|
以下では簡単に製本の工程を見てみましょう。第3章で見ましたように、本は折丁という小冊子をいくつか重ねることでできています。各折丁は全紙を何回か折りたたむことで作られます。このとき全紙は1枚とは限らず、複数の全紙、あるいは全紙を半分に切ったものなどで折丁が作られる場合があります。また、普通両端の折丁を重い表紙の圧力から守るため、表紙との間に見返し (end leaves) が入ります。17世紀以降の製本ではこの見返しに大理石模様のマーブル紙がしばしば使われています。折丁を正しく重ね合わせる丁合が済みますと、本の小口をきれいにそろえる仕上げ断ちが行われますが、この作業は行われない場合もありますし、後で行われる場合もあります。重ねた折丁は重しを乗せて空気を追い出します。そして糸でかがる綴付けという作業が行われます。15世紀までの製本は背バンドとじがほとんどですが、16世紀にはビザンチン式製本が伝わり、背に支持体を埋め込む「かがりとじ」も行われるようになりました。また、背が丸くなるような製本も16世紀に始まりました。
とじが終わると折丁と表紙のつなぎが行われます。中世写本の表紙は木材が芯となっており、イタリア・ドイツではブナが、イギリス・フランスでは樫が使われましたが、16世紀に入ると芯は紙を何枚も貼り合わせたボール紙でも作られるようになりました。この芯をあとで革で覆って表紙とするわけですが、16世紀にはヴェラムを材料とした薄い表紙のリンプ装と呼ばれる製本も行われるようになりました。この場合、表紙が軽いので小口側に留め金の代わりにひも (tie) を付けて結ぶようにした本もあります。背バンドと表紙が接合され、背も含めて革で覆うと構造物としての本は完成しますが、時代が下るにつれ革の部分を限定した製本 (背だけを革とした製本をquarter bindings、背と隅のみを革とした製本をhalf bindingsといいます) も行われるようになりました。
この後さまざまな装飾が行われ、本を貴重な文化財として行きます。16世紀頃まで本は平置きされるのが普通でしたので、本の小口に装飾を入れたり、タイトルを書き込むことが行われました。また背の上下の端を保護するため花布 (headband) という、芯になるヴェラムに亜麻糸か絹糸をまきつけたものが折丁にぬいつけられています。糸は何色も使って見た目に美しいもの作られました。しかし、一番装飾が行われたのは表紙を覆う革の部分です。普通、背と表紙全体が革で覆われ、革には型押し (tooling) と呼ばれる革細工が行われました。熱した型 (tool) を押し付ける空押し (blind-tooling) や金箔を敷いて型押しすることで金の模様をつける金箔押し (gold-tooling) が代表的なものです。金箔押しの技術は15世紀半ばにイスラム世界から伝わったものです。型は真鍮を彫って作られ、持ち手に木のハンドルがつけられています。型のデザインは花飾り、葉飾り、動物の模様、紋章等さまざまで、また直線や破線、曲線はfillet、roll、palletと呼ばれる車輪やハンドルのついた器具を使って型押しします。さらにおおがかりな装飾として、模様全体の鋳型を作り、その上にぬらした革をプレスして模様を転写するパネルスタンプという技法も使われました。この技法は15〜16世紀のイギリス、フランス、オランダ、17世紀のドイツで流行しました。パネルスタンプのデザインには木の実の模様や聖書中のエピソード、紋章、人物の肖像等が使われました。 |