コラム:翻訳書をめぐる冒険―ユネスコ「世界翻訳書目録」

NDL書誌情報ニュースレター2012年1号(通号20号)
外国人の作家で、日本で一番翻訳されているのは誰でしょう?
日本人の作家で、世界で一番翻訳されているのは誰でしょう?
こうした疑問に答えてくれるのが、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が運営している「Index Translationum」(世界翻訳書目録)です。
「Index Translationum」は、図書普及事業の一環として、1932年に国際連盟の事業として六か国で開始されました。その後、運営の変更や第二次世界大戦による中断を経て、現在約150か国が参加し、1,100もの言語で200万以上のデータがあるデータベースとなりました。
このデータベースは、それぞれの国の国立図書館などからのデータ提供で成り立っており、日本の書誌データについては、国立国会図書館が「前年に発行された図書のうち、外国語で書かれ日本語に翻訳されたもの」を中心としたリストを年に1度作成し、ユネスコに送付しています。
日本が初めて参加したのは1950年のことです。当時は原稿カードで提供を行い、その後磁気テープとなり、現在はMARC形式のファイルをFTP転送で提供しています。
国立国会図書館における翻訳書データの抽出は、書誌データ中に「原文の言語」を示す値があるかどうかで判断しています。書誌作成の際に、翻訳書の場合には、原書の言語を記録するために、3桁の「言語コード」を「原文の言語」として入力しています。したがって、この値があれば翻訳書ということになります。平成23年度は5,720件の書誌データを翻訳書誌として提供しました。
「Index Translationum」のWebサイトでは、世界各国の翻訳書を調べることができます。NDL-OPACでは、「日本語で書かれたものが、どの言語にどんなタイトルで翻訳され世界各国で出版されているか」を網羅的に調べることはできません。世界各国のOPACで調べようとしても、まずその国のOPACを探すところから始まり、探したい本のタイトルを入力して調べる、しかも日本語なのか英語なのか当地の言葉なのかさえわからない、それを何十か国も繰り返すなどを考えると大変な労力です。しかし、これが「Index Translationum」ならば、すぐに検索することができます。
たとえば、村上春樹の「羊をめぐる冒険」は、スペイン語では「La caza del carnero salvaje」、ドイツ語では「Wilde Schafsjagd」、リトアニア語では「Avies medžioklė」というタイトルで翻訳されていることがわかります。三島由紀夫の「金閣寺」は1992年までのセルビア・クロアチア語で「Zlatni paviljon」、黒柳徹子の「窓ぎわのトットちゃん」は、シンハラ語で「Hari puduma iskole」、オリヤ語で「Totto-chan」、テルグ語で「Toto-can」として出版されていることがわかります。逆に、サリンジャーの研究者が「『The catcher in the rye』は各国でどのようなタイトルで出ているだろうか?」と思ったときに、すぐ日本語の「Raimugi batake de tsukamaete」を探し出せるのは、国立国会図書館が毎年書誌データを提供しているからなのです。
また、「Index Translationum」には、統計のコーナーがあり、「登録数が多い著者ベスト50」や、ある言語を選んで「その言語に翻訳された言語ベスト10」(例:日本語に翻訳された本の、元の言語の多い順)といった統計が載っています。冒頭に挙げた疑問は、ここで解決しますので、ぜひご覧ください。
日本ではあまり知られていないデータベースですが、思いつく本をいろいろ検索してみてください。「なぜこの本がこんな言語に訳されているのだろう?」「なぜ日本語訳はこのタイトルにしたのだろう?」など、誰でも翻訳についての興味がわいてくるのではないでしょうか。そして、このデータベースが、世界各国の図書館の協力でできていることを、もっと言えば日々の地道な目録作成作業の成果であることを思い出していただければ幸いです。
河合 将彦
(かわい まさひこ 収集・書誌調整課)
NDL書誌情報ニュースレター(年4回刊)
ISSN 1882-0468/ISSN-L 1882-0468
2012年1号(通号20号) 2012年3月30日発行
編集・発行 国立国会図書館収集書誌部
〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
E-mail: (ニュースレター編集担当)
