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世界のRDAの取組みのいま(6)―トルコ

NDL書誌情報ニュースレター

NDL書誌情報ニュースレター2016年1号(通号36号)

【はじめに】

本記事では、トルコにおける目録規則の動向とRDA導入に向けた図書館界の取組みについて紹介します[1]

かつて、公用語であるトルコ語を表記するのにアラビア文字を使用していたトルコは、西洋化改革を進める過程でラテン文字(ローマ字)へと文字改革を行ってきました。

図書館運営においても、西洋諸国の影響を受けて近代的なサービスが発展してきましたが、図書館間では目録規則が依然として統一されていないという問題を抱えています。図書館員や図書館情報学研究者は、先進国からやや遅れつつも書誌ユーティリティや総合目録が整備されつつあるトルコにとって、RDAの導入が国内での書誌コントロールを実現するための絶好の機会になると考えました。そこで、彼らによってRDAのワーキンググループが立ち上がりましたが、現在のところ、検討段階にとどまっているようです。

【トルコにおける目録規則の沿革と現状】

トルコでは伝統的にアラビア文字文化が繁栄してきましたが、上述のとおり、現在はトルコ語の表記に、ラテン文字を使用しています。ラテン文字への切り替えは徹底されており、アラビア文字で書かれたアラビア語、ペルシア語、オスマントルコ語の古典籍の書誌さえ、ラテン文字に置き換えて記述するのが一般的です。このため、英米の目録規則との親和性は高いと考えられます。

トルコにおける目録規則の沿革を振り返ってみると、1928年の文字改革によりアラビア文字の使用が廃止された後、1941年に、トルコにおける近代的図書館目録の父、フェフミ・カラタイ(Fehmi Karatay)によって最初のトルコ語で書かれた目録規則が公表されました[2]。その後、1957年にはトルコ図書館員協会、1961年には国民教育省図書館総局(現在の文化観光省図書館・出版総局)によってトルコ語の目録規則が次々に発表され、同省傘下の国立図書館や公共図書館ではこれらの目録規則が使用されるようになりました。一方、国民教育省の所管外である大学図書館では、英米目録規則が1967年の第1版から使われ始めます。1978年に英米目録規則第2版(AACR2)が制定されると、文化観光省傘下の国立図書館と公共図書館も遅れてこれを採用する検討を始め、トルコにおいて目録規則のAACR2への全面的な切り替えが行われたのはようやく1980年代になってからのことです。

ところが、AACR2の適用にあたって、トルコ図書館員協会や文化観光省(図書館・出版総局)は規則の翻訳や基準の制定を行わず、個人レベルでいくつかの解説書が執筆されるに留まります。その結果、AACR2のどの改訂版を適用するのか、英語版とトルコ語翻訳版のどちらを使用するのか、という点について、高等教育評議会所管の大学図書館から文化観光省所管の国立図書館・公共図書館、そして国民教育省所管の学校図書館の間の共通の基準は設けられませんでした[3]

こうして、トルコの図書館は各館ごとに適用する目録の細則が異なり、書誌コントロールが困難という問題を抱えることになりました。近年はトルコの図書館も、国際的な書誌ユーティリティであるOCLCや、トルコ国内で構築が進められている全国総合目録(TO-KAT:Ulusal Toplu Katalog)[4]などに参加してMARCデータの流通を行っていますが、目録規則の不統一が書誌コントロールの実務面で問題となっています。

【RDAワーキンググループとその活動】

2000年代に急速に進んだデジタル環境の変化は、トルコにとっても例外ではありませんでした[5]。2010年にRDAが公開され、英語圏の図書館で導入に向けた準備が始まると、トルコの図書館関係者の間でも、新しい情報環境への適応、そして現状の目録規則をめぐる問題を一挙に解決させることを目的として、RDAの導入に向けた検討が始まりました[6]

2012年6月、大学図書館や研究機関図書館の目録担当者が集まって開かれたRDAに関するワークショップにおいて、「RDAトルコ」ワーキンググループ(RDA Türkiye Çalışma Grubu)の設立が決定されました。このワーキンググループでは、RDAに関係するトルコ語の用語の整備、トルコ語による件名・著者名典拠リスト作成の検討、目録作成業務に従事する図書館員の意識向上に向けたトレーニングの実施と研修ドキュメントのドラフト作成を行うことになり、図書館員や図書館情報学研究者から構成される四つのサブグループ(用語整備、著者名典拠、件名典拠、技術検証)が立ち上げられました。

ワーキンググループは2013年3月から4月にかけて、トルコの大都市であるアンカラ、イスタンブール、イズミルにおいてRDAに関係するカンファレンスを立て続けに開催し、国内図書館員に対する広報活動を展開しました。これに加えて、次に述べる意識調査を行い、トルコの図書館員のRDAに関する認識と現状を明らかにして、RDA導入をめぐる問題の把握に努めています。

【RDAに関する図書館員の意識調査】

「RDAトルコ」ワーキンググループに参加する3人の研究者が2014年に実施した意識調査は、トルコの学術図書館(大学図書館、研究機関図書館等)の目録部門に勤務する図書館員のRDAに関する認知度、理解度、期待度を明らかにすることを目的としていました[7]。調査は、ウェブベースのインタビューフォームにより行われました。これを学術図書館のウェブサイトに掲載されている目録担当者のメールアドレスに送信したところ、全部で76件の回答が得られました。

調査では学術図書館の目録業務環境に関するさまざまな質問項目が設けられていましたが、ここではRDAに関係する部分のみを紹介します。

まず、RDAおよび関連する原則や概念モデルに関する理解度です。図1のとおり、学術図書館の目録担当者75人中、約77%(58人)がRDAの概念について理解できていると回答しており、約11%(8人)はとてもよく理解していると回答しています。一方、ICP(国際目録原則覚書)を始め、RDAと関連の深い原則や概念モデル等についてはRDAほど理解が進んでいないことが図1から読み取れます。


図1 RDAおよび関連する原則や概念モデルの理解度

図2はRDAが制定された意義と、RDAの使用に関する理解度についての質問の回答です。AACR2の改訂に代えてRDAが制定された理由について、有効回答者74人中、約61%(45人)がとてもよく理解している、またはよく理解していると回答していますが、約16%(12人)の回答者はあまり理解していない、またはほとんど理解していないとしています。RDAの使用に関して、エレメントセットと語彙については、いずれも過半数の回答者があまり理解していない、またはほとんど理解していないと回答しており、RDAの概念と意義自体は浸透しているのに比べて、実務面では導入に不安があることも明らかになりました。


図2 RDAが制定された意義とRDAの使用に関する理解度

図には含まれていませんが、回答者の75%がRDAのトルコ語翻訳を希望する一方、翻訳は必要ないとする回答も15%ほどありました。残る1割の回答者は、RDAの翻訳に対して特に意見はないと答えています。

図3はRDAと関連するトピックについての研修ニーズに関する調査結果です。質問として用意された8点のトピックのすべてにおいて、過半数の回答者が非常に強く、または強く研修を希望していることが明らかになりました。ほかの質問項目と比べると無回答数が特に少なく、トルコの学術図書館の目録担当者がRDAに関するさまざまな研修に強い要望を抱いていることがうかがえます。


図3 RDAと関連するトピックについての研修ニーズ

このほか、調査に対する回答の中で、RDAへの移行の障壁となる要素として、RDAに対応できる統合図書館システムが導入されていないなどの技術的問題のほか、人的資源や時間の配分が難しいことなどが挙げられています。RDAの導入には、図書館員の理解度と習熟度以外の要素も障害となっていると思われます。

【おわりに】

これまで述べてきたように、トルコではRDAの導入に対する意欲が図書館員や図書館情報学研究者の間に見られるものの、導入に踏み切るにはさまざまな障害が残っており、適用への具体的な動きは、残念ながら緩慢に見えます。筆者が目にした範囲では、2016年初めの時点ではRDA適用のスケジュールの発表は確認できませんし、トルコ国立図書館をはじめとする国内のほとんどの図書館はAACR2の適用を続けています。

筆者は、トルコの図書館に関する最新情報を把握するのに、トルコ語のウェブサイト「情報・記録管理ニュースポータル[8]をチェックするようにしています。有志運営のこのブログは、当館の「カレントアウェアネス・ポータル」のようにトルコにおける図書館・アーカイブズ関係の最新情報を発信してくれる便利なサイトなのですが、タグ「RDA」がついた記事は2014年が最後で、残念ながらしばらくの間、最新情報を目にしていません。

意欲的な目標をもって立ち上げられた「RDAトルコ」ワーキンググループのウェブサイト[9]も、2012年の開設以来ほとんど更新されておらず、配信されたRSSはこの年の12月が最後です。トップページの右上にはSNS(Google+、Facebook、Twitter)のアイコンが置かれていますが、リンク先となるべきアカウントやコミュニティが作成された様子もありません。トルコの図書館専門職団体であるトルコ図書館員協会と大学・研究図書館員協会の機関誌(『トルコの図書館(Türk Kütüphaneciliği)』、『情報世界(Bilgi Dünyası)』)の過去3年分のバックナンバーを見ても、「RDAトルコ」ワーキンググループの中心人物で、RDA開発合同運営委員会(Joint Steering Committee for Development of RDA:JSC)[10]のパンフレットのトルコ語訳[11]を行ったアンカラ大学情報・記録管理学科講師ネヴザット・オゼル氏(Nevzat Özel)の自由投稿論文が2015年に1本掲載されたのみです[12]

このように、RDAについてほとんど最新の動きが聞こえてこないトルコですが、意識調査で明らかになったように、現場の図書館員はRDAに高い関心を示しており、いずれはRDA導入に向かっていくものと思われます。

林 瞬介
(はやし しゅんすけ 調査及び立法考査局 議会官庁資料課)

[1]本記事の執筆にあたっては、おもに下記の論文を参照しました。
Atılgan, Doğan et al. Awareness, Perceptions, and Expectations of Academic Librarians in Turkey about Resources Description and Access (RDA). Cataloging & Classification Quarterly. 2014, 52(6/7), p. 660-676. doi:10.1080/01639374.2014.945023, (参照 2016-01-29).
下記のURLに要旨が掲載されています。
http://catalogingandclassificationquarterly.com/ccq52nr6-7.html, (参照 2016-01-29).

[2]Karatay, H. Fehmi. Alfabetik Katalog Kaideleri. İstanbul, Rıza Koşkun Matbaası, 1941, 61 p.

[3]トルコの図書館の館種ごとの概況については下記の文献を参照してください。
林瞬介.トルコの図書館. アジア情報室通報. 2011, 9(1), p. 2-7, https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin9-1-1.php, (参照 2016-01-29).

[4]Ulusal Toplu Katalog. http://www.toplukatalog.gov.tr/, (参照 2016-01-29).
トルコ全国総合目録についての詳細は[5]の文献を参照してください。

[5]トルコの図書館をめぐる最近の状況については下記の文献を参照してください。
林瞬介.トルコの科学技術政策と学術情報流通環境. 情報の科学と技術. 2016, 66(1), p. 20-25.
下記のURLに要旨が掲載されています。
http://www.infosta.or.jp/journals/201601-ja, (参照 2016-01-29).

[6]トルコにおけるRDAの取り組み状況については、[1]の論文のほか、下記のトルコ語論文を参照しました。
Özel, Nevzat. Bilginin Düzenlenmesine Yönelik Yeni Bir Standart : Resource Description and Access (RDA). Bilgi D ünyası. 2015, 16(1), p. 23-44,
http://bd.org.tr/index.php/bd/article/view/473, (参照 2016-01-29).

[7]調査結果は [1]の論文参照。本記事の以下の図表は同論文をもとに筆者が作成しました。

[8]Bilgi ve Belge Yönetimi (BBY) Haber Portalı. http://www.bbyhaber.com/bby/, (参照 2016-01-29).

[9]RDA Türkiye. http://www.rdaturkiye.org/, (参照 2016-01-29).

[10]JSCは、2015年11月、RDA運営委員会(RDA Steering Committee:RSC)に名称が変更されました。
RDA Governance Review Takes First Step in Implementation (RSC, 2015/11/7),
http://www.rda-rsc.org/RDAgovernancefirststep, (参照 2016-01-29).

[11]RDA : Kaynak Tanımlama & Erişim. http://www.rda-jsc.org/docs/rdabrochure-turkish.pdf, (参照 2016-01-29).

[12][6]参照。


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NDL書誌情報ニュースレター(年4回刊)

ISSN 1882-0468/ISSN-L 1882-0468
2016年1号(通号36号) 2016年3月25日発行

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