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世界のRDAの取組みのいま(9)―スペイン語圏(イベロアメリカ諸国を中心に)

NDL書誌情報ニュースレター

NDL書誌情報ニュースレター2016年2号(通号37号)

【はじめに】

2015年3月、新しい国際的な目録規則であるRDAのスペイン語版が、RDA Toolkitにおいてリリースされました。当初は2014年半ばのリリースを目指していましたが、翻訳にかかるさまざまな課題をクリアするには、多大な労力と時間を要しました。

本稿では、RDAのスペイン語への翻訳と、スペイン語圏のうちラテンアメリカおよびカリブ海諸国(以下、本稿で紹介する記事[1]に倣い「イベロアメリカ諸国」といいます。)での適用に向けた研修の実施や教材の作成等の取組みについて、ご紹介します。

1. スペイン語訳の取組み

20世紀後半から、スペイン語圏では、書誌コントロールのためのさまざまな基準とツールのスペイン語版が用意されてきました。その中でも、英米目録規則(AACR)のスペイン語版は重要なものでした。英米目録規則第2版(AACR2)の後継であるRDAの適用に向けては、次の三段階で検討が進められました。

初期段階:原文の分析と評価
中間段階:研修/教育
最終段階:適用とローカルな要件への対応

初期段階と中間段階に要する時間は、訳文の出版までにかかる時間によって決まります。高度に専門的な外国語の資料を解読することはとても難しく、時間を要します。特にRDAのように、新しい概念的な枠組みの適用によって生み出された専門用語を含んでいる場合はなおさらです。

RDAのスペイン語版は、AACR2のスペイン語訳を出版したコロンビアの図書館学専門のロハス・エベルハルド社(Rojas Eberhard Editores Ltda.)によって刊行されました。

2. RDAのスペイン語訳プロセス

RDAのスペイン語訳のプロセスは、次のとおりです。

(1)原文の予備的な用語分析
(2)関係する基本文書との用語の比較
(3)訳文の作成
(4)例示の翻訳/翻案
(5)訳文の専門的見地による見直し

(1)原文の予備的な用語分析

原文の精読にあたり、翻訳のプロセスには、おもに次のような課題があることがわかりました。

高度な専門用語が一貫して存在すること

非常に専門的なRDAの用語を翻訳するには、2種類の専門性が必要とされます。つまり、あらゆる種類の書誌フォーマットに精通した熟練のカタロガーである上に、英語とスペイン語の両方にネイティブ並みの語学力を持っている必要がありました。

重要な概念同士の間に多数かつ複雑な関係があること

原文がオンラインで提供され、各規定の複雑な関係がハイパーリンク等で関連付けられているため、その論理的な意味のある関係を翻訳でも同様に維持する必要がありました。

翻訳の難しい用語が頻出すること

たとえば「core element」のようにまったく新しい概念を表わす用語に対し、RDAの独特な意味を明確に示すスペイン語の用語「elemento nucleo」を新たに作成する必要がありました。また、新たに定義された用語(「work」や「expression」等)への対応や、方言により複数ある語(英語の「computer」に相当するスペイン語の「ordenador – computador – computadora」等)への対応も必要でした。

テキストが非常に複雑であり翻訳も難しいので、首尾一貫性を保つためには、用語を厳密に統制する必要がありました。そこで、訳文の作成と最終的な修正作業のために、頻出用語(RDAの「用語集」収録語に、原文中の頻出用語を追加したもの)、頻出フレーズ、そして「用語集」収録語の定義の英語-スペイン語対照一覧、の三つのリストを作成することになりました。

(2)関係する基本文書との用語の比較

このプロセスは、(1)で特定されたRDAの重要な用語を、RDAと密接な関係のある国際的なドキュメントのスペイン語版と比較する作業です。AACR2、国際目録原則覚書(ICP)、書誌レコードの機能要件(FRBR)、そして典拠データの機能要件(FRAD)と比較した結果、当初の予想どおり、RDAの用語を翻訳するために選んだ用語とこれらのドキュメントの用語は、かなり一致していました。

(3)訳文の作成

用語の文脈上の正確さを維持するために厳密な手順を必要としたため、原文と同じレベルで正確なスペイン語訳を作成するプロセスには、多大な労力と時間を要しました。また、翻訳作業中に改訂されるRDAの内容を反映する作業も必要でした。

スペイン語の目録用語は、AACR2の翻訳を契機に標準化され始めました。以降37年間一貫して使用してきたAACR2の用語を、RDAスペイン語版でもできるだけ適用することに決めました。また、すべてのスペイン語圏の国々でRDAの適用を促進するため、各地の方言によって異なる形(たとえばメキシコ、コロンビア、スペインのそれぞれの伝統的なもの)に対応した索引を作成することになりました。印刷版とオンライン版の両方を作成するにあたり、スペイン語の同義語の自動入力・保存ツールが技術的な基盤となりました。

タイトルの翻訳については早い段階で決着し、他言語版のRDAとの一貫性が保てるように、「RDA」という原文の短い名称のままとすることに決まりました。その結果、スペイン語版のタイトルは「RDA-Recursos: Descripción y Acceso」(「RDA-資源:記述とアクセス」)となりました。

(4)例示の翻訳/翻案

RDA第0章「序論」には、「すべての例示は、優先言語が英語である機関によって記録される形でエレメントを説明している」(0.10)とあります。翻訳では、例示の翻案が必要になります。例示には、説明注記や記述エレメント、スペイン語圏の機関による典拠形アクセス・ポイントと異形アクセス・ポイントを用いたものも含まれます。この作業は非常に人手がかかるため、組織的に取り組む必要がありました。

(5)訳文の専門的見地による見直し

最後に、世界中のスペイン語圏のさまざまな方言等に対応するため、メキシコ、中米、南米、そしてスペインの専門家グループからなる国際検討委員会(International Review Comittee)による専門的な見地からの見直しが行われました。このグループのメンバーは、国際的な目録規則の適用と専門用語のスペイン語訳において、経験や専門知識を兼ね備えていました。また、この見直しの最終目標は、RDAスペイン語版の用語の標準化を進めるための基盤となりうる「標準語版」の作成でした。

3. スペイン語によるRDAの研修の実施

スペイン語圏の国々でRDAを効率的に適用するためのもう一つの前提条件は、記述作業と典拠コントロールのための十分な研修プログラムとドキュメント類を作成することです。スペイン語圏内のさまざまな学習環境で研修を実施する取組みが、国内外で行われています。これらの目的は、各機関の目録方針を策定し、国際的な共同目録プログラムに参加するための準備をサポートすることです。

4. 共同目録のための国際的な取組み

2004年、国際目録規則に関するIFLA専門家会議(IME-ICC2)がアルゼンチンのブエノスアイレスで開催され、スペインと、アメリカ大陸にあるすべてのスペイン語圏の地域から参加者が集まりました。これにより、イベロアメリカ諸国における国際的な共同目録を推進し、AACR2の後継となる新しい目録規則の策定を促進するための地域プログラムが強化されました。

地域における目録会議

2005年に、MARC21地域セミナーと題された一連の地域会議が、サン・ルイス・ポトシ(対象国:メキシコ)、パナマ(対象国:中米諸国とカリブ諸国)およびブエノスアイレス(対象国:南米諸国)で行われました。これは、米国議会図書館(LC)とラテンアメリカ諮問委員会(CCLCC)によって開催され、共同目録作業の自動化に向けた国際標準の適用の促進に焦点が当てられました。この活動は、サン・ルイス・ポトシで毎年開かれる国際フォーラムを通して継続され、スペイン語圏の共同目録作業の自動化に関する質の高い研修を各国で実施する際に、中心的な役割を果たしています。

同じく2005年には、目録標準化とその課題に関するもう一つの重要な地域年次会議「カタロガーの国際会議(Encuentro Internacional de Catalogadores)」が始まりました。この会議は、カタロガーのアイデアや経験を幅広く交換する場となりました。また、RDAの開発動向を注視し、イベロアメリカ諸国の図書館に及ぼしうる影響を分析するための会議にもなっています。

各国内における目録会議

前述の会議では、LCのバーバラ・ティレット氏(Barbara Tillett)、サリー・マッカラム氏(Sally McCallum)、そしてポール・フランク氏(Paul Frank)といった目録界の著名人によるプレゼンテーションが行われ、各国の目録コミュニティに大きな影響を与えました。そして、メキシコ(2006年)、アルゼンチン(2008年)、コロンビア(2009年)、ペルー(2011年)、ブラジル(2012年)等の国々が、目録に関する独自の会議を立ち上げました。いずれの会議でも、RDAの開発に関する論文発表やプレゼンテーションが行われ、記述作業と典拠コントロールのためのFRBR/FRADモデルとRDAに関する研修セッションが提供されるようになりました。

オンライン上の研修資料

研修教材等のその他の重要な情報源は、RDA開発合同運営委員会(Joint Steering Committee for Development of RDA:JSC)[2]のウェブサイトと、LCの国際的な共同目録プログラム(Program for Cooperative Cataloging:PCC)のコンテンツです。プレゼンテーションや研修資料等は、公開されるとすぐに翻訳され、国際レベル、国内レベル、そして機関レベルで議論されています。LCの図書館員を対象とした、ティレット氏のウェブキャストにもアクセスできます。また、ティレット氏とジュディス・クハーゲン氏(Judith Kuhagen)による、RDA導入テストのための研修資料も、LCのウェブサイトに掲載されました。これらを基に、スペイン語の研修資料が増加していき、LCのサイト内で独立したページができました[3]

名称典拠ファイルの共同作成プログラムNACO(National Authority Cooperative Program)によるサポート

NACO参加館のAACR2からRDAへの移行を支援する取組みの一環として、2012年3月、ウェブベースの「NACOのRDA研修」(RDA in NACO Training)という、いわば準備用のコースが開始されました。NACO参加館は、NACOの典拠ファイルにRDAを適用した名称典拠レコードを提供するために、オンラインビデオ、デモンストレーション、クイズ等から構成された九つのモジュールと二つのウェビナーを受講し、さらにチェックを受けなくてはいけませんでした。2013年春、このコースのスペイン語訳「NACO参加館のためのRDA研修」(Formación RDA para participantes de NACO)がLCのウェブサイトで公開されました[4]。これは、スペイン語話者のLCのスタッフとメキシコやペルー出身のNACO講師が作成したもので、その後、LCのiTunesUチャンネルでも公開されました[5]。そのほか、MARC 21フォーマット関連文書やRDA Toolkitを効率的に利用するための研修資料等のスペイン語訳もあります。また、RDAの基礎編、応用編の対面式ワークショップが、おもにLCとサン・ルイス・ポトシ自治大学、そしてペルーカトリック大学の後援のもと、NACOトレーナーにより定期的に行われています。さらに、NACO新規参加館用のオンラインコースのスペイン語版が2013年7月に公開されています。

【おわりに】

RDAがリリースされたとき、国際標準として受け入れられ、採用されるためには、次の二つが重要な要素でした。

(1)正確で適切な翻訳へアクセスできるかどうか
(2)十分な研修資料と補助資料が手に入るかどうか

では、スペイン語圏の標準として受け入れられ、採用されるためには条件が整ったといえるでしょうか。

(1)に関しては、2015年3月に、RDA Toolkitに掲載されました。(2)についても、2004年以来開かれてきた目録会議がその役割を果たし、RDAに関する論文やプレゼンテーションなどが多く作成されました。また、国際的な共同目録事業との積極的な連携により、非常に質の高い研修教材と補助資料ができました。これにより、研修と再研修の必要性を評価するための情報が蓄積され、あらゆるレベルの規定とさまざまな学習方式に適したリソースが作成されました。

スペインは財政上の理由から採用を見送りましたが[6]、イベロアメリカ諸国では今後いよいよ各館での適用の段階へと進んでいくと思われます。たとえばコロンビア国立図書館では、2015年から図書館や大学、文書館など15の参加館を募って試験的な適用を開始しています。2016年には地図、一枚ものの楽譜、逐次刊行物、デジタル出版物などの資料群の目録作成に役立つ指針の電子的な出版が進むことが期待され、適用に向けた着実な歩みが感じられます[7][8][9]

鎌倉 知美
(かまくら ともみ 国内資料課)

[1]本記事の執筆にあたっては、おもに下記の論文を参照しました。
Ageo Garcia. RDA in Spanish: Translation Issues and Training Implications.
Cataloguing & Classification Quarterly. 2014, 52(6/7), p.723-732, doi: 10.1080/01639374.2014.910286, (参照 2016-03-25).
下記のURLに要旨が掲載されています。
http://catalogingandclassificationquarterly.com/ccq52nr6-7.html, (参照 2016-03-18).

[2] JSCは、2015年11月、RDA運営委員会(RDA Steering Committee:RSC)に名称が変更されました。
RDA Governance Review Takes First Step in Implementation (RSC, 2015/11/7),
http://www.rda-rsc.org/RDAgovernancefirststep, (参照 2016-03-25).

[3]Library of Congress. “Documentos y enlaces para la capacitación y difusión sobre RDA: Recursos, Descripción y Acceso”.
http://www.loc.gov/aba/rda/RDA_es.html, (参照 2016-3-25).

[4]Library of Congress. “Formaci´on RDA para participantes de NACO”.
http://www.loc.gov/catworkshop/courses/rda_naco_spanish.html, (参照 2016-03-25).

[5]Library of Congress. “Formaci´on RDA para participantes de NACO”.
https://itunes.apple.com/us/itunes-u/formacion-rda-para-participantes/id656341151?mt=10, (参照 2016-03-25).

[6]スペイン国立図書館は、遡及的な修正にかかる労力に見合うだけの利点が見当たらないこと、そしてスペインの多くの機関が国立図書館の決定により自館における採用を判断するという状況もふまえると、現在の財政状況ではRDA Toolkitのライセンス取得や研修のための負担を強いることはできないという事情から、2014年12月の時点では採用は見送りました。しかし今後も動向を注視し、将来的に再検討する余地を残しています。
Biblioteca Nacional de Espana. “Comunicado sobre RDA”.
http://www.bne.es/es/AreaPrensa/noticias2014/1218-rda-bne-2015.html, (参照 2016-03-25).

[7]La Biblioteca Nacional de Colombia. “La Biblioteca Nacional de Colombia lidera la prueba piloto RDA en el país”.
http://www.bibliotecanacional.gov.co/content/la-biblioteca-nacional-lidera-la-prueba-piloto-rda-en-colombia, (参照 2016-03-25).

[8]La Biblioteca Nacional de Colombia . “Piloto para la implementación de RDA. Taller de Capacitación”.
http://www.bibliotecanacional.gov.co/content/piloto-para-la-implementación-de-rda, (参照 2016-03-25).

[9]メキシコ国立自治大学におけるRDA適用の取組みについては、本誌2016年1号(通号36号)を参照してください。
菅野真由美. 世界のRDAの取組みのいま(7)―メキシコ.
http://www.ndl.go.jp/jp/data/bib_newsletter/2016_1/article_04.html, (参照 2016-03-25).


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NDL書誌情報ニュースレター(年4回刊)

ISSN 1882-0468/ISSN-L 1882-0468
2016年2号(通号37号) 2016年6月28日発行

編集 国立国会図書館収集書誌部
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