書誌データの基本方針と書誌調整:書誌調整連絡会議
平成28年度書誌調整連絡会議報告
2017年3月16日(木)、国立国会図書館東京本館において「平成28年度書誌調整連絡会議」を開催しました。この会議は、国内の書誌調整に関する情報の共有と意見交換により、書誌データの作成及び提供の充実とその発展に資することを目的として、毎年開催しているものです。
17回目となる今回は、新しい『日本目録規則』(新NCR)が利用者の情報検索にもたらす利点を再確認することを目的に、「利用者志向の図書館目録を目指して:新しい『日本目録規則』とFRBR」をテーマとして開催しました。なお、今回の会議は傍聴の希望を募った結果、大学等の図書館職員や研究者、関係者等21名の参加を得ました。
最初に、日本図書館協会(JLA)目録委員会委員長の渡邊隆弘氏(帝塚山学院大学教授)から新NCRの意義とFRBRモデルへの対応について発表をいただいた後、FRBR(書誌レコードの機能要件)に対応した目録規則の意義及び国内での適用を進める上での課題等について、有識者にご発表いただきました。続いて、当館から新NCRの内容についての説明を行った後、出席者の間で意見交換を行いました。
以下に、会議の内容をご報告します。あわせて、会議資料も掲載します。なお、会議で取り上げられた新NCR全体条文案は、「新しい『日本目録規則』(新NCR)」のページでご覧いただけます。
※新NCRは、2017年2月から名称を「日本目録規則2018年版」(仮称)としました。
平成28年度書誌調整連絡会議 出席者
- 朝倉 和代
- 東京都立中央図書館サービス部資料管理課
課長代理(目録管理担当) - 金井喜一郎
- 昭和音楽大学短期大学部准教授
- 河野江津子
- 慶應義塾大学メディアセンター本部(受入目録担当)課長
- 越川 順規
- 株式会社トーハン図書館事業部マネジャー
- 小林 邦久
- 早稲田大学図書館資料管理課長
- 阪口 幸治
- 国立情報学研究所学術基盤推進部学術コンテンツ課
学術コンテンツ整備チーム係長 - 佐藤 初美
- 筑波大学学術情報部アカデミックサポート課長
- 高久 雅生
- 筑波大学図書館情報メディア系准教授
- 高橋 安澄
- 株式会社図書館流通センター データ部
- 谷口 祥一
- 慶應義塾大学文学部教授
- 松井 純子
- 大阪芸術大学教養課程教授
- 山中 秀夫
- 天理大学人間学部教授
- 渡邊 隆弘
- JLA目録委員会委員長、帝塚山学院大学人間科学部教授
(以上敬称略、五十音順)
(国立国会図書館)
- 大曲 薫
- 収集書誌部長
- 山地 康志
- 収集書誌部副部長収集・書誌調整課長事務取扱
- 諏訪 康子
- 収集書誌部主任司書
- 田代 篤史
- 収集書誌部収集・書誌調整課主査兼書誌調整係長
その他、オブザーバーとして収集書誌部を中心に当館職員が参加しました。
所属及び肩書きは、会議開催当時のものです。
開会挨拶
大曲薫(収集書誌部長)
例年、関係者限定の会議として開催してきたが、今回は一般公開とし、「利用者志向の図書館目録を目指して:新しい『日本目録規則』とFRBR」と題して、新しい目録規則の意義という幅広いテーマを取り上げる。FRBRの背景には、図書館にとっての大きな課題である、電子資料も含めた資料の媒体の多様化への対応、さらに、情報化社会において図書館が保有するデータの価値の向上という二つの課題が存在する。意見交換では、FRBR化によって、利用者にどのような利便性が生じるのかという視点で活発な議論をしていただければと思う。
新しい『日本目録規則』の意義―FRBRモデルへの対応
渡邊隆弘(JLA目録委員会委員長、帝塚山学院大学)
JLA目録委員会とNDL収集書誌部との連携により策定作業を進めていた新NCRは、2017年2月に全体条文案を公開し、パブリックコメントの受付を開始した。当会議に先立つ3月5日に大阪で第1回の検討集会を開催し、約100名の参加があった。第2回は5月に東京での開催を予定している。
1. FRBRモデルと新NCR
新NCRの「序説」等に掲げた策定方針は、次の6点。①国際標準(ICP等)に準拠、②RDAとの相互運用性を担保、③日本における出版状況等に留意、④NCR1987年版とそれに基づく目録慣行に配慮、⑤論理的でわかりやすく、実務面で使いやすく、⑥ウェブ環境に適合した提供方法。この中の①②がすなわちFRBRモデルを基盤とした規則ということになる。
新NCRはFRBRモデルに沿った全体構成になっている。大きく「属性の部」と「関連の部」に分かれ、FRBRの実体別に「第2章 体現形」「第3章 個別資料」「第4章 著作」「第5章 表現形」とあるように、RDA以上にFRBRに忠実な構成とも言える。属性のエレメントの設定や一部の関連の設定(著作と体現形を直接結び付ける関連)はRDAに準拠しており、完全にFRBRと一致するわけではないが、基本的にFRBR準拠であって、FRBRモデルの特徴と意義を高く評価しているのは言うまでもない。
2. FRBRのモデルの特徴と意義
資料の「FRBRの概念モデル」図を参照。実体・関連分析という手法を用いて、目録の世界を概念モデル化したものである。11個の実体ごとに属性を設定して、実体間の関連を管理する。「資料」にあたるのがグループ1の実体で、「著作」から「表現形」、「体現形」、「個別資料」と、次第に具現化されていく構造としてとらえられる。他に、グループ2、グループ3の実体がある。このモデルに基づき様々な原則や規則が作られているが、その特徴や意義を整理すると次の4点になる。
- A典拠コントロールを明確に位置づけ
従来から典拠コントロールは行われているが、現在の目録規則では、標目や「を見よ」「をも見よ」参照の付与について規定されているのみである。対してFRBRモデルでは、著作、個人、団体、概念などを実体として捉え、それぞれに属性を設定し、他の実体との関連を記録することで、典拠コントロールが明確に位置づけられ、よりクローズアップされている。 - B資料の構造的把握の進化
従来から「著作と版」という考え方があったが、著作と体現形の間に表現形を設定することで精密化をはかった。内容的な側面、特に著作がこれまでよりも重視され、「Creator」(著者など)や主題は、体現形である版の単位ではなく、著作とリンク(関連)付けられる。 - C「関連」の重視
実体の属性とは別立てで実体間の関連、つまりリンクを設定している。従来のいわゆる「典拠リンク」以外の多様な関連(著作と他の著作、個人と他の個人との関連など)も表現される。 - D機械可読性の向上
A、B、Cの帰結として、機械可読性の向上が挙げられる。FRBRモデル自体はあくまで概念モデルだが、実体・関連分析はしばしばデータベース設計に用いられる手法であり、データベースの構造がイメージしやすい。
なお、FRBRモデルの改訂が進んでおり、FRBR、FRAD、FRSADが統合されてLibrary Reference Model(FRBR-LRM)となる予定である。FRBRは名称に「Requirement(機能要件)」が含まれるように、必要な要素を網羅的に列挙するものであったが、FRBR-LRMは名称に「Model」が含まれ、より概念モデルとしての役割に特化したものになっている。実体の設定等にも変更はあるが、前述の特徴や意義は継承されていると考える。
3. 目録サービスに与える可能性
FRBRを基盤とする新NCRの適用により目録がどう変わるのかは、当然の疑問である。しかし策定の立場からは答え難い。新NCRはRDA同様、意味的側面と構文的側面を分離し、記述文法やエレメントの配列等の構文的側面を規定していない。目録サービスを制約しない目録規則を目指しており、適用がOPACの変化に直結するものではない。 しかし本日は、想定される三つの可能性を挙げることとした。
- ①資料の内容的/物理的側面の構造化
OPACのFRBR化(FRBRization)と呼ばれるものである。例えばカリフォルニア大学(UCLA)図書館の総合目録システム「Melvyl」で村上春樹の『海辺のカフカ』を検索すると、言語別、版別に段階的に表示される。つまり、著作・表現形・体現形という構造化がOPACで実現されている。国立国会図書館サーチも同様のことを目指している。しかし、既存データを自動処理でFRBR化した形で表示するのは技術的に限界がある。今後はFRBR準拠の新NCRやRDAのような規則を適用して、著作・表現形の典拠コントロールを行い、内容的側面と物理的側面を区別することで、より精度の高い構造化が期待できるのではないか。 - ②リンク機能の拡充
NIIのCiNii Booksで実現しているように、著者と資料の典拠リンクにとどまらず、書誌構造リンクや雑誌変遷のリンクなどをさらに拡充し、「つながるデータ」にしていくことが挙げられる。つまり「関連」の充実である。新NCR「第43章 著作間の関連」では、関連指示子と識別子または著作の典拠形アクセス・ポイントを記録したり、構造記述・非構造記述といった方式で記録する。ただし非構造記述は従来の注記の記録方法に近く、機械可読性が低いのでリンクが難しい。 - ③LODとしての目録データ
図書館界だけではなく広く自由に使われるデータとしての可能性の拡大も重要である。新NCRを適用しなくてもLODは可能だが、FRBRモデルに基づく新NCRによるデータの強みは機械可読性だろう。「ばらせるデータ」(実体ごとの識別)と、「つながるデータ」(関連)であることが、これからの目録データとして必要となる。
結局のところ、新NCRを適用しても、どれだけの情報を入力するかで目録サービスに与える可能性は当然大きく変わると考えられる。
書誌データのシステム活用に向けて
高久雅生(筑波大学)
今回の発表は、新しい時代の書誌情報システムの開発において、どのようなモデルが望ましいかという観点から話したい。ただし、まだ明確な回答が出ているわけではない。
同一の著作や表現形の異なる文献同士の関連性を明示的にリンク付け、それぞれの資料をたどることができる仕組みを書誌データに持たせることが、FRBRが求めてきたことである。現状では、こういった同じ著作に属した異なる文献同士の直接的なリンク関係は持たないため、利用者が一つずつリンクをたどって関連を理解せざるを得ないが、明示的または仮想的なリンクを張ることによって情報をつなげ、さらに機械が理解して自動的にリンクを張ることができるよう考えるのが良いのではないか。
また、本と絵画のような全く異なるジャンルや分野の作品同士の関連付けなどもFRBRの考え方に沿うものである。何らかの形で書誌情報システムの中でこれらを結びつけ、提供できるのではないか。さらに、一種のレファレンスツールとして個別に開発されているサービスの中にも、FRBRの考え方に沿って、標準化して共有することが可能なものがあるかもしれない。OCLCが開発しているFiction Finderなどは、その一例である。
今後の書誌情報システムには、既存の図書館の書誌データと、ウェブ上の多様なデータを融合し活用することが求められる。例を二つ挙げる。
一つはディスカバリサービス。ウェブスケールディスカバリの普及が進み、ジャンルを超えて多様な情報源から一括検索できるサービスが商用サービスとして成立している。検索対象が多様化する中、ますます、書誌データをモデル化し、ウェブにあるデータとつなげられるようにする必要がある。もう一つはLinked Dataで、この活用をはかることが今後の書誌情報システムに求められる。これらの文脈の中で、書誌データとモデル(FRBR)、目録規則(新NCRやRDA)を位置付ける必要がある。
少し整理すると、FRBR化とは、書誌データをエンティティ(実体)の単位でモデル化することであり、Linked Dataが広く流通する世界に向けた助走ではないか。FRBRそのものはLinked Dataのモデルの中のone of themである。エンティティ単位での記述の詳細化と典拠情報の活用がFRBRのもたらす大きな意義であり、他の標準規格や語彙と連携させ、整合させていくことが今後求められる。
Linked Dataのメリットは、一つはウェブ上で流通するデータのプレゼンス向上であり、特に図書館により構造化されたデータは信頼性の高い精緻なデータとして活用できる。もう一つはセマンティックウェブとの親和性である。Linked Dataは機械理解のデータの実現を目指すセマンティックウェブの考え方に基づき作成されており、現時点では、直接的な応用アプリケーションはまだ多くはないが、国際的・分野横断的な応用が期待できる。2017年2月に更新された「LODクラウド」の図では、世界中のデータセット1,139件のネットワークが表されている。この中では、NDLのWeb NDL Authoritiesのデータセットも他のデータセットとつながっていることがわかる。
メタデータモデル化にあたって検討すべき観点を提示する。一つは用途の違い。検索等のための利用か、書誌データ自体の維持管理か。どちらのためのモデル化なのかまず検討する必要がある。メタデータモデルには、外部利用だけを想定したものから、維持管理を目指す精密なものまで数多くあるからである。
もう一つは、メタデータ概念のとらえかた。例えばMARC 21と、エンティティをベースにしたFRBRやLinked Dataはデータの粒度が相当異なる。扱うデータの粒度とそのつなげ方の検討が必要となる。
書誌データのFRBR(またはFRBR-LRM)化の活用と課題について補足する。
- ①新たなエンティティ単位による活用。従来の書誌情報で典拠として活用されてこなかった著作や表現形を活用しようする一方で、Content、Carrier、Mediaや、図書館のコミュニティが開発してきた多くのRelationship(関連)がある。これらの語彙を様々な世界と共有することが重要である(例:RDA Registry)。
- ②書誌データモデルの連携とマッピング。例えばISBDとRDAのマッピングは作成されているが、他の新しい語彙とのマッピングも必要である。
- ③名寄せによるエンティティの同定。機械同定、人手による同定だけでなく、機械同定を人間がチェックするパターンもありうる。より良い仕組みを作って名寄せする必要がある。
- ④ユーザタスクの細分化による活用。FRBRはユーザベースのモデルであり、五つのユーザタスク(Find, Identify, Select, Obtain, Explore)が定義されている。しかし、情報探索支援全体の観点からみて、この五つだけで良いのか。少し軸がずれているのではないか。主題検索や既知事項検索といった探索タスクからの検討も必要ではないか。
和古書におけるFRBR適用の可能性と課題
山中秀夫(天理大学)
1. 和古書の範囲と特性
和古書とする範囲について辞典等において共通しているのは、資料の作成年代による区分であり、概ね近世末までを指す。これは作成の方法による。つまり、手作りされた資料ということで、これは日本に限らない。手作り資料の特徴は、少量生産・希少性・非代替性であり、一回の作成で300から500部と言われる。これも、日本に限らない。増し刷りの場合も一回につき30から50部程度であり、刷りを繰り返す中で活字の入替えや版木の修正などが行われる。産業革命以降は、大量生産の時代となり、作成途中での変更が原則なくなる。
和古書の特性として以下の3点を挙げる。
- ①不安定な書名。近現代の資料と比較して非常に書名が不安定である。表示されていない場合や、様々な名称がある場合のほか、一つの資料でも記載箇所によって書名の表示が異なることがある。また、版木の再利用時の改題により、内容は同じでも書名が異なることもある。
- ②書写資料の多さと系統の存在。これは日本の資料の大きな特徴である。書写は印刷資料が出現した近世以降も日常的に行われた。印刷資料を書写したものも、書写資料としてのみ流布したものもある。書写には書き誤りや、意図的な改竄もある。残存する中で同じ特徴をもつ資料群によって系統が生じる。例えば『枕草子』は「雑纂系」と「類纂系」に分かれるが、内容というよりも編纂の仕方の違いによる。『国書総目録』は系統でグルーピングをしており、これが識別のための重要なポイントになる。
- ③版木再利用による多様な出版と刊印修。日本では、版木が一種の営業権益として渡り歩く特徴がある。さらに、版木は出版権の対象物として売買され、何度も印刷されるため、少しずつ異なってくる。「刊・印・修」とは、類書を集めて比較して初めて分かるものである。
2. FRBR適用で期待される効果
FRBRの第1グループでは、手元にある個別資料から抽象して著作を考えることになる。著作のレベルで識別し、その下にどのような個別資料が存在するかという考え方が、『国書総目録』である。和古書は少量生産なので、研究者にとっては見たい作品がどこにあるかという情報が集積されているのが最も使いやすい。それが『国書総目録』という総合目録の形になったと思われる。
おそらく、同じ特徴をもつ資料群をまとめた系統は表現形のレベルと考えられるが、どの範囲までを表現形として識別すればよいのか。体現形のレベルでは、版木の移動などについて、どこまでが同じ体現形かの認識が、実は非常に難しい。
3. FRBR適用における課題
まず個別資料と体現形について。いまの目録は体現形レベルが中心となっているが、一般書が中心である総合目録が成立するのは、出版された本が「同じ本」であるという前提に基づく。利用者にとっては、共通する体現形で目録を作成することで十分だろう。しかし和古書の世界はそれでは不十分である。個別資料が中心であり、和古書にとって体現形とは何か、それは個別資料と同じなのか、ということが大きなポイントとなる。
次に「著作」について。個別資料ないしは体現形を集めて抽象化したものが著作だが、そもそも著作とは何か。もともと著作・表現形ともきわめて抽象的な実体である。例えば「修訂」は異なる表現形となるが、そもそも「修訂」の確認が可能なのか。
「刊・印・修」は印刷資料に欠かせない情報だが、和古書では実際に判明することは少ない。和古書における「識別」は、どのような情報が抽出できるのかがポイントである。FRBRに基づき関連する資料を可視化するのは利用者にとって非常に有効と思われるが、難しいのが現実だろう。
音楽資料へのFRBRの適用~その効果と課題~
金井喜一郎(昭和音楽大学短期大学部)
今回の会議のテーマは、利用者の音楽資料の検索要求に基づくメタデータという、これまでの研究テーマと重なるものである。
1. 音楽資料の特徴
音楽資料を大きく分けると、楽譜や録音資料など音楽作品そのものを対象とする「音楽の資料」と「音楽に関する資料」がある。このうち「音楽の資料」はパッケージ系と非パッケージ系に分けることができる。本日の話の対象はパッケージ系「音楽の資料」で、さらにクラシックのジャンルに限定する。
音楽資料の特徴として次の六つを挙げる。①一媒体多作品。例えば2枚組のCDで36曲入っている資料など。②一作品多媒体。ある作品につき、楽譜もあれば録音もあり、映像もある。楽譜にも様々な用途別の楽譜がある。③多言語。作品のタイトルや人名等、様々な言語や表記法がある。④多責任性。例えば歌曲「野ばら」は、ゲーテの詩に対してシューベルトが作曲したもの。ゲーテの詩は単独の著作として存在し、シューベルトの作曲も単独の著作として存在し得る。さらには、同一の詩にウェルナーが作曲した歌曲も存在するなど、多様で複合的な責任者が存在する。⑤総称タイトルとタイトルの非固有性。⑥作品の可塑性と断片化。編曲、改作、抜粋などが存在する。
音楽資料の検索は、その記述の複雑さから見て難しいと言われる。このような音楽資料に対して目録に求められるのは、「作品としては一箇所に集中させたい。目的によっては識別したい」ということだ。
2. 利用者の音楽情報要求
利用者の要求を調べるために、レファレンス記録から要求を抽出し、分析したところ、上述の音楽資料の特徴にかなり対応していた。この音楽情報要求を満たすためのOPAC検索機能要件としては、「様々な言語(表現)で記述される作品を漏れなく検索」「責任表示中の役割部分の検索」「『作曲者+タイトル』検索」「形態の検索」「個々の収録曲に対する標目(典拠へのリンク)を通じた検索」「著作責任者の役割別検索」「収録曲ごとの詳細検索」が挙げられる。
3. 従来のAACR2とMARCを基盤とする音楽目録の欠点
主なものを紹介すると、「著者」の検索項目で作曲者、演奏者、指揮者などの詳細を区別した検索ができない点や、内容細目などの個々の著作に関するフィールド間の関連性が弱い点などが挙げられる。
4. 音楽資料へのFRBRの適用
FRBRは音楽分野の資料と親和性があり、FRBRを実装した検索システムも登場し始めている。FRBRが音楽資料の複雑な書誌世界を表現するのに適したモデルであることから、逆に言えばFRBRを理解するのに音楽資料が良い例ともなる。
OPACのFRBR化の効果として、著作および表現形の集中機能の実現がある。これは音楽資料の利用者の情報要求に合致し、音楽資料の特徴に対応できるものである。ただし、現状の体現形中心の目録データを基にFRBR化すると、どうしても表現形のレベルが弱くなる。
OPACのFRBR化に関連して、音楽資料に特化したMARCを用いて著作・表現形の機械的同定の可能性を調査したところ、クラシック音楽には有効であることが分かった。一方、ジャズやポピュラー音楽は作曲者の記述が少なく、同定が難しい結果が出た。さらにジャズやポピュラー音楽は「作品の可塑性と断片化」という上に挙げた音楽資料の特徴がほとんど認められなかった。これらより、ジャズやポピュラー音楽においては、著作や表現形を同定する必要性が低いと思われる。もう1点、表現形(演奏)の機械的同定に関する問題点として、複雑な記述を機械的に分けることの困難さが挙げられる。
5. 利用者のアクセスのためにメタデータが備えるべきもの
次の3点を挙げたい。「音楽資料の特徴に対応」、「利用者の音楽情報要求を満たす」、「効果的かつ効率的なアクセスに対応」。
音楽資料の特徴に対応して詳細なメタデータを作成すると、記述される情報が増えてデータが膨らむ。一方で、それが利用者のアクセスにとって必ずしも効率や効果のの向上につながるわけではない。したがって、利用者にとって有用な要素を特定することが重要である。要素を特定するには、「コアな要素」に基づく方法と、実際の利用者の検索要求に基づく方法がある。コアな要素については、FRBRやRDAのほか、インディアナ大学の音楽図書館プロジェクトV/FRBR、IAML(国際音楽資料情報協会)、Music Library Association等の考え方が参考になる。しかし、コアな要素については専門家の判断によるところが大きく、利用者の情報要求と一致しているとは言い切れない。そこで、利用者の実際の要求から有用な要素を特定する方法がある。利用者の要求を捉えるには、検索ログやQ&Aサイトのクエリ、レファレンス記録などを分析する方法が考えられる。検索ログの分析からは、人名やタイトル等がよく使われる検索項目であるという結果が出た。ただし、検索ログはシステムの機能に影響される。これに対しシステムの影響がないQ&Aサイトのクエリやレファレンス記録の分析では、既存の要素集合には含まれない有用な要素が見つかった。
6. 代表的なシステム
図書館の目録に限定して二つ紹介する。一つは、前述のインディアナ大学のデジタル音楽図書館プロジェクト(V/FRBR)による試験的な目録検索システム「Scherzo」。もう一つは、オーストラリア国立図書館とScreenSoundAustraliaが共同開発した「MusicAustralia」。後者はオーストラリア音楽と音楽家に関するウェブベースのディスカバリサービスで、現在はオーストラリア国立図書館の情報探索サービス「Trove」に統合されている。
また自身でも、著作・表現形・体現形の各実体が一覧表示された検索結果を、著作あるいは表現形で絞り込むことが可能な検索システムを試作している。
7. FRBR適用の課題(限界)
初めに述べたように、本日の話はクラシック音楽に範囲を限定している。クラシック音楽では、通常、作曲家が音楽作品を創作し、それを楽譜に表現する。演奏家は楽譜を用いてそれを演奏する。その演奏は録音され音楽資料となる。このように、著作、表現形、体現形の関係が明確である。一方、ジャズ・ポピュラー音楽については、先に演奏があってそれが採譜されたり、あえて楽譜の通りに演奏しないことや即興的な演奏もめずらしくなく、FRBRでいう「著作は表現形を通して実現される」が適さないケースが多い。ジャズ・ポピュラー音楽では演奏者の位置づけが高く、作曲者と同様にcreatorとも考えられる。また、ポピュラー音楽はスタジオにおいて多くの関係者によって制作(創作)される。その完成品であるマスターテープは著作、表現形、体現形の何にあたるのかを言うことが非常に難しい。
さらに言えば、メロディー等からの内容検索や、“楽しい音楽”、“悲しい音楽”といった感性検索などへのニーズに対しては、FRBRによる表現が難しく、その適用の限界と言えよう。
新しい『日本目録規則』の内容~具体例から規則の要点と目的を考える
田代篤史(収集書誌部収集・書誌調整課主査兼書誌調整係長)
今年度公開した主な新NCRの条項は、「序説」「第0章 総説」「第1章 属性総則」「第12章 場所」「第3部 関連」、また「第2章 体現形」等の未検討部分である。これによって、一部の付録を除き、規則案が出揃ったことになる。中でも「関連」は、新NCRの大きな特徴の一つである。
データ事例を挙げて説明を進める。事例はMARC 21フォーマットを使用したイメージであり、実例ではないことに留意されたい。
データ作成者の視点から見た変更点として、次の3点を挙げる。
- ①表現種別・機器種別・キャリア種別の記録
資料の多様な種別を的確に表すために、旧来の資料種別に代わって設定したエレメントである。例えば、地図のCD-ROMの場合、旧来の資料種別では「電子資料」と表され、地図であることが分からない。新たに表現種別(地図)、機器種別(コンピュータ)、キャリア種別(コンピュータ・ディスク)を記録することで、地図のコンピュータ・ディスクであることが分かる。 - ②著作・表現形の典拠形アクセス・ポイントの作成
ある著作の下に複数の表現形・体現形が展開しているとき、それらを体系的に把握できるように、現在の統一タイトルに近い著作の典拠形アクセス・ポイントを作成する。また、より具体的なレベルの表現形の典拠形アクセス・ポイントを作成する。
これらの典拠形アクセス・ポイントの機能の要点は、著作・表現形の識別と、複数の表現形と体現形を一つの著作の下に体系的に集中させることである。例えば、翻訳において、原著作の典拠形アクセス・ポイントに、「日本語」という表現形の識別要素を付加して表現形のアクセス・ポイントを構築すると、原語や他の言語訳と区別し、かつ複数の日本語訳を集中させることができる。
ただし適用にあたっては、著作の典拠コントロールの範囲や、表現形の粒度について課題がある。 - ③関連の記録
旧来の著者標目や書誌データ間のリンクについて、具体的な意味を持たせた詳細な記録にする。
新NCRでは現在、「資料に関する基本的関連」「資料に関するその他の関連」「資料と個人・家族・団体との関連」「個人・家族・団体の間の関連」の4種の関連を規定している。(RDAの規定が完備されていないため、主題が関わる関連は未刊行のままとする。)
例えば、旧来の著者標目が該当する「資料と個人・家族・団体との関連」では、エレメントの種類に従って、資料の成立に関与した個人等を「作成者」「寄与者」等に大別すると同時に、関係性の詳細を表す統制語である「関連指示子」を併せて記録する。これによって、資料と個人・家族・団体との関係性を詳細に、かつ機械可読の形で示せるようになる。
ただし、関連指示子が適切な語で表せているか、また不足がないか、適用に際して運用可能かについては、十分な検討が必要である。
上記のようなデータ作成を行う目的と効果について、利用者の視点から次の3点に整理した。
- ①「資料に関する基本的関連」により、目当ての資料(体現形)を的確に選択
著作の典拠コントロールを行い、著作―表現形―体現形の実体の別に構造化したデータは、利用者の自然な検索プロセスに沿った形と思われる。 - ②「資料と個人・家族・団体との関連」により、役割別に資料を把握
個人・家族・団体側のデータから見ると、先述の関連指示子と併せて記録した場合の効果が分かりやすい。すなわち、ある個人について、著者としての、編者としての、訳者としての資料が一覧でき、役割別に資料を把握することが可能になる。 - ③「資料に関するその他の関連」により、他の資料へ的確に遷移
例えば、原作の書籍と映画作品の書誌データをリンクし、併せて関連指示子を記録することにより、両者の関係性が明確になり、利用者はその関係を的確にたどることができる。
このような「関連」の記録によって、すなわち的確な意味を与えたリンクを実現することによって、
関心の対象となる実体(ある特定の個人、その著作、その文庫本、その翻訳、またその著作の映画化作品等)から実体へ、利用者は正しく遷移することができる。
利用者の利便性のために、このような要件を備えたデータを提供することが、新NCRの目的にある。一方で、規則の適用にあたっては、記録するデータ項目の増加、著作・表現形の典拠コントロールの範囲、既存データとの整合性といった課題があり、これから具体的な検討を進めていく段階である。
意見交換 ― おもな意見
(1)新NCR全体条文案と適用したデータの課題について
- 新NCRは「関連」の規定が特に重要だと感じる。
- 新NCRという目録規則以外に、実務のためにはシナリオ類が必要ではないか。
- 和古書の世界で使われる『国書総目録』は、「作品名」がFRBRの著作にあたると考えられるが、この著作が図書館界の著作と同じ概念を指すか疑わしい。
- 音楽資料はパッケージ(CDなど)だけでなく、急増するオンラインによるダウンロード等の非パッケージにも対応する必要があろう。
- 全体条文案の公開により、ようやく新NCRの全体像が見えてきた。今後は、どのようにメタデータを作成し流通させるかが課題となる。欧米の状況が停滞していることもあり、これに倣えばよいというものではなく、言語や歴史条件などの相違を踏まえて最適解を探っていくことになると考える。関係機関の尽力を期待したい。
- 各機関における新NCRの適用の度合にばらつきがあると、利用者へのメリットに疑問がある。新NCRの意義を理解して、きちんと適用したデータを作成し流通させることが重要だ。
- FRBRは一般的な刊行物に適用するモデルだと考える。特殊な資料群については、FRBRの枠にはめるのが困難であれば、FRBR以外のモデルの適用を追求しても良いのではないか。
- 今後、アバウトな検索に「関連」が役立ってくると思われる。関係性を機械的に理解できる関連指示子は、非常に大きな役割を担う。
- 新NCRには本則・別法があり、規定によってはこれまでの慣行通りにデータを作成することもできる。この場合、データ作成現場の判断が楽な方に流れていく懸念がある。別法採用の判断は慎重に行い、可能な限り本則採用の検討を行うべきである。
(2)各機関の新NCR適用に向けた課題について
- 日本の現状として、公共図書館と大学図書館のデータの形が乖離している。互いの歩み寄りが必要ではないか。
- 自館では、従来AACR2を適用してきた洋書に、RDAを適用する方針である。他機関のデータを活用する場合はそのまま採用し、オリジナルでデータ作成する場合は、従来のやり方を大きく変えない方法になるだろう。MARC作成機関やNDLでは、新NCRの本則を採用したデータを作成し、流通させてほしい。
- 自館で扱う和古書の整理には、現状では独自ルールを適用している。幅物や巻子なども含まれるが、図書館としては図書とあわせて扱えるとありがたい。
- 大学図書館コミュニティでは、NIIがNACSIS-CATの再構築に取り組んでいる。目指すは軽量化、つまり電子リソースを充実させるために印刷物へのリソースを削減することが求められる。維持すべき業務の重点を考え、外部への切り分けや自動化等も判断基準に含まれる。新NCR適用については、まずはNDLや関係機関の動向を注視したい。
- NACSIS-CATについては、新NCR適用と軽量化が矛盾する。関連などの機能を充実させるためには、システム改修も必要であり、ベンダー等との調整も求められる。率直なところ、導入可能な環境が整わないと対応は難しい。
- 新NCR全体条文案は大部なので、整理したい資料に関係する規定を見つけるのが難しいと感じる。資料群ごと(行政資料、地図等)に新NCRを適用したデータ事例を考えるのは有効ではないか。
(3)その他
- 「標準化」という場合、ISBDではデータのとり方であり、見せ方を含むものであったが、RDAは見せ方、つまり構文的側面を切り離したものである。実際の利用者にとっては見せ方も重要ではないかと考える。例えば、効果的な「関連」の見せ方(たどり方)など、研究の蓄積があれば知りたい。
→おそらくは、FRBRのデータモデル構造に沿った表示が根幹となるのではないか。