電子図書館推進会議報告書
3. 電子図書館の蔵書−文化の保存と提供
3.1. 資料保存における国立国会図書館の役割
国立国会図書館は国の出版物を網羅的に収集保存し、国会、行政・司法機関、 国民に提供するために設けられた唯一の国立図書館である。
国立国会図書館は、国の出版物を納本制度により網羅的に収集しているが、これまで述べてきたように、情報の記録される媒体や提供方法が変化してきている現在、制度に規定された記述の範囲で出版物の概念が捉えにくくなってきている。いわゆる図書館資料という概念が変わってきており、内容も、例えば 電子図鑑、電子百科事典のように文字テキストだけでなく、カラー画像や、音声、動画までを含むマルチメディア資料も多く出版されている。また、インターネットで提供される電子ジャーナルや研究報告書、政府情報等のオンライン情報など多様である。
国立国会図書館はディジタル・アーカイブ機能を備えた、膨大な資料情報の 提供機関としての役割が期待されている一方で、日本文化の保存機関として、情報資源の活用を将来にわたって保障するために、資料の損耗・劣化に長期的 に対処し、また、大規模災害等による資料消失の危険性に備える必要がある。保存の目的は、長期に安定した提供をすることにある。電子化はこれに対する有力な答えの一つとしてあり、国立国会図書館の最終的なアーカイブの機能と利用者の利便性を保障していくためには、これらの収集、保存、提供のバランスを保つことが大切である。
3.2. 国立国会図書館が提供する電子図書館の「蔵書」
国立国会図書館の電子図書館がサービスの対象とするべき蔵書は原理的には 国立国会図書館が入手し提供しうるすべての情報源である。そして図書館サービスの目的は、資料の媒体の種類によらず、総合的に利用者の要求に応じた資 料情報に案内し、一次文献の提供を行うことにある。広い意味での電子図書館は利用者の最終目的とする資料が電子化されているか否かにかかわらず、紙や 電子の媒体が融合したハイブリッドな図書館であることをめざすものである。しかし、利用者の「今すぐ」という要求に対して応えられる手段は電子的なも のに限られる。それゆえ本章のコンテンツに関する記述においては、既存媒体については述べず、狭義の電子的情報を扱う側面に限って述べることとする。
国立国会図書館にとっての電子的資料は作成される場所や提供の観点から三種類に大別される。
第一に、外部で電子化されている資料であり、CD-ROM等のいわゆるパッケ ージ系電子出版資料やオンライン出版、そして潜在的には電子組版データなど の電子化テキストがある。
第二に、国立国会図書館自らが蔵書を電子化するものである。
第三に、外部機関が提供しているコンテンツとしての電子化資料である。
国立国会図書館は利用者の要求に応えるために、自ら所蔵する資料にとどま ることなく、外部の情報資源をも直接に間接に提供あるいは案内することが必 要である。
電子化資料を情報の性格で分類すると、書誌や目録、目次や抄録等の資料に 関する二次情報と、資料の本文など資料そのものである一次情報の二つに分けられる。電子図書館の利用に関しては、国立国会図書館内における利用と館外 からのアクセスとに分けられ、後者はさらに他の図書館からのそれと、他の機関や個人等に分けられる。
本章では国立国会図書館が提供する電子図書館サービスで扱うコンテンツについて、国立国会図書館が独自に作成するもの/外部機関の提供するもの、資料に関する情報/資料そのもの、電子化されているもの/そうでないもの、有料/無料、画像情報/文字テキストなど、いくつかの切り口に分けて想定し記述する。
3.2.1. 資料に関する情報
国立国会図書館は、自らの蔵書に関する基本的な情報をはじめ、国内・国外 の諸機関が所蔵する情報への案内と入手に関する手続きや条件等の情報を提供 するべきである。
(1)国立国会図書館が作成する各種の書誌情報や各種文献に関する情報
<1>国立国会図書館が所蔵する資料全てについて国民が適切な方法で簡便に 検索できるようにすることが望まれる。特に「国の蔵書」として日本国 内の出版物や日本関係の資料に関しては重要である。
<2>国立国会図書館が外部機関と共同で作成する総合目録類。これらは目的 に応じて適切な範囲でネットワークを介して提供する。内容としては、参加機関の書誌情報に代表される各種情報源の総合目録および電子化情 報の台帳などが考えられる。
(2)外部機関が提供している情報
<1>国立国会図書館が所蔵していない資料については外部のデータベースへのアクセスを提供し、適切に体系化したリンク情報を提供する必要があ る。また、特に協力機関との間では、可能であれば、ゲートウェイ・サービスを行う。特に、海外の情報、他の図書館のOPAC(Online Public Access Catalog:公開コンピュータ目録)への案内等は基本的なサービ スであろう。
<2>利用者の利便性あるいは資料保存に役立つと考えられる場合は、出版者 等の商用データベース・サービスへの仲介も考えられる。例えば、出版 情報や在庫情報を仲介することにより利用者の資料購入の便宜を図るな どがある。
<3>外部機関が提供する国立国会図書館作成のデータベース。
<4>国内電子化資料の台帳(インベントリ)。資料群レベル、個別資料レベ ルがありうる。これまで国立国会図書館が図書や雑誌等の印刷媒体資料 に果たしてきた全国書誌作成事業に相当するもので、全国の図書館等が 作成する電子化資料を対象とする。
<5>広くインターネット資源を適切に保存し、また案内、誘導する。
3.2.2. 資料そのものの提供または案内
インターネット上で一次情報にアクセスできることは、電子図書館の大きな効用である。可能な限りの一次情報を提供していくことが望まれるが、著作権等の権利を考慮する必要のあるものも多い。(著作権等の制度面に係る問題については、第4章を参照)提供に際しては二次情報と体系的にリンクすることによって、利用者が使いやすいものとする必要がある。以下、提供または案内を行うことの考えられる資料のカテゴリーを示す。
(1)国立国会図書館のもつ電子化資料
<1>国立国会図書館の収集する電子化資料
・オフライン系の電子化資料:パッケージ系の電子出版物。出版者等から提供を受ける電子的組版情報などの印刷出版物の電子化情報
・オンライン系の電子化資料:学術情報、政府情報等のうちオンラインで流通している情報
<2> 国立国会図書館の蔵書を電子化した資料
「ディジタル・アーカイブ」として国立国会図書館が印刷物やマイクロ資料などの出版物を遡及的に電子化するもの。
<3>電子図書館レンタル・スペース
利用者の利便性あるいは長期展望に立って資料保存に役立つと考えられる場合、出版者等の商用データベース・サービスを仲介することもありうる。また、電子出版資料のアーカイブの構築を目的とし、「電子図書館レンタル・スペース」を設け、出版者等の仮想店舗を国立国会図書館の電子図書館内に出店してもらうことも考えられる。このスペースは著作権の関係で提供のできない出版物への利用者のアクセスを保障するとともに、出版界との密接な連携を保つための協力事業として想定する。
(2)外部機関の作成するデータベースへのアクセス
サイト・ライセンスまたはゲートウエイ・サービス等の手段で、外部機関の作成するデータベースへのアクセスを仲介することが考えられる。
(3)外部機関の提供するインターネット情報資源へのリンク
インターネット資源にはさまざまの有用な情報が存在している。特に、海外の情報については、国内の図書館等で資料収集が十全でないことから、これらを整理して適切に案内できるようにすることが重要である。
(4)インターネット情報資源の収集
更新等によって消滅するおそれのある、重要かつ学術的価値の高いインターネット上の情報を、情報収集ロボット等を利用して収集し、適切に保管・提供を行う。
3.2.3. 提供優先順位
基本的には以下の優先順位に従って提供を図ることが望ましい。しかし、こ れは必ずしも順序立て、一つの項目を完了して次項目に移らねばならないとい うことを意味せず、予算、他機関との協力関係、制度面の整備等を勘案して提供を行う場合の目安を示している。
「国の蔵書」の基本的な二次情報は最優先されるべきである。一次情報につ いては、文化の保存の観点及び利用ニーズから優先度を考慮する必要もある。特に学術的、文化的価値の高いコンテンツには留意しなければならない。また、提供に当たっては、中立性、公平性の確保に努めるとともに、国の機関として 提供すべきもの、民間機関が提供することが適切なもの等の切り分けにも配慮すべきであろう。
(1)資料所在情報:所蔵目録、目次情報、主題書誌等の文献情報
(2)他の図書館、電子図書館、主要な情報提供機関の作成する情報へのリンク
(3)インターネット情報資源案内
(4)文献そのもの(一次情報)
<1>国立国会図書館に納本された電子化資料
<2>パッケージ系やオンライン系電子出版物
<3>国立国会図書館の活動に関する情報
<4>国立国会図書館の刊行物
<5>国会情報
<6>政府情報:国立国会図書館が収集、提供する国会及び行政・司法機関の情報。カレントな情報は各機関への案内にとどめることもありうる。
<7>ディジタル遡及変換資料
・電子化コレクションとして選定し編集した資料群
・貴重書等の文化財的価値の高い資料で、資料保存の観点から利用に制限を行っている資料
<8>著作権の存続期間が満了した資料
<9>実験や資料保存の目的ですでに電子化を行った資料
3.2.4. 館内でしか利用できない場合
(1)収集や納本の条件として館内提供しか認められていない場合
(2)著作権使用料の徴収が必要な資料で、料金決済の仕組みが整うまでの期間
(3)運用上館外提供に適さない場合(例えば、アクセスが極めて少ないと想定される場合など)
(4)その他、資料の性格上一般公開が適当でない場合
3.2.5. 国立国会図書館の蔵書を電子化するもの
納本によって受け入れた資料について、できるだけ広く国民のアクセスを保 障するという観点から、また資料保存の観点からも、国立国会図書館は可能な限り広範に電子化を進めるべきである。しかしながら、利用頻度や予算などを考慮すれば、おのずと電子化の優先順位を設ける必要が生じることとなる。
蔵書の電子化の優先順位は、基本的に提供における優先順位と同じとする。 ただし、文化的価値の高いと判断される資料、電子化への要望の高い資料、資 料保存上緊急性の高い資料などは、優先して電子化することが考えられる。
3.3. ナビゲーションと多彩なリンク
電子図書館は豊富な文献に関する情報や文献をもち、利用者が簡便にそこに 到達できるようにすることが必要である。そのために、分かりやすく体系化した電子図書館の窓口を用意する必要がある。
電子図書館のサービスはインターネットをはじめとするネットワークを利用 して提供されることになるが、さまざまなサービスが別々の窓口で行われて、統一性を欠いたものであれば、利用者にとっては理解しにくいものになるであろう。そこで総合的な案内が必要となってくる。インターネット上での総合窓口は、国立国会図書館のホームページがその役割を担うべきであると考えられる。
電子図書館の窓口を国立国会図書館のホームページと想定し、どのようなサービスが提供できるか、また、どのようなナビゲーションができるかを以下に示す。
3.3.1. ナビゲーション
ナビゲーションは、ホームページをアクセスする利用者が、求める情報にたどりつくために利用するサービスである。
(1)検索 −利用者の指定した条件に適合する文献情報及び文献そのものを検索し表示する。
<1>ホームページからの情報の検索
<2>FAQs(Frequently Asked Questions)、レファレンス事例集などの検索
<3>目録等の二次資料の検索
<4>一次情報の検索
(2)情報の体系化 −インターネット・リソースや各種情報を、効率よく活用できるように分類 し整理することによって、利用者を求める情報に効率的に案内する。
<1>他機関へのリンク・リストを体系化して提供する
<2>他機関のデータベースを横断的に検索する機能を提供する
3.3.2. 具体的なサービス
(1)情報提供サービス −利用者は、ナビゲーションによって求める情報やサービスに到達する。求める情報自体を入手したり、ホームページ以外で提供するサービスの申込みを 行った時点で利用者のひとまずの目的は完了する。
<1> 国立国会図書館の一次情報、二次情報を提供するサービス
<2>蓄積されたレファレンス回答など、国立国会図書館が作成する情報を提供するサービス
<3>利用案内等、国立国会図書館を利用する上で必要な情報を提供するサービス
(2)双方向サービス −従来から国立国会図書館が閲覧者向けに行ってきたサービスの延長線上の業務で、利用者からのリクエストに対して、何らかのフィードバックを必要 とする。
<1>複写依頼
<2>資料等に関する問合せ(レファレンス・サービス)
<3>ニュース・グループ管理サービス
3.4. 情報の編集と編成
電子図書館では図書館のもつすべての蔵書を電子化できるわけではなく、テ ーマに沿って、あるいは資料のカテゴリーに即して電子化を行うところから、情報を生のままでなく、適切に編集し、編成することが必要である。また、電子図書館が提供する情報が膨大であることもあり、利用者にとっての使いやすさについても配慮する必要がある。
3.4.1. 主題の体系からのアプローチ
図書館ではこれまでも図書館資料を主題で分類し、組織化を行ってきた。電子化された資料を分類するに当たってもっとも適切な方法であるかどうかは別として、日本十進分類法、国立国会図書館分類表、件名標目表等の体系的な主題分析規則に基づく資料組織化については、すでに長い実績をもっている。電子化資料においても、体系的な主題分類表に従って、メニューをたどりながら、 電子化資料を探し出せると便利である。その場合、例えば、モーツアルトについての文献を電子図書館で探し出したい場合は、芸術 → 音楽 → 音楽史 → ヨーロッパ → オーストリア と一連の主題からたどってゆけば、モーツアルトに関する文献を探し出すことができることになる。
3.4.2. テーマからのアプローチ
この方法は利用者に関心の高いと思われるテーマ、あるいは国立国会図書館 が表現したいテーマについて、関連する文献を電子化して提供するものである。例えば、本そのものに関しては、本の挿し絵、装丁、作家の直筆等、国に関す るテーマとして、憲法、選挙、戦争と平和等、その時々の社会で話題になっている時事的なテーマとしては、オリンピック、自然保護等、さまざまなテーマを考えることができる。選択したテーマについては、必ずしも網羅的にすべての文献をリストアップする必要はないが、できるだけ体系的に理解できるようにバランスよく多くの資料を提供できるようにするとともに、テーマや資料選択において中立性が求められる。
なお、テーマからのアプローチにおいて、参考図書型のアプローチも考慮する必要がある。特定テーマについて、テーマを概説し、その詳細を個々の文献で参照できるように、バーチャルな参考図書からリンク付けがされているという形態である。この場合、テーマの中での位置づけを明確にした上で対象とするコンテンツを探し出すことができるため、慣れない利用者にとっては便利である。
3.4.3. 利用者からのアプローチ
テーマからのアプローチにおいては、利用者の関心の高いテーマを選択することが望ましいが、国立国会図書館がテーマを決める場合にも、利用者グループに諮り、テーマを決めることが考えられる。また、テーマ決定において、インターネットでのリクエスト集計や、利用ログ集計によるランキングでのテーマ決定を行うことも考慮すべきである。さらに、多くの利用者が利用するコンテンツは、他の多くの利用者にとっても魅力的なものである可能性が高いことから、ランキング・リストを公開すること自体が、利用者にとって使いやすい電子図書館のガイダンスになることも想定できる。
3.4.4. バーチャル展示会
国立国会図書館では、主として所蔵資料を紹介することを目的として、これまでさまざまなテーマの展示会を開催してきた。また、比較的小規模なもので はあるが、常設展示にて随時、その時々のトピックに関した資料の紹介を行っている。
これらの展示会では、展示資料に解説を付け、体系立てて紹介するため、分 かりやすく、また普段見ることのできない貴重な書物を見ることができる。ちなみに近年の展示会のテーマを幾つか列挙する。「戦後の本で見る日本」、「日本の地図展」、「江戸後期歌舞伎資料展」、「出版のあゆみ展」、「自然を見る眼−博物誌の東西交流」、「日本の議会100年」、「大漫画展」、「世界の中のニッポン」 など。
これらの展示会は通常開催期間が限定されているが、電子図書館においては 終了した展示会の展示品をいつまでも見てもらえるようにすることができる。また、何よりもわざわざ訪問しなくても見ることができる点で、電子図書館に適切なイベントであろう。今後、展示会の企画を立てる際には、電子図書館の一つのメニューとなることをあらかじめ想定し、企画を立てることが望ましい。
3.4.5. 日本の記憶
米国では議会図書館を中心としてNational Digital Library 計画というプロジェクトが進行中である。これは、アメリカの文化と歴史に関する写真、古写本、映画、音声等を電子化する計画で、2000年までに、500万点をディジタル化することになっている。
フランス国立図書館においても、主題は百科事典的に網羅するが、やはりフランスの文化・歴史等のコレクションを作成し、ホームページからの提供を開始している。テキスト10万冊(約3,000万ページ)、静止画30万件、音情報1,000 時間を目標に電子化資料と提供の仕組みの構築は最終段階に至っている。
日本においても、世界に向けて日本の文化を紹介し、また我々自身が日本を再認識する上でも、日本というテーマで電子図書館を構築することも考えられる。その言わば“Japanese Memory”とでも呼ぶべき電子図書館のコレクショ ンでは、日本の文化、歴史、風土、民俗、音楽等に、テキスト、静止画、動画、音も含めて、さまざまな形態の記録類を電子アーカイブに蓄積し、利用者がさ まざまな観点で利用できるようにすることなどが考えられる。
