の作成における“最上位の原則は利用者の利便性”です。ICPは目録規則の上位規定でありその適用範囲は書誌データ・典拠データの作成に限られますが、データの提供・書誌サービスの観点からも、“最上位の原則は利用者の利便性”であることは論を俟ちません。
NBDAにおいては、全国書誌の利用者、利用者グループごとの特定ニーズ・利用方法を調査すべきこと(2.5)、全国書誌検索システムの機能・インターフェースは全ての利用者に役立つものであること(5.1)、全国書誌の目的・利用者に即したビジネスモデルを決定すべきこと(6.5.1)等、随所に「利用者」が出現します。ここで注意すべきは、全国書誌の「利用者」はエンドユーザーだけでなく、図書館の目録作業担当者・収集担当者・レファレンス担当者・資料保存担当者、出版者・書店等の書籍流通関係者、知的所有権の権利管理団体、さらにはウェブハーベスティングツールのようなコンピュータソフトウェアも含まれる(2.2)ことでしょう。ウェブツールは、全国書誌をウェブ上で提供する際に考慮すべき重要な「利用者」です。

図1:アクセスポイントとして提供されるべきコアエレメント[5]
(2.4「共通検索要件」より)
<目録作業の再構築>
デジタル資料においても、FRBR(書誌レコードの機能要件)に規定されている利用者タスク「発見」「識別」「選択」「入手」を支援するためには、伝統的な媒体の資料と同様、名称、タイトルおよび主題アクセスポイントに関する典拠コントロールが必要です(4.4.1.1)。
典拠コントロールは高コストですが、書誌データの再利用まで含めて考えればメリットは計り知れません。コスト低減のためVIAFのような国際的イニシアティブに参画することによって、国際書誌コントロールにも貢献できます(4.2.8)。
伝統的な目録作業における記述、典拠(標目、主題)と並んで、標準識別子が一層重要となります。これまでの代表的な標準識別子(標準番号)はISBN、ISSNですが、今後は相互運用性を高めるために、さらにISSN-L、ISTC(国際標準テキストコード)、ISAN(国際標準視聴覚作品番号)、ISWC(国際標準音楽著作コード)、ISRC(国際標準レコーディングコード)、ISNI(国際標準創作者名識別子)、NBN(全国書誌番号)が推奨されています(4.2.7)。
<外部機関との連携・協力>
図書館の目録作業担当者の高度な専門性を前提とした伝統的な目録作業は、限られた資源を可能な限り有効に割り当てる必要に迫られた今、見直さざるを得ません(4.2.3)。
また、全国書誌に何を収録すべきかを検討すれば、(特にデジタルな分野で)全国書誌の利用者コミュニティ、法的要件、利用可能な資金、および技術的基盤/リポジトリの能力について熟考すべきことは明らかです(3.5)。
このような前提に立てば、全国書誌作成機関は、外部機関との連携・協力の機会を追求すべきであることは自明の理です(1.5)。国内協力のための体制を構築し(6.10)、優れた他国の例(6.5.3、7.2、7.3)の長所を取り入れることが求められます。特に、出版者その他の出版物の供給者との協力は、非常に重要であるとされています(6.10)。

図2:情報連鎖としての出版物のライフサイクル
(7「出版者との協力:メタデータの統合と共有」より)
<相互運用性・互換性>
有効利用という点からも、全国書誌データの国際的な交換・集約を視野に入れ、相互運用性・互換性を保つ必要があります(5.5)。全国書誌データの作成やシステム構築においては、目録規則類(5.5.1~5.5.6)、書誌フォーマット(5.5.7)、文字符号化(5.5.8)、プロトコル(5.5.9)のいずれも国際標準を採用することが必要不可欠です。
<全国書誌の利用分析と定期的な検証>
デジタル資料の急増やウェブ技術の普及によって全国書誌を取り巻く環境は激変しており、全国書誌作成機関は、全国書誌の(潜在的なものを含む)利用を分析し、定期的に検証することが求められています(1.5)。
経営的な観点からは、全国書誌の効用をどのように測定するかも重要です。第三者機関による活動評価や監査の必要性も考慮すべきかもしれません(6.9)。
3. 『日本全国書誌』から新たな日本の「全国書誌」へ
2012年1月、NDL-OPACがリニューアルし、日本の「全国書誌」はNDL-OPACのサブメニュー「書誌情報提供サービス」のページから提供されることになりました。
その紹介に先立ち、2011年までの「全国書誌」サービスを簡単に振り返ってみましょう。1948年10月、冊子体の『納本月報』として出発した日本の全国書誌は、その後『国内出版物目録』『納本週報』と名称、刊行頻度の変遷を経て、1981年からは『日本全国書誌 週刊版』に改題刊行されました[6]。2002年以降暫くの間は、冊子体と併せて、同内容の書誌データを国立国会図書館ホームページ上でhtmlファイルとして提供していました。2007年6月には冊子体を終刊したことにより、一般的な利用はホームページ版のみとなり、そのホームページ版も2011年11月に終刊となりました。
ホームページ版(htmlファイル)での提供は、インターネット利用の普及という図書館環境の変化に即したものでありNBDAでも推奨されています(6.8)が、利用者の利便性、刊行頻度、速報性、全国書誌作成作業の効率化等の点で、改善の余地があったことは否めません。

図3:媒体ごとの内容の固定度・検索方法等の変化
新たな「全国書誌」では、次のとおり改善が行われています。[7]
<利便性>(5.2、5.4)
冊子体の時代はタイトル索引、著者索引のみ、htmlファイルではウェブブラウザの文字列検索機能に限定されていましたが、新システムでは、NDL-OPACでの通常の検索と同様、タイトルや著者だけでなく、資料種別、出版者、出版年、分類・件名等、様々な項目で絞り込むことが可能になっています。また、新システムでは、指定した検索結果集合の保存やダウンロードも可能です。
<刊行頻度・速報性>(6.7)
従来は目録作業が終了した書誌データを一週間単位で蓄積し、週次で提供していましたが、新システムでは目録作業終了後ただちにデータ提供を行う仕組みとなり、日次でのデータ提供が可能となりました。また、従来は目録作業中の書誌データは非公開でしたが、2012年1月以降、全国書誌の収録対象となる資料(ただし、アジア言語資料及び地図資料を除く)については作成途中の段階から書誌データを公開しています。
<全国書誌作成作業の効率化>(4.2.2)
従来は当館蔵書目録(NDL-OPAC)と日本全国書誌という別個の製品を提供するために個別の作業フローが必要でしたが、全国書誌がNDL-OPACのサブメニューとして提供可能になったことによって、作業フローが一本化されました。
<今後の可能性>
以上のとおり2012年1月の新サービス開始に合わせて多くの改善が行われてはいますが、日本の「全国書誌」には、今後も検討すべきことがまだまだ残されています。
たとえば、国立国会図書館法の改正によるオンライン資料の収集・提供の制度化に合わせて、当館でもオンライン資料を全国書誌に収録する(3.3)方向で検討を行っているところです。また、デジタル資料を含めた全国書誌データの典拠コントロール・主題分析(5.4)のあり方も要検討です。利用者重視は当然のこととしても、費用対効果(6.5.2)も考慮する必要がありますし、外部機関との連携・協力(6.10)の道筋はまだ見えていません。
当館では、2012年度中に、書誌データの作成・提供に関する新しい方針を策定する予定です。上に述べた諸課題についてもその新方針の検討対象となっており、方針策定後、その実施に向けて作成する個別計画の中で具体化していく予定です。
横山 幸雄
(よこやま ゆきお 収集書誌部収集・書誌調整課)
[1] National bibliographies in the digital age : guidance and new directions / IFLA Working Group on Guidelines for National Bibliographies ; edited by Maja Žumer. -- München : K.G. Saur, 2009. -- (IFLA series on bibliographic control ; v. 39) -- ISBN 978-3-598-24287-8.
[2] 動向 電子時代の全国書誌のためのガイドライン(草案)について 2008.9 NDL書誌情報ニュースレター 2008年3号(通号6号)
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bib_newsletter/2008_3/index.html#04
[3] デジタル時代の全国書誌(日本語訳)
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/kokusai.html#04
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/nbda_jp.pdf
なお、同一内容のファイルが、中国語訳等と並んでIFLA書誌分科会のウェブサイトにも掲載されています。
http://www.ifla.org/en/node/5226
http://www.ifla.org/files/bibliography/publications/national-bibliographies-digital-age-ja.pdf
[4] IFLA cataloguing principles : the Statement of International Cataloging Principles (ICP) and its glossary : in 20 languages / edited by Barbara B. Tillett and Ana Lupe Cristán. -- München : K.G. Saur, 2009. -- (IFLA series on bibliographic control ; v. 37) -- ISBN 978-3-598-24285-4.
IFLA目録分科会のウェブサイトには、2012年5月現在、日本語訳を含め26言語で掲載されています。
http://www.ifla.org/en/publications/statement-of-international-cataloguing-principles
また、日本語訳は当館ウェブサイトにも掲載しています。
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/kokusai.html#02
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/ICP-2009_ja.pdf
[5] コアエレメント(core elements)という考え方は、新しい目録規則であるRDA(Resource Description and Access)と共通するものです。RDAでは対象利用者(target audience/intended audience)はコアエレメントではない等、細部では違いがありますが、言語/出版国、ジャンル/形式、識別子、対象利用者が著者、タイトル、出版者等と同列に扱われていることからも、従来の目録(書誌データ)とは異なるものが求められていることが見て取れます。
[6] 1981年には、『日本全国書誌』の機械可読版であるJAPAN/MARCの刊行も開始されています。
[7] 本誌2011年4号(通号19号)の記事「2012年1月からの全国書誌」もご参照ください。
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bib_newsletter/2011_4/article_01.html
NDL書誌情報ニュースレター(年4回刊)
ISSN 1882-0468/ISSN-L 1882-0468
2012年2号(通号21号) 2012年6月29日発行
編集・発行 国立国会図書館収集書誌部
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