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世界のRDAの取組みのいま(4)―RDAのフランス語翻訳

NDL書誌情報ニュースレター

NDL書誌情報ニュースレター2015年4号(通号35号)

【はじめに】

2015年10月現在、RDA(Resource Description and Access)は4か国語(フランス語、ドイツ語、中国語、スペイン語)に翻訳されています。その中でもフランス語版RDA(Ressources description et accès。略称は英語版と同じく“RDA”)は、ドイツ語版と並び、最初に翻訳された他言語版RDAのうちの一つでした。

翻訳は、カナダ国立図書館・文書館(Library and Archives Canada:LAC)、ケベック州立図書館・文書館(Bibliothèque et Archives nationales du Québec:BAnQ)、フランス国立図書館(Bibliothèque nationale de France:BnF)およびドキュメンテーション科学技術推進協会(Association pour l'avancement des sciences et des techniques de la documentation:ASTED)[1]のカナダ・フランス両国4機関による合同プロジェクトとして行われました。約3年間に及ぶ事業の過程でプロジェクトのメンバーはさまざまな課題に直面し、解決のための戦略を練ることになりました。

その詳細は“Translating RDA into French”において詳しく述べられています[2]。本稿はこの記事に基づき、フランス語版RDA翻訳プロジェクトの概要について紹介するものです。

【背景】

カナダは英語とフランス語を公用語とする国であり、目録においても英語とフランス語が用いられています[3]。フランス語を用いるカナダの図書館では1980年以降、英米目録規則第2版(Anglo-American Cataloguing Rules, second edition:AACR2)のフランス語版(Règles de catalogage anglo-américaines:RCAA)が適用されてきました。そのため、RDAという新しい目録規則に移行するには、そのフランス語訳があらかじめ準備され、利用可能となっていることが必要不可欠と考えられていました。

一方フランスでは、フランス規格協会(Association française de normalisation:AFNOR)が発行する目録規則が用いられてきましたが、RDAの登場に伴い、その採用の実現性について検討がなされ、既存の目録規則との相違点等の分析が行われました。検討作業の一環として、RDAのフランス語訳への取組みが行われました[4]

【プロジェクトの経過】

RDAの最初の公開が目前に迫った2009年に、前述の4機関(LAC、BAnQ、BnF、ASTED)からなる合同プロジェクトが発足しました。4機関それぞれが指名した代表者によって構成されるフランス語版編集委員会(Comité éditorial francophone。以下、編集委員会といいます)[5]が設置され、2010年6月にRDAが公開された直後に、作業が開始されました。最終的な目標は単なる逐語訳ではなく、カナダとフランスはもとより世界中のフランス語を用いる図書館で適用可能な、実用的なフランス語訳の作成でした。

2012年3月2日、米国議会図書館(LC)が2013年3月31日からRDAを全面的に導入するという計画を発表したことにより、できる限りこの日付に近づけてフランス語版RDAを完成させることが、編集委員会の最重要の目標となりました。

最終的に2013年5月14日、RDAのオンライン版多言語対応ツールRDA Toolkitに収録される形でフランス語版RDAが公開され、同年6月に冊子体が刊行されました。

【翻訳の体制】

翻訳は、編集委員会と翻訳チームのもとで進められました。

編集委員会は前述のとおり2か国4機関のメンバーで構成されていましたが、中心となる編集者は指名されませんでした。プロジェクト参加機関すべての意見を平等に反映するための措置でした。メンバーは基本的に月1回集まり、進捗状況の報告と作業計画の立案、翻訳の過程で起こったさまざまな問題を解決するための議論を行いました[6]

翻訳チームの編成と教育には各参加機関が責任をもって当たりました。3図書館(LAC、BAnQ、BnF)からは言語スキル(フランス語・英語)または目録作成の経験のどちらか(あるいは両方)を有するスタッフが選ばれました。全員が本職と兼業する形で参加していました。

ASTEDは編集委員会の運営を管理し、会合の設定や議事録の作成、契約上の事柄に関する米国図書館協会出版局(ALA Publishing)との連絡役、プロの翻訳家の雇用といった面で貢献しました。

【方法論の確立】

編集委員会は翻訳を開始するに先立ち、まず、以下の作業に取り組みました。翻訳全体の一貫性を高め、効率的な作業手順を確立するための措置でした。

  • 用語集(約600の専門用語とその定義)の翻訳
  • 約85に及ぶ頻出フレーズのリストアップと訳語の確定
  • 第0章「序論」と付録D「記述データのレコード構文」の一部の試訳[7]

校正の方法についても事前に基本的な方針が合意されました。フランスのチームが翻訳した章はカナダが校正し、カナダのチームが翻訳した章はフランスが校正する、という原則です。カナダとフランスは必ずしも目録作成上の伝統を共有しておらず、その慣例や用語の使用法が異なっている面がありました。そのため、フランス語圏において共通して使用できる翻訳を作成するためにとられた対策でした。

ほかにも、各章の翻訳にあたり、必ずフランス語を母語とする者が最初の草案を作成する、草案の作成者が目録作成者でない場合、目録経験を積んだ者がその見直しを行う、など、フランス語として自然であると同時に目録規則としても正確な翻訳を作成するためにさまざまな努力が払われました。

【翻訳上の課題】

方法論が確立すると、章の長さや担当者の専門分野、RDAの構成等を考慮して各チームに条文が割り当てられました。事前に確立しておいた方法論が上手く機能する一方で、やはりさまざまな問題が発生し、編集委員会と翻訳チームは以下に述べるような課題を克服するための方法を考え出さねばなりませんでした。

(1)一貫性の確保

翻訳の大きな課題の一つは、RDAの条文全体で何度も使われ、フランス語ではさまざまに訳しうる用語や表現を全体的に統一することでした。前述のとおり、編集委員会は事前に用語集と頻出フレーズを翻訳しておく予防策をとりましたが、本文を翻訳する過程で用語集の訳との間に細かな相違が出てしまったり、リストアップしてあった以上に多くの頻出フレーズが見つかったりしました。

英語では何の問題もない文章が、フランス語では文法上のルールまたは翻訳者の解釈次第で何通りにも訳すことができるため[8]、編集委員会で従うべき翻訳のルールを改めて決めなければならないこともありました。

多くの参加者が関わる長期のプロジェクトにおいて、全体的に細かいところまで翻訳の一貫性を保つのは非常に難しいことだったようです。

(2)「翻案」

RDAのフランス語への翻訳は、単に英語をフランス語に置き換えることにとどまりませんでした。原文の意図を正しく解釈し、フランス語圏での使用に適した内容に「翻案」する必要のある事例が、規定条文(Instruction)においても例示(Examples)においても発生しました。

特に例示は、RDA第0章「序論」において、

「すべての例示は、優先言語が英語である機関によって記録される形でエレメントを説明している」(0.10)

と述べられているとおり、英語圏での参照を前提としたものとなっています。そのため原文の例示をそのまま用いてよいのか、それともフランス語を優先言語とする機関によって記録される形の例示に「翻案」すべきなのか、すべての例示を精査する必要が生じました。

以下の表は“Translating RDA into French”で紹介されている事例の中から筆者がいくつかを選び、RDA Toolkitの規定条文および例示を参照した上で、解説をつけたものです。

表 規定条文または例示を「翻案」している事例

条文番号 英語原文 フランス語版 解説
1.7.1
別法
The Chicago
Manual of Style
Lexique des règles typographiques en usage à l'Imprimerie nationale
Le français au bureau de Noëlle Guilloton et Hélène Cajolet-Laganière
大文字使用法、句読法等の取扱いに関し、優先的に選択できるスタイルマニュアルの具体例が挙げられています。
英語原文のThe Chicago Manual of Styleは英語圏の状況を反映したものなので、フランス語圏での参考文献としては適当ではありません。
フランス語圏にはThe Chicago Manual of Styleに相当する一つのマニュアルがないので、フランス語版ではフランスとケベックそれぞれで出版された二つの文献に差し替えられています。
2.7.2.6.3
例示
[Denmark] [Danemark] 資料が制作された場所が特定できなくても、制作が行われた国が判明していれば、その国名を制作地として補記します。
これは推定の制作地デンマークを補記する場合の例示ですが、制作地は「最も適切な言語および文字種で補記する」(1.4)と規定されているエレメントに該当するため、国名がフランス語による表記に変更されています。
9.6.1.4 For a Christian saint, record Saint.
(訳: キリスト教の聖人は、Saintと記録する。)
Pour les saints chrétiens, enregistrer saint ou sainte.
(訳: キリスト教の聖人は、saint またはsainte と記録する。)
個人の識別において、英語では聖人を表すのに
用いられるのは一つの用語(Saint)なのに対し、
フランス語では文法的な性別の一致のルールがあるため、
saint(男性の聖人)とsainte(女性の聖人)の
二つの用語が挙げられています。
11.2.2.5.2
例示
Schweizerische Nationalbibliothek
not Biblioteca nazionale svizzera
not Bibliothèque nationale suisse
Kansalliskirjasto
et non
Nationalbiblioteket
公用語を複数持ち、そのいずれもが目録作成機関の優先言語ではない団体の優先名称としては、資料でおもに用いられている言語形を選択します。
英語原文の例示はスイス国立図書館ですが、スイスの公用語の一つはフランス語なので、フランス語版の例示としては不適当です。
フランス語版では、フランス語が公用語ではない別の団体(フィンランド国立図書館)に差し替えられています。

(3)技術的な課題

翻訳されたフランス語の各条文は、最終的に、RDA Toolkitにおいて統合した形で表示されます。統合にあたって、条文は、段落や例示などのブロックごとにIDが付与され、データベースで管理されます。その際、原文と翻訳のブロックが完全に一致していないと2言語表示機能の障害となるため、翻訳の構成は英語版の条文のブロックに忠実に従わなくてはなりませんでした。この並列構造は翻訳に厳しい制約を課すもので、脚注を付けて翻訳上の問題を処理するといった、冊子体であれば可能な方法が制限されることになりました。

合字のようなフランス語特有の文字への技術的な対応も必要となりました。たとえば、“œ”という合字は“work”(著作)のフランス語訳“œuvre”に含まれており、RDAの中で頻繁に用いられます。RDA Toolkitの中でこうした文字にも対応できるようにするため、ALA Publishingとの緊密な協力のもとで統合検索エンジンの改良とテストが行われました。

アルファベット順の配列になっているテキスト(用語集や索引など)を翻訳後にソートし直す際にも、フランス語版RDAの利用者にとって自然な配列になるよう、言語固有の使用法を考慮して細やかな調整を行う必要がありました。

フランス語版はRDAの初期の翻訳の一つであったため、時として技術的な問題を最初に提起することになり、RDA Toolkitに対し、英語以外の言語に対応できるようにするための修正を求めていくことになりました。

【おわりに】

2013年5月に公開されたフランス語版RDAは、2011年にRDA開発合同運営委員会(Joint Steering Committee for Development of RDA:JSC)[9]が採用した修正と、2012年10月にリリースされたRDA Toolkitまでの細かな変更等を反映したものでした。その後もできる限り英語版の最新内容に近づけるべく、編集委員会のもとで更新が続けられています[10]

カナダでは、LACが2013年3月にRDAを導入しました。BAnQでも、2013年4月以降、資料群ごとに段階的な適用を開始しました[11]

フランスでは検討の結果、RDAへの移行を長期的な目標と位置付けつつも、フランスの目録作成の慣例と照らし合わせて満足のいかない点があること等を理由として、すぐにRDAを採用することは見送られました[12]。2014年11月、BnFと高等教育書誌センター(Agence bibliographique de l'enseignement supérieur:ABES)が「書誌移行」(Transition bibliographique)計画に関する文書を公表し[13]、目録を「書誌レコードの機能要件」(Functional Requirements for Bibliographic Records:FRBR)[14]に則したものに発展させつつ、新しい目録規則の編集を徐々に進めていく体制を示しました。RDA-FR(“Transposition française de RDA”(RDAフランス転換版)の略称)と名付けられたこの目録規則は、将来フランスがRDAを採用するまでの移行期の目録規則です。RDAの構成に可能な限り基づきつつ、フランス固有の事情を反映したもので、完成した部分から順次ウェブ上で無料公開されています[15]。すべて完成するまでは従来のAFNORの目録規則が併用されます。

十文字 香奈子
(じゅうもんじ かなこ 外国資料課)

[1]カナダのフランス語を用いる図書館員の協会。英米目録規則第2版のフランス語版の出版者であり、RDAフランス語版の冊子体“RDA : ressources : description et accès”の刊行も担当しました。

[2]Clément Arsenault, Daniel Paradis and Pat Riva. Translating RDA into French. Cataloging & Classification Quarterly. 2014, 52(6/7), p. 704–722, doi: 10.1080/01639374.2014.889059, (参照 2015-11-20).
下記のURLに要旨が掲載されています。
http://catalogingandclassificationquarterly.com/ccq52nr6-7.html, (参照 2015-10-20).
RDAのフランス語翻訳に関しては、フランス語圏のRDA利用者によって開設されたサイトに関連する資料類へのリンクがまとめられています。
http://rdafrancophone.wikispaces.com/Traduction, (参照 2015-10-20).

[3]LACは英語とフランス語の両方で、BAnQはフランス語で目録を作成しています。

[4]RDA採用に関するフランスの検討の経過については、下記の「書誌移行」計画専用のサイト(後述)に掲載されています。
ABES, BnF. “Historique des travaux français sur RDA”. Transition bibliographique.
http://transition-bibliographique.fr/enjeux/historique-travaux-francais-rda/, (参照 2015-11-30).

[5]ベルギーからもボランティアが参加していました。フランス語版RDAの冊子体の一部(表紙や奥付、前書き)が公開されており、最終ページにメンバーの一覧が掲載されています。
http://www.rdatoolkit.org/sites/default/files/rda_pages_liminaires_pdf.pdf, (参照 2015-10-20).

[6]メンバーが2大陸3か所(オタワ近郊のガティノー、モントリオール、パリ)に分散していたため、会合はテレビ会議により開催されました。

[7]翻訳作業は、(1)ALA Publishingから提供されたExcelテンプレートへの翻訳データの入力、(2)テンプレートの提出、(3)データベースへのテンプレートの投入、(4)PDFファイルの出力、という手順で行われました。PDFファイルは冊子体のソースファイルであると同時に校正のツールとしても活用されましたが、第0章の試訳の段階でPDFの生成スクリプトに多数の不具合が見つかり、プロジェクトを通じて調整がなされることになりました。

[8]たとえば、“title or form of title chosen to identify the work”という英文中の“chosen”は、フランス語では性・数の一致により“choisi”“choisie”“choisi(e)”“choisis”の4通りの翻訳が可能。

[9]JSCは、2015年11月、RDA運営委員会(RDA Steering Committee:RSC)に名称が変更されました。
RDA Governance Review Takes First Step in Implementation (RSC, 2015/11/7),
http://www.rda-rsc.org/RDAgovernancefirststep, (参照 2015-11-20).

[10]下記のURLに、2013年5月以降の変更箇所のリストが掲載されています。
http://www.rdatoolkit.org/translation/french, (参照 2015-11-02).

[11]LACのRDA導入時期は、本誌前号「連載「世界のRDAの取組みのいま」が始まります」によります。
http://www.ndl.go.jp/jp/data/bib_newsletter/2015_3/article_02.html, (参照 2015-11-30).
BAnQのRDA採用時期は、下記の記事によります。
Pat Riva. The French translation of RDA is published!. SCATNews. June 2013, Number 39, p. 15,
http://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/scatn/scat-news-39.pdf, (参照 2015-11-30).

[12]ABES, BnF. “Historique des travaux français sur RDA”. Transition bibliographique.
http://transition-bibliographique.fr/enjeux/historique-travaux-francais-rda/, (参照 2015-11-30).

[13]“De RDA en France à la Transition bibliographique”(Novembre 2014).
http://www.bnf.fr/documents/1411_transition_bibliographique.pdf, (参照 2015-10-20).
「書誌移行」計画についてはBnFのホームページで紹介されています。
http://www.bnf.fr/fr/professionnels/normes_catalogage_francaises/a.rda_fr.html, (参照 2015-10-20).
専用のサイト“Transition bibliographique”も公開されています。
http://transition-bibliographique.fr/, (参照 2015-10-20).

[14]和中幹夫・古川肇・永田治樹訳. 書誌レコードの機能要件: IFLA書誌レコード機能要件研究グループ最終報告 (IFLA目録部会常任委員会承認). 日本図書館協会, 2004, 121p, http://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbr/frbr-ja.pdf, (参照 2015-11-05).

[15]http://www.bivi.fonctions-documentaires.afnor.org/livres-blancs/rda-fr-transposition-francaise-de-rda, (参照 2015-10-20).


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NDL書誌情報ニュースレター(年4回刊)

ISSN 1882-0468/ISSN-L 1882-0468
2015年4号(通号35号) 2015年12月24日発行

編集・発行 国立国会図書館収集書誌部

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